JP3985960B2 - 排気ガス中の微粒子計測装置および計測方法 - Google Patents
排気ガス中の微粒子計測装置および計測方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、排気ガスに含まれる微粒子を連続的に、且つ粒径に関する情報を含めて計測する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関は、小型でありながら比較的大きな動力を出力可能という優れた特性を備えていることから、自動車や船舶、航空機などの各種輸送機関の動力源として、あるいは定置式の各種機器の動力源として広く使用されている。これら内燃機関は、燃焼室内で圧縮した混合気を燃焼させ、そのときに発生する燃焼圧力を機械的な仕事に変換して、動力として取り出すことを動作原理としている。
【0003】
こうした内燃機関の中でも燃料を燃焼室内に直接噴射し、燃料噴霧を拡散燃焼させる方式の内燃機関(いわゆるディーゼルエンジンや筒内噴射ガソリンエンジンなど)は、燃料消費効率が高いという優れた特性を有している。しかし、その一方で、排気ガス中に含まれる粒子状物質(Paticulate Matter 、以下ではPM)が健康に悪影響を与える可能性が指摘されているため、ディーゼルエンジン等のこうした燃焼方式の内燃機関には、排気ガス中に含まれるPMの重量濃度を許容値以下に抑制する旨の法律的な規制が定められている。また近年では、PMの中でも粒径が50nm以下の小さな粒子(以下では、ナノ粒子)が、人体に何らかの特異な影響を与える可能性が指摘されており、これらナノ粒子の健康に与える影響が、規制の必要性も含めて検討されている。
【0004】
こうした検討に際しては、排気ガス中のナノ粒子濃度を計測する必要があることはもちろんであるが、ナノ粒子の粒径によって、人体の健康に対する影響の度合いや機構が異なっている可能性が示唆されていることから、粒径分布に関する情報も計測しておく必要がある。更に、内燃機関を改良してナノ粒子の排出を効果的に抑制しようとする観点から見れば、ナノ粒子の排出挙動を明らかにするべく、排気ガス中のナノ粒子を粒径分布も含めてリアルタイムで計測しておくことが望ましい。
【0005】
排気ガス中の粒子状物質を計測する技術としては、例えば、複数の捕集部材を用いて排気ガス中の粒子状物質を粒径別に捕集することで粒径分布を計測する技術や(例えば、特許文献1)、あるいは、排気ガス中に光を入射して粒子状物質からの散乱光を計測することで、リアルタイムで濃度を計測する技術(例えば、特許文献2)などが提案されている。
【0006】
【特許文献1】
特開2003−35636号公報
【特許文献2】
特開2003−114192号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、ナノ粒子は非常に粒径が小さく、分子間力や、静電力、熱泳動などの影響を受け易いので、特許文献1で提案されているように捕集部材で捕集したのでは、測定条件の影響を強く受けてしまい正確な測定が非常に困難である。加えて、排気ガス中のナノ粒子濃度をリアルタイムで計測することも不可能である。また、特許文献2で提案されている技術によれば、リアルタイムで計測することは可能であるものの、粒径分布に関する情報を得ることは困難である。もちろん、1つ1つの粒子が散乱する光の強度を解析すれば、粒径分布に関する情報を抽出することも原理的には可能であるが、ナノ粒子は粒径が小さく散乱光強度が小さいので、正確なデータを測定することが困難であり、実用的で簡便な測定方法とはなり得ない。
【0008】
本発明は、従来技術におけるこうした課題を解決するためになされたものであり、排気ガス中のナノ粒子を、粒径分布に関する情報を含めた状態で、リアルタイムに且つ簡便に計測可能な技術を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の微粒子計測装置は次の構成を採用した。すなわち、
内燃機関の排気ガスに含まれる微粒子を計測する微粒子計測装置であって、
前記排気ガスと、前記微粒子を含まない搬送ガスとが互いに層を成した状態で流れる通路部と、
