JP3961029B2 - インフルエンザウィルス感染防止剤 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、肺サーファクタント(以下「PSF」という)を含有する気道部ウィルス疾患の予防及び治療剤に関し、詳しくは、気管支粘膜上皮分泌細胞が散在する気道部周辺におけるインフルエンザウィルス疾患の予防及び治療を目的とした有効成分としてPSFを含有する薬剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
気管支粘膜上皮分泌細胞は、気道部、特に気管支部に散在する細胞で、気道粘液を分泌する機能を有し、かつ生体内肺表面活性物質の産生に一部関与しているといわれている。一方、PSFは、主にホスファチジルコリン(別名コリンホスホグリセリドともいう;以下同じ)からなるリン脂質を主要成分とする物質で、後述するように多種類のものが報告されている。それらの報告によれば、PSFは、一般に、肺胞の気−液界面の表面張力を低下させ、肺胞腔を生理的に維持し、肺の呼吸機能を円滑ならしめる作用を持っていることから、生体内肺表面活性物質の欠乏によって発症する死亡率の高い呼吸窮迫症候群の治療剤として有用であると評価されている。また、国際公開第WO91/17766号公報によれば、PSFは、気管支を安定化し、アレルギー性気管支収縮を抑制する作用を持っていることから、喘息治療剤として有用であることも報告されている。
【0003】
しかしながら、気管支粘膜上皮分泌細胞の生体内における役割については、知られていない部分が多く、気管支粘膜上皮分泌細胞とウィルス疾患及びこれらと生体内肺表面活性物質の明確な関わりは未だ解明されていない。従って、ウィルス疾患におけるPSFの有効性も知られていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、長年、蛋白分解酵素及びウィルスの研究を行ってきたところ、(1) 本発明者らが発見したことであるが、気管支粘膜上皮分泌細胞からトリプシン様の蛋白分解酵素(以下「トリプターゼクララ」と仮称する)が分泌されていること、(2) そのトリプターゼクララが、ウィルス外膜糖蛋白前駆体を膜融合活性を持つ成熟型ウィルス外膜糖蛋白に限定分解し、その結果、気道部においてウィルス膜と細胞膜との融合を誘導し、気管支粘膜上皮細胞へのウィルスの侵入を決定すること、(3) 生体内表面活性物質が、トリプターゼクララによるウィルス外膜糖蛋白前駆体の分解による成熟を抑制し、気管支粘膜上皮細胞のウィルス感染及びウィルス増殖を防止すること、(4) ウィルスの感染及び増殖が防止されることから、激烈な発熱もしくは炎症等又は細菌重感染を伴うウィルス疾患の予防及び治療が達成されること、及び(5) 外部から投与されたPSFも生体内肺表面活性物質と同様の効果を有すること等の知見を得て本発明に到達した。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、PSFを有効成分として含有するインフルエンザウィルス感染防止剤が提供される。
【0006】
本発明のインフルエンザウィルス感染防止剤におけるPSFは、主にホスファチジルコリンからなるリン脂質を全体として40重量%以上含有する物質であればよく、具体的には以下の公知のもの又は新規なものが挙げられる。
【0007】
(a) 哺乳動物の肺臓組織に存在するリン脂質、中性脂質、総コレステロール、炭水化物及び蛋白質を含有し、かつ乾燥した最終製品の総重量に対するこれら各成分の重量の百分率が、リン脂質は75.0〜95.5%、中性脂質は1.8〜14.0%、総コレステロールは3.0%以下、炭水化物は0.1〜1.5%及び蛋白質は5.0%以下である表面活性物質(特公昭61−9925号公報)。
【0008】
(b) 主としてジパルミトイルホスファチジルコリン及び脂肪アルコールからなる肺表面活性薬組成物(特開昭57−99524号公報)。
【0009】
