JP3600503B2 - 燃料電池用セパレータおよび該燃料電池用セパレータの製造方法並びに燃料電池 - Google Patents

燃料電池用セパレータおよび該燃料電池用セパレータの製造方法並びに燃料電池 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃料電池用セパレータおよび該燃料電池用セパレータの製造方法並びに燃料電池に関し、詳しくは、単セルを複数積層して構成する燃料電池において、隣接する単セル間に設けられ、隣接する部材との間で燃料ガス流路あるいは酸化ガス流路を形成すると共に、燃料ガスと酸化ガスとを隔てる燃料電池用セパレータおよび該燃料電池用セパレータの製造方法並びに燃料電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
燃料電池用ガスセパレータは、複数の単セルが積層された燃料電池スタックを構成する部材であって、充分なガス不透過性を備えることによって、隣り合う単セルのそれぞれに供給される燃料ガスおよび酸化ガスが混じり合うのを防いでいる。従来、このような燃料電池用ガスセパレータは、炭素材料あるいは金属材料を用いて製造されてきた。一般に、金属材料は強度に優れているため、炭素材料を用いる場合に比べてより薄いガスセパレータを製造することが可能であり、ガスセパレータを薄くすることによって、燃料電池全体を小型化することが可能となる。また、金属製のガスセパレータは、金属板をプレスするという簡便な方法によって製造することができるため、製造工程を簡素化・短期化して生産性を向上させ、製造コストの上昇を抑えることができる。
【0003】
金属製のガスセパレータを製造する際に用いる金属としては、充分な導電性と強度、および成形性を有する金属の中から適宜選択することができるが、ステンレスやアルミニウムなど、金属材料として特に広く大量に流通している金属を用いることによって、製造コストの大幅な削減が可能となる。このような金属材料を用いる場合には、通常は、燃料電池が動作する環境下での耐食性を充分に確保するための構成が要求される。ガスセパレータの耐食性を向上させるための構成としては、ガスセパレータの表面を、銀によって被覆する構成が提案されている(例えば、特開昭60−115173号公報等)。表面を銀で被覆することにより、金属製ガスセパレータの耐食性を大きく向上させることができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、耐食性に優れた金属でガスセパレータを被覆する際に、被覆層の形成をめっき処理によって行なう場合には、被覆層を充分に緻密に形成することは困難であって、被覆層に微小な孔が生じるという問題がある。被覆層にこのような微小な孔が存在すると、被覆層自身は耐食性に優れた貴金属によって形成しても、被覆層に覆われるセパレータの基板部が上記被覆層に生じた孔から徐々に腐食してしまうため、ガスセパレータ全体の耐食性が低下してしまう。被覆層に生じる孔から進行する腐食の影響を充分に抑えるためには、被覆層をより厚く形成する必要があり、上記した貴金属の使用量の増加につながるため採用し難い。
【0005】
本発明の燃料電池用ガスセパレータおよび該燃料電池用セパレータの製造方法並びに燃料電池は、こうした問題を解決し、金属製ガスセパレータにおいて、充分な耐食性を実現することを目的としてなされ、次の構成を採った。
【0006】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
本発明の第1の燃料電池用セパレータは、
燃料電池内に組み込まれたときにその表面で流体の流路を形成する燃料電池用セパレータであって、
セパレータ基材と、
前記セパレータを燃料電池内に組み込んだときに、隣接する部材と接触する接触面に対応する前記セパレータ基材表面のうち、前記隣接する部材との間の接触抵抗に関わる表面上に少なくとも形成され、所定の金属によって構成される金属コート層と
前記金属コート層の表面に形成され、耐食性および導電性を有する物質から構成される耐食コート層と
を備え、
前記金属コート層は、前記所定の金属を溶融させた後に、徐冷を行なって成ることを要旨とする。
【0007】
また、本発明の第1の燃料電池用セパレータの製造方法は、
燃料電池内に組み込まれたときにその表面で流体の流路を形成する燃料電池用セパレータの製造方法であって、
(a)前記燃料電池用セパレータを構成するセパレータ基材上の少なくとも一部の領域に、所定の溶融金属から成る層を形成する工程と、
(b)前記(a)工程で形成した所定の溶融金属から成る層を、金属の結晶粒の平均粒径が0.1mm以上となる速度で徐冷して凝固させ、金属コート層と成す工程と
を備えることを要旨とする。
【0008】
また、本発明の第2の燃料電池用セパレータの製造方法は、
燃料電池内に組み込まれたときにその表面で流体の流路を形成する燃料電池用セパレータの製造方法であって、
(c)前記燃料電池用セパレータを構成するセパレータ基材上の少なくとも一部の領域に、所定の金属から成るめっき層を形成する工程と、
(d)前記めっき層を構成する前記所定の金属を、前記セパレータ基材の融点以下の温度で溶融する工程と、
(e)前記(d)工程で溶融した前記所定の金属を、金属の結晶粒の平均粒径が0.1mm以上となる速度で徐冷して凝固させ、金属コート層と成す工程と
を備えることを要旨とする。
【0009】
以上のように構成された本発明の第1の燃料電池用セパレータと、本発明の第1および第2の燃料電池用セパレータの製造方法は、セパレータを燃料電池内に組み込んだときに、隣接する部材と接触する接触面に対応する前記セパレータ基材表面のうち、前記隣接する部材との間の接触抵抗に関わる表面上に少なくとも形成され、溶融と徐冷を伴う処理を施した金属によって構成される金属コート層を備える燃料電池用セパレータを提供する。ここで、金属コート層は、所定の金属を溶融させた後、徐冷して形成するため、金属コート層を電解めっきや無電解めっきなどの通常のめっき層によって構成する場合に比べて、金属コート層を構成する金属における微小な欠陥(後述するめっきのミクロ欠陥)を減少することができる。また、金属コート層を構成する金属の結晶粒の大きさがより大きくなると共に、結晶粒間の界面である粒界の密度がより小さくなる。したがって、上記粒界から金属の酸化や溶出が進行するのを抑えることができる。酸化が抑えられることによって、酸化に起因してセパレータの伝導性が低下しセパレータの接触抵抗が上昇してしまうのを抑えることができる。さらに、粒界密度が低下することによって、金属コート層が形成される層(セパレータ基材など)を構成する金属が、金属コート層の粒界を介して、腐食によって溶出してしまうのを抑えることができる。ここで、徐冷とは、充分に緩やかに冷却を行なうことであり、その方法としては例えば空冷が考えられる。このように冷却を充分にゆっくり行なえば、前記金属コート層を構成する結晶粒の大きさを、効果的に大きくすることができる。
【0010】
本発明の第2の燃料電池用セパレータは、
燃料電池内に組み込まれたときにその表面で流体の流路を形成する燃料電池用セパレータであって、
セパレータ基材と、
前記セパレータを燃料電池内に組み込んだときに、隣接する部材と接触する接触面に対応する前記セパレータ基材表面のうち、前記隣接する部材との間の接触抵抗に関わる表面上に少なくとも形成され、所定の金属によって構成される金属コート層と
前記金属コート層の表面に形成され、耐食性および導電性を有する物質から構成される耐食コート層と
を備え、
