JP3921136B2 - バーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板とその製造方法 - Google Patents

バーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板とその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車、建材、家電製品などに適するバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車のクロスメンバーやサイドメンバー等の部材は、近年の燃費軽量化の動向に対応すべく軽量化が検討されており、材料面では、薄肉化しても強度および衝突安全性が確保されるという観点から鋼板の高強度化が進められている。しかしながら、材料の成形性は強度が上昇するのに伴って劣化するので、上記部材の軽量化を実現するには、成形性と高強度の両方を満足する鋼板を製造する必要がある。
【0003】
成形性を表す指標としては、引張り試験の際の伸び(El.)が用いられ、この値が高いことが成形性の指標の一つとして用いられている。また、強度としては、引張り試験の際の最大応力である引張強さ(TS)がその値として用いられており、これらの積(TS×El.)が21000(MPa・%)を上回る鋼板が高強度かつ高延性鋼板として知られている。これらの特性を有する鋼板としては、特開平1−230715号公報や特開平2−217425号公報に開示されているような残留オーステナイトを含む鋼板がある。
【0004】
これら残留オーステナイトを含む鋼板は、その成分元素として、CとSiおよびMnのみを基本的な合金元素とし、冷延鋼板の場合、二相域で焼鈍後、300〜450℃程度の温度範囲でベイナイト変態を行うことを特徴とする熱処理により、残留オーステナイトを金属中に含む鋼板であり、これら鋼板は残留オーステナイトを含む組織を作るために、特開平05−171344号公報や特開平05−195143号公報で開示しているように、SiまたはAlを含有させる必要がある。
【0005】
これらの鋼板は、金属組織に含まれている残留オーステナイトをプレス成形時に、応力誘起変態により、マルテンサイトに変態させることで優れた延性を得ていることから、特開平10−130776号公報や特開平4−98859号公報に開示されているように、残留オーステナイトの安定性の向上と体積率増加に着目した研究が数多く行われてきた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの鋼板は、軟質なフェライトと硬質な残留オーステナイトを含む不均一な組織であり、これら両相の境界が微少ボイドの生成を誘起し、バーリング加工性に劣るという問題を有していた。
【0007】
また、自動車用鋼板の高性能化を反映して、耐食性および外観向上を目的に自動車部材のめっき化が進んでいるが、現在は、車内に装着される特定の部材を除いて、多くの部材に、溶融亜鉛めっき鋼板が使用されている。
【0008】
しかしながら、これら鋼板はSiを多量に含むため、鋼板表面が酸化し易く、溶融亜鉛めっきの際に微少不めっきを生じる、合金化後の加工部においてめっき密着性が劣る等の問題がある。
【0009】
これらの問題を解決するための手段としては、例えば、特開平3−28359号公報や特開平3−64437号公報には鋼板表面に、0.002〜2.0g/m2程度のNi、Cu、Co、Feの単独または複合めっきを行うことで、めっき性を改善しているが、この方法では、溶融亜鉛めっきライン前段に新たにめっき設備を設けるか、もしくは、あらかじめ電気めっきラインにおいてめっき処理を行わねばならず、大幅なコストアップを招くという問題を有していた。
【0010】
あるいは、特開平11−309944号公報や特開平11−141423号公報に開示されているように、鋼中に0.01〜2.0%程度のNi、Cu、Coを単独あるいは複合添加することで、めっき性を改善している。しかしながら、鋼中へNi、Cu、Co等の高価な元素の添加を必要とするため、コスト高を招くという問題を有していた。
【0011】
本発明は上記課題を解決し、バーリング加工性に優れた高強度高延性合金化溶融亜鉛めっき鋼板ならびにバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、種々検討を行った結果、めっき性に関しては、鋼中にMg、Zr、Ca、Y、Hf、ランタノイド族の元素群中から1種または2種以上を合計で0.001〜1%を添加することで、高強度鋼板の溶融亜鉛めっき濡れ性確保および合金化めっきにおける合金化促進を見出した。この効果は、鋼中のこれら元素の含有量を0.001%以上とすることで発揮される。
【0013】
また、鋼中に主相としてベイナイトを体積分率で50〜97%含有し、第2相として残留オーステナイトを3〜50%未満含有し、残部フェライト(体積率で47%以下)とすることで、バーリング加工性に優れた高強度高延性鋼板が製造可能であることを見出した。
【0014】
本発明は、上記知見に基づいて完成されたもので、その要旨とするところは以下の通りである。
[1] 鋼板が質量%で、
C:0.0001〜0.3%、
Si:0.001〜4%(ただし、0.1%未満を除く)
Mn:0.001〜3%、
Al:0.001〜4%、
Mo:0.001〜4%、
P:0.0001〜0.3%、
S:0.01%以下
を含有し、Mg、Zr、Ca、Y、Hfおよびランタノイド族の元素群中から1種または2種以上を合計で0.001〜1%含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、鋼板のミクロ組織が体積分率で、主相としてベイナイトを50〜97%、第2相として残留オーステナイトを3〜50%未満含有し、残部フェライトからなり、該フェライトの平均粒径が10μm以下であり、前記鋼板の表面に、質量%で、
Al:0.001〜0.5%、
Fe:5〜20%を含有し、残部がZn及び不可避不純物からなるめっき層を有することを特徴とするバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板。
[2] 鋼板が質量%で、
C:0.0001〜0.3%、
Si:0.001〜4%(但し、0.1%未満を除く)
Mn:0.001〜3%、
Al:0.001〜4%、
Mo:0.001〜4%、
P:0.0001〜0.3%、
S:0.01%以下
