JP3697894B2 - 被覆超硬合金切削工具 - Google Patents

被覆超硬合金切削工具 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、切削工具等に使用される強靭かつ耐摩耗性に優れる被覆超硬合金切削工具に関する。
【0002】
【従来の技術】
超硬合金の表面に炭化チタン、窒化チタン、炭窒化チタンあるいは酸化アルミニウム等の被覆層を蒸着することにより切削工具の寿命を向上させることが行われており、一般に化学蒸着法、プラズマCVD法、物理蒸着法などを用いて生成された被覆層等が広く普及している。
【0003】
しかし、これらの被覆切削工具を用いて加工を行った場合、特に鋼の高速切削加工や高速での鋳鉄の加工のように高温での被覆層の耐摩耗性及び耐クレーター性が必要な加工、あるいは小物部品加工のように加工数が多く被削材への食いつき回数が多い加工等で被覆層の耐摩耗性が不足したり、被覆層の損傷、剥離が発生することによる工具寿命の低下が発生していた。
【0004】
これらの課題を克服する手法として、これまでに内層に超硬合金との密着度に優れ、高硬度を有する炭化チタン、炭窒化チタン等を被覆し、外層に酸化アルミニウムを被覆した構造において被覆層の組織制御、配向性の制御などが検討されてきた。
例えば特表平9-507528号公報では、高温特性を向上させることを狙い、高温安定型のα型結晶構造の酸化アルミニウムを一定の配向性をもたせて成膜することがなされている。従来から、α型結晶構造の酸化アルミニウムは、高温特性に優れることは言われていたが、切削時に剥離しない高密着度を得ることが難しいとされており、本従来技術においても酸化アルミニウムの成膜初期の水分量を制御することにより高密着度を得る努力がなされているが、これによっても十分な高密着度とは言えないのが現状であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題点に対し、検討を重ねた結果、従来の被覆切削工具に比較し、切削における被覆層の耐剥離性を大きく向上させるとともに、膜自体の耐摩耗性と耐クレータ性を向上させ、膜の破壊強度の向上を可能にすることにより工具の寿命を安定して飛躍的に向上させることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
このために、本発明品は以下の構造をとる。
炭化タングステンを主成分とし、IVa、Va、VIa族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物の少なくとも1種を含む硬質相とCoを主とする結合相からなる超硬合金を基材とし、その表面に内層および外層からなるセラミック被覆層を有し、内層が、Ti(CwBxNyOz)(ここでw+x+y+z=1、w、x、y、z≧0)の少なくとも1層以上からなり、外層が、酸化アルミニウム及びTi(CwBxNyOz)(ここでw+x+y+z=1、w、x、y、z≧0)の少なくとも1層以上からなり、かつ内層と接する位置に存在する単一層の酸化アルミニウムを必須とし、該内層と外層の酸化アルミニウム間の界面に点在するTi、C、Oを含む相(以降界面相と称す)を有し、かつ、酸化アルミニウムは、実質的にα型酸化アルミニウムからなるが、内層直上に成長する外層の第1目の結晶粒子においてα型結晶構造を持つ粒子とκ型結晶構造をもつ粒子が混在する領域を有し、かつ本領域のα型酸化アルミニウムの結晶粒中に実質的にポアを含まない構造を有する。
【0007】
また、内層の直上に成長する外層の第1目の結晶粒子においてα型結晶構造を持つ粒子とκ型結晶構造の粒子を混在させることにより以下の効果が得られる。
第1には、下地との密着度に優れるκ型酸化アルミニウムを内層との界面第1列目に一定割合で配置することにより、内層との間の高密着度をえることが可能である。そして、これと同時に、酸化アルミニウム膜の成長の過程でκ型構造の酸化アルミニウムがα型構造の酸化アルミニウムにより淘汰されることにより、高温切削環境下で優れた機械的、化学的耐摩耗性及び膜の破壊特性を有するα型結晶構造の酸化アルミニウムを最終的に成長させることが可能となる。このような構造は内層の上層との間に界面相を点在させることにより可能となる。
【0008】
