JP3821525B2 - 低臭ポリオレフィンの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリオレフィン中の有臭成分を大幅に低減化する低臭ポリオレフィンの製造方法に関するものである。詳しくは、ポリオレフィン中に残存する低分子量の炭化水素化合物及び微量の含酸素化合物を効率的に低減化することにより、ポリオレフィンペレットのみならず、成形後の各種包装製品中の有臭成分の低減化が可能なポリオレフィンの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般的に、ポリオレフィン中に含まれる有臭成分は、ポリオレフィンの生産時に混入する未反応のモノマーやコモノマー、十分な重合度が得られていない低分子量ポリマー、生産設備の潤滑剤として使用されているオイル、重合過程での溶媒、触媒の溶剤等が起因しているものであり、更に、触媒や触媒の溶剤中に含まれる酸素によって誘因される微量の含酸素化合物もまた、ポリオレフィンの臭気を強くするものであることは良く知られている。
【0003】
これらの成分は、ポリオレフィンペレットそのものの臭気に影響を与えるのみならず、各種成形品の臭気にも影響を与え、特に、医薬品や食品用途に使用される種々の包装製品において、内容物への臭気の移行問題等が発生することがある。ポリオレフィンの成形加工法には、射出成形法、中空成形法、フィルム成形法、ラミネート成形法等種々のものがあるが、いずれの成形法においても、成形機の中で樹脂の融点以上に加熱混練し、溶融状態で各種成形法に適したノズルやダイスから空気中あるいは金型内に押出す方法が取られる。一般には、成形時の押出機内での溶融混練では、樹脂の供給部に、窒素等の不活性ガスを流通させることにより、樹脂の熱劣化や酸化劣化を抑制するよう努めるが、上記のノズルやダイスから出た後の溶融樹脂については、完全に空気との接触を絶つことは難しく、空気中の酸素によって溶融樹脂が酸化され、アルコール類やケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類等の、いわゆる含酸素化合物が生成する。これらの含酸素化合物の内、特に低分子量のものは、沸点も低く、加工成形品の表面から蒸発することで、不快な臭気を呈したり、医薬品や食品等の内容物に移行することで多くの問題を起こす場合がある。
【0004】
160℃以上の樹脂温度における成形時の酸化劣化による有臭成分の発生を抑制するために、ダイス等から押出された樹脂表面に窒素等の不活性ガスを噴霧する方法も取られているが、ポリオレフィンのペレットそのものに極性、無極性を問わず有臭の低分子量成分が含まれている場合、これらの成分は、成形時の加熱によっても完全には蒸発せず、また、これらの低分子量成分が更に酸化して発生する含酸素化合物は依然、製品中に残留する。
【0005】
従って、ポリオレフィンの製造時での有臭成分を低減化することで、成形後の臭気の低減化も達成されるため、低臭ポリオレフィンの製造においては、ペレットの製造時の有臭成分を可能な限り低減化することが非常に有効な方法となる。
【0006】
従来、この目的のために、以下のような方法が行われてきた。
【0007】
1つは、重合で生産したペレット状のポリオレフィンを高温の空気または窒素といった、ガス流と長時間接触させることで、ポリオレフィンペレット中の有臭成分を低減化する方法である。この方法においては、ポリオレフィンペレットの融着を防ぐために、ポリオレフィンの軟化点以上にガス温度を上げることができないことや、ポリオレフィンの個体中での有臭成分の拡散速度が非常に遅いことから、有臭成分の低減化について、十分な効果を上げることができない。更に、ポリオレフィンを長時間高温に曝すことにより、樹脂の熱劣化や酸化劣化によって、逆に有臭成分が増加したり、接触させるガスそのものの臭気や汚れがポリオレフィンペレットに付着するという問題が起こる場合もある。
【0008】