(c) 哺乳動物の肺臓組織に存在するリン脂質、中性脂肪、総コレステロール、遊離脂肪酸、炭水化物及び蛋白質を含有する表面活性物質であって、当該物質の乾燥総重量に対する各成分の重量百分率が、リン脂質は68.6〜90.7%、中性脂肪は0.3〜13.0%、総コレステロールは0.0〜8.0%、遊離脂肪酸は1.0〜27.7%、炭水化物は0.1〜2.0%及び蛋白質は0.0〜3.5%である表面活性物質(以下「PSF−1」という;特公昭61−9924号公報)。
【0010】
(d) リン脂質ホスファチジルコリンと不飽和脂肪酸又はそのエステルを主成分とし、該ホスファチジルコリンが全体の55〜80重量%を占める合成肺表面活性物質(特開昭58−135813号公報)。
【0011】
(e) 全体の80重量%以上がリン脂質からなり、実質的に蛋白質を含まない肺表面活性物質(特開昭58−164513号公報)。
【0012】
(f) 哺乳動物の肺臓から抽出されたリン脂質、中性脂質、総コレステロール及び炭水化物を含有し、かつ乾燥後の組成がリン脂質70〜95重量%、中性脂質1〜10重量%、総コレステロール3.0重量%以下及び炭水化物0.3重量%以下であって、蛋白質を実質的に含まない肺表面活性物質(特開昭58−183620号公報)。
【0013】
(g) リン脂質ホスファチジルコリンとカルジオリピンを主成分とし、該ホスファチジルコリンが全体の55〜80重量%を占める合成肺表面活性物質(特公平1−29171号公報)。
【0014】
(h) ジパルミトイルホスファチジルコリン40〜45重量%、ジパルミトイルホスファチジルグリセリン5〜10重量%及び糖50重量%の含量を有する肺用界面活性剤(特公平1−13690号公報)。
【0015】
(i) リン脂質であるホスファチジルコリンとカルジオリピン及び/又はホスファチジルグリセロールが全体の80〜95重量%、中性脂質が全体の5〜20重量%、かつ脂肪酸が全体の0〜10重量%を占めるところの合成肺表面活性物質(特開昭59−95219号公報、日本界面医学会雑誌14巻1号59頁1983年)。
【0016】
(j) コリンホスホグリセリド、酸性リン脂質、脂肪酸類及び哺乳動物の肺臓由来のリポ蛋白質を主に含有し、総重量に対するこれらの含量がコリンホスホグリセリドは50.6〜85.0重量%、酸性リン脂質は4.5〜37.6重量%、脂肪酸類は4.6〜24.6重量%、リポ蛋白質は0.1〜10.0重量%であるサーファクタント(以下「PSF−2」という;特公平3−78371号公報)。
【0017】
(k) 飽和の直鎖脂肪酸残基を2個有するホスファチジルコリンが全体の55〜80重量%、飽和の直鎖脂肪酸残基を2個有するホスファチジルグリセロールが全体の10〜35重量%、中性脂質が全体の5〜20重量%含まれるところの合成肺表面活性物質(特開昭59−181216号公報)。
【0018】
(l) リン脂質含量40〜70%、蛋白質含量1.5%未満、コレステロール含量10〜40%、中性脂質含量5〜30%である作用物質混合物(特開昭60−237023号公報)。
【0019】
(m) コリンホスホグリセリド、酸性リン脂質及び脂肪酸類を主に含有し、総重量に対するこれらの含量がコリンホスホグリセリドは53.9〜87.8重量%、酸性リン脂質は4.8〜38.2重量%、脂肪酸類は7.0〜26.2重量%であるサーファクタント(以下「PSF−3」という;特公平2−8768号公報)。
【0020】
(n) ブタの肺胞洗浄液から抽出した脂質に塩化カルシウムを添加してなる肺表面活性物質(日本界面医学会雑誌12巻1号1頁1981年、同14巻2号212頁1983年)。
【0021】
(o) ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン及び大豆レシチンの三成分系混合物を含有する合成肺表面活性物質(特公平1−9292号公報)。
【0022】
(p) 極性脂質画分と蛋白質画分とからなる動物源の肺動脈界面活性剤において、該極性脂質画分を少なくとも98.5重量%の割合で存在させると共に、主に少なくとも95%の割合のリン脂質混合物で構成した肺動脈界面活性剤(特開平1−63526号公報)。
【0023】
