JP3823608B2 - 車両用交流発電機 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は乗用車、トラック等に搭載される車両用交流発電機に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、車両用交流発電機に対し、安全制御機器等の電気負荷の増加に伴う高出力化の要求とともに、車外騒音低減の社会的要請や車室内静粛性向上による商品性向上の狙いから、発電によって発生する磁気音の低減要求が高まってきた。
【0003】
これに対し、WO98/54823には、複数の導体セグメントを用いて固定子巻線のコイルエンドを周方向に同一パターンとなるように形成して各巻線間の干渉を無くし、占積率や冷却性を向上させて高出力化を図るとともに、位相のずれた2つの巻線群の出力を合成して取り出すことにより磁気音を低減する車両用交流発電機が開示されている。また、WO92/06527には、複数の導体セグメントを用いた固定子の製造方法が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
一般に磁気音は、固定子と回転子とが対向する空隙部の磁気的脈動が固定子鉄心を振動変形させ、これがフレームやフレームを固定しているエンジン本体側のブラケットなどに伝搬され、最終的に空気の疎密波として放射されて、発生する。また、固定子鉄心のスロットに装着され軸方向に伸びるコイルエンドの固有振動数がこの磁気脈動の周波数に一致したときには、コイルエンドの導体に共振が起こり、コイルエンドからの磁気音の放射が大きくなる。
【0005】
特に、近年の車両用交流発電機では、内部に冷却ファンを持ち、コイルエンドの外周に対向するフレームに通風のための多数の窓を有するため、コイルエンドで発生する磁気音がフレームによって遮蔽されず、これらの窓を通じて外部へ磁気音が直接放射される。また、コイルエンドが共振しているときに、周方向の振動成分は、フレームによって軸方向に挟持された固定子鉄心を周方向に回動させる向きに作用する。よって、このコイルエンド周方向の共振が繰り返されると、一般にフレームは軽量で非磁性体であるアルミ合金材によって形成されているので、鉄製の固定子鉄心との当たり面が磨耗する。これに伴い、固定子鉄心の軸方向固定力が低下するので、磁気脈動による固定子鉄心の振動が増大し、磁気音が増大する。なお、コイルエンドの固有振動数が磁気脈動の周波数の2倍以上の整数倍と一致した場合も、コイルエンドの周方向の振動は共振のときほどではないが上昇する。
【0006】
これに対し、WO98/54823には、コイルエンドの周方向の共振を抑えるための構成も作用も示されていない。また、WO92/06527においては同一スロットの同一径方向位置から2本の導体セグメントが取り出されているので、コイルエンドの周方向振動が大きくなると、導体セグメントどうしが擦れあい、セグメント表面の絶縁皮膜の損傷により、セグメント間が電気短絡し、発電異常に至るおそれがある。
【0007】
特に、上述したWO98/54823やWO92/06527に示された車両用交流発電機においては、コイルエンドの共振周波数については何も考慮されておらず、本発明においてはこれを考慮することにした。そして、コイルエンドに所定の剛性を与えることで共振周波数を車両用交流発電機における常用回転の外側に配置することを着想した。
【0008】
本発明の目的は、コイルエンドの周方向の共振を防止することにある。また、本発明の他の目的は、導体セグメントどうしの短絡を防止することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1の車両用交流発電機によれば、回転駆動される磁極鉄心を有する回転子と、前記回転子の外周に対向配置されて複数のスロットをもつ固定子鉄心と前記スロットに収納された複数の電気導体とからなる固定子と、前記固定子を挟持する一対の椀形状のフレームとを有し、前記固定子鉄心の軸方向の両側面外部に前記電気導体の渡り線がコイルエンドを形成している車両用交流発電機において、前記電気導体は、前記スロット内に径方向に1列に配置され、前記渡り線は、斜行部と前記斜行部に挟まれた頂部を持ち、前記斜行部は略二等辺三角形の二等辺を形成し、前記頂部の頂角θは100°以上であって、前記コイルエンドが常用回転域以外の回転数において共振することを特徴としている。これにより、一般走行での使用回転領域である常用回転域において、コイルエンドの異常振動を防止することができる。また、一般走行での使用回転領域において、磁気脈動によるコイルエンドの周方向の共振を防止すると共に、磁気脈動の倍数成分によるコイルエンドの周方向振動増加の場合においても、斜行部間の隙間を形成して導体セグメント間の短絡を防止することができる。