を含有し、Mg、Zr、Ca、Y、Hfおよびランタノイド族の元素群中から1種または2種以上を合計で0.001〜1%含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、鋼板のミクロ組織が体積分率で、主相としてベイナイトを50〜97%、第2相として残留オーステナイトを3〜50%未満含有し、残部フェライトからなり、該フェライトの平均粒径が10μm以下であり、前記鋼板の表面に、質量%で、
Al:0.001〜0.5%、
Fe:5%未満を含有し、残部がZn及び不可避不純物からなるめっき層を有することを特徴とするバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板。
] さらに、鋼中に質量%で、
Ni:0.001〜4%、
Cu:0.001〜4%、
Cr:0.001〜4%、
Co:0.001〜4%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする[1]又は[2]に記載のバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板。
] めっき層中のCu含有率(質量%)と鋼中のCu含有率(質量%)の比をa、めっき層中のNi含有率(質量%)と鋼中のNi含有率(質量%)の比をbとすると、0.0001≦a+b≦0.2を満たすことを特徴とする[]記載のバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板。
] さらに、鋼中に質量%で、Nb、Ti、Vの1種または2種以上を合計で0.001〜1%含有することを特徴とする[1]〜[]のいずれか1項に記載のバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板。
] さらに、鋼中に質量%で、
B:0.0001〜0.1%を含有することを特徴とする[1]〜[]のいずれか1項に記載のバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板。
] めっき鋼板の垂直断面において、めっき層/鋼板界面から10μm以内の鋼中に、内部酸化物であるMgO、CaO、ZrO、CeO、La、HfO、TiO、Y、SiO、MnO、およびAlの1種または2種以上の合計を面積率で0.1%以上含むことを特徴とする[1]〜[]のいずれか1項に記載のバーリング加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
] めっき鋼板の垂直断面において、めっき層/鋼板界面からMgO、CaO、ZrO、CeO、La、HfO、TiO、Y、SiO、MnO、およびAlの1種または2種以上の内部酸化物が存在する最大深さまでの範囲における鋼板中に、内部酸化物であるMgO、CaO、ZrO、CeO、La、HfO、TiO、Y、SiO、MnO、およびAlの1種または2種以上が面積率で1%以上含まれることを特徴とする[1]〜[]のいずれか1項に記載のバーリング加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
] さらに、めっき層が質量%で、
Mn:0.001〜2%、
を含有し、残部がZn及び不可避不純物からなるめっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板であって、
鋼のSi含有率:X(質量%)、Mn含有率:Y(質量%)及びAl含有率:Z(質量%)、並びにめっき層のAl含有率:A(質量%)及びMn含有率:B(質量%)が、下記(1)式を満たすことを特徴とする[1]〜[]のいずれか1項に記載のバーリング加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0015】
3−(X+Y/10+Z/3)−12.5×(A−B)≧0・・・(1)
[10] 更にめっき層が、質量%で、
Ca:0.001〜0.1%、
Mg:0.001〜3%、
Si:0.001〜0.1%、
Mo:0.001〜0.1%、
W:0.001〜0.1%、
Zr:0.001〜0.1%、
Cs:0.001〜0.1%、
Rb:0.001〜0.1%、
K :0.001〜0.1%、
Ag:0.001〜5%、
Na:0.001〜0.05%、
Cd:0.001〜3%、
Cu:0.001〜3%、
Ni:0.001〜0.5%、
Co:0.001〜1%、
La:0.001〜0.1%、
Tl:0.001〜8%、
Nd:0.001〜0.1%、
Y :0.001〜0.1%、
In:0.001〜5%、
Be:0.001〜0.1%、
Cr:0.001〜0.05%、
Pb:0.001〜1%、
Hf:0.001〜0.1%、
Tc:0.001〜0.1%、
Ti:0.001〜0.1%、
Ge:0.001〜5%、
Ta:0.001〜0.1%
:0.001〜0.1%、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする[1]〜[9]のいずれか1項に記載のバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板。
[11] [1]〜[10]のいずれか1項に記載の成分からなる鋳造スラブを鋳造まま、あるいは、一旦冷却した後に再度加熱し、熱延後巻き取った熱延鋼板を酸洗後冷延し、その後、(Ac1+100)(℃)以上(Ac3+100)(℃)以下で焼鈍した後に、0.1℃/秒以上の冷却速度で650〜800℃の温度域に冷却し、引き続いて1〜100℃/秒の冷却速度で、Znめっき浴温度〜(Znめっき浴温度+100)(℃)まで冷却した後、350〜(Znめっき浴温度+100)(℃)の温度域で後続のめっき浴の浸漬時間を含めて1〜3000秒間保持した後、Znめっき浴に浸漬して、その後、室温まで冷却することを特徴とするバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[12] Znめっき浴に浸漬した後、浴温〜(Znめっき浴温度+100)(℃)の温度範囲で1〜300秒間の保持を行い、室温まで冷却することを特徴とする[11]記載のバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[13] 鋳造スラブを1150〜1250℃に加熱し、1000℃までの圧延率を50%以上とし、仕上げ温度を850℃以上として熱延後、650℃以下で巻き取ることを特徴とする[11]又は[12]記載のバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の要旨は、主相としてベイナイトを体積分率で(以下、同じ)50〜97%含有し、第2相として残留オーステナイトを3〜50%未満含有し、残部フェライトからなるバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法である。