前記金属コート層は、該金属コート層を構成する前記金属の結晶粒の平均粒径が、0.1mm以上であることを要旨とする。
【0011】
なお、本発明の第1および第2の燃料電池用セパレータと、本発明の第1および第2の燃料電池用セパレータの製造方法において、上記金属コート層は、上記セパレータ基材上に直接形成される必要はなく、金属コート層とセパレータ基材との間に、異なる金属層がさらに介在することとしてもよい。
【0013】
また、本発明の第1および第2の燃料電池用セパレータの製造方法では、金属コート層を構成する金属の結晶粒の平均粒径が0.1mm以上となる速度で徐冷しており、金属コート層を構成する金属結晶粒の平均粒径が充分に大きいため、金属コート層において粒界の密度が充分に小さくなる。したがって、結晶粒が大きくなることによる既述した効果(金属コート層自身を構成する金属が腐食により溶出したり酸化するのを抑える効果や、金属コート層よりも下側の層を構成する金属が腐食により溶出するのを抑える効果)をより充分に得ることができる。なお、ここで平均粒径とは 例えば結晶粒の状態を画像解析し、各結晶粒が不定形である場合には、各結晶粒と同じ体積を持つ球(あるいは同じ面積をもつ円)の径を求めることによって得ることができる。
【0014】
本発明の第1および第2の燃料電池用セパレータは、前記セパレータ基材表面に所定の処理を施した後、前記金属コート層を設けてなることとしてもよい。
【0015】
また、本発明の第1の燃料電池用セパレータの製造方法において、
前記(a)工程は、前記セパレータ基材表面に所定の処理を施した後、前記溶融金属から成る層を形成する工程であることとしてもよい。
【0016】
また、本発明の第2の燃料電池用セパレータの製造方法において、
前記(c)工程は、前記セパレータ基材表面に所定の処理を施した後、前記めっき層を形成する工程であることとしてもよい。
【0017】
ここで、所定の処理としては、金属コート層とセパレータ基材との密着性を向上させることができる公知の技術すべてを含むことができる。例えば、セパレータ基材と金属コート層との間に、異なる金属層をさらに介在させることにより、両者の間の密着性をさらに向上させることができる。
【0018】
本発明の第1および第2の燃料電池用セパレータにおいて、前記金属コート層を構成する所定の金属は、前記セパレータ基材の材料よりも融点が低い金属であることとしてもよい。
【0019】
なお、このように、前記セパレータ基材の材料よりも融点が低い金属を用いれば、セパレータ基材上で、セパレータ基材を溶融させずにこの金属を溶融させて金属コート層を形成することができるが、前記セパレータ基材の材料よりも融点が低い金属として、一般的な低融点金属を用いれば、金属コート層を形成するための金属をより容易に溶融させることができる。
【0020】
このような本発明の第1および第2の燃料電池用セパレータにおいて、
前記金属コート層は、前記所定の金属に加えて、該所定の金属に添加することでその融点をより低下させる働きを有する物質を、さらに添加して成ることとしてもよい。このような構成とすれば、金属コート層を構成する結晶粒をより大きくし、既述した効果を得やすくなる。
【0021】
また、本発明の第1および第2の燃料電池用セパレータにおいて、前記所定の金属は、スズまたはスズ合金であることとしてもよい。
【0022】
また、本発明の第1および第2の燃料電池用セパレータにおいて、前記所定の金属は、スズよりも融点が低いスズ合金であることとしてもよい。
【0023】
また、本発明の第1および第2の燃料電池用セパレータにおいて、
前記所定の金属はスズ合金から成り、
該スズ合金を構成するスズ以外の元素のうち少なくとも一つの元素は、その酸化物がスズの酸化物よりも導電性が高いこととしてもよい。
【0024】
本発明の第1および第2の燃料電池用セパレータにおいて、前記金属コート層は、複数の導電性粒子を備えることとしてもよい。
【0025】
また、本発明の第1の燃料電池用セパレータの製造方法において、
前記(a)工程で形成する前記所定の溶融金属から成る層は、該所定の溶融金属に加えて、複数の導電性粒子をさらに備えることとしてもよい。
【0026】
また、本発明の第2の燃料電池用セパレータの製造方法において、
前記(c)工程で形成する前記めっき層は、前記所定の金属に加えて、複数の導電性粒子をさらに備えることとしてもよい。
【0027】
このような構成とすれば、前記粒子によって必要な導電性を確保することができる。すなわち、金属コート層が酸化されることによってセパレータの接触抵抗が上昇してしまうのを、効果的に防止することができる。ここで、前記粒子は、上記燃料電池用セパレータを用いて燃料電池を組み立てたときに、燃料電池の内部環境で充分な耐食性と導電性とを保持することが望ましい。
【0028】
本発明の第1および第2の燃料電池用セパレータにおいて、前記金属コート層は、その表面に、耐食性および導電性を有する物質から構成される耐食コート層を備えるため、耐食コート層によって、金属コート層を構成する金属の酸化を防止でき、必要な導電性を確保することができる。
ここで、前記耐食コート層は、貴金属によって構成される貴金属コート層と、高耐食性の導電性セラミックによって構成されるセラミックコート層と、炭素材料によって構成されるカーボンコート層と、から選択されるいずれかの層であることとしても良い。
また、前記耐食コート層は、前記金属コート層表面に形成されると共に貴金属によって構成される貴金属コート層あるいは高耐食性の導電性セラミックによって構成されるセラミックコート層である層と、該層上に形成されて炭素材料によって構成されるカーボンコート層と、を備えることとしても良い。
また、前記耐食コート層は、前記金属コート層が形成された領域に加えて、前記燃料電池内で前記流体の流路を形成する領域上にさらに設けられ、炭素材料によって構成されるカーボンコート層であることとしてもよい。このような構成とすれば、前記燃料電池内で前記流体の流路を形成する領域において、さらに耐食性を高めることができる。
【0029】
また、本発明の第1および第2の燃料電池用セパレータの製造方法において、(f)前記金属コート層の上に、耐食性および導電性を有する物質から構成される耐食コート層を形成する工程を、さらに備えることとしてもよい。
【0030】
このような構成とすれば、耐食性および導電性を有する物質から構成される耐食コート層によって、金属コート層を構成する金属の酸化を防止でき、必要な導電性を確保することができる。なお、上記耐食コート層は、貴金属によって構成される貴金属コート層、あるいは、高耐食性の導電性セラミックによって構成されるセラミックコート層とすることができる。
【0031】
本発明の第1および第2の燃料電池用セパレータにおいて、
前記セパレータ基材において、少なくとも前記金属コート層が形成された領域上に、炭素材料によって構成されるカーボンコート層をさらに備えることとしてもよい。
【0032】
また、本発明の第1および第2の燃料電池用セパレータの製造方法において、(g)前記金属コート層の上に、炭素材料によって構成されるカーボンコート層を形成する工程を
さらに備えることとしてもよい。
【0033】
あるいは、本発明の第1および第2の燃料電池用セパレータの製造方法において、
(h)前記耐食コート層の上に、炭素材料によって構成されるカーボンコート層を形成する工程をさらに備えることとしてもよい。
【0034】