また、第2には本領域のα型酸化アルミニウムの結晶粒中に実質的にポアを含まない構造とすることにより従来α型酸化アルミニウムを採用した場合に問題となる密着強度の低下を抑制することが可能となる。これは、従来のα型酸化アルミニウムの低密着度は界面付近のポアによる膜強度低下に起因する破壊→膜剥離のメカニズムにより発生していたためである。以上のように本構造により優れた膜質を有するαアルミナを非常に高い密着度で内層上に生成する事が可能となり、切削性能を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0009】
【発明の実施の形態】
内層は、Ti(CwBxNyOz)(ここでw+x+y+z=1、w、x、y、z≧0)の2層以上からなり、かつ柱状組織を有する炭窒化チタン層を必須かつ主とすることを特徴とすることにより、断続切削や、部品加工などの切削において、外層の酸化アルミニウムからの損傷を防ぐのみでなく、内層における膜の破壊、基材と内層間の膜剥離を防止しつつ非常に高い耐摩耗性を得ることが可能となり、工具性能を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0010】
本構造のα型結晶構造の酸化アルミニウムを得るためには、内層直上の第1層目のα型酸化アルミニウム粒子とκ型アルミニウム粒子の存在割合が、κ/(α+κ)=0.25〜0.75であることが望ましい。この範囲にκ/α比を保つことにより、高密着度と最終的なα型結晶構造酸化アルミニウムの成膜の両立がより容易になる。また、κ/αの混在状態は、第1層目のみではなく、その割合が第1層目から上に向かうに従い減少し、膜中でゼロとなるほうがより好ましい。これは、1層目のみ混在している場合、結晶構造の分布の急速な変化によるひずみにより、この部分の膜強度が低下する影響がでるケースがありうることによる。ただし、これらの混在領域は、内層との界面から1.5μm以内であることがより好ましい。これは、混在領域がこれを越えると、κ型結晶構造の酸化アルミニウムの存在による膜質低下の影響が出始めるためである。
【0011】
また、本構造を得るためには、界面相が存在する部分での厚み平均が500nm以内であり、かつ垂直断面における外層と内層の界面長さの30から90%を占めていることが好ましい。30%未満では、上述のような本発明の構造が得られず、90%を越えるあるいは、その厚みが500nmを越えると、界面相の強度が不足し、この部分からの破壊により酸化アルミニウム膜の剥離が生じやすくなる。
なお、本発明の構造では、α型結晶構造の酸化アルミニウムが不連続な中間層が存在している直上の第1目の酸化アルミニウム粒子はα型結晶構造を有していることが望ましい。
【0012】
ここで界面相の存在状況は、SEMまたはTEMによる約10000倍の断面写真を用いておこなう。厚みは、任意の10μm長さの間に点在する界面相の全てについてそれぞれ最大厚みを測定し、この平均をとる方法を用いた。また、存在確立については、任意の10μm長さの界面について存在部の界面上での長さを合算し、これを全長さ(10μm)で除することにより求めたものとした。
【0013】
なお、本発明の構造において、内層上の酸化アルミニウム膜の初期生成核の密度は、多い程密着強度の向上効果がより大きくなる傾向にある。この際、α型酸化アルミニウムとκ型酸化アルミニウムが混在する内層直上の第1層目の粒子の大半が、500nm以下の粒径となるレベルの核生成密度である場合にこの効果は顕著に得られる。
ここで粒子径は、TEMによる50000倍の断面写真を用い、任意の2μm長さにおいて、第1層目に並ぶ粒子数でこれを除する(2/粒子数)ことにより求めたものとした。
【0014】
本発明の構造において、酸化アルミニウムの膜厚は2〜20μmであることがより好ましい。これは、2μmより薄いと、膜質に優れるαアルミナの効果が十分に発揮できないケースが生じうる。逆に膜厚が20μmを越えると高強度のαアルミナであっても強度が不足し、切削中に膜が破壊したり、厚膜化による結晶粒の粗大化で膜の耐摩耗性が低下する場合が生じることがあるためである。
最終的に成膜されている酸化アルミニウムの結晶構造が全てα型であることは、膜表面からのX線回折により行い、回折ピークが全てα型構造の酸化アルミニウムからなり、κ型構造を含まないことをもって確認した。
【0015】