【0017】
まず、ミクロ組織について説明する。
【0018】
高強度溶融亜鉛めっき鋼板のバーリング加工性は、製品に含まれるベイナイトとフェライトの体積分率に左右される。ベイナイトの体積率が50%未満ではその効果がほとんど表れないことから、本発明では下限値を50%以上とした。一方、延性確保のためにはベイナイトは97%以下であることが必要である。
【0019】
残部組織であるフェライトの体積率が47%以上となると、フェライトと残留オーステナイトの界面面積が多くなり、微少ボイドの生成が顕著となり、バーリング加工性に劣る。このことから、残部フェライトの体積率は47%未満が望ましい。さらには、35%以下とすることが望ましい。
【0020】
本発明に係る高強度溶融亜鉛めっき鋼板の延性は、第2相である残留オーステナイトの体積分率に左右される。金属組織に含まれている残留オーステナイトは応力を受けていない状態では、安定に存在するものの、変形が加えられるとマルテンサイトに変態し、変態誘起塑性により優れた延性が得られる。しかしながら、その体積分率が3%未満では、その効果がほとんど表れないことから下限値を3%以上とした。一方、残留オーステナイトの体積分率が50%以上になると、極端に著しい成形を加えた場合、成形後多量のマルテンサイトが存在することとなり、二次加工性や衝撃特性に問題を生じる事があるので、本発明では、その上限値を50%未満とした。
【0021】
また、主相であるベイナイト、第2相の残留オーステナイトおよび残部組織であるフェライト以外の不可避相として、マルテンサイト、パーライト、炭化物、窒化物、硫化物および酸化物の1種又は2種以上の合計を体積分率で10%以下含有するものも、本発明の範囲内とする。
【0022】
さらに、鋼板に含まれる残部フェライトの平均粒径を10μm以下とすることで、優れたバーリング加工性が得られる。ただし、この効果が顕著になるのは平均粒径が7μm以下であることから、平均粒径は7μm以下が望ましい。一方、平均粒径の下限は特に定めることなく本発明の効果を得ることができる。
【0023】
なお、上記ミクロ組織の各相、フェライト、ベイナイト、残留オーステナイト、マルテンサイト、酸化物相および残部組織の同定、存在位置の観察および平均粒径(平均円相当径)と占積率の測定は、ナイタール試薬および特開昭59ー219473号公報に開示された試薬により鋼板圧延方向断面または圧延直角方向断面を腐食して500倍〜20000倍の光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡および透過型電子顕微鏡観察により定量化が可能である。また、めっき層/鋼板界面近傍の内部酸化物の形態および同定は、走査型顕微鏡、透過電子顕微鏡およびEPMAを用いて行い、最大深さについては、500〜20000倍で20〜50視野を観察し、その中で0.05μm以上の内部酸化物が存在する最大値を最大深さとした。
【0024】
次に、本発明における鋼板成分の限定理由について述べる。
【0025】
本発明者等は、質量%で、C:0.0001〜0.3%、Si:0.001〜0.1%未満、Mn:0.001〜3%、Al:0.1〜4%、Mo:0.001〜4%、P:0.0001〜0.3%、S:0.01%以下を含有し、残部Feおよび不可避不純物より成る鋳造スラブを鋳造まま、あるいは、一旦冷却した後に再度加熱し、熱延後巻き取った熱延鋼板を酸洗後冷延し、その後(Ac1+100)(℃)以上1000℃以下で焼鈍し、0.1〜50℃/秒の冷却速度で650〜800℃の温度域に冷却し、引き続いて1〜100℃/秒の冷却速度で、Znめっき浴温度〜(Znめっき浴温度+100)(℃)まで冷却した後、350〜(Znめっき浴温度+100)(℃)の温度域で後続のめっき浴の浸漬時間を含めて1〜3000秒間保持した後、Znめっき浴に浸漬して、その後室温まで冷却した。さらに、一部の試料についてはZnめっき浴に同条件で浸漬後、Znめっき浴温度〜550℃で5〜60秒間保持することで合金化処理を行った後、350℃までの温度範囲を0.5〜100℃/秒の冷却速度で冷却し、その後室温まで冷却した。
【0026】
上記の試験を行い、めっき表面の欠陥発生率に基づき外観を5段階評価した。その結果、鋼板成分を上記範囲とすることで、外観欠陥のほとんど生じない評点5〜4を得ることが解った。
【0027】
評点5〜4はそれぞれめっきの外観は不めっきの発生状況を目視にて判断した。
【0028】
評価指標は、以下の通りである。
【0029】
評点5:不めっきは、ほとんどなし。(面積率で0.1%以下)
評点4:不めっきは、微少。(面積率で0.1%超3%以下)
評点3:不めっきは、少。(面積率で3%超5%以下)
評点2:不めっきは、多数。(面積率で5%超50%以下)
評点1:めっき塗れず。(面積率で50%超)
めっき付着量については、特に制約は設けないが、耐食性の観点から片面の付着量が5g/m2以上であることが望ましい。本発明の溶融亜鉛めっき鋼板上に塗装性、耐食性、溶接性を改善する目的で上層めっきを施すことや、各種処理、例えば、クロメート処理、りん酸塩処理、潤滑性向上処理、溶接性向上処理を施しても本発明を逸脱するものではない。
【0030】
めっき層中Al量を0.001〜0.5%の範囲内としたのは、0.001%未満では、ドロス発生が顕著で良好な外観が得られないこと、0.5%を超えてAlを添加すると合金化反応を著しく抑制してしまい、合金化溶融亜鉛めっき層を形成することが困難となるためである。
【0031】
さらに、合金化処理を施すことによってよってめっき層中にFeが取り込まれ、塗装性やスポット溶接性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。めっき層中のFe量が20質量%を超えるとめっき自体の密着性を損ない、加工の際めっき層が破壊、脱落し金型に付着することで、成形時の疵の原因となる。一方、スポット溶接性を良好にするためにはFe量を5%以上にすることが望ましい。従って、合金化処理を行う場合、めっき層中のFe量の範囲は5〜20質量%とする。
【0032】
また、合金化処理を行わない場合めっき層中のFe量が5質量%未満でも、合金化により得られるスポット溶接を除く効果である耐食性と延性や加工性は良好である。
【0033】
さらに、めっき層中Cu含有率(質量%)と鋼中Cu含有率(質量%)の比をa(=めっき層中Cu含有率/鋼中Cu含有率)、めっき層中Ni含有率(質量%)と鋼中Ni含有率(質量%)の比をb(=めっき層中Ni含有率/鋼中Ni含有率)とすると、これらが0.0001≦a+b≦0.2を満たすことにより、さらに優れためっき外観が得られる。a+bが0.0001より小さいと本発明の効果が発揮されず、0.2を超えるような合金中への過度の添加は、経済的に好ましくないため、前記の範囲を満たすことが好ましい。