前記通路部の上流側に設けられて、前記排気ガス中の微粒子を帯電させる微粒子帯電部と、
前記搬送ガスの流れを横切る方向の電場を前記微粒子帯電部の下流側に形成する電場形成部と、
前記形成された電場の作用を受けて前記搬送ガスの流れを横切って移動してきた前記微粒子を、該搬送ガスとともに連続的に採取する採取口と、
前記搬送ガスとともに採取された微粒子を検出する微粒子検出部と
を備え、
前記採取口は、前記搬送ガスの流れの方向に互いの位置を異ならせて複数設けられており、第1の採取口では10nm〜30nmの大きさの微粒子を、第2の採取口では100nm〜300nmの大きさの微粒子を、該搬送ガスとともに連続的に採取することを特徴とする。
【0010】
また、上記の微粒子計測装置に対応する本発明の微粒子計測方法は、
内燃機関の排気ガスに含まれる微粒子を計測する微粒子計測方法であって、
前記排気ガスと前記微粒子を含まない搬送ガスとが通路内で互いに層を成した状態の流れを形成する工程と、
前記通路の上流側で、前記排気ガス中の微粒子を帯電させる工程と、
前記搬送ガスの流れを横切る方向の電場を、前記微粒子が帯電した位置よりも下流側に形成する工程と、
前記形成された電場の作用を受けて前記搬送ガスの流れを横切って移動してきた前記微粒子を、該搬送ガスの流れの方向に互いの位置を異ならせた複数箇所で、該搬送ガスとともに連続的に採取する工程と、
前記搬送ガスとともに採取された微粒子を計測する工程と
を備え、
前記微粒子を前記搬送ガスとともに採取する工程は、該搬送ガスの流れの上流側の箇所では10nm〜30nmの大きさの微粒子を、流れの下流側の箇所では100nm〜300nmの大きさの微粒子を、該搬送ガスとともに連続的に採取する工程であることを要旨とする。
【0011】
かかる本発明の微粒子計測装置および微粒子計測方法においては、内燃機関の排気ガスと、微粒子を含まない搬送ガスとを、互いに層を成した状態で通路内に流通させる。また、通路の上流側で排気ガス中の微粒子を帯電させ、下流側では流れを横切る方向に電場を形成しておく。帯電した微粒子は、排気ガスの流れに載って上流から下流へと流されながら、電場からの力を受けて、流れと交差する方向に少しずつ移動する。そして、やがて排気ガスの領域から搬送ガスの領域へと移動し、ついには通路の内壁面に至る。こうして、搬送ガスに流されながら、電場の力を受けて流れを横切って移動してきた微粒子を、搬送ガスとともに連続的に採取して計測する。
【0012】
微粒子が流れと交差する方向に移動する速さは、電場から受けるクーロン力と、微粒子が流体から受ける抵抗などに依存しており、流体から受ける抵抗は、微粒子が大きくなるほど大きくなる。このことから、大きな抵抗を受ける大きな微粒子は、流れをゆっくりと横切るように移動し、抵抗をあまり受けない小さな微粒子は、流れを速やかに横切って移動することになる。従って、搬送ガスの流れの方向に互いの位置を異ならせた複数箇所で、搬送ガスとともに連続的に採取し、搬送ガス中に含まれる微粒子を検出してやれば、上流側では流れを速やかに横切ることのできた小さな微粒子が、また、下流側では流れをゆっくりと横切ってきた大きな微粒子が検出されることになる。
【0013】
本願の微粒子計測装置および微粒子計測方法においては、このような手法を用いて微粒子を検出しているので、排気ガス中の微粒子を連続的に計測することができる。しかも、流れの方向に位置を異ならせて設けた検出箇所に応じて、排気ガス中の微粒子を分級した状態で検出することができるので、微粒子の粒径分布に関する情報も連続的に且つ簡便に検出することが可能となる。
【0014】
また、本願の微粒子計測装置および微粒子計測方法では、排気ガスと搬送ガスとを互いに層を成した状態で通路内に流しておき、上流側では微粒子を帯電させ、下流側では電場を形成するという極めて簡素な構成で微粒子を分級している。従って、装置全体を簡素な構成として装置の小型化を図るとともに、信頼性を向上させることも可能となる。
【0015】