また、酸化アルミニウム成膜初期のα型とκ型粒子の評価は、内層との界面直上の第1目の任意の粒子10点以上について、TEMによる電子線回折図形を解析する事により評価する。2目以降についても同様の方法を用い、κ型が検出されなくなる列まで解析してそれ以降は、表面からのX線回折で全てα型であることを加味して全てα型結晶構造を有すると判断する。α型構造の酸化アルミニウム中のポア存在の有無は、TEMによる50000倍の断面写真から判断する。
【0016】
なお、本発明の構造において、α型結晶構造の酸化アルミニウムの配向性指数TCaがTCa(012)>1.3である、あるいはTCa(104)>1.3、かつTCa(116)>1.3であることがより好ましい。
【0017】
【数3】
Figure 0003697894
I(hkl) :測定された(hkl)面の回折強度
Io(hkl) :ASTM標準によるα結晶構造アルミナの(hkl)面の粉末回折強度 (hkl)は、(012)、(104)、(110)、(113)、(024)、(116)の6面
【0018】
本発明の構造とすることにより、さらに膜の強度と硬度の両方をともに向上させることが可能となり、膜の耐摩耗性と耐チッピング性が向上することにより工具寿命の向上が可能となる。
【0019】
また、さらに、内層の必須成分である柱状組織の炭窒化チタン層の配向性指数TCが、TC(311)で最も大きく、その値が1.3以上3以下である、あるいは、(422)面と(311)面の配向性指数TC(422)、TC(311)がともに1.3以上3以下であることが好ましい。
【0020】
【数4】
Figure 0003697894
I(hkl) :測定された(hkl)面の回折強度
Io(hkl) :ASTM標準による(hkl)面のTiCとTiNの粉末回折強度の平均値
(hkl)は、(111)、(200)、(220)、(311)、(331)、(420)、(422)、(511)の8面
【0021】
配向性指数を本発明の範囲とすることにより、内層膜の耐破壊性を大きく向上させることが可能となり、膜の微小チッピングが防止できることから、結果として耐摩耗性が大きく向上する。ただし、配向性指数が3を越えると、一定方向の配向が強くなりすぎることにより、逆に膜の破壊性が低下する。
以上の内層と外層の膜質、膜構造の組み合わせにより上述の各効果の相乗により、工具寿命を、より飛躍的に向上させることが可能となる。
【0022】
以下に本発明の構造の製造方法を示す。
まず、本発明の炭窒化チタンは、被覆する際の雰囲気をTiCl4、CH3CN、N2及びH2とし、前半と後半の条件を次の様に変更して成膜する。すなわち、成膜初期から120分の間は(TiCl4+CH3CN)/トータルガス量の比率を後半に比べて小さくし、かつ、前半のN2/トータルガス量の比率を後半の2倍以上とすることにより本構造が得られる。この際、炭窒化チタンの層厚を10μm未満とすることによりTC(311)の配向性指数を1.3か以上3以下とすることができ、膜厚を10μm以上とすることによりTC(311)、TC(422)ともに1.3以上3以下とすることができる。
【0023】
次に、内層と外層の界面に点在する本発明の界面相は以下に示す通常のCVDプロセスにより製造される。内層のTi(CwBxNyOz)(ここでw+x+y+z=1、w、x、y、z≧0)を成膜後、Ti源であるTiCl4とキャリアガスであるH2のみを残し、残りのガスの導入を停止し、一定時間保持した後、TiCl4を停止し、引き続いてCOガスを導入することにより作製できる。この際の、各々の状態における保持時間を変化させる事により界面相の厚み、存在割合を制御することができる。その後、一般に知られているAlCl3、CO2、及びH2を用いた方法で950℃〜1050℃の温度で酸化アルミニウムの成膜を行うことにより本発明の初期のα型構造とκ型構造の混在領域を有する酸化アルミニウムを得る事ができる。そして、不連続な界面相の作製条件の設定により、酸化アルミニウム成膜初期のα型とκ型の存在比率、混在領域の厚みを調整することができ、これにより最終的に成膜される酸化アルミニウム膜の配向性が制御できる。また、同じ酸化条件を用いてアルミナの膜厚を変えることによっても配向性を変化させることは可能である。
【0024】
なお、上述の界面相の作製方法を用いなかったり、用いても条件設定が不十分で界面相の点在が認められないレベルであると、最終的にκ型の酸化アルミニウムが成膜されてしまったり、逆に界面相が層状になるほど過剰である場合には、混在領域が得られていても従来のようにα型結晶構造の酸化アルミニウム粒子の中に多くのポアを含んでしまう等して十分な密着度が得られず、いずれも本発明の効果が発揮できない。