【0034】
なお、上記のaとbの関係は、本発明者らが実験を行い、新たに見出した式である。
【0035】
さらに、めっき層中Mn量を0.001〜2質量%の範囲とすることで不めっきが抑制され、良好な外観のめっきが得られるうえ、耐食性を向上できる。この効果が顕在化するのは、めっき層中Mn量が0.001質量%以上の範囲であることから、下限を0.001質量%以上とする。Mnが上限の2質量%を超えるとMnを含有するドロス発生が顕著となり、めっき外観が著しく低下する。
【0036】
この効果は、鋼のSi含有率:X(質量%)、鋼のMn含有率:Y(質量%)、鋼のAl含有率:Z(質量%)、めっき層のAl含有率:A(質量%)、めっき層のMn含有率:B(質量%)が、下記(1)式を満たすことで、さらに良好な外観のめっきが得られるうえ、耐食性を向上できることが明らかとなった。
【0037】
3−(X+Y/10+Z/3)−12.5×(A−B)≧0・・・(1)
さらに、めっき層中に、質量%で、Ca、Mg、Si、Mo、W、Zr、Cs、Rb、K、Ag、Na、Cd、Cu、Ni、Co、La、Tl、Nd、Y、In、Be、Cr、Pb、Hf、Tc、Ti、Ge、Ta、V、Bの1種または2種以上を含有することで、さらに良好な外観のめっきが得られることおよび合金化が促進できることを見出した。
【0038】
めっき層中のCa量を0.001〜0.1質量%、Mg量を0.001〜3質量%、Si量を0.001〜0.1%、Mo量を0.001〜0.1%、W量を0.001〜0.1%、Zr量を0.001〜0.1%、Cs量を0.001〜0.1%、Rb量を0.001〜0.1%、K量を0.001〜0.1%、Ag量を0.001〜5%、Na量を0.001〜0.05%、Cd量を0.001〜3%、Cu量を0.001〜3%、Ni量を0.001〜0.5%、Co量を0.001〜1%、La量を0.001〜0.1%、Tl量を0.001〜8%、Nd量を0.001〜0.1%、Y量を0.001〜0.1%、In量を0.001〜5%、Be量を0.001〜0.1%、Cr量を0.001〜0.05%、Pb量を0.001〜1%、Hf量を0.001〜0.1%、Tc量を0.001〜0.1%、Ti量を0.001〜0.1%、Ge量を0.001〜5%、Ta量を0.001〜0.1%、V量を0.001〜0.2%、B量を0.001〜0.1%としたのは、この範囲において不めっきが発生せず、良好な外観のめっきが得られるためである。含有量がそれぞれの上限を超えると、それぞれの成分を含有するドロスの生成する、あるいは、めっき浴中にてZn化合物が析出し、めっき層中に取り込まれることにより、めっき外観が著しく低下する。
【0039】
次に、本発明に於ける鋼板成分の限定理由について述べる。
【0040】
C:オーステナイト安定化元素であり、二相域加熱時およびベイナイト変態温度域でフェライトからオーステナイト中へと移動し、オーステナイト中に濃化することでオーステナイトを安定化させる。その結果、室温においてもオーステナイトが安定化することとなり、変態誘起塑性により優れた延性が確保される。Cが0.0001質量%未満だと3%以上の残留オーステナイトを確保するのが困難であることから、その下限値を0.0001質量%とした。一方では、Cが0.3質量%を超えると溶接が困難となることから、その上限を0.3質量%とした。
【0041】
Si:Siは強化元素であるのに加え、セメンタイトに固溶しないことから、セメンタイト析出を遅らせ、オーステナイトがフェライトとセメンタイトへ分解するのを遅らせる。この間に、オーステナイト中へとCを濃化させることが可能となり、室温でもオーステナイトが存在し得る。ただし、0.001質量%未満だとその効果は発揮しない。一方、4%を超えると溶接性が悪化することから、その上限を4質量%とした。
【0042】
Mn:Mnは強度確保に必要な元素であり、0.001質量%未満では、強化効果が発現しないことから下限を0.001質量%とした。一方、3質量%を超えると延性に悪影響を及ぼすことから3質量%を上限値とした。
【0043】
Al:Alは、脱酸材として用いられるのに加え、セメンタイトに固溶しないことから、セメンタイト析出を遅らせ、オーステナイトがフェライトとセメンタイトへ分解するのを遅らせる。この間に、オーステナイト中へとCを濃化させることが可能となり、室温でもオーステナイトが存在し得る。ただし、0.001質量%未満だとその効果は発揮しない。一方、4%を超えると溶接性が悪化することから、その上限を4質量%とした。
【0044】
Mo:Moは、セメンタイト析出およびパーライト変態を遅らせることから、残留オーステナイトの確保に重要である。ただし、0.001質量%未満だとその効果を発揮しない。一方、4%を超えると延性に悪影響を及ぼすことから、上限値を4質量%とした。
【0045】
P:Pを0.0001質量%未満とすることは、経済的に不利であることからこの値を下限値とした。一方、0.3質量%を超える量の添加では、溶接性ならびに製造時および熱延時の製造性に悪影響を及ぼす。このことから上限値を、0.3質量%とした。
【0046】
S:Sは、溶接性ならびに製造時および熱延時の製造性に悪影響を及ぼす。このことから、その上限値を0.01質量%以下とした。
【0047】
Mg、Zr、Ca、Y、Hf、および、La、Ceなどのランタノイド族などの元素は、AlおよびSiの酸化物形態を外部酸化から内部酸化へと変化させ、濡れ性の向上と合金化促進を引き起こす。詳細なメカニズムは不明であるが、鋼板中に存在する固溶Mg、Zr、Ca、Y、Hf、および、La、Ceなどのランタノイド族などの元素が、冷間圧延後の焼鈍において、鋼板内部にて酸化することで、AlおよびSiの酸化物形態の変化を引き起こしたものと考えられる。この効果は、この元素群中から1種または2種以上を合計で0.001質量%未満の添加では効果が少ないことから、その下限を0.001質量%とした。一方で、過剰な添加は熱延および鋳造時の製造性の低下ならびに製品の延性の低下を招くことから、その上限を1質量%とした。
【0048】
さらに、本発明が対象とする鋼板は、強度の更なる向上を目的に、Ni、Cu、Cr、Coの1種または2種以上を含有できる。
【0049】
Ni:Niは、めっき性向上と強化に有効な元素である。ただし、0.001質量%未満であるとその効果が発揮されないことから、その下限値を0.001質量%とした。一方、4質量%を超える添加は延性に悪影響を及ぼすとともに、コスト高を招き経済的に不利となることから、上限値を4質量%とした。
【0050】