加えて、排気ガス中に含まれる微粒子の粒径は広い範囲に分布しているが、微粒子は分級された状態で検出部に供給されるので、それぞれの検出部には広い検出範囲が要求されることがない。このため、精度良く且つ安定して微粒子を検出することが可能となる。
【0016】
更に、上述した手法では、微粒子の検出位置の違いが、そのまま検出する微粒子の大きさの違いに対応している。従って、新たな粒径での微粒子を検出する場合にも、該当する位置に検出位置を追加するだけで、簡便に対応することが可能であるという利点もある。
【0017】
また、本願の微粒子計測装置および微粒子計測方法においては、より細かく微粒子を分級するべく採取口の数を増やす必要が生じた場合でも、採取口を流れの方向に位置を異ならせて設けることとしているので、設置個数を容易に増加させて対応することができる。
【0018】
加えて、採取口を、このように流れに対して側方に設けておけば、微粒子を分級する際の分解能を向上させることも容易である。先ず、排気ガス中の微粒子が、搬送ガスの流れを横切って通路の内壁面に至るまでに、長い距離を流されるようにしておく。微粒子が長い距離を流されるようにするためには、例えば、搬送ガス(および排気ガス)の流速を増加させたり、あるいは、形成する電場の強度を低下させればよい。このようにしておいた状態で、分級しようとする微粒子の大きさに対応する位置に採取口を設けてやる。こうすれば、同じ大きさの採取口を用いた場合でも、微粒子を分級する際の分解能を極めて簡便に向上させることが可能である。
【0019】
こうした微粒子計測装置においては、前記排気ガスおよび前記搬送ガスの流れをいわゆる層流状態に保ったまま、通路内を流してやることとしても良い。
【0020】
排気ガスおよび搬送ガスの流れが、通路内でいわゆる乱流状態になっていると、排気ガスと搬送ガスとが互いに混ざり合うような流れが生じ、この流れによって微粒子が搬送ガス内に運ばれて、分級の誤差が増加してしまう。これに対して、排気ガスおよび搬送ガスの流れを通路内で層流状態に保っておけば、こうした要因による誤差の混入を回避することが可能となり、延いては排気ガス中の微粒子を精度良く計測することが可能となるので好ましい。
【0021】
また、こうした微粒子計測装置では、微粒子を採取する採取口を、通路の内壁から搬送ガス中に突設することとしてもよい。
【0022】
検出しようとしている微粒子よりも小さな微粒子が排気ガス中に含まれていると、この微粒子は排気ガスおよび搬送ガスの流れを速やかに横切って、採取口より上流側で通路の内壁に到達する。そして、内壁に沿って下流に移動して行き、検出しようとしている大きさの微粒子とともに採取口から流入してしまう可能性がある。これに対して、採取口を通路内壁から突設しておけば、検出しようとしている微粒子よりも小さな微粒子が排気ガス中に含まれている場合でも、こうした小さな微粒子が混入することを回避することができるので、微粒子を精度良く分級して検出することが可能となる。
【0023】
あるいは、採取口の上流側に、内壁に沿って移動してきた微粒子の流入を妨げるような突部を設けることとしても良い。
【0024】
こうしても、小さな微粒子が混入して分級精度が低下してしまうことを効果的に回避することが可能であり、延いては微粒子を精度良く計測することが可能となる。
【0025】
上述した微粒子計測装置は、搬送ガスの流れの方向に互いの位置を異ならせて、2箇所に採取口を設けることとしてもよい。
【0026】
排気ガス中には、10nmから30nm前後の大きさの微粒子と、100nmから300nm前後の大きさの微粒子の、大きく2種類の微粒子が存在することが知られている。従って、微粒子の採取口を、これらの大きさに該当する2箇所に設けておけば、微粒子の排出挙動を簡便に計測することが可能となるので好ましい。
【0027】
更には、これら2箇所の採取口の間にも採取口を設けて、合計3箇所に採取口を設けることとしても良い。
【0028】
こうすれば、微粒子の粒径分布に関するより詳細な情報を簡便に得ることが可能となるので好適である。
【0029】
また、上述した微粒子計測装置の少なくとも上流側に設けられた微粒子検出部では、光学的な手法を用いて微粒子を計数することとしてもよい。
【0030】