(q) リン脂質と特表昭62−501122号公報、特表昭62−501792号公報、特表昭63−503222号公報、特表平1−501282号公報、特開平2−424号公報、特開平2−6405号公報、特開平2−53798号公報、特開平2−279628号公報、特表平2−502917号公報、特開平3−44332号公報もしくは特開平3−90033号公報に記載の肺表面活性蛋白質又はその他遺伝子組替えにより製造した肺表面活性物質蛋白質を含有する合成肺表面活性物質。
【0024】
(r) 牛肺から得られ、リン脂質、コレステロール、疎水性表面活性蛋白質、遊離脂肪酸及びトリグリセリド等を含有するアルビオファクト(Alveofact;商品名、以下「PSF−4」という)、インファサーフ(Infasurf;商品名)、キューロサーフ(Curosurf;商品名)、人羊水から得られるヒューマンサーフ(Humansurf;商品名)等の天然肺表面活性物質又はその調整品。
【0025】
(s) エキソサーフ(Exosurf;商品名、以下「PSF−5」という)、ジパルミトイルホスファチジルコリン7部及びホスファチジルグリセロール3部からなるアレック(Alec;商品名)等の合成肺表面活性物質。
【0026】
(t) コリンホスホグリセリド、酸性リン脂質、脂肪酸類及び下記特定配列;
【0027】
【化3】
【0028】
(ここで、Xaa は存在しないか又はPhe もしくはLeu を表し、Xbb は存在しないか又はGly 、Arg もしくはLeu を表し、Xcc は存在しないか又はIle を表し、Xdd は存在しないか又はPro を表し、Xee は存在しないか又はCys を表し、Xff はHis 又はAsn を表し、Xgg はLeu 又はIle を表し、Xhh はVal 又はIle を表し、Xii はIle 、Leu 又はVal を表し、Xjj は存在しないか又はLeu を表し、Xkk は存在しないか又はMet を表し、Xll 存在しないか又はGly を表し、Xmm は存在しないか又はLeu を表す)で示されるペプチドを主に含有し、乾燥総重量に対するこれらの含量がコリンホスホグリセリドは50.6〜85.0重量%、酸性リン脂質は4.5〜37.6重量%、脂肪酸類は4.6〜24.6重量%、ペプチドは0.1〜5.0重量%である肺表面活性物質(以下「PSF−6」という)。
【0029】
PSF−6におけるコリンホスホグリセリドとしては、1,2-ジパルミトイルグリセロ-(3)- ホスホコリン( 別名ジパルミトイルホスファチジルコリン) 、1,2-ジステアロイルグリセロ-(3)- ホスホコリン、1-パルミトイル-2- ステアロイルグリセロ-(3)- ホスホコリン若しくは1-ステアロイル-2- パルミトイルグリセロ-(3)- ホスホコリン等の1,2-ジアシルグリセロ-(3)- ホスホコリン、1-ヘキサデシル-2- パルミトイルグリセロ-(3)- ホスホコリン若しくは1-オクタデシル-2-パルミトイルグリセロ-(3)- ホスホコリン等の1-アルキル-2- アシルグリセロ-(3)- ホスホコリン又は1,2-ジヘキサデシルグリセロ-(3)- ホスホコリン等の1,2-ジアルキルグリセロ-(3)- ホスホコリンが適当である。これらの化合物についてはグリセロール残基の2位の炭素に基づく光学異性体が存在するが、本発明サーファクタントにおいてはD体、L体又はDL体のいずれを問わず使用することができる。このほかのコリンホスホグリセリドとしては、上述の単品からなるコリンホスホグリセリド以外に、炭素数が12〜24個のアシル基、好ましくは、飽和アシル基を2個有する1,2-ジアシルグリセロ-(3)- ホスホコリンの2種以上からなる混合物、更には当該混合物と上述の単品との混合物も使用することができる。
【0030】
PSF−6における酸性リン脂質としては、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-(3)-リン酸( 別名L-α- ホスファチジン酸) 、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-(3)- ホスホ-L- セリン( 別名ホスファチジルセリン)、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-(3)-ホスホ-sn-グリセロール( 別名ホスファチジルグリセロール) 又は1,2-ジアシル-sn-グリセロ-(3)- ホスホ-(1)-L-myo- イノシトール( 別名ホスファチジルイノシトール) が適当である。これらの化合物において、1位及び2位は同一種類又は異なる種類のアシル基でそれぞれ置換されていてもよい。ここで、アシル基の炭素数は12〜24個が好ましい。