Cu:Cuは、めっき性向上と強化に有効な元素である。ただし、0.001質量%未満であるとその効果が発揮されないことから、その下限値を0.001質量%とした。一方、4質量%を超える添加は延性に悪影響を及ぼすとともに熱延時の製造性に悪影響を及ぼすことから、上限値を4質量%とした。
【0051】
Cr:Crは、強化元素である。ただし、0.001質量%未満であるとその効果が発揮されないことから、その下限値を0.001質量%とした。一方、4質量%を超える添加は延性に悪影響を及ぼすことから、上限値を4質量%とした。
【0052】
Co:Coは、強化元素である。ただし、0.001質量%未満であるとその効果が発揮されないことから、その下限値を0.001質量%とした。一方、4質量%を超える添加は延性に悪影響を及ぼすとともに、コスト高を招き経済的に不利となることから、上限値を4質量%とした。
【0053】
さらに、本発明が対象とする鋼板は、強度の更なる向上を目的に、強炭化物形成元素であるNb、Ti、Vの1種または2種以上を含有できる。
【0054】
これらの元素は、微細な炭化物、窒化物または炭窒化物を形成することから、鋼板の強化には極めて有効であることから、必要に応じて1種または2種類以上を合計で0.001質量%以上添加できるものとした。一方で、多量の添加は、延性の劣化や残留オーステナイト中へのCの濃化を妨げることから、その添加の上限を、1種または2種類以上の合計を1質量%とした。
【0055】
Bもまた必要に応じて添加できる。Bは、0.0001質量%以上の添加で粒界の強化や鋼材の強度化に有効であるが、その添加量が0.1質量%を超えると、その効果が飽和するばかりでなく、必要以上に鋼板強度を増加させ、加工性を低下させることから、その上限を0.1質量%とした。
【0056】
さらに、めっき鋼板の垂直断面において、めっき層/鋼板界面から10μmまでの範囲における鋼中に、内部酸化物であるMgO、CaO、ZrO、CeO、La、HfO、TiO、Y、SiO、MnOおよびAlの1種または2種以上の合計が面積率で0.1%以上存在すると、SiO、MnO又はAlの形態が外部酸化から内部酸化へと変化することにより、更なる濡れ性の向上と合金化の促進が得られる。一方、合金化促進のためにはこれらの内部酸化物の合計が面積率で50%以下であることが好ましいが、合金化処理を行わない場合には、これらの内部酸化物の1種又は2種以上の合計の面積率が50%以上であったとしても、合金化により得られるスポット溶接を除く効果である耐食性と延性や加工性は良好である。また、内部酸化物であるMgO、CaO、ZrO、CeO、La、HfO、TiOおよびYの存在により、SiO 、MnO又はAl 内部酸化物は均一に分散されることから、穴拡げ性の向上にも寄与する。
【0057】
これら内部酸化物はフェライト、残留オーステナイトおよびベイナイトの各相の粒界のみならず、これら相の粒内へも形成され、内部酸化を均一に分散させることから、バーリング加工性の向上へも有効である。
【0058】
また、めっき鋼板の垂直断面においてめっき層/鋼板界面から内部酸化物であるMgO、CaO、ZrO、CeO、La、HfO、TiO、Y、SiO、MnO又はAlが存在する最大深さまでの範囲における鋼板組織中に、これらの酸化物の1種または2種以上の合計が面積率で1%以上含まれると、更なる濡れ性の向上と合金化の促進が得られる。この効果は、面積率で1%以上となると顕在化することからこの範囲が好ましい。面積率で5%以上とすることが、さらに好ましい。一方、これらの内部酸化物の面積率が50%超になるとめっき層と鋼板の間の元素拡散を阻害してしまい、合金化が遅れる。このことから合金化促進のためには、内部酸化物の面積率は50%以下であることが好ましい。しかしながら、合金化処理を行わない場合には、内部酸化物の面積率が50%以上であったとしても、合金化により得られるスポット溶接を除く効果である耐食性と延性や加工性は良好である。また、内部酸化物であるMgO、CaO、ZrO、CeO、La、HfO、TiOおよびYにより、SiO 、MnO又はAl 内部酸化物は均一に分散されることから、穴拡げ性の向上にも寄与する。
【0059】
また、これら内部酸化物はフェライト、残留オーステナイトおよびベイナイトの各相の粒界のみならず、これら相の粒内へも形成され、内部酸化を均一に分散させることから、バーリング加工性の向上へも有効である。
【0060】
尚、上述したような鋼板中に存在する酸化物の同定・観察や面積率測定は、EPMAやFE−SEMなどを用いて行うことができる。本発明に当たっては、2000〜20000倍で50視野以上を測定し、画像解析により面積率を求めた。また、酸化物の同定には、抽出レプリカ試料を作成してTEM、EPMAおよびEBSPを用いた。また、ここでいう、MnO、Al23、SiO2は、他の原子を含む複合酸化物であったり、欠陥を多く含む場合があるが、元素分析及び構造同定からもっとも近いものを見つけて判別した。面積率測定は、EPMAやFE−SEMなどを用い各成分の面分析を行うことで求めることができる。この場合には、個々の正確な構造の同定は難しいものの、上述した構造解析の結果と併せて形態やその組成から判断し得る。その後面分析の画像解析から各面積率を求めることができる。
【0061】
以上のような組織と特性を有する鋼板の製造方法について述べる。
【0062】
上記成分組成の要件を満足する成分組成の鋳造スラブを鋳造まま、あるいは、一旦冷却した後に再度加熱し、熱延後巻き取った熱延鋼板を酸洗後冷延し、その後、(Ac1+100)(℃)以上で焼鈍する。
【0063】
冷延鋼板の連続焼鈍では、主相であるベイナイトの体積率を50%以上とするため(Ac1+100)(℃)以上に加熱する。この時の加熱温度が、(Ac1+100)(℃)より低いと、フェライト体積率が多くなりすぎてしまいベイナイト体積率を50%以上とすることができず、バーリング加工性に劣る。同時に、加熱温度を(Ac1+100)(℃)以上にすることで、フェライト粒径を小さくすることができ、更なる、バーリング加工性の向上を引き起こす。この効果は、加熱温度を(Ac1+100)(℃)以上にすることで発揮される。ただし、この効果が顕著になるのは加熱温度が(Ac3−50)(℃)以上であることから、(Ac3−50)(℃)以上が望ましい。一方、加熱温度の上限は特に定めることなく本発明の効果を得ることができる。しかしながら、焼鈍温度の過剰な高温化は粒界酸化相生成が促進されるうえ、製造コストの上昇をまねくために、焼鈍温度の上限は(Ac3+100)(℃)以下とする。
【0064】
焼鈍の保持時間が短すぎると、未溶解炭化物が残存する可能性が高く、残留オーステナイト体積率が少なくなるため、10秒以上とすることが望ましい。一方、保持時間が長すぎると、結晶粒が粗大化する可能性が高くなり強度−延性バランスが悪くなるため、その上限は1000秒とすることが好ましい。