上流側では小さな微粒子を検出しているため、重量に比して粒子個数が多くなる。従って、上流側では、光学的な手法を用いて粒子数を計数することで、精度良く微粒子を検出することが可能となる。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下では、上述した本願の発明について、実施例に基づいて詳細に説明する。図1は、本実施例の微粒子計測装置100の構造を概念的に示した説明図である。微粒子計測装置100は、大まかには、分級通路110と、複数設けられた粒子検出器120と、高圧電源130などから構成されている。分級通路110の上流側には、分級通路内に排気ガスを導入するための排気ガス導入管140と、分級通路内に搬送ガスを供給するための搬送ガス供給管150とが接続されており、分級通路110の下流側には、排気ガスおよび搬送ガスを放出するための放出通路160が接続されている。排気ガス導入管140の途中には帯電器170が設けられている。帯電器170は、内部でコロナ放電などを行うことにより、通過する微粒子に電荷を付与することが可能である。分級通路110は、断面が略円形状に形成されており、分級通路110のほぼ中心には、円柱状の電極180が設けられている。電極180と分級通路110の内壁面との間には、高圧電源130によって電場を形成可能となっている。
【0032】
微粒子計測装置100を用いて、内燃機関10の排気ガス中に含まれる微粒子を計測する場合には、排気ガス導入管140を内燃機関の排気管12に装着するとともに、放出通路160に排気ブロア20を接続して、排気ガスを排気ガス導入管140に吸引する。排気ガス中に含まれている微粒子は、排気ガス導入管140に設けられた帯電器170で電荷が付与された後、分級通路110内に流入する。また、搬送ガス供給管150の上流は、圧送ポンプ30に接続されており、排気ガスの流入に合わせて、搬送ガス供給管150からは搬送ガスを分級通路110内に供給する。搬送ガスとしては、空気など、微粒子を含まない種々の気体を用いることができる。
【0033】
図1では、排気ガスの流れを斜線を付した矢印で表し、搬送ガスの流れを白抜きの矢印で表している。図示されているように、排気ガスと搬送ガスとは互いに層を成した状態で、ほとんど混じり合うことなく分級通路110内を流れていく。前述したように、分級通路110の中心に設けられた電極180と、分級通路110の内壁面との間には電場が形成されているので、排気ガス中に含まれている微粒子は、電場からのクーロン力を受けて流れを横切る方向に移動する。
【0034】
分級通路110の壁面には、流れの方向に互いの位置を異ならせて、複数の採取口122が設けられており、採取口122はそれぞれに設けられた粒子検出器120に接続されている。このように分級通路110には、複数の採取口122が流れの方向を異ならせて設けられているので、排気ガス中の微粒子は、分級通路内を通過しながら電場によって分級された状態で採取口122に到達し、それぞれの採取口122に接続された粒子検出器120に流入する。分級通路110内で微粒子が分級されるメカニズムについては後述する。
【0035】
粒子検出器120としては、光学的な手法を利用して粒子の数をカウントする粒子カウンタを好適に用いることができる。あるいは、いわゆるFID(水素炎イオン化検出器、Flam Ionization Detector)を用いて微粒子に含まれる炭素濃度を検出したり、更には、帯電した微粒子の流れを、いわゆるファラデーカップを用いて電流として直接検出するなど、他の種々の方法を適用することも可能である。
【0036】
図2は、排気ガス中の微粒子が、分級通路110内で分級されるメカニズムを示した説明図である。排気ガス中に含まれている微粒子は、帯電器170を通過する際に電荷を付与されて、排気ガス導入管140から分級通路110内に流入する。図中に示した黒丸は、排気ガス中に含まれている微粒子を示している。図2では説明の便宜から、排気ガス中には、大きな微粒子LPと小さな微粒子SPとの2種類の微粒子のみが含まれているものとする。
【0037】