【0025】
被覆後、被覆層の表面にブラスト処理あるいは、ブラシ処理等の機械的処理により切り刃稜線部のみでアルミナ層が平坦部に比較してスムース化、薄膜化あるいは除去されるまで表面を処理することにより、上述の効果はより大きくなる。ここで、酸化アルミニウム層の表面粗さは、切刃稜線部における10μm長さにわたっての測定で、Rmax≦0.4μmであることにより、より効果が大きくなる。また、切刃のみで最上層が酸化アルミニウムまたは、内層膜であり、その他の平坦部の最外層はTiNからなることが望ましい。切削条件によっては切刃以外の位置での被削材の溶着に起因する損傷が発生するが、耐溶着性に優れるTiNの効果により、抑制される。
【0026】
なお、この際の処理の程度は、切刃稜線部の中でも実際に切削時に切り粉が接触する刃先部で確実にアルミナ層がスムース化、薄膜化あるいは除去されていることが必要であるが、処理の程度により、刃先から離れた位置の稜線部でアルミナ層が一部薄膜化あるいは除去されていなくても全く問題はなく、本発明の効果は得られる。また、本発明では、アルミナ層がスムース化、薄膜化あるいは除去されているのは切刃稜線部のみとしているが、処理法によってはチップの座面周辺などの切削と関係ない角張った場所でも処理されていることがあるが、これについても実質的には、本発明の効果には全く影響しない。
【0027】
また、このような膜表面処理により、被覆後被覆層中に存在する引っ張り残留応力を内層のTiCN層で10kg/mm2以下まで低減させることにより、膜の耐破壊に対する効果を向上させることが可能である。
さらに、超硬合金基材の表面部で炭化タングステンを除く硬質相が減少または消失した層を有し、その厚みが平坦部において10μm以上50μm以内である表層部が強靱化された超硬合金と本発明の被覆層および表面処理を組み合わせることにより、超硬合金部表層付近ごと被覆層が脱落するような損傷に対し、非常に効果がある。
【0028】
特に、超硬合金基材中にZrを含み、全てが結合相に固溶しているのではなく、少なくともその一部が硬質相成分を構成していることにより、基材の高温における硬度、強度の特性を向上させることが可能となり、より好ましい。
さらに、本構造において、表層部の硬度が、基材内部の平均硬度よりも低く、かつその直下に内部よりも硬度が高い領域を設けることにより、表層部の効果による高靭性化、及び高硬度領域による耐塑性変形性の向上効果が、より顕著になる。
なお、ここで基材表層領域の厚みを10μm以上50μm以下としたのは、50μmを越えると切削中に表層部でやや塑性変形あるいは弾性変形が生じる傾向となるためで、10μm未満では、靭性向上に対する効果が小さいためである。
【0029】
表層領域は、従来から知られているような、窒素含有硬質相原料を用いる方法、または、焼結時の昇温過程で加窒雰囲気とし、結合相の液相出現後に脱窒、脱炭雰囲気とすることで製造できる。
【0030】
【実施例】
(実施例1) 基材としてWC-8%Co-4%TiC-2%TaC-1%NbCの組成でCNMG120408の形状を有するWC基超硬合金基体を準備した。この基体の表面に表1に示す4種の内層構造を用い、連続してその上に表2に示す外層を積層した。この際の内層終了後の酸化アルミニウム成膜までの間の処理条件は表3に示すA〜G(FとGは比較)で行った。これらの組合せにより作製した試料を表4に示す。(表1〜表3の記号で記載)
【0031】
【表1】
Figure 0003697894
【0032】
【表2】
Figure 0003697894
【0033】
【表3】
Figure 0003697894
【0034】
【表4】
Figure 0003697894
【0035】
表1に示した本発明の内層で用いたTiCN層は被覆後破断し、破断面のSEM(走査型電子顕微鏡)観察を行ったところいずれも柱状組織となっていた。なお、表1には、内層のTiCN層の(311)面と(422)面の配向性指数を併せて示した。ここで、内層のTiCN層の配向性指数は、X線回折による回折ピークから求めた。この際、TiCNの(311)面の回折ピークは基材のWCの(111)面ピークと重なり、(111)面のピーク強度は(WCの最強ピークである(101)面の強度)x0.25であることから、TiCNの(311)位置の強度からこれを減じてWC(111)面による強度分を差し引いた。