【0031】
PSF−6における脂肪酸類としては、遊離脂肪酸、脂肪酸のアルカリ金属塩、脂肪酸アルキルエステル、脂肪酸グリセリンエステル若しくは脂肪酸アミド又はこれらの2種以上からなる混合物、更には脂肪アルコール又は脂肪族アミンが適当である。
【0032】
なおPSF−6においては、薬効活性の安定化を図るため、必要に応じて懸濁時にカルシウムイオンを存在させてもよい。
【0033】
本明細書において「脂肪酸類」とは、ここでいう脂肪アルコール及び脂肪族アミンも包含する意味である。
【0034】
遊離脂肪酸としてはミリスチン酸、パルミチン酸又はステアリン酸が適当であるが、パルミチン酸が好ましい。脂肪酸のアルカリ金属塩としてはパルミチン酸ナトリウムが、脂肪酸アルキルエステルとしてはパルミチン酸エチルエステルが、脂肪酸グリセリンエステルとしてはモノパルミチンが、脂肪酸アミドとしてはパルミチン酸アミドがそれぞれ好ましい。脂肪アルコールとしてはヘキサデシルアルコールが、脂肪族アミンとしてはヘキサデシルアミンが好ましい。上述のコリンホスホグリセリド、酸性リン脂質及び脂肪酸類は動植物から分離された製品、半合成品又は化学合成品のいずれでもよく、それらの市販品を使用することができる。
【0035】
本発明においては、上記のPSFがすべて使用できるが、成分として蛋白質、リポ蛋白質又はペプチドを含有するPSFが望ましい。
【0036】
本発明は、外膜糖蛋白を有するウィルスにより気道部で感染発症するもの、例えば、インフルエンザウィルス、パラインフルエンザウィルスが挙げられる。
【0037】
【実施例】
PSFのウィルス疾患に対する予防及び治療効果を以下に説明する。以下の各試験に使用したPSF、ウィルス及びトリプターゼクララは以下のとおりである。
【0038】
(PSF)各試験においては上記のPSF−1、PSF−2、PSF−3、PSF−4、PSF−5及びPSF−6を選択し、以下の組成比率からなるものをこれら各PSFの代表例として使用して行った。組成比率はすべて重量%を意味する。また、PSF−4及びPSF−5については、外部より入手したものを使用した。
【0039】
PSF−1
リン脂質85.5%、中性脂肪2.4%、総コレステロール0.1%、
遊離脂肪酸8.2%、炭水化物0.2% 、蛋白質0.7%及び
水分2.9%
PSF−2
1,2-ジパルミトイルグリセロ-(3)- ホスホコリン 69.8%
1,2-ジアシル-sn-グリセロ-(3)- ホスホ-sn-グリセロール 17.5%
パルミチン酸 8.7%
牛肺から抽出したリポ蛋白質 2.2%
水分 1.8%
PSF−3
1,2-ジパルミトイルグリセロ-(3)- ホスホコリン 67.9%
1,2-ジアシル-sn-グリセロ-(3)- ホスホ-sn-グリセロール 22.6%
パルミチン酸 9.1%
水分 0.4%
PSF−6
1,2-ジパルミトイルグリセロ-(3)- ホスホコリン 67.2%
1,2-ジアシル-sn-グリセロ-(3)- ホスホ-sn-グリセロール 22.4%
パルミチン酸 9.0%
水分 0.5%
下記特定配列で示されるペプチド 0.9%
【0040】
【化4】
【0041】
(ウィルス)ウィルスとしては、センダイウィルス(Z株)及びインフルエンザウィルス(A/Aichi/2/68 H3N2 )を選択した。センダイウィルス及びインフルエンザウィルスは、発育鶏卵の羊膜腔で生育させたものを256HAU/ml(赤血球凝集単位/ml)の割合でカルシウムフリーのリン酸緩衝液(以下「PBS(−)」という)に浮遊させてそれぞれ用いた。
【0042】
(トリプターゼクララ)トリプターゼクララは、ラットの肺より、木戸博ら著のザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(THE Journal of Biological Chemistry)267巻1992年に記載された方法に従って以下のように調製した。