その他の方法としては、ポリオレフィンをベント式押出機に供給し、減圧ベントする方法があり、この方法においては、押出機ベント口でのポリオレフィン溶融物の表面から有臭成分が有効に蒸発除去されるが、押出機スクリューによる溶融物の表面積更新効率に限界があるため、十分な効果を上げることはできず、医薬品や食品包装等の、特に包装材の臭気を嫌う分野に適用可能なポリオレフィンの低臭性は必ずしも満足できるものではなかった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、前記記載した如く、ポリオレフィンからの有臭成分の低減化において、従来からの方法に比較して、その効率を大幅に改良し、各種成形製品の低臭化をも達成する、低臭ポリオレフィンの製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ポリオレフィンの有臭成分の低減化操作にあたり、一般の生産設備で製造されたポリオレフィン溶融物あるいはポリオレフィン粉体、ポリオレフィンペレット等を、押出機にてペレット化、再ペレット化あるいは直接フィルム成形やラミネート成形をする際に、水をポリオレフィンの供給量に対して一定の割合で混合同時混練し、押出機に設けられた減圧ベント部において有臭成分とともに気化、低減化する操作において、減圧ベント部の前後の樹脂温度がある一定の関係を満足する場合、ペレットそのもの及び直接成形された製品の低臭化が達成され、更には、このようにして一旦ペレット化された低臭ポリオレフィンを使用して各種の成形を行った後の製品においても低臭化が達成されていることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0011】
即ち、本発明は、(1) ポリオレフィンの有臭成分の低減化操作にあたり、ポリオレフィンを単軸または2軸の押出機入り口へ連続的に供給するとともに、水をポリオレフィンの供給量に対して0.15重量%以上の比率で押出機へ供給し、混練部においてポリオレフィンの融点以上の温度で混練後、圧力が700mmHgA以下に調節された押出機減圧ベント口へ送り、その後、溶融樹脂を連続的に押出しする操作において、減圧ベント口が取り付けられた押出機シリンダーゾーンの直前のシリンダーの中央部に取り付けた樹脂温度計の指示温度(Tv−1)℃と、減圧ベント口の直後のシリンダーゾーンの中央部に取り付けた樹脂温度計の指示温度(Tv+1)℃との関係が下式(1)を満足する低臭ポリオレフィンの製造方法、
(Tv−1)−(Tv+1)≧2 (1)
(2) 有臭成分の低減化を行うポリオレフィンが、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレンあるいはこれらの任意に選ばれた2種以上の混合物である請求項1に記載の低臭ポリオレフィンの製造方法、
(3) 押出機減圧ベント口の圧力が450mmHgA以下である前記(1)または(2)に記載の低臭ポリオレフィンの製造方法、
(4) 減圧ベント口が取り付けられた押出機シリンダーゾーンの直前のシリンダーゾーンの中央部に取り付けた樹脂温度計の指示温度(Tv−1)℃と、減圧ベント口の直後のシリンダーゾーンの中央部に取り付けた樹脂温度計の指示温度(Tv+1)℃との関係が下記式を満足する前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の低臭ポリオレフィンの製造方法、
40≧(Tv−1)−(Tv+1)≧3
(5) 水の供給量がポリオレフィンの供給量に対して0.2重量%以上10重量%以下である前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の低臭ポリオレフィンの製造方法、
に関するものである。
【0012】
ここで、有臭成分を低減化するポリオレフィンの種類としては、エチレンやプロピレン等のα−オレフィン系モノマーあるいは、ブタジエン等のα,ω−ジエン系モノマーのホモポリマーであっても、また、種々のコモノマー、例えば、エチレン、炭素数が3以上12以下のα−オレフィン、カルボン酸ビニル化合物、アクリル酸エステル化合物、アクリル酸、メタアクリル酸、無水マレイン酸等との共重合体であってもよく、その製造方法は、ポリオレフィンの一般的な製造設備として使用されている全ての方法によって生産されたものに適用が可能である。例えば、高密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン等においては、溶液法、高圧法、スラリー法、気相法等のいずれの製造方法によって生産されたものでも使用可能であり、重合時に使用される触媒についても、何ら影響を受けることなく十分な効果を発揮する。また、一般に、高温、高圧下でのラジカル重合によって製造される低密度ポリエチレンやエチレン酢酸ビニル共重合体等においても、チューブラー法やオートクレーブ法といった製造方法の影響を受けることなく使用が可能である。このように、本発明に適するポリオレフィンは、その種類を選ぶことなく使用が可能であるが、比較的融点の低い、高密度ポリエチレンや低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレンあるいはこれらポリオレフィンの任意に選ばれた2種以上の混合物が本発明の目的を一層顕著に示すことが判明した。