【0065】
その後、1次冷却として0.1℃/秒以上の冷却速度で650〜800℃の温度域に冷却し、引き続いて2時冷却として1〜100℃/秒の冷却速度で、めっき浴温度〜(めっき浴温度+100)(℃)まで冷却した後、350〜(めっき浴温度+100)(℃)の温度域で、めっき浴の侵漬時間を含めて1〜3000秒間保持する。
【0066】
これは、二相域に加熱して生成させたオーステナイトをパーライトに変態させることなく、ベイナイト変態まで維持し、350〜(Znめっき浴温度+100)(℃)の温度域を1〜3000秒間かけて通過させることで、その組織をフェライト(+ベイナイト)+残留オーステナイトとして所定の特性を得るためである。
【0067】
焼鈍後、650〜800℃までの1次冷却速度が0.1℃/秒未満ではフェライト変態が顕著となり、フェライト体積率50%を超えてしまい好ましくないことから、その下限値を0.1℃/秒とした。その上限は、特に定めないが、過度に冷却速度を大きくすることは、過剰な設備投資を招く。このことから、上限は100℃/秒以下が望ましい。しかしながら、この値を越えたとしても、本発明で示す効果は発揮される。
【0068】
また、その後、めっき浴温度〜(めっき浴温度+100)(℃)までの2次冷却速度が1℃/秒未満では、冷却途中でオーステナイトがパーライトへと変態してしまうため、残留オーステナイトが残らず望ましくない。また、2次冷却速度が100℃/秒より速いと、板幅方向での冷却終点温度がばらつくこととなり、均一な鋼板の製造ができなくなるので好ましくない。
【0069】
めっき浴浸漬前の保持温度を350〜(Znめっき浴温度+100)(℃)としたのは、この温度域にてベイナイト変態が起こり、残留オーステナイトを室温まで残すためである。350℃未満では、二相域に加熱して生成させたオーステナイトがマルテンサイト変態を起こしてしまい残留オーステナイトが残らないため、下限温度を350℃とした。一方、保持温度が(Znめっき浴温度+100)(℃)より高いと、二相域に加熱して生成させたオーステナイトがパーライトへと変態する、あるいは、オーステナイト中からセメンタイトが析出するため、オーステナイトがベイナイトへと分解してしまうことから、その上限温度を(Znめっき浴温度+100)(℃)とした。
【0070】
Znめっき浴浸漬時間を含めた前記の保持時間が1秒未満では鋼板をめっき浴へ浸漬する時間が十分でないので好ましくなく、3000秒を超えると設備が巨大になりすぎ、不経済となるため好ましくないので、前記の保持時間は1〜3000秒間とした。
【0071】
めっき浴浸漬後の選択的に行う合金化処理において、保持温度を浴温〜(Znめっき浴温度+100)(℃)としたのは、この温度より高いと、オーステナイトがパーライトへと変態する、あるいは、オーステナイト中からセメンタイトが析出するため、オーステナイトがベイナイトへと分解してしまうことから、その上限温度を(Znめっき浴温度+100)(℃)とした。保持温度が浴温より低いと合金化に長時間の時間を要するので、下限温度を浴温とした。
【0072】
浴浸漬後、浴温〜(めっき浴温度+100)(℃)の温度範囲での保持を行わなくても、本発明に記載のバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
【0073】
Znめっき浴温度から、又はZnめっき浸漬後の保持温度から室温までの冷却速度は特に規定するものではないが、これらの温度から、350℃までの冷却速度を0.5℃/秒以上とすると、この温度域での冷却速度がこれより遅いと、ベイナイト変態が進行しすぎてしまい必要以上にオーステナイトが安定化してしまう、あるいは、セメンタイトが析出してしまい残留オーステナイトが分解し、適正な変態誘起塑性が得られなくなるので、冷却速度の下限値を0.5℃/秒以上とすることが好ましい。一方、この温度範囲での冷却速度が100℃/秒を超えて、冷却したとしても、材質上はなんら問題を生じないが、過度に冷却速度を上げることは、製造コスト高を招くこととなるので、上限を100℃/秒とすることが好ましい。
【0074】
酸化物を制御し、濡れ性と合金化の向上を図るためには、熱延段階から温度加工履歴を制御することが望ましい。まず、鋳片の加熱温度を1150〜1250℃として、1000℃までの圧延率を50%以上とし、仕上げ温度を850℃以上として、巻取りを650℃以下とすることで、表面酸化層をできるだけ均一に形成させるとともに、焼鈍時のSi酸化物形成を抑制すべくMg、Zr、Ca、Y、Hf、および、La、Ceなどのランタノイド族などの元素を固溶状態にしておくことが望ましい。さらには、鋼板内部に存在する内部酸化物であるMgO、CaO、ZrO、CeO、La、HfO、TiO、Y、SiO、MnOおよびAlにより、Si酸化物形成が抑制される。
【0075】
また、仕上げ圧延後のデスケには高圧デスケや強酸洗を行い、熱延で形成した酸化相をできるだけ除去することが望ましい。冷延後の焼鈍では、Siの外部酸化を抑制する目的から750℃以上の温度域まで5℃/s以上で昇温することが望ましい。
【0076】
また、本発明のバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板の素材は、通常の製鉄工程である精錬、製鋼、鋳造、熱延、冷延工程を経て製造されることを原則とするが、その一部あるいは全部を省略して製造されるものでも、本発明に係わる条件を満足する限り、本発明の効果を得ることができる。
【0077】
また、めっき密着性をさらに向上させるために、焼鈍前に鋼板に、Ni、Cu、Co、Feの単独あるいは複数より成るめっきを施しても本発明を逸脱するものではない。
【0078】
さらには、めっき前の焼鈍については、「脱脂酸洗後、非酸化雰囲気にて加熱し、H2及びN2を含む還元雰囲気にて焼鈍後、めっき浴温度近傍まで冷却し、めっき浴に浸漬」というゼンジマー法、「焼鈍時の雰囲気を調節し、最初、鋼板表面を酸化させた後、その後還元することによりめっき前の清浄化を行った後にめっき浴に浸漬」という全還元炉方式、あるいは、「鋼板を脱脂酸洗した後、塩化アンモニウムなどを用いてフラックス処理を行って、めっき浴に浸漬」というフラックス法等があるが、いずれの条件で処理を行ったとしても本発明の効果は発揮できる。
【0079】
なお、焼鈍後、切削を行い鋼板表面の酸化物を除去した後、めっき浴に浸漬させ、めっきを施したとしても本発明の効果を得ることができる。
【0080】
【実施例】
以下実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0081】