【0043】
ラットの肺を生理食塩液で洗浄した後細断し、これをpH5.5の条件でホモゲナイズし、ついで遠心分離して上澄液を得、これを粗抽出液とする。この粗抽出液を以下の4種類のクロマトグラフィー操作により単離精製する。即ち、得られた粗抽出液をCM−52セルロースカラム(商品名)及びCM−52セファデックスカラム(商品名)等のイオン交換カラムクロマトグラフィーに順次付し、Boc-Gln-Ala-Arg-MCA 等のトリプシン活性測定用発色基剤に対して活性を示す画分を採取する。この採取液をセリン性蛋白分解酵素群特異的吸着体であるアルギニンセファロースカラム(商品名)のクロマトグラフィーに付し、トリプシン様酵素を特異的に吸着採取する。最後に、ここで得られた酵素液をゲル濾過カラムに通し、トリプシン活性測定用発色基剤に対して活性を示す画分を採取することにより単離精製し、トリプターゼクララを調製する。このトリプターゼクララをPBS(-)に1mg/mlの濃度に溶解したものを各試験で用いた。
【0044】
ウィルスの感染増殖抑制試験
試験は、以下の操作でジャーナル・オブ・ビロロジー(Journal of Virology)8巻619〜629頁1971年に記載されたウィルス感染価(CIU=Cell Infecting Unit)を求めることにより行った。
【0045】
試験管にトリプターゼクララ20μl 及び20μl の各PSFを採り、0℃で20分間インキュベートし、これにセンダイウィルス又はインフルエンザウィルス80μl を添加し、37℃で20分間インキュベートした後10μg の蛋白分解酵素阻害剤アプロチニン(商品名)を加えてトリプターゼクララの酵素活性を停止し、更に氷水中で冷却し、ウィルス反応液を得る。各PSFは、PSF−1、PSF−2、PSF−3、PSF−4及びPSF−5にあってはPBS(-)に懸濁したものを、PSF−6にあっては極めて微量のカルシウムイオンを含むリン酸緩衝液に懸濁したものを用いる。
【0046】
次に、予め、8穴チャンバースライドにアカゲザル腎細胞を1穴当たり2×105 個採り、2〜3日間インキュベートした後PBS(-)で2回洗浄し、これにウィルス反応液を1穴当たり10又は50μl 接種し、C02 インキュベーター内で35℃で60分間インキュベートする。この培養液に0.2%の牛血清アルブミンを含有するミニマム・エッセンシャル・メディウム培地を1穴当たり300μl 添加し、37℃で15時間インキュベートする。その後、培地を除きPBS(-)で1回洗浄し、0℃のアセトンに20分間つけて固定し、抗体で免疫蛍光染色する。抗体は、抗センダイウィルス兎血清及びフルオレセイン・イソチオシアネートで標識した抗兎免疫グロブリンヤギ免疫グロブリン又は抗インフルエンザウィルス兎血清及びフルオレセイン・イソチオシアネートで標識した抗兎免疫グロブリンヤギ免疫グロブリンを用いる。ウィルス感染価は、400倍の顕微鏡下で蛍光を発する細胞を感染陽性細胞として数え、1mlのウィルス液相当量に換算して測定する。センダイウィルスを用いたときの試験結果を表1に、インフルエンザウィルスを用いたときの試験結果を表2にそれぞれ示す。
【0047】両表中、コントロール1は、トリプターゼクララで処理することなしに試験管にセンダイウィルス又はインフルエンザウィルス80μl を採り、37℃で20分間インキュベートした後氷水中で冷却したものを、コントロール2は、試験管にトリプターゼクララ20μl を採り、0℃で20分間インキュベートし、これにセンダイウィルス又はインフルエンザウィルス80μl を添加し、37℃で20分間インキュベートした後トリプターゼクララの酵素活性を停止し、更に氷水中で冷却したものをそれぞれウィルス反応液とし、以下上記と同様にして測定したときの結果を意味する。また、PSF濃度とは、各PSFのPBS(-)中の濃度を意味するが、PSF−6にあっては、混在させた塩化カルシウムを除いたものの濃度を意味する。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表1及び表2より明白なように、いずれのPSFも濃度依存性にトリプターゼクララによって増加する感染細胞の増加を抑制しており、ウィルスの感染と増殖を防止していることが認められる。