排気ガス導入管140の周囲には、搬送ガス供給管150が設けられており、搬送ガス供給管150からは、圧送ポンプ30で圧送された搬送ガスが、排気ガスの流入に合わせて供給される。搬送ガスの流入速度は排気ガスの流入速度と同じ速度となるように調整されている。図2では、搬送ガスの流れを白抜きの矢印で表している。分級通路110の寸法および排気ガスの流入速度(従って、搬送ガスの流入速度)は、レイノズル数が所定値以下となるような適切な値に設定されているので、分級通路110内での排気ガスおよび搬送ガスの流れは、いわゆる層流状態に保たれており、このため排気ガスおよび搬送ガスは互いにほとんど混じり合うことなく、層を成した状態を保ったまま分級通路110内を流れていく。この結果、分級通路110の中央に設けられた電極180の周囲には、排気ガスの流れが、そしてその周囲には搬送ガスの流れが層を成して存在するような流動状況が形成されることになる。
【0038】
次いで、高圧電源130からの電圧を印加することで、電極180と分級通路110との間に電場を形成する。排気ガスおよび搬送ガスは分級通路110に沿って流れているから、電場はこの流れと交差する方向に形成されることになる。電場の方向は、微粒子に付与した電荷によって決定される。すなわち、微粒子にプラスの電荷を付与した場合は、電極180から分級通路110に向かうような電場を形成する。こうした電場は、例えば電極180に正電圧を加えて分級通路110を接地することで、あるいは電極180を接地して分級通路110に負電圧を加えることで形成することができる。逆に、微粒子にマイナスの電荷を付与した場合は、電極180に負電圧を加えて分級通路110を接地し、あるいは電極180を接地して分級通路110に正電圧を加えればよい。
【0039】
このように、微粒子に付与した電荷に応じて電場を形成しておくと、微粒子は、電極180から離れる方向のクーロン力を受けることになる。この結果、排気ガス中の微粒子は、流れを横切る方向に少しずつ移動し、搬送ガスの層に進入して、ついには分級通路110の内壁まで到達する。電荷を帯びた微粒子が、このように流れを横切る方向に移動する速度Zp は、電場から受けるクーロン力と、流体から受ける抵抗との釣り合いによって決定され、次式によって求めることができる。
Zp =Cm ×np ×e/(3πμ×dp )
ここで、np は微粒子に付与された電荷の数を示しており、eは電気素量、μは気体の粘性係数、dp は微粒子の粒径を示している。また、補正係数Cm はカニンガム補正係数と呼ばれ、微粒子の粒径が小さく、気体を連続流体と見なせないことによる影響を補正するための係数である。
【0040】
上式から明らかなように、大きな微粒子は流れをゆっくりと横切るように移動する。これは、微粒子が大きくなるほど、流体から大きな抵抗を受けるためである。このように、大きな微粒子は流れをゆっくりと横切るので、分級通路110の内壁面まで到達するまでに、排気ガスおよび搬送ガスの流れに載って長い距離を流されることになる。これに対して、流体の抵抗の少ない小さな微粒子は流れを速やかに横切るので、さほど流されることなく、分級通路110の内壁面まで到達することができる。すなわち、図2に示したように、流れの上流側に設けた採取口122では小さな微粒子SPのみが検出され、流れの下流側に設けた採取口122では大きな微粒子LPのみが検出されることになる。このように、分級通路110内の流れの方向に位置を異ならせて設けた複数の箇所で微粒子を検出してやれば、微粒子を分級した状態で微粒子を検出することが可能となるのである。
【0041】
図3は、分級通路110に設けられた採取口122の構造を概念的に示した斜視図である。図示されているように、分級通路110には外周を取り巻くように採取環124が設けられており、採取環124と分級通路110とは採取口122で連通している。分級通路110内で分級された微粒子は、採取口122から採取環124に流入し、採取環124からパイプ126によって粒子検出器120へと導かれる。このようにすれば、分級された全ての微粒子を粒子検出器120に供給することができるので、高い検出感度を得ることが可能である。
【0042】