【0011】
請求項の車両用交流発電機によれば、請求項の車両用交流発電機において、前記電気導体は前記複数のスロットの深さ方向に対して互いに絶縁されてスロットの奥側に位置する外層と入り口側に位置する内層とに二分されたものが一対以上配設され、異なるスロットの前記外層、内層の導体が前記コイルエンドにおいて直列に接続されて全体で巻線をなすことを特徴としている。これにより、斜行部間の隙間の形成を容易にできる。
【0012】
請求項の車両用交流発電機によれば、請求項の車両用交流発電機において、前記導体は前記一対以上の内、外層導体としてスロット内に挿入される直線部を持つ略U字状セグメントであり、ターン部には前記略二等辺三角形の二等辺と頂部があらかじめ形成されていることを特徴としている。ターン部の角度をあらかじめ100°以上に形成して、且つ斜行部間に隙間を形成することが、さらに容易になる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の車両用交流発電機を図に示す各実施形態に基づいて説明する。
【0014】
〔第一実施形態〕
図1から図7はこの発明の第一実施形態を示したものであり、図1は車両用交流発電機の主要部断面図、図2は固定子の部分断面図、図3は固定子の導体セグメントの斜視図、図4は内径側から見た固定子の部分図、図5はコイルエンドの周方向の固有振動数を算出するための模式図、図6はコイルエンドの径方向の固有振動数を算出するための模式図、図7は図6に示したコイルエンドをP方向から見た矢視図である。
【0015】
車両用交流発電機1は、電機子として働く固定子2、界磁として働く回転子3、回転子3および固定子2を支持するフレーム4、固定子2の固定子巻線21の出力線21cに接続されて交流電力を直流に変換する整流器6等から構成されている。
【0016】
回転子3は、シャフト31、ランデル型磁極鉄心32、冷却ファン33、界磁コイル34、スリップリング35等を含んで構成されている。
【0017】
シャフト31は、プーリ5に連結され、車両に搭載された走行用のエンジン(図示せず)により回転駆動される。
【0018】
ランデル型磁極鉄心32は、シャフト31のリア側近傍に設けられた一対のスリップリング35を介して励磁電流が流れる界磁コイル34を取り囲むようにしてシャフト31に固定されている。磁極鉄心32の両側面には、冷却ファン33が溶接やかしめなど適宜な手段によって固定されており、回転子3と一体となって回転することにより冷却風が生じる。
【0019】
フレーム4には、冷却風の通風路のため、軸方向端面に吸気孔42が、固定子2の第一コイルエンド21a、第二コイルエンド21bに対向した外周部分に排気孔41がそれぞれ設けられている。また、一対のフレーム4は、ボルト7によって固定子鉄心22を軸方向に挟持固定している。
【0020】
固定子2は、内周側に複数のスロット221が形成された固定子鉄心22と、それぞれのスロット221に収容される固定子巻線21と、固定子鉄心22と固定子巻線21との間を電気的に絶縁するインシュレータ23とを含んで構成されている。
【0021】
図2に示すように、固定子鉄心22には、多相の固定子巻線21を収容できるように、複数のスロット221が形成されている。本実施形態では、回転子3の磁極数に対応して、3相の固定子巻線21を収納するように、36個のスロット221が等間隔に配置されている。
【0022】
固定子鉄心22のスロット221に装備された固定子巻線21は、1本1本の電気導体として把握することができる。複数のスロット221のそれぞれには、偶数本(本実施形態では4本)の電気導体が収容され、インシュレータ23によってスロット内壁と電気的に絶縁されている。また、一つのスロット221内の4本の電気導体は、固定子鉄心22の径方向に関して内側から内端層211a、内中層212a、外中層212b′、外端層211b′の順で、1列に配列されている。これら4本の電気導体が所定のパターンで接続されることにより、固定子巻線21が形成される。
【0023】
本実施形態においては、図3に示すように、スロット221内の電気導体は、固定子鉄心22のリア側端面から突出する第1コイルエンド群21a側においては一端に頂部211c、212cを配置して連続線とすることにより、また、固定子鉄心22のフロント側端面から突出する第2コイルエンド群21b側においては他端211d、212dを接合することにより接続される。
【0024】