表1に成分組成を記載したスラブを熱延、酸洗、冷延し、1mm厚とした。熱間圧延において、1000℃までの圧延率を70%とした。その後、各鋼の成分(質量%)よって下記式に従ってAc1とAc3変態温度を計算により求めた。
【0082】
Ac1=723−10.7×Mn(%)+29.1×Si(%)。
【0083】
Ac3=910−203×C(%) 1/2 +44.7×Si(%)+31.5×Mo(%)−30×Mn(%)−11×Cr(%)+400×Al(%)
これらのAc1とAc3変態温度から計算される焼鈍温度に10℃/sで10%H−N雰囲気で昇温・保定した後、1〜5℃/秒の冷却速度で680〜750℃まで1次冷却し、その後、5〜10℃/秒の冷却速度でめっき浴温度まで2次冷却し、浴組成を種々に変化させた460℃の溶融亜鉛めっき浴に3秒間浸漬することでめっきを行った。この際のめっき付着量は、片面40g/mとした。
【0084】
この後、一部の鋼板については、めっき浴温度〜600℃の温度範囲で20秒間保持を行った後、350℃までの温度域を3〜10℃/秒の冷却速度で冷却後、室温まで冷却した。製造条件の詳細を表2、表3(表2の続き1)および表4(表2の続き2)に示す。
【0085】
めっき表面外観におけるドロス巻き込みの状況の目視観察および不めっき部面積の測定によりめっき性を評価した。作製しためっき層中濃度測定は、アミン系インヒビターを入れた5%塩酸でめっき層を溶かした後、ICP発光分析法を用いて行った。
【0086】
これらめっきを施した鋼板から、JIS5号試験片を採取し、ゲージ長さ50mm、引張り試験速度10mm/分で常温引張り試験を行った。
【0087】
バーリング加工性を示す指標となる穴拡げ性は、直径10mmの円形穴を、クリアランスが12%となる条件にて打ち抜き、かえりがダイ側となるようにし、60°円錐ポンチにて成形し、穴拡げ率λ(%)により評価した。強度−バーリング加工性バランス(TS×λ)が50000(MPa・%)を超えるものを、バーリング加工性に優れた高強度鋼板とした。
【0088】
残留オーステナイト体積率Vγの測定は、めっき層/鋼板界面より板厚の7/16内層を化学研磨後、Mo管球を用いたX線回折で、フェライトの(200)の回折強度Iα(200)、フェライトの(211)の回折強度Iα(211)とオーステナイトの(220)の回折強度Iγ(220)および(311)の回折強度Iγ(311)の強度比より求めた。
【0089】
Vγ(体積%)=0.25×{Iγ(220)/(1.35×Iα(200)
+Iγ(220))
+Iγ(220)/(0.69×Iα(211)+Iγ(220))
+Iγ(311)/(1.5×Iα(200)+Iγ(311))
+Iγ(311)/(0.69×Iα(211)+Iγ(311))}
酸化物の体積率と分布については、研磨を行った後、SEMおよびEPMAを用いて観察することで測定を行った。
【0090】
表5、表6(表5の続き1)、表7(表5の続き2)、表8(表5の続き3)、表9(表5の続き4)および表10(表5の続き5)に機械特性、めっき特性等を示す。表5〜表10(表5の続き5)に示すように、鋼板成分としてMg、Zr、Ca、Y、Hf、La−Ceを含むものおよびめっき層/鋼板界面より、10μm以内の鋼中にMgO、CaO、ZrO2、CeO2、La23、HfO2、TiO2、Y23を面積率で0.1%以上含むものは、不めっきもなく良好なめっき性が得られている。
【0091】
鋼板の成分が所定の範囲であったとしても、製造条件および鋼板組織が所定の要件を満たさないものは、ベイナイト分率が低く、強度−バーリング加工性バランス(TS×λ)が50000(MPa・%)未満となりバーリング加工性に劣る。さらには、残留オーステナイト分率が低くなり、強度−延性バランス(TS×El.)も21000(MPa・%)未満となり、強度−延性バランスに劣る。
【0092】
製造条件が本発明を満たすものであっても、成分範囲が所定の要件を満たさないものは、本発明の効果を得ることができない。
【0093】
【表1】
Figure 0003921136
【0094】
【表2】
Figure 0003921136
【0095】
【表3】
Figure 0003921136
【0096】
【表4】
Figure 0003921136
【0097】
【表5】
Figure 0003921136
【0098】
【表6】
Figure 0003921136
【0099】
【表7】
Figure 0003921136
【0100】
【表8】
Figure 0003921136
【0101】
【表9】
Figure 0003921136
【0102】
【表10】
Figure 0003921136
【0103】
【発明の効果】
本発明により、良好なめっき性が得られ、バーリング加工性に優れ、強度−延性バランス(TS×El.)も21000(MPa・%)を超える良好な溶融亜鉛めっき鋼板が得られた。

Claims (13)

  1. 鋼板が質量%で、
    C:0.0001〜0.3%、
    Si:0.001〜4%(但し、0.1%未満を除く)
    Mn:0.001〜3%、
    Al:0.001〜4%、
    Mo:0.001〜4%、
    P:0.0001〜0.3%、
    S:0.01%以下
    を含有し、Mg、Zr、Ca、Y、Hfおよびランタノイド族の元素群中から1種または2種以上を合計で0.001〜1%含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、鋼板のミクロ組織が体積分率で、主相としてベイナイトを50〜97%含有し、第2相として残留オーステナイトを3〜50%未満含有し、残部フェライトからなり、該フェライトの平均粒径が10μm以下であり、前記鋼板の表面に、質量%で、
    Al:0.001〜0.5%、
    Fe:5〜20%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき層を有することを特徴とするバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板。
  2. 鋼板が質量%で、
    C:0.0001〜0.3%、
    Si:0.001〜4%(但し、0.1%未満を除く)
    Mn:0.001〜3%、
    Al:0.001〜4%、
    Mo:0.001〜4%、
    P:0.0001〜0.3%、
    S:0.01%以下
    を含有し、Mg、Zr、Ca、Y、Hf、ランタノイド族の元素群中から1種または2種以上を合計で0.001〜1%含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、鋼板のミクロ組織が体積分率で、主相としてベイナイトを50〜97%、第2相として残留オーステナイトを3〜50%未満含有し、残部フェライトからなり、該フェライトの平均粒径が10μm以下であり、前記鋼板の表面に、質量%で、