図4は、排気ガスに含まれる微粒子の代表的な粒径分布を示した説明図である。横軸には微粒子の粒径が対数表示されている。図中の実線は各粒径での重量の計測値を示しており、図中の破線は各粒径での粒子数を示している。図示されているように、排気ガス中の微粒子は、10nm〜30nm付近にピークを有する小さな微粒子と、100nm〜300nm付近にピークを有する大きな微粒子の、大きく2種類の微粒子が含まれていることが知られている。すなわち、この2つの粒径範囲で微粒子の排出挙動を計測しておけば、全微粒子の大まかな排出挙動を把握することが可能である。
【0043】
こうした微粒子の粒径分布を考慮して、本実施例の微粒子計測装置100では、分級通路110の上流側と下流側とにそれぞれ1つずつ採取口122が設けられており、上流側の採取口122は、図4中で「A」と示した粒径範囲の微粒子を検出する位置に、また、下流側の採取口122は図4中で「B」と示した粒径範囲の微粒子を検出する位置に設けられている。それぞれの採取口122をこのような位置に設けておくことにより、排気ガス中の微粒子の大まかな排出挙動をリアルタイムで検出することが可能となる。もちろん、図4中で「C」と示した粒径範囲でも微粒子を検出することとすれば、より詳細な粒径分布を検出することも可能である。
【0044】
上述したように、本実施例の微粒子計測装置100は、排気ガス中の微粒子を分級した状態で連続的に検出することができる。微粒子の分級は、電場をかけた分級通路110内に、排気ガスおよび搬送ガスを通過させるだけで速やかに実施することができるので、内燃機関10の運転条件が変化したときの過渡的な微粒子の排出挙動も、十分な時間分解能で検出することが可能である。
【0045】
加えて、本実施例の微粒子計測装置100では、微粒子を極めて単純な機構で分級しており、フィルタのような目詰まりを起こす要素が存在しない。このため、長い期間に亘って使用を続けても特性が劣化することなく、高い精度で安定した計測を行うことが可能である。また、微粒子は採取口122で採取され、電極180に付着することがない。このため、長期間に亘る使用でも、ほとんどメンテナンスする必要がない。
【0046】
このように分級機構が簡素であることに加えて、更に、採取口を設ける位置を2箇所あるいは3箇所に絞って設けることとすれば、計測装置全体を極めて小型に構成することができる。採取口が少ない分だけ詳細な粒径分布を得ることはできないものの、前述したように、メンテナンスをすることなく長期間に亘って高い精度で安定した計測が可能であることから、例えば、内燃機関の整備工場などで用いる検査ツールとして好適に使用することが可能となる。
【0047】
本実施例の微粒子計測装置100は、構造が簡素であるだけでなく、応答性が高く且つ安定して精度良い計測が可能という優れた特長も備えている。従って、分級通路110の長手方向に多数の採取口122を設けてやれば、こうした特長を活かして、排気ガス中の微粒子の排出挙動を詳細に研究するための高精度な研究ツールとしても効果的に使用することが可能である。
【0048】
上述した微粒子計測装置100には、種々の変形例が存在している。以下では、これら変形例の微粒子計測装置について説明する。
【0049】
上述した微粒子計測装置100では、図3に示したように分級通路110の外周に採取環124を設け、分級通路110の全周に亘って採取口122を設けるものとして説明した。しかし、簡便には、分級通路110に放射状にパイプ126を立てて採取口122を設けることとしても良い。図5は、こうして複数の採取口122を設けた様子を例示した説明図である。ここで、分級通路110の上流側に設けた採取口122と下流側の採取口122とは、図5(a)に示すように、流れの方向から見て互い違いとなる位置に設けることとしてもよい。こうすれば、下流側の採取口にも上流側の採取口と同じように、すなわち上流側に存在する採取口の影響をほとんど受けることなく、下流側の採取口でも微粒子を採取することができるので、分級精度の向上を図ることが可能である。
【0050】
これに対して、図5(b)に示すように、流れの方向から見て同じ位置に設けた場合には、小さな微粒子は上流側の採取口122で採取されてしまうので、下流側に設けた採取口122に混入するおそれがない。このため、分級精度を向上させることが可能である。