【0013】
また、上記のポリオレフィンにおいては、メルトフローインデックス(以下MIと表記する。)や密度といった物性によって本発明の効果が損なわれることはない。特に密度については、何ら制限されるものではない。MIについては、押出機での溶融押出しを行う目的から、0.01g/10分以上100g/10分以下とすることが好ましい。
【0014】
本発明に使用されるポリオレフィンには、本発明の効果を損なわない範囲で各種の添加剤を混合することが可能であり、例えば、紫外線吸収剤、熱安定剤、酸化防止剤、核剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤等の添加剤を混合することは差し支えない。これらの添加剤は、本発明に共する押出機内へ直接添加してポリオレフィンと溶融混合するか、あるいは、いわゆるマスターバッチの方式で押出機内へ供給することも可能である。また、本発明に基づいて製造された低臭ポリオレフィンを成形加工する際に、マスターバッチ方式で添加することも可能である。ただし、成形加工時にマスターバッチ方式で添加剤を添加する場合には、マスターバッチのベースポリマーとして、成形を行う低臭ポリオレフィンと同じポリオレフィンを使用したマスターバッチを使用することが好ましいが、該マスターバッチの添加量が低臭ポリオレフィンの10重量%以下であれば、必ずしもマスターバッチのベースポリマーについて制限を受けるものではない。
【0015】
ポリオレフィン同様、押出機内に供給される液体としては、無味無臭であり、かつ熱的に安定で、沸点がポリオレフィン中に含まれる低分子量の有臭成分と近いものが好ましく、具体的な沸点としては、70℃以上150℃程度のものが最適である。沸点が70℃以下である場合、押出機内でポリオレフィン中に分散する前に気化し、分散効率が低下する。また、沸点が150℃以上の高温液体では、押出機減圧ベント口でポリオレフィンから完全に分離されず、ペレット中に該液体が残存し、成形時に発泡現象等の加工不良を起こす原因となる場合がある。このような性状をもつ液体は水が代表的なものである。ここで用いられる水は、通常の上水で使用可能であるが、含まれる不純物の影響を可能な限り少なくするためには、純水を使用することが好ましい。
【0016】
また、水の供給量は、押出機に供給するポリオレフィンの0.15重量%以上であることが必要であり、更に好ましい条件としては、0.2重量%以上10重量%以下である。水の供給量が、押出機内に供給されるポリオレフィンの0.15重量%未満である場合、ポリオレフィン中の有臭成分の低減化において十分な効果が得られないことがある。
【0017】
水の供給位置は、ポリオレフィンの供給位置と減圧ベント口との間であれば任意の場所に設置することが可能であり、この方法により、連続的に押出機内に水を供給することができる。また、水を個別に供給するのではなく、予めポリオレフィンと水とを混合しておき、ポリオレフィンの供給口から同時に押出機へ供給することも可能である。
【0018】
本発明に使用する押出機は、単軸スクリューまたは2軸スクリューのいずれのタイプでも使用可能であり、その構成としては、水の供給部以降に混練部を配置し、その更に下流側に1カ所以上の減圧ベント口を設ける必要がある。また、押出機のスクリュー長さとスクリュー径との比(L/D)は任意の設定でかまわないが、十分な混練を行うために、L/Dは20以上とすることが好ましい。
【0019】
混練部での樹脂の温度は、ポリオレフィンが溶融し、該溶融樹脂内部に水が十分に分散するために、ポリオレフィンの融点以上に保つことが必要である。水の分散効率は、溶融樹脂の粘度が低い程良好になるため、この分散効率を上げるためには、混練部の温度は、該ポリオレフィンの融点よりも20℃以上高い温度に設定することが好ましい。温度の調整にあたっては、スクリューの回転数、樹脂の押出量、シリンダージャケット熱媒温度の調整、ヒーター等の強制加熱設備、混練部と減圧ベント口との間に絞り機構を設けての調整等、いずれの方法であっても良い。