【0051】
ウィルス感染ラットの生存試験
試験は、3週齢のCD(SD)系雄性ラット(日本チャールス・リバー社製)1群10匹を用い、ウィルス感染前にPSFを1回投与した場合(以下「感染前1回投与試験」という)とウィルス感染後にPSFを反復投与した場合(以下「感染後反復投与試験」という)に分け、それぞれのラットの生存日数を観察することにより行った。ウィルスとしてはセンダイウィルス(Z株)を、PSFとしてはPSF−1、PSF−2、PSF−3及びPSF−6を選択し、それぞれ生理食塩液に懸濁したものを使用した。
【0052】
ウィルス感染は、各ラットにエーテル麻酔下、2×104 プラーク形成単位のセンダイウィルスを経鼻的に投与することにより行った。各PSFは、感染前1回投与試験ではウィルス感染10分前に、PSF−1、PSF−2及びPSF−3にあっては108mg/kgを、PSF−6にあっては44mg/kgをそれぞれ1回気管内投与した。また、感染後反復投与試験では感染直後から8時間毎に4日間、PSF−1、PSF−2及びPSF−3にあっては27mg/kgを、PSF−6にあっては12mg/kgをそれぞれ経鼻的に投与した。コントロール群にはPSFのかわりに同容量の生理食塩液を投与した。感染前1回投与試験の結果を表3に、感染後反復投与試験の結果を表4に示す。
【0053】
両表中、日目とは、ウィルス感染後の日数を意味し、ラット生存数とは、各日数日において生存しているラットの匹数を意味する。
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
表3から明らかなように、感染前1回投与試験においては、コントロール群では感染5日後から死亡する例が見られ、8日後までには全例が死亡(生存率0%)したのに対し、PSF投与群では10日後でも5〜8例が生存(生存率50〜80%)した。また、表4から明らかなように、感染後反復投与試験においては、コントロール群では感染5日後から死亡する例が見られ、8日後までには全例が死亡(生存率0%)したのに対し、PSF投与群では10日後でも全例が生存(生存率100%)した。このことは、PSFがウィルスの感染増殖を極めて効果的に防止していることを示している。これらのことから、いずれのPSFもウィルスの感染増殖を予防及び阻害していることが認められる。
【0057】
ウィルス感染ラットの肺の剖検試験試験は、3週齢のCD(SD)系雄性ラット1群7匹を用い、2×104 プラーク形成単位のセンダイウィルスを経鼻的に投与して感染させ、感染後8時間毎に4日間、PSFを経鼻的に投与し、感染5日後に全ラットを屠殺して肺を摘出し、肺の障害度を肉眼的に観察することにより行った。PSFとしてはPSF−1、PSF−2、PSF−3及びPSF−6を選択し、それぞれ生理食塩液に懸濁したものを使用した。各PSFは、PSF−1、PSF−2及びPSF−3にあっては27mg/kgを、PSF−6にあっては12mg/kgをそれぞれ投与した。コントロール群にはPSFのかわりに同容量の生理食塩液を投与した。結果を表5に示す。
【0058】
表5中、肺の障害度は、全肺表面積に対する肝変、即ち褐色を呈する面積の割合を0から4までの5段階のスコアーで表示した。肺の障害度スコアーにおいて、0とは、肺全表面積に対する肝変面積の百分率が0%を、1とは同百分率が1〜25%を、2とは26〜50%を、3とは51〜75%を、4とは76〜100%をそれぞれ意味する。
【0059】
【表5】
【0060】
表5より明白なように、いずれのPSFもウィルス感染による肺の障害範囲の拡大を阻止しており、ウィルスの感染増殖に対して奏効していることが認められる。
【0061】
急性及び亜急性毒性試験
(a) 急性毒性
5週齢のICR系雄性マウス及び5週齢のウィスター系雄性ラットに、PSFを経口及び腹腔内に投与しLD50値を求めた。PSFとしては、PSF−1、PSF−2、PSF−3及びPSF−6を選択した。いずれのPSFにおいても、LD50値は、マウスでは経口で3g/kg以上、腹腔内では2g/kg以上であった。また、ラットでは経口で4g/kg以上、腹腔内では2.5g/kg以上であった。