【0051】
また、採取口122は、分級通路110の内壁面から搬送ガスの流れに突出させて設けることとしても良い。図6は、こうして突設された採取口122を例示した説明図である。前述したように、小さな微粒子は流体から受ける抵抗が少ないから、電場の影響を受けて流れを速やかに横切って、上流側で分級通路110の内壁面に到達する。内壁面に到達した小さな微粒子は、その後、内壁面に沿って下流へと流されていく。図6に破線で示した矢印は、小さな微粒子が、こうして内壁面に沿って移動する様子を概念的に示している。このような小さな微粒子が多数存在している場合でも、採取口122を突設しておけば、このような微粒子を採取してしまうことを回避することができるので、微粒子を精度良く分級することが可能となる。
【0052】
あるいは、採取口122の上流側に、小さな微粒子を妨げるような突部128を設けることとしても良い。図7は、こうした突部128を例示した説明図である。図中に破線の矢印で示されているように、小さな微粒子が内壁面に沿って上流から移動してきても、突部128に遮られるために、採取口122に流入することはない。その結果、微粒子を精度良く分級することが可能となる。
【0053】
また、上述した実施例では、分級通路110の断面形状を略円形として、ほぼ中央に電極180が設けられているものとして説明したが、分級通路はこうした構成に限られるものではない。例えば、分級通路110の断面を矩形形状として、図8に示したように、一方の側面に電極180を設けることとしても良い。このような構成においても、排気ガスおよび搬送ガスの流れと交差する方向に電場を形成しておけば、図2を用いて説明したメカニズムによって、微粒子を分級することができる。こうすれば、電極180を分級通路110の内部に設ける必要がないので、微粒子計測装置をより簡単な構造とすることができる。
【0054】
以上、本発明についての各種の実施の形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限り、各請求項の記載文言に限定されず、当業者がそれらから容易に置き換えられる範囲にも及び、かつ、当業者が通常有する知識に基づく改良を適宜付加することができる。
【0055】
【発明の効果】
以上記述したように、本各発明によれば、構造が簡単で信頼性が高く、応答速度に優れ、排気ガス中の微粒子を粒径分布に関する情報も含めて、高精度に計測することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例の微粒子計測装置の構造を概念的に示した説明図である。
【図2】排気ガス中の微粒子が分級通路内で分級されるメカニズムを示した説明図である。
【図3】分級通路に設けられた採取口の構造を概念的に示した斜視図である。
【図4】排気ガスに含まれる微粒子の代表的な粒径分布を示した説明図である。
【図5】分級通路に複数の採取口が設けられている様子を例示した説明図である。
【図6】分級通路の内壁面に突設された採取口を例示した説明図である。
【図7】採取口の上流側に微粒子の混入を妨げるための突部が設けられている様子を例示した説明図である。
【図8】電極が側面に設けられた分級通路の構成を例示した説明図である。
【符号の説明】
10…内燃機関
12…排気管
20…排気ブロア
30…圧送ポンプ
100…微粒子計測装置
110…分級通路
120…粒子検出器
122…採取口
124…採取環
126…パイプ
128…突部
130…高圧電源
140…排気ガス導入管
150…搬送ガス供給管
160…放出通路
170…帯電器
180…電極
Claims (8)
- 内燃機関の排気ガスに含まれる微粒子を計測する微粒子計測装置であって、
前記排気ガスと、前記微粒子を含まない搬送ガスとが互いに層を成した状態で流れる通路部と、
前記通路部の上流側に設けられて、前記排気ガス中の微粒子を帯電させる微粒子帯電部と、
前記搬送ガスの流れを横切る方向の電場を前記微粒子帯電部の下流側に形成する電場形成部と、