【0036】
また、表3には、TEMにより10000倍の倍率で界面付近の断面を観察し、内層成膜後の処理条件による界面相の存在割合及び厚みを観察した結果を併せて示した。なお、内層とそれに接する酸化アルミニウム層の界面付近の断面を、TEMを用いて50000倍の倍率で観察また、各試料において、成膜後、試料表面側からX線回折により酸化アルミニウムの配向性の評価を行った。その結果、表中の本発明品では、1目に存在する90%以上の粒子は500nm以下の粒径の粒状組織となっていること、この領域に存在するα型結晶の粒子にはポアを含まないこと、及び最終的に上層では全てα型結晶構造になっていること(表面からのX線回折評価ではκ型は検出されなかった)が確認できた。これに対し、比較品Fでは、初期のκ型とα型の混在領域が無く、最終的にκ型結晶構造となっていた。比較品Gでは混在領域は存在し、最終的にα型結晶構造となっていたが、第1目の混在領域に存在するα型の粒子には、多くのポアが存在することが確認された。また、比較品Gでは、第1目の結晶粒径は全体に粗粒で、ほとんどの粒子が粒径600nm以上であった。
【0037】
表4には、酸化アルミニウムの(012)面、(104)面及び(116)面の配向性指数も併せて示した。
各層の成膜に用いた被覆条件を以下に示す。
【0038】
TiN層:
温度:860℃、圧力:250torr、
反応ガス組成:容量%で、48%H2−2%TiCl4−50%N2
本発明品1〜3のTiCN
TiCN層(前半120分):
温度:920℃、50torr、
反応ガス組成:容量%で、78.5%H2−1.2%TiCl4−0.3%CH3CN−20%N2
TiCN層(後半残り)
温度:920℃、50torr、
反応ガス組成:容量%で、68%H2−6%TiCl4−1%CH3CN−25%N2
Al23層:
温度1000℃、圧力:50torr、
反応ガス組成:容量%で、93%H2−5%AlCl3−2%CO2
TiC層:1050℃、圧力50torr、
反応ガス組成:容量%で、96.5%H2−2%TiCl4−1.5%CH4
【0039】
以上のサンプルを用い、次に示す切削条件1、2で性能評価を行った。
切削条件1
被削材:SCM415 4溝材
切削速度:320m/min
送り:0.15mm/rev
切り込み:1.5mm
衝撃回数:800回
切削油:水溶性
【0040】
切削条件2
被削材:FC25
切削速度:250m/min
送り:0.15mm/rev
切り込み:1.5mm
切削時間:30分
切削油:水溶性
評価結果を表5及び表6に示す。
【0041】
【表5】
Figure 0003697894
【0042】
【表6】
Figure 0003697894
【0043】
この結果から、本発明品では、従来品に比較し、膜の耐摩耗性、耐剥離性、耐チッピング性と、耐クレーター性のいずれにおいても優れていることがわかる。なお、これらの切削評価後の試料を観察したところ、最表面にTiNが被覆されている試料では、アルミナが露出している試料に比較して全体にすくい面上での被削材の溶着量が少なく抑えられていた。本評価の範囲では、最表面の膜質が直接摩耗量等に影響は見られなかったが、削り込んでいくとすくい面上の損傷に影響がでてくると思われる。
【0044】
(実施例2) 実施例1で作製した試料3、4、及び6を用い、被覆後にSiCを含有するナイロンブラシで、膜表面に処理を施した。表面処理時間を変えて処理レベルの異なる試料を作製した。処理時間1分、6分、12分の処理を施したものをH1、H6、H12で示した。各試料の切り刃部のアルミナ膜厚/平坦部のアルミナ膜厚の比、切り刃部での膜表面粗度、及び切り刃稜線部における引っ張り残留応力を表7に示す。引っ張り残留応力は、X解折装置を用いて、sin24ψ法により内層のTiCN層の残留応力を測定した結果である。
これらの試料を用いて実施例1と同一の切削評価を行った結果を表8及び表9に示す。
【0045】
【表7】
Figure 0003697894
【0046】
【表8】
Figure 0003697894
【0047】
【表9】
Figure 0003697894
【0048】