【0020】
押出機内に供給したポリオレフィン中の有臭成分および水、それらの共沸化合物等を除去する減圧ベント口の圧力は、700mmHgA(絶対圧力)以下にする必要があり、好ましくは450mmHgA以下、更に好ましくは300mmHgA以下である。減圧ベント口での圧力が700mmHgAを越える場合、ポリオレフィン中の有臭成分の低減化が十分ではなくなるばかりでなく、添加した水の完全な除去が困難になる。
【0021】
本発明に規定される減圧ベント口は、樹脂温度がその樹脂の融点以上に達しており、水との混合がなされた場所よりも下流側で、かつ、押出機シリンダーの最先端部よりも上流側であれば任意の場所に設置が可能であり、その数は1つに限らず、複数であっても良い。
【0022】
本発明における低臭ポリオレフィンの製造方法において、押出機内部での樹脂温度の変化については、減圧ベント口が取り付けられた押出機シリンダーゾーンの直前のシリンダーゾーンに取り付けた樹脂温度計の指示温度(Tv−1)℃と、減圧ベント口の直後のシリンダーゾーンに取り付けた樹脂温度計の指示温度(Tv+1)℃が下式(1)の関係を満足する必要があり、好ましくは上記2つの温度計の指示の差が3℃以上40℃以下である。
(Tv−1)−(Tv+1)≧2 (1)
【0023】
減圧ベント口において水及び溶融樹脂中の有臭成分が除去される際、その蒸発潜熱により樹脂温度は低下するが、その低下の割合が(1)式を満足しない範囲にある場合、有臭成分の十分な除去効果が得られない。
【0024】
本発明の低臭ポリオレフィンを使用した医薬品及び食品包装材の製造法は、一般に行われる全てのフィルム製膜法、ラミネート成形法に適用が可能であり、例えば、フィルム製品では、インフレーション法によるチューブ状フィルムやキャスト法によるフラット状フィルムによって包装材料が製造される。また、ラミネート成形法では、本発明の低臭ポリオレフィンをTダイより溶融押出し、医薬品や食品包装に必要な各種基材に貼り合わせる押出ラミネート成形法や、予め本発明の低臭ポリオレフィンを使用してフィルム成形法によって製造したフィルムを各種の基材と貼り併せるドライラミネート成形法、ウェットラミネート成形法、ホットメルト成形法、無溶剤ドライラミネート成形法、サーマルラミネート成形法等が挙げられる。また、このような製品の製造は、本発明の方法によって予めペレット化された低臭ポリオレフィンを再度溶融後、成形しても、あるいは、本発明に規定する有臭成分の低減化操作を行う際、ペレット化せずに本発明にある方法で減圧ベント口を通った溶融樹脂を直接環状ダイやTダイに導き、フィルムやラミネート製品を製造しても良い。
【0025】
このような成形を行う際の樹脂温度は、一般に行われるフィルム成形やラミネート成形で使用されるもので良く、フィルム成形の場合には130℃以上250℃以下、ラミネート成形の場合には200℃以上350℃以下である。
【0026】
しかしながら、成形加工時の有臭成分の発生量は、加工温度によって大きく異なり、低温での加工では、加工時の熱分解や溶融樹脂の空気との接触による酸化劣化の度合いが小さいために製品の臭気が問題にはなりにくい。従って、低臭ポリオレフィンの効果をより顕著に発揮させるためには、成形時の樹脂温度は150℃以上とすることが好ましい。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
【実施例1】
スクリュー径50mm、L/D=28、シリンダーが5つのゾーンに区分され(以下、上流側よりC1、C2、・・・、C5と表記する。)、それぞれのゾーンが単独にバンドヒーターによって温度制御可能であり、ポリオレフィンの供給部をC1、水の供給部をC2、減圧ベント口をC4に設置した単軸スクリューの押出機を用いて、メルトフローインデックス(以下、MIと記載する。)が9g/10分、融点が108℃の市販の低密度ポリエチレン(A)を、C1への樹脂の供給量が30kg/時間、スクリュー回転数100rpm、各ゾーンのシリンダーの温度条件をC1が120℃、C2を180℃、C3からC5を210℃に設定する条件で、C2からの水の供給量をC1から供給される低密度ポリエチレンの供給量に対して1.0重量%となるようにフィードポンプを使用して単独で供給し、C4の減圧ベント口の圧力が10mmHgAとなるよう調節してペレット化を実施した。この時のC3中央部での樹脂の温度(Tv−1)は205℃、C5中央部での樹脂温度(Tv+1)は198℃であった。