前記形成された電場の作用を受けて前記搬送ガスの流れを横切って移動してきた前記微粒子を、該搬送ガスとともに連続的に採取する採取口と、
前記搬送ガスとともに採取された微粒子を検出する微粒子検出部と
を備え、
前記採取口は、前記搬送ガスの流れの方向に互いの位置を異ならせて複数設けられており、第1の採取口では10nm〜30nmの大きさの微粒子を、第2の採取口では100nm〜300nmの大きさの微粒子を、該搬送ガスとともに連続的に採取することを特徴とする微粒子計測装置。 - 請求項1記載の微粒子計測装置であって、
前記搬送ガスの流れに沿って前記第1の採取口よりは下流側で、尚且つ、前記第2の採取口よりは上流側の位置には、前記搬送ガスとともに前記微粒子を連続的に採取する第3の採取口が設けられていることを特徴とする微粒子計測装置。 - 内燃機関の排気ガスに含まれる微粒子を計測する微粒子計測装置であって、
前記排気ガスと、前記微粒子を含まない搬送ガスとが互いに層を成した状態で流れる通路部と、
前記通路部の上流側に設けられて、前記排気ガス中の微粒子を帯電させる微粒子帯電部と、
前記搬送ガスの流れを横切る方向の電場を前記微粒子帯電部の下流側に形成する電場形成部と、
前記形成された電場の作用を受けて前記搬送ガスの流れを横切って移動してきた前記微粒子を、該搬送ガスとともに連続的に採取する採取口と、
前記搬送ガスとともに採取された微粒子を検出する微粒子検出部と
を備え、
前記採取口は、前記搬送ガスの流れの方向に互いの位置を異ならせて複数設けられているとともに、前記通路部の内壁から前記搬送ガス中に突設されて設けられていることを特徴とする微粒子計測装置。 - 内燃機関の排気ガスに含まれる微粒子を計測する微粒子計測装置であって、
前記排気ガスと、前記微粒子を含まない搬送ガスとが互いに層を成した状態で流れる通路部と、
前記通路部の上流側に設けられて、前記排気ガス中の微粒子を帯電させる微粒子帯電部と、
前記搬送ガスの流れを横切る方向の電場を前記微粒子帯電部の下流側に形成する電場形成部と、
前記形成された電場の作用を受けて前記搬送ガスの流れを横切って移動してきた前記微粒子を、該搬送ガスとともに連続的に採取する採取口と、
前記搬送ガスとともに採取された微粒子を検出する微粒子検出部と
を備え、
前記採取口は、前記搬送ガスの流れの方向に互いの位置を異ならせて複数設けられているとともに、前記通路部の内壁に沿って上流側から移動してきた前記微粒子の採取を妨げる突部が設けられていることを特徴とする微粒子計測装置。 - 請求項3または請求項4に記載の微粒子計測装置であって、
前記採取口は、前記搬送ガスの流れの方向に互いの位置を異ならせて2箇所に設けられていることを特徴とする微粒子計測装置。 - 請求項3または請求項4に記載の微粒子計測装置であって、
前記採取口は、前記搬送ガスの流れの方向に互いの位置を異ならせて3箇所に設けられていることを特徴とする微粒子計測装置。 - 請求項1ないし請求項4の何れかに記載の微粒子計測装置であって、
微粒子検出部は、前記搬送ガスとともに採取された微粒子を光学的な手法によって計数する計測部である微粒子計測装置。 - 内燃機関の排気ガスに含まれる微粒子を計測する微粒子計測方法であって、
前記排気ガスと前記微粒子を含まない搬送ガスとが通路内で互いに層を成した状態の流れを形成する工程と、
前記通路の上流側で、前記排気ガス中の微粒子を帯電させる工程と、
前記搬送ガスの流れを横切る方向の電場を、前記微粒子が帯電した位置よりも下流側に形成する工程と、
前記形成された電場の作用を受けて前記搬送ガスの流れを横切って移動してきた前記微粒子を、該搬送ガスの流れの方向に互いの位置を異ならせた複数箇所で、該搬送ガスとともに連続的に採取する工程と、
前記搬送ガスとともに採取された微粒子を計測する工程と
を備え、
前記微粒子を前記搬送ガスとともに採取する工程は、該搬送ガスの流れの上流側の箇所では10nm〜30nmの大きさの微粒子を、流れの下流側の箇所では100nm〜300nmの大きさの微粒子を、該搬送ガスとともに連続的に採取する工程である計測方法。
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