    Al:0.001〜0.5%、
    Fe:5%未満を含有し、残部がZn及び不可避不純物からなるめっき層を有することを特徴とするバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板。
  3. さらに、鋼中に質量%で、
    Ni:0.001〜4%、
    Cu:0.001〜4%、
    Cr:0.001〜4%、
    Co:0.001〜4%
    の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板。
  4. めっき層中のCu含有率(質量%)と鋼中のCu含有率(質量%)の比をa、めっき層中のNi含有率(質量%)と鋼中のNi含有率(質量%)の比をbとすると、0.0001≦a+b≦0.2を満たすことを特徴とする請求項記載のバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板。
  5. さらに、鋼中に質量%で、Nb、Ti、Vの1種または2種以上を合計で0.001〜1%含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板。
  6. さらに、鋼中に質量%で、
    B:0.0001〜0.1%を含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板。
  7. めっき鋼板の垂直断面において、めっき層/鋼板界面から10μm以内の鋼中に、内部酸化物であるMgO、CaO、ZrO、CeO、La、HfO、TiO、Y、SiO、MnO、およびAlの1種または2種以上の合計を面積率で0.1%以上含むことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のバーリング加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
  8. めっき鋼板の垂直断面において、めっき層/鋼板界面からMgO、CaO、ZrO、CeO、La、HfO、TiO、Y、SiO、MnO、およびAlの1種または2種以上の内部酸化物が存在する最大深さまでの範囲における鋼板中に、内部酸化物であるMgO、CaO、ZrO、CeO、La、HfO、TiO、Y、SiO、MnO、およびAlの1種または2種以上が面積率で1%以上含まれることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のバーリング加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
  9. さらに、めっき層が質量%で、
    Mn:0.001〜2%、
    を含有し、残部がZn及び不可避不純物からなるめっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板であって、
    鋼板のSi含有率:X(質量%)、Mn含有率:Y(質量%)及びAl含有率:Z(質量%)、並びにめっき層のAl含有率:A(質量%)及びMn含有率:B(質量%)が、下記(1)式を満たすことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のバーリング加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
    3−(X+Y/10+Z/3)−12.5×(A−B)≧0・・・(1)
  10. さらにめっき層が、質量%で、
    Ca:0.001〜0.1%、
    Mg:0.001〜3%、
    Si:0.001〜0.1%、
    Mo:0.001〜0.1%、
    W:0.001〜0.1%、
    Zr:0.001〜0.1%、
    Cs:0.001〜0.1%、
    Rb:0.001〜0.1%、
    K :0.001〜0.1%、
    Ag:0.001〜5%、
    Na:0.001〜0.05%、
    Cd:0.001〜3%、
    Cu:0.001〜3%、
    Ni:0.001〜0.5%、
    Co:0.001〜1%、
    La:0.001〜0.1%、
    Tl:0.001〜8%、
    Nd:0.001〜0.1%、
    Y :0.001〜0.1%、
    In:0.001〜5%、
    Be:0.001〜0.1%、
    Cr:0.001〜0.05%、
    Pb:0.001〜1%、
    Hf:0.001〜0.1%、
    Tc:0.001〜0.1%、
    Ti:0.001〜0.1%、
    Ge:0.001〜5%、
    Ta:0.001〜0.1%
    :0.001〜0.1%、
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板。
  11. 請求項1〜10のいずれか1項に記載の成分からなる鋳造スラブを鋳造まま、あるいは、一旦冷却した後に再度加熱し、熱延後巻き取った熱延鋼板を酸洗後冷延し、その後、(Ac1+100)(℃)以上(Ac3+100)(℃)以下で焼鈍した後に、0.1℃/秒以上の冷却速度で650〜800℃の温度域に冷却し、引き続いて1〜100℃/秒の冷却速度で、Znめっき浴温度〜(Znめっき浴温度+100)(℃)まで冷却した後、350〜(Znめっき浴温度+100)(℃)の温度域で後続のめっき浴の浸漬時間を含めて1〜3000秒間保持した後、Znめっき浴に浸漬して、その後、室温まで冷却することを特徴とするバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  12. Znめっき浴に浸漬した後、浴温〜(Znめっき浴温度+100)(℃)の温度範囲で1〜300秒間の保持を行い、室温まで冷却することを特徴とする請求項11記載のバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  13. 鋳造スラブを1150〜1250℃に加熱し、1000℃までの圧延率を50%以上とし、仕上げ温度を850℃以上として熱延後、650℃以下で巻き取ることを特徴とする請求項11又は12記載のバーリング加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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