このような構成とすれば、さらに耐食性(腐食による金属の溶出および金属の酸化に対する耐性)に優れた燃料電池用セパレータを得ることができる。後述するように、燃料電池を構成する単セルの内部は、pH2といった厳しい酸性条件となるおそれがあるが、上記した構成の、本発明の第1および第2の燃料電池用セパレータ、あるいは、本発明の第1および第2の燃料電池用セパレータの製造方法によって製造されるセパレータを用いて燃料電池を構成すれば、上記したような厳しい環境下においても、充分な耐食性を実現することができる。
【0037】
本発明の燃料電池は、積層された複数の単セルを備え、水素を含有する燃料ガスと酸素を含有する酸化ガスの供給を受け、電気化学反応によって起電力を得る燃料電池であって、
隣接する前記単セル間に設けられ、前記燃料電池に供給される流体であって前記燃料ガスおよび酸化ガスを含む複数の流体同士が、前記単セル間を越えて混合するのを防ぐセパレータを備え、
該セパレータは、請求項1ないし12いずれか記載の燃料電池用セパレータであることを要旨とする。
【0038】
このような燃料電池によれば、本発明の第1あるいは第2の燃料電池用セパレータを備えるため、燃料電池が発電を行なう際に、セパレータが次第に腐食したりガスセパレータの抵抗が増大するのを防止することができ、充分な性能を長期にわたって保持することができる。
【0039】
【発明の実施の形態】
以上説明した本発明の構成・作用を一層明らかにするために、以下本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。図1は、本発明の好適な一実施例であるセパレータ30の断面の様子を模式的に表わす説明図である。本発明の第1実施例のセパレータ30は、ステンレスによって構成された基板部60と、この基板部60上に形成される層であってニッケルによって構成された下地コート層62と、この下地コート層62上にさらに設けられる層であってスズを含有する低融点金属によって構成された金属コート層64と、金属コート層64上にさらに形成される層であって炭素材料を含有する部材からなるカーボンコート層66とを備えている。本実施例のセパレータ30は、上記金属コート層64を、溶融処理した低融点金属によって形成することを特徴としているが、セパレータ30に関する詳しい説明に先立って、説明の便宜上、まず、セパレータ30を用いて構成される燃料電池について以下に説明する。
【0040】
(1)燃料電池の構成:
本発明の第1実施例であるセパレータ30を用いて構成した燃料電池は、構成単位である単セルを複数積層したスタック構造を有している。図2は、燃料電池の構成単位である単セル28の構成を例示する断面模式図、図3は、単セル28の構成を表わす分解斜視図、図4は、単セル28を積層したスタック構造14の外観を表わす斜視図である。
【0041】
本実施例の燃料電池は、固体高分子型燃料電池である。固体高分子型燃料電池は、湿潤状態で良好な導電性(イオン伝導性)を示す固体高分子からなる膜を電解質層として備えている。このような燃料電池は、アノード側に水素を含有する燃料ガスの供給を受け、カソード側に酸素を含有する酸化ガスの供給を受けて、以下に示す電気化学反応を進行する。
【0042】
→ 2H+2e …(1)
(1/2)O+2H+2e → HO …(2)
+(1/2)O → HO …(3)
【0043】
(1)式はアノードにおける反応、(2)式はカソードにおける反応を表わし、燃料電池全体では(3)式に示す反応が進行する。このように、燃料電池は、燃料電池に供給される燃料が有する化学エネルギを直接電気エネルギに変換するものであり、エネルギ効率が非常に高い装置として知られている。燃料電池の構成単位である単セル28は、図2に示すように、電解質膜21と、アノード22およびカソード23と、セパレータ30a,30bとから構成されている。
【0044】
アノード22およびカソード23は、電解質膜21を両側から挟んでサンドイッチ構造を成すガス拡散電極である。セパレータ30a,30bは、このサンドイッチ構造をさらに両側から挟みつつ、アノード22およびカソード23との間に、燃料ガスおよび酸化ガスの流路を形成する。アノード22とセパレータ30aとの間には燃料ガス流路24Pが形成されており、カソード23とセパレータ30bとの間には酸化ガス流路25Pが形成されている。実際に燃料電池を組み立てるときには、上記単セル28を所定の枚数積層してスタック構造14を形成する。
【0045】
図2では、各セパレータ30a,30bの片面においてだけガス流路を成すリブが形成されているように表わされているが、実際の燃料電池では、図3に示すように、各セパレータ30a,30bは、その両方の面にそれぞれリブ54およびリブ55を形成している。セパレータ30a,30bのそれぞれの片面に形成されたリブ54は隣接するアノード22との間で燃料ガス流路24Pを形成し、セパレータ30の他面に形成されたリブ55は隣接する単セルが備えるカソード23との間で酸化ガス流路25Pを形成する。したがって、セパレータ30a,30bは、ガス拡散電極との間でガスの流路を形成すると共に、隣接する単セル間で燃料ガスと酸化ガスとの流れを分離する役割を果たしている。このように、セパレータ30a,30bは、実際に組み立てられる燃料電池では、形態上、あるいは働きの上で区別はなく、以後、セパレータ30と総称する。
【0046】
なお、各セパレータの表面に形成されたリブ54,55の形状は、ガス流路を形成してガス拡散電極に対して燃料ガスまたは酸化ガスを供給可能であれば良い。本実施例では、各セパレータの表面に形成されたリブ54,55は平行に形成された複数の溝状の構造とした。図2では、単セル28の構成を模式的に表わすために、燃料ガス流路24Pと酸化ガス流路25Pとを平行に表わしたが、燃料電池を組み立てる際に実際に用いるセパレータ30では、各セパレータ30の両面で、リブ54とリブ55とがそれぞれ直交する方向となるように、リブ54,55を形成した。
【0047】
電解質膜21は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。本実施例では、ナフィオン膜(デュポン社製)を使用した。電解質膜21の表面には、触媒としての白金または白金と他の金属からなる合金が塗布されている。
【0048】
アノード22およびカソード23は、共に炭素繊維からなる糸で織成したカーボンクロスにより形成されている。なお、本実施例では、アノード22およびカソード23をカーボンクロスにより形成したが、炭素繊維からなるカーボンペーパまたはカーボンフエルトにより形成する構成も好適である。
【0049】
セパレータ30は、既述したように、金属製の基板部60上に3層のコート層が形成されている。このセパレータ30の周辺部には、4つの穴構造が設けられている。燃料ガス流路24Pを形成するリブ54を連絡する燃料ガス孔50,51と、酸化ガス流路25Pを形成するリブ55連絡する酸化ガス孔52,53である。燃料電池を組み立てたときには、各セパレータ30が備える燃料ガス孔50,51はそれぞれ、燃料電池内部をその積層方向に貫通する燃料ガス供給マニホールドおよび燃料ガス排出マニホールドを形成する。また、各セパレータ30が備える酸化ガス孔52,53は、同じく燃料電池内部をその積層方向に貫通する酸化ガス供給マニホールドおよび酸化ガス排出マニホールドをそれぞれ形成する。
【0050】
以上説明した各部材を備える燃料電池を組み立てるときには、セパレータ30、アノード22、電解質膜21、カソード23、セパレータ30の順序で順次重ね合わせ、その両端にさらに集電板36,37、絶縁板38,39、エンドプレート40,41を配置して、図4に示すスタック構造14を完成する。集電板36,37にはそれぞれ出力端子36A,37Aが設けられており、燃料電池で生じた起電力を出力可能となっている。