【0029】
(以下、本発明の処理方法を使用してペレタイズしたポリオレフィンの総称を処理ポリオレフィンと記載する。)
得られたポリエチレンの低臭性の評価としては、後述のような方法で、ペレットそのもの及び該ペレットを押出ラミネート成形した製品の2種類で行い、低臭性の比較サンプルとしては、本発明の低臭ポリオレフィンを製造する処理を行わない未処理の同一ポリエチレン樹脂(A)を用いた。その押出条件は、上記に記載の低臭ポリオレフィンの製造条件において、C2からの水の供給を行わず、またC4の減圧ベント口を設置しないで行った他は、C1への樹脂の供給量、スクリュー回転数、各ゾーンの温度設定等、全て同じ条件とした。(以下、本発明の処理方法を使用していない、即ち、各実施例及び比較例で行った低臭ポリオレフィンの製造条件において、水の供給を行わず、減圧ベント口を設けない構造の設備で行った他は、全て同じ条件で製造したポリオレフィンの総称を未処理ポリオレフィンと記載する。)ここで、押出ラミネート成形の方法及びサンプルの製造方法としては、以下の方法によって行った。
【0030】
即ち、住友重工(株)社製の65mm押出機に接続されたTダイから、320℃の樹脂温度で製膜された溶融樹脂を、加工速度80m/分、製膜厚み20ミクロンで、表面にアンカーコート剤等の処理を施していない未処理のアルミ箔を基材としたラミネート製品を作成した。なお、未処理ポリオレフィンについても同一の条件下でラミネート製品を作成した。
【0031】
ここで得られたペレット、およびラミネート製品のそれぞれについて、処理ポリエチレンと未処理ポリエチレンとの2点比較により、評価を行った。
【0032】
低臭性の評価方法としては、500ccのガラス瓶にペレットは100g、ラミネートサンプルは0.4m2を入れ、密閉後、60℃のオーブン中で30分間加熱エージングし、更に30分間、23℃の恒温室で冷却したサンプルを、耳鼻咽喉科学会が推薦しているT&Tオルファクトメトリー(嗅覚測定用基準臭)によって正常な嗅覚を有していると判断されたパネラー10人に対して、臭気の少ないと感じられるサンプルを選択する官能検査により行った。
【0033】
評価基準としては、本発明の低臭化処理を施していない未処理サンプルに対して、処理サンプルのほうがより低臭であると判断した人数が、◎:10人中10人、○:10人中7人以上9人以下、△:10人中5人以上6人以下、×:10人中5人未満の4段階を採用した。
【0034】
ポリオレフィンペレット中の有臭成分の定量については、ペレット中の含酸素有臭成分の量が微量であるため、炭素数が6及び8、10、12の脂肪族飽和炭化水素の合計量を代表値として行った。定量方法は、密閉が可能な250ccのステンレス製容器に50gのペレットと100ccのクロロホルムを入れ、容器を密閉後、80℃の温浴バスにて1時間振盪抽出を行い、室温まで冷却後、ガスクロマトグラフ(以下、GCと表記する。)により分析を行った。GCによる分析は、島津製作所製のGC−9Aを使用し、OV−17を充填剤とした3mのカラムにより、180℃一定の条件下、射出部温度を250℃、キャリアーガスには窒素を使用し、その流量は40ミリリットル/分、検出器はFIDを用いて行った。また、各成分の定性及び定量については、ヘキサン(炭素数6)及びオクタン(炭素数8)、デカン(炭素数10)、ドデカン(炭素数12)の標準資料を用いて同一条件下で分析を行い、その相対保持時間により定性を、予め作成した濃度既知の標準資料のGCピーク面積との比例計算から定量を行った。
【0035】
評価基準は、本発明における低臭化処理を行っていない未処理ポリオレフィンペレット中の上記飽和炭化水素の合計量を100%とした場合の、処理ポリオレフィンペレット中の上記飽和炭化水素の合計量が、◎:50%未満、○:50%以上70%未満、△:70%以上90%未満、×:90%以上の4段階で設定した。
【0036】