また、一つのスロット221内の内端層の電気導体211aは、固定子鉄心22の反時計回り方向に1磁極ピッチ離れた他のスロット221内の外端層の電気導体211bと対をなしている。同様に、一つのスロット221内の内中層の電気導体212aは、固定子鉄心22の時計回り方向に1磁極ピッチ離れた他のスロット221内の外中層の電気導体212bと対をなしている。そして、内端層の電気導体211aと外端層の電気導体211bとを含んでU字状の大セグメント211が形成され、内中層の電気導体212aと外中層の電気導体212bとを含んでU字状の小セグメント212が形成されている。
【0025】
図4に示すように、第一コイルエンド群21aにおいて、頂部211cと、斜行部211e、211fを2辺とする渡り線によって二等辺三角形が形成され、第二コイルエンド群21bにおいては、接合部212d、211d′が頂点となる渡り線によって二等辺三角形を形成している。本実施形態では、第一コイルエンド群21a、第二コイルエンド群21bに対応する二等辺三角形の最小頂部角度θは100°に、底辺であるNS磁極ピッチは24mmにそれぞれ設定されている。
【0026】
また、電気導体の断面形状は、図2に示すように、径方向に沿って長辺を並べた略長方形を有しており、例えば長辺の長さが2.2mmに、短辺の長さが1.4mmにそれぞれ設定されている。
【0027】
回転子3の外周面は、空隙を介して固定子鉄心22の内周面と対向しており、発電時にはこの空隙部の磁束が回転子3の回転と共に脈動するため、固定子鉄心22と回転子3の間に作用する変動力が生じる。この脈動の基本周波数f0[Hz]は、回転子のNS磁極数をP、巻線の相数をT、回転数をnとすると、
f0=(n×T×P)/60 ・・・・(1)
で表され、この周波数f0にて最大変動力が発生する。また、変動力のレベルは小さいが、f0の整数倍の周波数成分も持つ。
【0028】
図5に示す模式図において、コイルエンドの周方向(x方向)の固有振動数fxは、以下の式で求めることができる。
【0029】
fx=(1/2π)・ωx ・・・・(2)
(ωx)2 =2EA(sinα)2 /(L・m) ・・・・(3)
ここで、Eは銅のヤング率、Aは電気導体の断面積、Lは斜行部長さ、αは頂部角度の1/2、mは質量である。また斜行部の導体セグメントの質量分布は一定であるので、質量の平均高さhはコイルエンドの頂部高さの1/2となる。従って、式(2)、(3)にそれぞれ対応する値を代入し、
fx=11.6[kHz]
を得る。
【0030】
一方、T=3、P=12の場合について、共振の条件であるf0=fxを式(1)に代入すると、共振を生ずる回転数nは
n=19300[rpm] ・・・・(4)
となる。
【0031】
ここで、一般路走行である市街地や郊外を走行する時のエンジン回転数の範囲(常用回転域)は、アイドリングでの約600rpmを下限とし、5000rpm程度を上限としている。また、エンジン回転と車両用交流発電機の回転比は、2〜3の間に設定されている。よって、一般走行における発電機の回転数の範囲は、1200〜15000rpmである。このため、式(4)で示した共振の回転数は、一般走行における発電機の回転数の範囲を越えているので、コイルエンドの周方向(x方向)の共振は発生しない。以上により、共振によるコイルエンドからの磁気音の急増を防止すると共に、フレーム4の固定子鉄心22との当たり面の磨耗も防止されるので、固定子鉄心22の固定力低下による磁気音が増大することもない。
【0032】
また、磁気脈動による変動力には、力のレベルは小さいがf0の整数倍数の周波数の成分も含まれる。式(1)によると、2次成分(2倍周波数)が固有振動数fxに対応する回転数は式(4)の1/2に、3次成分に対応する回転数は式(4)の1/3になり、これらの回転数は一般走行で発電機の回転数の範囲である15000rpm以下に含まれるようになる。しかし、変動力の1次成分に比較し、その他の成分はレベルが小さいので、それぞれの回転数で磁気音の急増には至らない。しかも、本実施形態では、スロット221内には1列に導体セグメントが配置されているので、隣り合うスロットの斜行部の間には周方向に必ず隙間が形成され、同じ径方向位置の隣接する導体セグメント同士が擦れあうことによる線間の短絡を防止できる。
【0033】
なお、第一コイルエンド群21aのセグメントを多重配置にし、最も外側の大セグメント211の頂部角度θを100°としているので、図4に示すように他の小セグメント212の頂部角度θは100°以上となる。よって、式(2)、(3)において角度αが大きくなるので小セグメント212の固有振動数fxは大セグメント211の固有振動数より高くなり、以上より小セグメント212も共振しない。
【0034】
また、コイルエンドの径方向の共振については、図6および図7に示すように、周方向からの視点により、一端が支持された重量mのはりにモデル化できる。一般に、このようなモデルの固有振動数fzは、以下の式で求めることができる。