【0051】
エンドプレート40は、図4に示すように2つの穴構造を備えている。一つは燃料ガス供給孔42、もう一つは酸化ガス供給孔44である。エンドプレート40と隣接する絶縁板38および集電板36は、エンドプレート40が備える2つの穴構造と対応する位置に同様の2つの穴構造を形成している。この燃料ガス供給孔42は、セパレータ30の備える燃料ガス孔50の中央部に開口している。なお、燃料電池を動作させるときには、燃料ガス供給孔42と図示しない燃料供給装置とが接続され、水素リッチな燃料ガスが燃料電池内部に供給される。同様に、酸化ガス供給孔44は前記セパレータ30の備える酸化ガス孔52の中央部に対応する位置に形成されている。燃料電池を動作させるときには、この酸化ガス供給孔44と図示しない酸化ガス供給装置とが接続され、酸素を含有する酸化ガスが燃料電池内部に供給される。ここで、燃料ガス供給装置と酸化ガス供給装置は、それぞれのガスに対して所定量の加湿および加圧を行なって燃料電池に供給する装置である。
【0052】
また、エンドプレート41は、エンドプレート40とは異なる位置に、2つの穴構造である燃料ガス排出孔と酸化ガス排出孔(図示せず)とを備えている。絶縁板39、集電板37もまたエンドプレート41と同様の位置に、それぞれ2つの穴構造を形成している。エンドプレート41が備える穴構造の一つである燃料ガス排出孔は、セパレータ30の備える燃料ガス孔51の中央部に対応する位置に開口している。もう一つの穴構造である酸化ガス排出孔は、セパレータ30の備える酸化ガス孔53の中央部に対応する位置に開口している。燃料電池を動作させるときには、上記燃料ガス排出孔には図示しない燃料ガス排出装置が接続され、上記酸化ガス排出孔には図示しない酸化ガス排出装置が接続される。燃料電池の内部には、既述したように、単セル内の流路である燃料ガス流路24Pと燃料ガス供給マニホールドと燃料ガス排出マニホールドとが形成されているが、これらの流路によって、燃料電池の内部では、上記燃料ガス供給孔42から燃料ガス排出孔までの間は、燃料ガスが流通可能となるように連通している。また、燃料電池の内部には、既述したように、単セル内の流路である酸化ガス流路25Pと酸化ガス供給マニホールドと酸化ガス排出マニホールドとが形成されているが、これらの流路によって、燃料電池の内部では、上記酸化ガス供給孔44から酸化ガス排出孔までの間は、酸化ガスが流通可能となるように連通している。
【0053】
以上説明した各部材からなるスタック構造14は、その積層方向に所定の押圧力がかかった状態で保持され、燃料電池が完成する。スタック構造14を押圧する構成については図示は省略した。
【0054】
次に、以上のような構成を備えた燃料電池における燃料ガスおよび酸化ガスの流れについて説明する。燃料ガスは、上記した所定の燃料ガス供給装置から、エンドプレート40に形成された燃料ガス孔42を経て燃料電池内部に導入される。燃料電池内部で燃料ガスは、燃料ガス供給マニホールドを介して各単セル28が備える燃料ガス流路24Pに供給され、各単セル28のアノード側で進行する電気化学反応に供される。燃料ガス流路24Pから排出された燃料ガスは、燃料ガス排出マニホールドに集合してエンドプレート41の燃料ガス孔43に達し、この燃料ガス孔43から燃料電池の外部へ排出されて、所定の燃料ガス排出装置に導かれる。
【0055】
同様に酸化ガスは、上記した所定の酸化ガス供給装置から、エンドプレート40に形成された酸化ガス孔44を経て燃料電池内部に導入される。燃料電池内部で酸化ガスは、酸化ガス供給マニホールドを介して各単セル28が備える酸化ガス流路25Pに供給され、各単セル28のカソード側で進行する電気化学反応に供される。酸化ガス流路25Pから排出された酸化ガスは、酸化ガス排出マニホールドに集合してエンドプレート41の酸化ガス孔45に達し、この酸化ガス孔45から上記所定の酸化ガス排出装置に排出される。
【0056】
(2)セパレータ30の構成:
以下に、上記燃料電池が備えるセパレータ30の構成について説明する。セパレータ30は、既述したように、基板部60と、下地コート層62と、金属コート層64と、カーボンコート層66とから構成されている。図5は、セパレータ30の製造工程を表わす説明図である。
【0057】
セパレータ30を製造する際には、まず、ステンレスの薄板を機械的にプレスすることによって、その両面に所定の凹凸形状を有する基板部60を成形する(ステップS100)。ここで、プレス成形によって形成される凹凸形状は、セパレータ30を燃料電池に組み込んだときに、各々の面に形成された凹凸形状によって、既述した燃料ガス流路24Pおよび酸化ガス流路25Pを形成可能となるものである。ステップS100においてステンレス板を機械的にプレスして所定の凹凸形状に成形した基板部60としては、ステンレス板を張り出し成形したものや曲げ加工品、あるいは、ステンレス板を部分的に打ち抜いて成形するハーフシャ品などを用いることができる。
【0058】
次に、ステップS100で得た基板部60に対して表面処理を施し、基板部60を構成するステンレスの表面に形成された不動態層を除去するとともに、不動態層を除去した基板部60上に、下地コート層62を形成する(ステップS110)。ステンレスは、その表面に、導電性を有しない不動態層が形成されているが、このように不動態層を除去した上で下地コート層62を形成することによって、ステンレス表面に形成された不動態層に起因してセパレータ30の導電性が低下してしまう(基板部60上にさらに形成する金属コート層64との間の接触抵抗が上昇してしまう)のを防止している。本実施例では下地コート層62をニッケルによって形成したが、この下地コート層62を構成する金属は、基板部60上に形成可能であって、後述するように金属コート層64を構成する金属よりも充分に融点が高い金属であれば他種の金属によって構成することとしてもよい。例えば、銅など、イオン化傾向がより小さい金属を用いることとしてもよい。なお、下地コート層62は、電解めっき、無電解めっきのいずれの方法によっても形成することができる。また、本実施例では、下地コート層62の厚みは10μmとした。
【0059】
下地コート層62を形成すると、次に、その表面に、スズとビスマスからなる合金めっき層を形成する(ステップS120)。この合金めっき層も、電解めっきあるいは無電解めっきなどの方法によって容易に形成することができるが、本実施例では電解めっきによって形成した。本実施例では、上記めっき層の厚みは、10μmとした。
【0060】
次に、下地コート層62を有する基板部60上に形成した上記めっき層に対して、溶融処理を施す(ステップS130)。上記めっき層を構成するスズとビスマスの合金は、低融点金属であり、適当な温度に加熱することによって、下地コート層62および基板部60に影響を与えることなく上記めっき層を構成する金属だけを溶融させることができる。スズの溶融温度は230℃であり、合金中のスズとビスマスの割合によって合金の溶融温度は変化するが、上記めっき層を構成する低融点金属が充分に液状となる温度で加熱を行なえばよい。
【0061】