加工後の有臭成分の評価方法としては、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法(以下、HS−GCと表記する。)により、炭素数5以下の脂肪族飽和アルデヒドの合計量で行った。ヘッドスペースサンプラー(以下、HSと表記する。)にパーキンエルマー社製のHS−40、ガスクロマトグラフに島津製作所製のGC−7Aを使用し、HSのサンプル温度を130℃、サイクルタイムを60分、ニードル温度を180℃、GCのカラムにTC−WAXを充填剤とした内径0.25mm、長さ60mのキャピラリーカラムを使用し、カラム温度は45℃一定、射出部温度を220℃、キャリアーガスに30ミリリットル/分の流量に調整したヘリウムガス、検出器にFIDを使用して行った。
【0037】
サンプルは、密閉可能な20ccのバイアル瓶の中に、前述のラミネートサンプル200cm2を円筒状に巻き上げたものを入れて調整した。各成分の定量は、予め、ノルマルヘプタンを標準物質とした、1点検量線法によって各炭素数のアルデヒド成分のGC補正係数を求め、それぞれの成分のGCピーク面積に前記補正係数を掛け合わせた数値を各成分の相対含有量として、その合計値で含酸素有臭成分の代表値とした。
【0038】
評価基準は、本発明における低臭化処理を行っていない未処理ポリオレフィンペレットを使用して成形した製品中の上記脂肪族飽和アルデヒドの合計量を100%とした場合の、処理ポリオレフィンペレットを使用して成形した製品の上記脂肪族飽和アルデヒドの合計量が、◎:60%未満、○:60%以上75%未満、△:75%以上90%未満、×:90%以上の4段階で設定した。
【0039】
評価結果は表3に示した。
【0040】
【実施例2〜4】
実施例1で行った低臭ポリオレフィンの製造条件の代わりに、それぞれ表2に記載した製造条件で低臭ポリオレフィンを製造した他は、ペレットの低臭性評価及び、ラミネート加工法、加工後の製品の低臭性の評価方法のいずれも実施例1と同じ方法によって評価を行った。
【0041】
評価結果を表3に示した。
【0042】
【実施例5】
スクリュー径45mm、L/D=32、シリンダーが7つのゾーンに区分され(以下、上流側よりC1、C2、・・・、C7と表記する。)、それぞれのゾーンが単独にバンドヒーターによって温度制御可能であり、ポリオレフィンの供給部をC1、水の供給部をC2、減圧ベント口をC5に設置した2軸スクリューの押出機を用いて、低密度ポリエチレン(A)を、C1への樹脂の供給量が50kg/時間、スクリュー回転数120rpm、各ゾーンのシリンダーの温度条件をC1が100℃、C2が150℃、C3が200℃、C4からC7を230℃に設定する条件で、C2からの水の供給量をC1から供給される低密度ポリエチレンの量に対して1.5重量%となるようにフィードポンプを使用して単独で供給し、C5の減圧ベント口の圧力が7mmHgAと成るよう調節してペレット化を実施した。この時のC4中央部での樹脂の温度(Tv−1)は230℃、C6中央部での樹脂温度(Tv+1)は216℃であった。
【0043】
上記の条件によって製造した処理ポリエチレンを、実施例1に記載の方法で評価を行った。評価結果を表3に示した。
【0044】
【実施例6】
実施例1で使用した低密度ポリエチレン(A)の代わりに、表1に示した低密度ポリエチレン(B)を用い、表2に記載の製造条件で低臭ポリオレフィンを製造した以外は、実施例1と同じ評価方法により、処理ポリオレフィンの評価を行った。評価結果を表3に示した。
【0045】
【実施例7】
実施例1で使用した低密度ポリエチレン(A)の代わりに、表1に示した高密度ポリエチレン(C)を用い、表2に記載の製造条件で低臭ポリオレフィンを製造した。
【0046】
得られたポリエチレンの低臭性の評価としては、ペレットについては実施例1と同一の方法で行い、成形品の評価は後述のような方法で、インフレーションフィルム成形した製品で行い、低臭性の比較サンプルとしては、本発明の低臭ポリオレフィンを製造する処理を行わない未処理の同一ポリエチレン樹脂(C)を用いた。
【0047】
即ち、モダンマシナリー(株)社製の50mm押出機に接続された上向きの環状ダイから、210℃の樹脂温度で押出された溶融樹脂を、引取速度30m/分、成膜厚み20ミクロン、ブロー比2.0でフィルム製品を作成した。なお、バブルを膨らませる気体には空気を使用した。未処理ポリオレフィンについても同一の条件下でフィルム製品を作成した。
【0048】
低臭性の評価方法は、実施例1に記載のラミネート製品の代わりに上記で得たフィルム製品を使用した以外は同じ方法で行った。