【0035】
fz=(1/2π)・ωz ・・・・(5)
(ωz)2 =12EI/h3 ・m ・・・・(6)
ここで、長方形断面の断面2次モーメントIは、径方向Zと直角方向の長さをa、径方向長さをbとおくと、
I=(1/12)a・b3
で表される。図6および図7においては、長方形断面を有する2本の電気導体によってはりを形成しているので、このa,bが2倍となって、断面2次モーメントIは16倍となる。
【0036】
以上より、径方向の固有振動数fz=9100[Hz]を得る。これに対応する発電機の回転数は、式(1)より15200rpmとなる。よって、周方向の共振する回転数と同様に、一般走行における発電機の回転数の範囲を越えている。また、頂部角度θを100°以上に広角化するに従い、このはりの高さhが低くなるので、式(6)により固有振動数はさらに高くなり、共振発生の可能性はさらに少なくなる。さらに、脈動はf0の整数倍数の周波数の成分も持つが、1次成分の変動力に比較してレベルが小さいので、それぞれに対応する回転数での磁気音の急増には至らない。
【0037】
〔その他の実施形態〕
第一実施形態ではNS磁極数Pを12、NS磁極ピッチ長さを24mmとしたが、NS磁極数の変更やそれに伴う磁極ピッチ長さの変更時、あるいは、短節重ね巻きなどの巻線方式に変更することによって磁極ピッチ長さを変更した場合でも、固有振動数fxが脈動振動数f0よりも高くなるように、頂部角度θを100°以上に設定してもよい。
【0038】
また、コイルエンドにおいて樹脂材による絶縁処理を行うことにより、径方向に隣接交差する斜行部間211gが樹脂固着される場合には、図8に模式図を示すように、実質的にはり長さLをL′に、また高さhをh′に縮小できるので、式(3)、(6)より周方向および径方向の固有振動数fxを高くできる。よって、一般走行時の共振をさらに確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一実施形態における車両用交流発電機の主要部断面図である。
【図2】第一実施形態における固定子の部分断面図である。
【図3】第一実施形態における固定子の導体セグメントの斜視図である。
【図4】第一実施形態における固定子の内径側からの部分的外観図である。
【図5】第一実施形態におけるコイルエンドの周方向の固有振動数を算出するための模式図である。
【図6】第一実施形態におけるコイルエンドの径方向の固有振動数を算出するための模式図である。
【図7】図6に示したコイルエンドをP方向から見た矢視図である。
【図8】他の実施形態の固定子の模式図である。
【符号の説明】
1 車両用交流発電機
2 固定子
21 固定子巻線
21a 第一コイルエンド
21b 第二コイルエンド
21c 出力線
211 大セグメント
212 小セグメント
22 固定子鉄心
23 インシュレータ

Claims (4)

  1. 回転駆動される磁極鉄心を有する回転子と、前記回転子の外周に対向配置されて複数のスロットをもつ固定子鉄心と前記スロットに収納された複数の銅材よりなる電気導体とからなる固定子と、前記固定子を挟持する一対の椀形状のフレームを有し、前記固定子鉄心の軸方向の両側面外部には前記電気導体の渡り線がコイルエンドを形成している車両用交流発電機において、
    前記電気導体は、前記スロット内に径方向に1列に配置され、
    前記渡り線は、斜行部と前記斜行部に挟まれた頂部を持ち、前記斜行部は略二等辺三角形の二等辺を形成し、前記略二等辺三角形の底辺は前記回転子のNS磁極ピッチの長さであって、
    前記頂部の頂角θは100°以上とすることで、
    前記コイルエンドが常用回転域の回転数において共振しないことを特徴とする車両用交流発電機。
  2. 請求項1において、
    前記電気導体は前記複数のスロットの深さ方向に対して互いに絶縁されてスロットの奥側に位置する外層と入り口側に位置する内層とに二分されたものが一対以上配設され、異なるスロットの前記外層、内層の導体が前記コイルエンドにおいて直列に接続されて全体で巻線をなすことを特徴とする車両用交流発電機。
  3. 請求項2において、
    前記導体は前記一対以上の内層導体、外層導体としてスロット内に挿入される直線部を持つ略U字状セグメントであり、ターン部には前記略二等辺三角形の二等辺と頂部があらかじめ形成されていることを特徴とする車両用交流発電機。
  4. 請求項1ないし3において、
    前記発電機の回転数の範囲は、1200〜15000rpmであることを特徴とする車両用交流発電機。
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