ステップS130の溶融処理では、めっき層を構成する低融点金属を溶融させるのに引き続いて、溶融させた金属の冷却を行なう。本実施例では、冷却は空冷によって行なった。すなわち、加熱によって溶融させためっき層を備える基板部60を空気中に放置し、室温においてゆっくりと冷却を行なった。溶融した金属が凝固する際には結晶粒を形成するが、このようにゆっくりと冷却を行なう(徐冷する)ことによって、溶融金属が凝固してなる金属コート層が備える金属結晶粒の大きさをより大きくすることができる。本実施例では、空冷を行なうことによって、平均粒径を0.1mm以上とした。ここで、ゆっくりと冷却を行なう(徐冷の)方法として空冷を挙げたが、結晶粒を充分に成長させることができるならばどのような方法を採っても良い。充分にゆっくりと冷却を行なうことができれば、結晶粒の平均粒径を、1mm以上に成長させることも可能である。このように加熱と冷却とを伴う溶融処理によって、ステップS120で形成したスズとビスマスの合金からなるめっき層を、大きな結晶粒を備える金属コート層64となす。
【0062】
なお、この溶融処理は、充分に酸化を防止できる雰囲気下で実施することが望ましい。簡便な方法としては、めっき層が溶融できる温度のオイル中に浸漬してめっき層を溶融させた後、オイルから取り出して空冷し、溶融した金属を凝固させる方法を挙げることができる。ここで使用するオイルは、めっき層が溶融できる上記温度において分解し難いものとする。例えば、ハンダ用のソルダリングオイルを用いることができる。
【0063】
金属コート層64を形成すると、その表面に、炭素材料を含有する部材からなるカーボンコート層66をさらに形成し(ステップS140)、セパレータ30を完成する。このカーボンコート層66は、黒鉛粒子およびカーボンブラックを炭素材料として含有し、この炭素材料にバインダを混合して形成されている。ここで、用いる黒鉛としては、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、土状黒鉛などを挙げることができ、カーボンブラックとしては、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどを挙げることができる。また、バインダとしては、燃料電池の内部環境(酸性条件下や所定の高温下)において充分に安定な樹脂系材料あるいはゴム系材料などを用いればよい。このような樹脂系材料としては、例えば、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、フェノールエポキシ樹脂などを挙げることができる。また、ゴム系材料としては、例えば、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレンゴム(FPDM)、フッ素ゴム、ニトリルゴム(NBR)、クロロプロピレンゴム(CR)などを挙げることができる。これらの樹脂系材料やゴム系材料を単独、あるいはこれらのうちの複数のものを組み合わせて、バインダとして用いればよい。カーボンコート層66を形成するには、上記炭素材料と溶解したバインダとを混合したものに、下地コート層62および金属コート層64を形成した基板部60を浸漬したり、あるいは上記混合物を金属コート層64上にスプレーすればよい。また、上記混合物を、カーテンフロー塗装により塗布することもできる。なお、本実施例では、カーボンコート層66の厚みは、40μmとした。
【0064】
なお、上記した説明では、基板部60は、プレス成形によって、燃料ガス流路24Pおよび酸化ガス流路25Pを形成するための凹凸形状を、その各々の面に形成することとしたが、異なる構成とすることとしてもよい。例えば、一方の面に燃料ガス流路24Pを形成するための凹凸形状を形成した薄板と、一方の面に酸化ガス流路25Pを形成するための凹凸形状を形成した他の薄板とを用意し、これら2枚の薄板を貼り合わせることによって基板部60を形成することとしてもよい。
【0065】
以上のように構成されたセパレータ30によれば、ステンレスからなる基板部60を覆って、溶融処理を施した低融点金属からなる金属コート層64を設け、さらにその表面に、炭素材料を含有するカーボンコート層66を形成しているため、耐食性および導電性に優れた燃料電池用セパレータを得ることができる。また、このようなセパレータ30を用いて燃料電池を構成することによって、耐久性に優れ、充分な電池性能を有する燃料電池を得ることができる。
【0066】
後述するように、発電を行なっている燃料電池の内部は酸性度が非常に強くなるため、本実施例のセパレータ30が備えるカーボンコート層66のように炭素材料を備える被覆層を、セパレータの表面に設けて、この被覆層によって覆われる内側の金属層を保護しても、被覆層の下側に設けられた金属層(本実施例では、金属コート層64,下地コート層62,基板部60)は次第に腐食(腐食によって金属がイオン化して溶出することと、金属が酸化して不動態を形成することの両方を含む)を受けてしまうおそれがある。
【0067】
腐食によって金属がイオン化して溶出すると、ごく微量であってもこの金属イオンが固体高分子電解質膜中に混入してしまうことで、電解質膜が備えるイオン交換基(スルホン酸基)に上記金属イオンが引き寄せられて、固体高分子電解質膜のプロトン伝導性を損なうことになり、燃料電池の性能を維持していく上で望ましくない。また、不動態は、一般に、導電性を有しない、あるいは導電性が不十分であるため、不動態の形成はセパレータの導電性の低下(接触抵抗の増大)を引き起こす。
【0068】
本実施例のセパレータ30では、カーボンコート層66の下側に設ける金属コート層64を、低融点金属を溶融処理して形成することによって、金属コート層64自身、さらにはその下側の下地コート層62および基板部60が、上記腐食を受けてしまうのを充分に抑えることができる。さらに、本実施例の金属コート層64は、低融点金属として、スズ単体ではなくさらにビスマスを加えた合金を用いているため、より耐食性(溶出や酸化に対する耐性)を高めることができる。溶融処理を施した金属コート層64と耐食性との関わりについては、後にさらに詳しく説明する。
【0069】
ここで、カーボンコート層66の働きについてさらに説明する。カーボンコート層66は、既述したように、炭素材料をバインダによって結着させてなり、このカーボンコート層66は、金属コート層64の表面が直接燃料電池の内部環境にさらされるのを防いでいる。すなわち、発電を行なっている燃料電池の内部環境は、次第に強い酸性状態となる性質を有しているが、金属コート層64上にカーボンコート層66を設けることで、金属コート層64の表面とセパレータ30の表面(カーボンコート層66の表面)との間には、充分なプロトン濃度勾配が生じ、セパレータ30の周囲の環境がpH2となった場合にも、カーボンコート層66に覆われた金属コート層64の表面は、はるかに穏やかな(pHが中性よりの)環境となって、耐食性がより充分に確保される。
【0070】
燃料電池の内部環境を酸性化する要因としては、主として2つ考えられる。燃料電池(例えば固体高分子型燃料電池)では、電解質膜の表面に、白金や白金合金などを備える触媒層が設けられており、通常この触媒層には、上記触媒層を形成するための材料として用いた白金の硫酸塩などが残留している。従って、燃料電池の動作を開始すると、残留していた白金塩が、燃料電池内のガス流路に生じた生成水中に溶出して、燃料電池の内部環境を酸性化する。また、固体高分子型燃料電池が備える固体高分子電解質膜は、プロトン伝導性を実現する官能基としてスルホン酸基を備えているが、この固体高分子電解質膜は、燃料電池が発電を行うのに伴ってスルホン酸基の部分でごく微量ずつ徐々に分解して硫酸を生じ、燃料電池の内部環境を酸性化する。このように白金塩の溶出やスルホン酸基の分解が起こると、燃料電池の内部環境は酸性度を増し、pH2程度になるといわれている。
【0071】