【0049】
評価結果を表3に示した。
【0050】
【実施例8】
実施例1で使用した低密度ポリエチレン(A)の代わりに、表1に示した直鎖状低密度ポリエチレン(D)を用い、表2に記載の製造条件で低臭ポリオレフィンを製造し、実施例7に記載のフィルム成形法において、成形温度を190℃とした以外はフィルムの製造方法及びペレット、成形品の低臭性の評価は実施例7と同じ評価方法により行った。評価結果を表3に示した。
【0051】
表3の結果から、本発明に規定する製造方法を用いて製造されたポリオレフィンは、本発明に規定する処理を行わない未処理のポリオレフィンに比較して、ペレット及び該ペレットを使用して加工された成形品の何れにおいても優れた低臭性を示すことが理解される。
【0052】
【比較例1〜3】
比較例1〜3では、実施例1で使用した低密度ポリエチレン(A)を用いて、表4に記載の製造条件によってポリオレフィンペレットを製造した以外は、実施例1と同じ評価方法によって未処理ポリオレフィンとの2点比較を行った。
【0053】
表5の結果から、本発明の要件を完全に具備しない場合、得られたポリオレフィンはペレット及び該ペレットを使用して成形した成形品の低臭性評価で、全てに良好な結果は得られない。例えば、押出機内へ入れる水の量が、供給するポリオレフィンの供給量に対して0.15重量%未満である場合(比較例1及び2)、ペレット中の脂肪族飽和炭化水素の除去が十分ではなく、成形加工時に発生する脂肪族飽和アルデヒドの含量も、未処理のポリオレフィンに比較して大きな改良効果は確認されない。
【0054】
また、(Tv−1)と(Tv+1)との関係が(1)式を満足しない場合(比較例1及び3)、やはり十分な有臭成分の除去効果は得られない。
【0055】
更に、減圧ベント口の圧力が700mmHgAを越える場合(比較例3)、十分な有臭成分の除去が行われなくなるため、ペレット、成形品の何れにおいても低臭性は得られなかった。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
【発明の効果】
本発明のポリオレフィンの製造方法は、ペレット中及び成形加工後の製品中の有臭成分を低減化するものであり、特に臭気が好まれない医薬品や食品包装の分野で低臭性の包装材料を製造できる低臭ポリオレフィンが提供できる。
Claims (5)
- ポリオレフィンの有臭成分の低減化操作にあたり、ポリオレフィンを単軸または2軸の押出機入り口へ連続的に供給するとともに、水をポリオレフィンの供給量に対して0.15重量%以上の比率で押出機へ供給し、混練部においてポリオレフィンの融点以上の温度で混練後、圧力が700mmHgA以下に調節された押出機減圧ベント口へ送り、その後、溶融樹脂を連続的に押出しする操作において、減圧ベント口が取り付けられた押出機シリンダーゾーンの直前のシリンダーの中央部に取り付けた樹脂温度計の指示温度(Tv−1)℃と、減圧ベント口の直後のシリンダーゾーンの中央部に取り付けた樹脂温度計の指示温度(Tv+1)℃との関係が下式(1)を満足する低臭ポリオレフィンの製造方法。
(Tv−1)−(Tv+1)≧2 (1) - 有臭成分の低減化を行うポリオレフィンが、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレンあるいはこれらの任意に選ばれた2種以上の混合物である請求項1に記載の低臭ポリオレフィンの製造方法。
- 押出機減圧ベント口の圧力が450mmHgA以下である請求項1または2に記載の低臭ポリオレフィンの製造方法。
- 減圧ベント口が取り付けられた押出機シリンダーゾーンの直前のシリンダーゾーンの中央部に取り付けた樹脂温度計の指示温度(Tv−1)℃と、減圧ベント口の直後のシリンダーゾーンの中央部に取り付けた樹脂温度計の指示温度(Tv+1)℃との関係が下記式を満足する請求項1〜3のいずれか1項に記載の低臭ポリオレフィンの製造方法。
40≧(Tv−1)−(Tv+1)≧3 - 水の供給量がポリオレフィンの供給量に対して0.2重量%以上10重量%以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の低臭ポリオレフィンの製造方法。
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