【0062】
(b) 亜急性毒性
成熟したウィスター系ラットに、1ケ月間、PSF−1、PSF−2及びPSF−3をそれぞれ500mg/kg腹腔内投与したところ、1ケ月後のラットの体重増減並びに肺臓及び他の主要臓器における肉眼的観察及び組織学的観察には何ら異常が認められなかった。
【0063】
用法・用量
本発明の気道部ウィルス疾患の予防及び治療剤は、乳幼児に対しては0.001〜500mg、好ましくは0.002〜200mgの、成人に対しては0.005〜800mg、好ましくは0.01〜400mgのPSFを一回投与量として含有する。この用量を水もしくは生理食塩液のような電解質溶液又は必要に応じてカルシウムイオンを含有するこれらの液に懸濁し、0.05〜300mg/ml、好ましくは0.1〜200mg/mlの濃度に調製し、ウィルス感染前又はウィルス疾患発症後に、気道内に注入又は噴霧する。
【0064】
投与回数は、ウィルス感染前にあっては1〜100回、好ましくは1〜50回、ウィルス疾患発症後にあっては1〜200回、好ましくは1〜80回が適当である。患者の症状もしくは年齢、併用療法又は対象となるウィルス疾患の流行状況に応じて上記の用量、用法及び回数を適宜変更してもよい。
【0065】
本発明のは薬剤、必要に応じて安定剤、保存剤、等張剤、緩衝剤もしくは懸濁剤等の医薬品添加物又は気管支拡張剤、鎮咳剤、抗生物質、合成抗菌剤もしくは抗ウィルス剤等の医薬品を含有してもよい。剤型は液剤、用時に懸濁して用いる粉末剤又はエアロゾル剤が適当であり、バイアル瓶、アンプル瓶又はその他の密封容器内に充填し、無菌製剤とする。
【0066】
【効果】
気道部ウィルス疾患は、一般に流行する傾向があり、その流行については報道されることが多い。従って、本発明の気道部ウィルス疾患の予防及び治療剤は、報道後にあっては、その流行疾患の予防剤として利用でき、発症後にあっては、その疾患の治療剤として利用できる。特に、本発明の予防及び治療剤は、原因ウィルスが、外膜糖蛋白を有するウィルスであって気道部に感染し増殖するもの、例えば、インフルエンザウィルス、パラインフルエンザウィルスによって発症するウィルス疾患に効果的に適用できる。
【0067】
【配列表】
配列番号:1
配列の長さ:35
配列の型:アミノ酸
トポロジー:直鎖状
配列の種類:ペプチド
配列
Phe Gly Ile Pro Cys Cys Pro Val His Leu Lys Arg Leu Leu Ile Val
1 5 10 15
Val Val Val Val Val Leu Ile Val Val Val Ile Val Gly Ala Leu Leu
20 25 30
Met Gly Leu
35
Claims (5)
- 主にホスファチジルコリン又はコリンホスホグリセリドからなるリン脂質を肺サーファクタントの乾燥総重量に対して40重量%以上含有し、かつリポ蛋白質又はペプチドを含有するものである肺サーファクタントを含有するインフルエンザウィルス感染防止剤。
- 肺サーファクタントが、コリンホスホグリセリド、酸性リン脂質、脂肪酸類及び哺乳動物の肺臓由来のリポ蛋白質を主に含有し、総重量に対するこれらの含量がコリンホスホグリセリドは50.6〜85.0重量%、酸性リン脂質は4.5〜37.6重量%、脂肪酸類は4.6〜24.6重量%、リポ蛋白質は0.1〜10.0重量%であるサーファクタントである請求項1記載のインフルエンザウィルス感染防止剤。
- 肺サーファクタントが、1,2-ジパルミトイルグリセロ-(3)- ホスホコリン69.8重量%、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-(3)- ホスホ-sn-グリセロール17.5量%、パルミチン酸8.7重量%及び牛肺から抽出したリポ蛋白質2.2重量%を含有するものである請求項2記載のインフルエンザウィルス感染防止剤。
- 肺サーファクタントが、コリンホスホグリセリド、酸性リン脂質、脂肪酸類及び下記特定配列;
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