なお、このカーボンコート層66を構成している炭素材料は、ごく微量の水を徐々に浸透させる性質を有しており、さらに、炭素材料とバインダとの界面を介してもごく微量の水が徐々に浸透するおそれがあるため、セパレータを燃料電池内に組み込んで長期的に使用する際には、このように徐々に浸透する微量の水が下側の層の腐食を引き起こすおそれがあるが、本実施例のセパレータ30では、既述したように、下側の金属コート層64を溶融処理した低融点金属で形成することで、金属コート層64においてより優れた耐食性を確保すると共に、金属コート層64よりも下側の層が腐食してしまうのを充分に抑えることができる。炭素材料とバインダとからなる金属コート層64も充分な耐食性を有しているため、セパレータ30全体は高い耐食性を示し、これを用いる燃料電池の耐久性も充分となる。
【0072】
なお、炭素材料を備えるカーボンコート層66は、上記したように金属コート層64における腐食の進行を充分に抑えるという効果に加えて、金属コート層64の表面において、燃料電池が長時間発電を行なう間にたとえ腐食によってごくわずかな金属イオンが金属コート層64を含むより内側の層から溶出した場合にも、この溶出した金属イオンがカーボンコート層66を透過してセパレータ外に排出されるのを抑えるという効果を有している。このように、溶融処理を施した低融点金属によって金属コート層64を形成し、炭素材料を備えるカーボンコート層66を、金属コート層64上にさらに形成することで、セパレータ(を形成する金属部)の腐食の進行を抑えると共に、微量に生じる金属イオンに起因する問題が生じるのを抑えることができるため、このようなセパレータ30を用いることで、耐久性に優れた燃料電池を得ることができる。
【0073】
さらに、本実施例のセパレータ30によれば、セパレータの耐食性および導電性を確保するために貴金属を用いないため、セパレータ製造のコストを抑えることができる。したがって、このようなセパレータを用いた燃料電池全体のコストが上昇しすぎるのを抑えることができる。
【0074】
また、このように貴金属を用いずにセパレータを構成することによって、セパレータの基板部など、より下側の層で腐食が進行するのを抑える効果をさらに高めることができる。イオン化傾向の異なる金属が共存して両者の間に電位差が生じる場合には、両者の間で電池を形成する状態となり、イオン化傾向が大きい方の金属においてより腐食が進行してしまう。本実施例のように卑金属である低融点金属からなる被覆層(金属コート層64)を基板部上に形成する場合には、貴金属からなる被覆層を基板部上に形成する場合よりも、基板部と被覆層との間のイオン化傾向の差が小さくなり、イオン化傾向の差に起因する上記不都合が生じるのを抑えることができる。
【0075】
さらに本実施例のセパレータ30では、金属コート層64と基板部60との間に、下地コート層62を設けているため、基板部60を構成する金属が腐食によって溶出してしまうのを抑える効果をさらに高めることができる。通常、めっき処理によって形成しためっき層は、微少な孔であるピンホール(以下、めっきのミクロ欠陥と呼ぶ)を有しており、このめっきのミクロ欠陥を介してめっき層の下側の層において腐食が進行するおそれがある。これに対して本実施例では、低融点金属を溶融処理することによって、後述するように金属コート層64におけるめっきのミクロ欠陥を削減すると共に、さらにその下側に下地コート層62を設けることによって、基板部60を保護する効果を高め、セパレータ30全体の耐食性を充分に確保している。もとより、カーボンコート層66および金属コート層64によって、基板部60を充分に保護することができるならば、下地コート層62を設けず、基板部60上に直接スズとビスマスの合金からなるめっき層を形成することとしても差し支えない。
【0076】
また、本実施例のセパレータ30では、基板部60はステンレスによって構成したが、導電性や成形性に優れた他の金属、例えばアルミニウムやチタンなどによって構成することとしてもよい。
【0077】
図6は、炭素材料を備えるカーボンコート層66の構成を模式的に表わす説明図である。図6に示すように、カーボンコート層66は、黒鉛粒子同士の間に、これより粒子の大きさが小さいカーボンブラックが配設されてなり、このようにカーボンコート層66の厚さ方向にわたって炭素材料が互いに連接して積み重なることによって、カーボンコート層66全体で充分な導電性を確保している。ここで、炭素材料を結着させるバインダは、耐食性に優れており、また、炭素材料からなる粒子間の隙間を埋めることによって、炭素粒子間の隙間を通じて水が浸透するのを防止する役目を果たしている。このように、充分量のバインダを用いることによって、金属コート層64にまで到達する水の量を充分に抑えることができ、これによってセパレータ30全体の耐食性を向上させることができる。したがって、カーボンコート層66が備える炭素材料の量とバインダの量とは、カーボンコート層66全体で充分な導電性が確保できる範囲で適宜選択すればよい。
【0078】
なお、セパレータ30においては、燃料電池内で隣接する部材と接触する領域で充分な導電性が確保されていればよい。したがって、カーボンコート層66では、少なくとも、上記隣接する部材と接触する領域において充分量の炭素材料を備えていればよく、それ以外の領域では、必ずしも充分量の炭素材料を備えている必要はない。セパレータの導電性に関与しない領域では、単に充分量のバインダを備えることによって、下側の金属層を保護しその腐食を抑える効果を得ることができる。また、炭素材料を備えるカーボンコート層66は、セパレータ外部の環境から遮断して下側の層を保護する性能が充分に確保できるならば、バインダを用いることなく形成することとしてもよい。例えば熱膨張黒鉛は、層構造を成す周知の炭素材料であって、加圧を行なうだけでバインダを用いなくても互いに結着させることができるが、この熱膨張黒鉛を加圧してなる層を浸透する水の量が許容範囲であれば、バインダを用いずに熱膨張黒鉛を加圧成形することによってカーボンコート層66を形成することも可能である。
【0079】
(3)金属コート層64の構成:
以下に、本実施例の金属コート層64のように、低融点金属に対して溶融処理を施すことによる効果について説明する。本実施例は、低融点金属を溶融処理することによって、低融点金属から成る層における金属結晶粒の状態、および、結晶粒間の粒界の状態を変化させることを特徴としている。低融点金属とは、他の金属に比べて融点が低い金属のことを言い、一般には、融点が500℃を越えない金属を指す。このような低融点金属には、例えば、亜鉛(Zn、融点419.5℃)、鉛(Pb、融点327℃)、スズ(Sn、融点232℃)、ビスマス(Bi、融点271.4℃)、カドミウム(Cd、融点320.8℃)などがあるが、本願における低融点金属とは、基板部60を形成する金属よりも融点が低く、既述した溶融処理を施すことが可能な金属を指すこととする。さらに、このような溶融処理を施すことが可能な融点の低い金属を組み合わせて成る低融点の合金も、低融点金属と呼ぶこととする。
【0080】
図5に示したセパレータ30の製造工程に従ってセパレータを製造する際の様子を図7に示す。図7(A)は、下地コート層62上に、スズとビスマスの合金から成るめっき層を形成した様子を表わす。金属は一般に多結晶体であるが、基板部60上にめっき層を形成すると、このめっき層を構成する金属の結晶粒は柱状晶となる。図7(A)では、柱状晶から成るめっき層が形成される様子を、縦線状のハッチを付して表わした。
【0081】