この結果より、これらの表面処理を行う事により、膜強度が向上し、膜性能に起因する損傷が、より抑えられることが分かる。また、3及び6の表面処理を施した試料では、いずれも平坦部においては最表面のTiNが残存し、切り刃部ではこれが除去されていた。この効果により、表面処理を施した試料では、耐摩耗性向上の効果が確認されたことが、表中の結果から分かるが、こればかりでなく、すくい面上の被削材の溶着量も平坦部にアルミナが露出している試料に比較して少なく保たれていることも確認できた。
【0049】
(実施例3) 実施例1で用いた試料6(用いた母材をXとする)を用い、母材のみをY:WC−8%Co−2%ZrC−2%TiC−2%TaC−1%NbC、Z:WC−8%Co−7%ZrNに変えた試料を作製した。
ここで、昇温中の1200〜1400℃の間をPN2=50torrの窒素雰囲気にし、1450℃、10ー2torrの真空で1時間焼結した試料X1、Y1、Z1も作製した。ここで、試料Y、Y1、Z、及びZ1においては、いずれもZrは硬質相成分を構成していることをEPMAの面分析で確認された。表10に各試料の表面部で炭化タングステンをのぞく硬質相が消失した層の厚み(P)、基材表層部の硬さと内部硬度の差(Q)及び表層部直下の高硬度部と内部の硬度の差(R)を示した。ここで、硬度はマイクロビッカース硬度計を用いて、500g荷重で測定した値を用いた。
【0050】
【表10】
Figure 0003697894
【0051】
これらの試料を用いて、以下に示す切削条件3による耐欠損性の評価、及び切削条件4による耐塑性変形評価を実施した。その結果を表11に示す。
【0052】
切削条件3
被削材:SCM435 4溝材
切削速度:80m/min
送り:0.15〜0.30mm/rev
切り込み:1.5mm
時間:MAX 30sec
コーナー数:24コーナー
切削油:なし
【0053】
切削条件4
被削材:SK5
切削速度:80m/min
送り:0.6mm/rev
切り込み:1.5mm
切削時間:3分
切削油:なし
【0054】
【表11】
Figure 0003697894
【0055】
ここで、切削条件3では、24コーナーの平均で欠損率を求めた。
なお、ここれは示していないが、各試料について、実施例2で示したH12の表面処理を行った試料についても評価をしてみたところ、耐塑性変形性はほとんど変わらず、いずれの試料も欠損率が1/2以下に向上することも併せて確認した。また、基材の組成をYやZに変更しても、実施例1で示した切削条件1、2の結果は全く変わらない(これらの評価は膜質のみに依存していた)ことも併せて確認した。
【0056】
【発明の効果】
本発明の被覆超硬合金切削工具を用いて加工を行った場合、特に鋼の高速切削加工や高速での鋳鉄加工のように高温での被覆層の耐摩耗性及び耐クレーター性が必要な加工、あるいは小物部品加工のように加工数が多く被削材への食いつき回数が多い加工等で被覆層の耐摩耗性が向上し、被覆層損傷、剥離発生を防止することにより工具寿命が大幅に向上する効果を有する。

Claims (19)

  1. 炭化タングステンを主成分とし、IVa、Va、VIa族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物の少なくとも1種を含む硬質相とCoを主とする結合相からなる超硬合金を基材とし、その表面に内層および外層からなるセラミック被覆層を有し、該内層が、Ti(CwBxNyOz)(ここでw+x+y+z=1、w、x、y、z≧0)の層以上からなり、かつ柱状組織を有する炭窒化チタン層を主に有し、該外層が、該内層と接する位置に酸化アルミニウムを有し、かつ該内層と外層の酸化アルミニウムの界面にはTi、C、Oを含む相が点在し、該酸化アルミニウムは、α型酸化アルミニウムからなり、内層直上に成長する外層の第1目の結晶粒子においてα型結晶構造を持つ粒子とκ型結晶構造をもつ粒子が混在する領域が存在し、かつ本領域のα型酸化アルミニウムの結晶粒中にポアを含まないことを特徴とする被覆超硬合金切削工具。
  2. 前記外層が、Ti(CwBxNyOz)(ここでw+x+y+z=1、w、x、y、z≧0)の少なくとも一層以上を有する事を特徴とする請求項1記載の被覆超硬合金切削工具。
  3. 内層直上の第1層目のα型酸化アルミニウム粒子とκ型アルミニウム粒子の存在割合が、κ/(α+κ)=0.25〜0.75であることを特徴とする前記請求項1から請求項いずれかに記載の被覆超硬合金切削工具。