このようなめっき層を形成した基板部60を、めっき層を形成する低融点金属の融点を超える温度で加熱すると、めっき層を形成する低融点金属だけが基板部60上で溶解する。溶解の際には、上記柱状晶からなる結晶構造が壊れて液体状の金属となり、その後の冷却の動作によって凝固する際に、図7(B)に示すように再び多結晶体となる。図7(C)は、完成したセパレータ30の表面の様子を表わす。
【0082】
このような加熱と冷却の工程を含む溶融処理の中で、溶融させた金属を冷却して凝固させる際の冷却の速度によって、再び多結晶体となった金属コート層64を構成する金属の結晶粒の大きさが定まる。冷却をゆっくり行なうほど、形成される結晶粒の大きさは大きくなり、上記実施例のように空気中でゆっくりと冷却することによって、結晶粒をより大きくすることができる。この冷却の方法は、必ずしも空冷である必要はなく、所定の恒温槽中でより厳密に温度管理するなど他の方法によって冷却を行なってもよい。充分にゆっくりと冷却を行なうこととすれば、上記したような加熱と冷却の工程から成る溶融処理を施すことによって、数μm〜数十μmの粒径を持つ結晶粒から成るめっき層を、より大きな粒径、例えば1mm以上の粒径を持つ結晶粒から成る金属層とすることができる。なお、一旦溶融させた薄膜状の金属をこのように再凝固させると、形成される金属結晶は、主に等軸晶となる。
【0083】
既述したように、金属コート層64は、カーボンコート層66内を浸透した水や酸素によって酸化を受けるおそれがあるが、金属コート層64において酸化が進行するときには、金属コート層64を構成する金属結晶粒の粒界から酸化が進行する。すなわち、金属元素が規則的に配列して結合し合う結晶粒内部よりも、連続的な金属の結晶構造がとぎれる粒界の方が、反応性が高く(他の元素と反応を起こしやすく)酸化されやすい。したがって、上記実施例のセパレータ30が備える金属コート層64のように、低融点金属を溶融処理して金属の結晶粒をより大きくすることによって、酸化を受けやすい粒界の密度を削減することができ、金属コート層64の耐酸化性を向上させることができる。このように粒界密度を削減して酸化の進行を抑えることによって、セパレータ30全体の導電性が低下し燃料電池の内部抵抗が上昇してしまうのを抑えることができる。
【0084】
低融点金属を溶融処理して結晶粒を大きくし、粒界密度を低下させることは、上記したように金属コート層64で酸化が進行して導電性が低下するのを抑えるほかに、セパレータ30を構成する金属が腐食して、金属がイオン化して溶出するのを抑える効果を奏することもできる。すなわち、金属の腐食もより反応性の高い部位から進行するが、上記したように反応性の高い粒界の密度が減少することで、金属コート層64において腐食が進行するのを抑えることができる。また、カーボンコート層66内を浸透した水や酸素は、金属コート層64においては粒界を介してさらにセパレータ内部に浸透するおそれがあるが、粒界密度が低下することによって、金属コート層64内を水や酸素が透過して下地コート層62や基板部60が腐食を受け、下地コート層62や基板部60を構成する金属が溶出するのを抑えることができる。
【0085】
さらに、低融点金属から成る層に対して溶融処理を施すことは、上記したように金属コート層64を構成する金属の結晶粒が大きくなって粒界密度が低下することによる効果に加えて、粒界の性質が変り、結晶粒間がより緻密になるという効果を奏する。すなわち、溶融して液状化した金属が冷却される際には、水などの異物が混在しない液体金属において原子間の結合が強まるだけであるため、結晶粒間は非常に緻密である。これに対し、めっきによって形成される金属層は、めっき浴中でそれぞれ独立に成長した結晶粒が出会ったところが境界面となるため、このように結晶粒同士が接するまでは両者の間にはめっき液が存在する。したがって、このようなめっき浴中で生じた結晶粒間に比べて、上記溶融金属から生じる結晶粒間は緻密となり、上記溶融処理によって結晶粒間を緻密化することができる。結晶粒間の粒界の状態がより緻密になることによって、既述しためっきのミクロ欠陥を削減し、粒界を介して下側の層(下地コート層62や基板部60)が腐食を受けるのを抑えることができる。
【0086】
なお、本実施例のセパレータ30では、金属コート層64を構成する低融点金属として、スズとビスマスとの合金を用いたが、スズとビスマスとの合金は溶融処理において凝固させる際に共晶を形成し、これらの元素を混合して用いることで、それぞれを単独で用いる場合よりも融点を低下させることができる。このように、金属コート層64を構成する低融点金属は、それぞれを単独で用いる場合よりも共存させることによってさらに融点が低下する複数の元素から成る構成とすることが望ましい。このような効果が得られる系は、上記したスズとビスマスとの組み合わせに限るものではない。例えば、スズとビスマスとインジウムのうちの任意の2種以上の元素を組み合わせて用いることができる。また、複数の元素を混合して用いる場合には、それぞれの元素の割合も任意に設定することができる。コストを考慮すると、上記した組み合わせの中では、スズを主要な第1元素として用い、これにビスマスとインジウムのいずれか一方あるいは両方を第2元素として混合して用いるのが望ましい。あるいは、金属コート層64を、スズと銅、スズと銀、スズと鉛などの合金を溶融処理して形成することとしても、スズ単独の場合よりも融点を下げる効果を得ることができる。
【0087】
さらに、上記したように複数の元素を組み合わせて金属コート層64を構成する場合には、第2元素は、上記したように第1元素に加えることで融点をより低下させる性質を有する他に、その酸化物の導電性が、第1元素の酸化物の導電性よりも高いという性質を有することが望ましい。また、その場合には、第2元素は第1元素よりも酸素との親和性が強いことが望ましい。このような構成にすることによって、セパレータ全体の導電性を確保する効果を得ることができる。すなわち、酸素との親和力がより強ければ第2の元素は金属コート層64内でセパレータの表面側に移動して第1元素に優先して酸素と結びつこうとし、生じた第2元素の酸化物の導電性が第1元素の酸化物の導電性よりも高ければ、酸化によってセパレータ全体の抵抗が上昇するのを抑えることができる。例えば、スズを第1元素とし、インジウムを第2元素として金属コート層64を形成すると、インジウム酸化物はスズ酸化物よりも導電性が高いため、このような効果を得ることができる。このような効果は、スズとビスマスの組み合わせ以外にも、スズとインジウム、スズと銅、スズと銀などの組み合わせによって金属コート層64を形成する場合にも得ることができる。
【0088】
図8は、上記実施例のセパレータ30と同様の構成を有するセパレータであって、金属コート層64を種々の条件で作製したセパレータに対して、所定の処理を施し、処理の前と後とで接触抵抗の上昇の様子を調べた結果を表わす説明図である。図8において、セパレータAは、金属コート層64をスズとビスマスとの合金めっきで形成して溶融処理を施さなかったもの、セパレータBは、上記実施例と同様に、スズとビスマス合金によって金属コート層64を構成して溶融処理を施したもの、セパレータCは、スズとビスマスとの合金で金属コート層64を形成して溶融処理の冷却時に水冷(水に浸漬して急冷)したもの、セパレータDは、スズによって金属コート層64を構成して溶融処理(空冷による徐冷を伴う)を施したもの、をそれぞれ表わしている。
【0089】