  4. 前記内層と外層の界面のTi、C、Oを含む相が存在する部分においてその厚み平均が500nm以内であり、かつ垂直断面における外層と内層の界面の長さ方向において30から90%を占めていることを特徴とする前記請求項1から請求項いずれかに記載の被覆超硬合金切削工具。
  5. 前記酸化アルミニウムの第1目の粒子において、界面のTi、C、Oを含む相が存在している直上にα型結晶構造の酸化アルミニウムが成長していることを特徴とする前記請求項1から請求項いずれかに記載の被覆超硬合金切削工具。
  6. 前記のα型酸化アルミニウムとκ型酸化アルミニウムが混在する領域が内層との界面から1.5μm以内であることを特徴とする前記請求項1から請求項いずれかに記載の被覆超硬合金切削工具。
  7. 前記のα型酸化アルミニウムとκ型酸化アルミニウムが混在する内層直上の第1層目粒子の大半が、500nm以下の粒径を有する粒状組織であることを特徴とする前記請求項1から請求項いずれかに記載の被覆超硬合金切削工具。
  8. 前記酸化アルミニウムの膜厚が2〜20μmであることを特徴とする前記請求項1から請求項いずれかに記載の被覆超硬合金切削工具。
  9. 前記α型結晶構造の酸化アルミニウムの配向性指数TCaがTCa(012)>1.3であることを特徴とする前記請求項1から請求項いずれかに記載の被覆超硬合金切削工具。
    Figure 0003697894
    I(hkl) :測定された(hkl)面の回折強度
    Io(hkl) :ASTM標準によるα結晶構造アルミナの(hkl)面の粉末回折強度
    (hkl)は、(012)、(104)、(110)、(113)、(024)、(116)の6面
  10. 前記配向性指数TCaがTCa(104)>1.3かつTCa(116)>1.3であることを特徴とする請求項1からに記載の被覆超硬合金切削工具。
  11. 前記内層の必須成分である柱状組織の炭窒化チタン層の配向性指数TCが、TC(311)で最も大きく、その値が1.3以上3以下であることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の被覆超硬合金切削工具。
    Figure 0003697894
    I(hkl) :測定された(hkl)面の回折強度
    Io(hkl) :ASTM標準による(hkl)面のTiCとTiNの粉末回折強度の平均値
    (hkl)は、(111)、(200)、(220)、(311)、(331)、(420)、(422)、(511)の8面
  12. 前記配向性指数TCが、(422)面と(311)面の配向性指数TC(422)、TC(311)がともに1.3以上3以下であることを特徴とする請求項1から請求項11に記載の被覆超硬合金切削工具。
  13. 切刃稜線部付近の酸化アルミニウムの膜厚が平坦部に比較して薄くなっているまたは、存在しないことを特徴とする請求項1から12に記載の被覆超硬合金切削工具。
  14. 切刃稜線部付近の被覆層の表面粗さが、切り刃稜線部における10μm長さにわたってRmax≦0.4μmであることを特徴とする請求項1から13のいずれかに記載の被覆超硬合金切削工具。
  15. 切刃稜線部の最上層が酸化アルミニウムまたは、内層膜であり、かつ、その他の平坦部の最外層がTiNからなることを特徴とする請求項14記載の被覆超硬合金切削工具。
  16. 少なくとも切刃稜線部において、内層の炭窒化チタンの引っ張り残留応力が10kg/mm以下であることを特徴とする請求項13に記載の被覆超硬合金切削工具。
  17. 超硬合金基材の表面部で炭化タングステンを除く硬質相が減少または消失した層を有し、その厚みが平坦部において10μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1〜16いずれかに記載の被覆超硬合金切削工具。
  18. 超硬合金基材はZrを含み、少なくともその一部が硬質相成分を構成していることを特徴とする請求項1から17のいずれかに記載の被覆超硬合金切削工具。
  19. 表層部の硬度が、基材内部の平均硬度よりも低く、かつその直下に内部よりも硬度が高い領域を有することを特徴とする請求項17または請求項18記載の被覆超硬合金切削工具。
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