上記所定の処理とは、燃料電池の内部環境と類似した環境中に所定時間さらすことであり、ここでは、それぞれのセパレータに対して、熱水(80℃)に24時間浸漬するという処理を施した。このような処理の前と後で、それぞれのセパレータを用いて単セルを構成し、各単セルにおける接触抵抗を測定した。セパレータの接触抵抗の測定は、各セパレータを、カーボンクロス(既述した単セル28内で隣接する部材であるガス拡散電極に対応する)と重ね合わせて加圧しながら保持し、ここに定電流(1A)を流してその際の電圧降下を測定し、電流値と電圧値とから抵抗値を求めて、上記した処理の前後での抵抗値(接触面積を乗じた値)の変化を調べた(単位は、mΩcm)。図8に示した結果からは、各セパレータを構成する金属において、上記所定の処理によって酸化が進み、導電性に劣る酸化物を形成することによって、接触抵抗が増加する影響を知ることができる。なお、ここでは、加圧して保持するセパレータとガス拡散電極とを合わせた全体の抵抗値を測定しており、セパレータを構成する金属が酸化することで生じる接触抵抗を含めた、燃料電池スタックの様子を反映して加圧などによる影響を受ける総合的な抵抗値によって比較を行なっている。
【0090】
図8に示したセパレータAとセパレータBとの結果より、金属コート層64を形成する際に溶融処理を施すことによって、接触抵抗の上昇を抑える効果が得られるということができる。また、セパレータBとセパレータCとの結果より、このように接触抵抗の上昇を抑える効果は、溶融処理の際に冷却をゆっくり行なって(水冷ではなく空冷で行なって)結晶粒を大きくすることによって顕著に得ることができることがわかる。さらに、セパレータBとセパレータDとの結果より、金属コート層64を構成する低融点金属として第1元素であるスズにさらにビスマスを加えることで、接触抵抗そのものを低く抑える(処理前の抵抗値も低くなる)と共に、酸化によって接触抵抗が上昇してしまうのを抑える効果をさらに高めることができるということができる。
【0091】
なお、図8に示した各セパレータのうち、金属コート層に対して溶融処理を施していないセパレータAは、その金属コート層の結晶粒の平均粒径は数μmであり、溶融処理の際に冷却を空冷によって行なったセパレータBは、同じく結晶粒の平均粒径は0.1mmであり、溶融処理の際に冷却を水冷によって行なったセパレータCは、同じく結晶粒の平均粒径は数十μmである。溶融処理における溶融後の冷却をよりゆっくりと行なって、金属粒の平均粒径をより大きくすることによって、金属コート層を構成する低融点金属に対して溶融処理を行なうことによる効果をより大きくすることができるが、上記したように、結晶粒の平均粒径を0.1mm以上とすることで、セパレータの接触抵抗を抑える上で充分な効果を得ることができる。
【0092】
なお、本実施例では、金属コート層64を、酸化されやすいスズを第1の元素として用いて構成したために、図8に示したように、接触抵抗の増加を抑える効果を顕著に得ることができる。しかしながら、金属コート層64を、スズよりも酸化を受けにくい金属、あるいは腐食による溶出が起こりやすい低融点金属によって形成する場合にも、溶融処理によって粒径を大きく(粒界密度を小さく)し、上記したように粒界の状態を変えることによって、金属コート層64自身が酸化したり溶出したりするのを抑えると共に、より下側の層を構成する金属が溶出するのを抑える既述した効果を得ることができる。
【0093】
また、上記実施例のセパレータ30は、図5に示したように、基板部60および下地コート層62上にまずめっき層を形成し、このめっき層に対して溶融処理を施して金属コート層64を形成したが、金属コート層64を成すめっき層の形成と溶融処理とを同時に行なうこととしても良い。このような製造方法を、第1実施例のセパレータ30の製造方法の変形例として図9に示す。図9に示したセパレータ30の製造工程は、図5に示したセパレータ30の製造工程とほぼ同様の工程から成るが、図5のステップS120およびステップS130に代えて、ステップS125として溶融めっきを行なう。
【0094】
溶融めっきとは、上記したようにめっき層の形成と溶融処理とを同時に行なう処理であり、所定の温度(ただしめっきを施す基材は影響を受けない温度)に加熱して溶融させた液状の低融点金属中に、めっきしたい基材を浸漬して基材上に溶融金属層を形成し、これを冷却することによってめっき層を形成する処理である。上記第1実施例の変形例である図9のセパレータ30の製造工程では、下地コート層62を形成した基板部60を、スズとビスマスから成る液状の溶融金属中に浸漬し、空冷によって冷却して、金属コート層64を形成した。
【0095】
このように、図9に示した製造方法によってセパレータ30を製造した場合にも、金属コート層64において、通常の電気めっきや無電解めっきによって形成しためっき層よりも、粒界密度を抑えると共に、結晶粒の形状も柱状晶ではなく主に等軸晶とすることができ、図5に示した製造方法によって製造したセパレータ30と同様の効果を得ることができる。
【0096】
(4)セパレータ130の構成:
金属コート層64を構成する低融点金属が、酸化物となったときには導電性が低下する金属である場合には、上記したように溶融処理を行なって、粒界密度を減らすことによって酸化の進行を抑えるという構成に加えて、さらに以下のような構成とすることもできる。図10は、第2実施例のセパレータ130の構成を表わす説明図である。図10に示すセパレータ130は、第1実施例のセパレータ30とほぼ同様の構成を有し、同様の燃料電池に組み込まれるため、共通する部材には同じ番号を付して詳しい説明は省略する。セパレータ130は、セパレータ30における金属コート層64の代わりに金属コート層164を備えている。この金属コート層164は、金属コート層64と同様に低融点金属であるスズとビスマスとの合金から成り、溶融処理を施されているが、さらに、導電性粒子165を内部に分散して備えている。金属コート層164が備える導電性粒子165は、金属コート層164の表面(カーボンコート層66と接触する側の表面)から金属コート層164の内部にわたって充分な量が分散している。
【0097】
なお、導電性粒子165は、セパレータ130の製造工程において、あるいは、セパレータ130を燃料電池内部に配設したときに、充分に安定で(腐食を受ける度合いが充分に小さく)、充分な導電性を備える材料から成る粒子であればよい。例えば、黒鉛粒子、貴金属粒子、導電性セラミックの粒子などを用いることができる。導電性を有するセラミックとしては、例えば、窒化チタンや窒化クロムなどの窒化物、あるいは、酸化タングステン、酸化インジウム、ITO(インジウムとスズの複合酸化物)などの酸化物を挙げることができる。
【0098】
このようなセパレータ130を製造するには、図5に示したセパレータ30の製造工程において、基板部60上にスズとビスマスとの合金めっき層を形成する工程(ステップS120)の代わりに、導電性粒子165を分散したスズとビスマスとの合金めっき層を形成する工程を行なえばよい。このような工程では、例えば、下地コート層62を形成した基板部60にめっき処理を施す際に、スズとビスマスとの合金めっきを施すためのめっき浴中に所定量の導電性粒子165を混合しておくことで、導電性粒子165を内部に分散保持したスズとビスマスとの合金めっき層を形成させる。あるいは、溶融させたスズとビスマスに所定量の導電性粒子165を混合し、スプレーによる吹きつけで金属コート層164を形成することとしてもよい。
【0099】
以上のように構成された第2実施例のセパレータ130によれば、セパレータの酸化による接触抵抗の増加(導電性の低下)を、より一層抑える効果を得ることができる。また、このセパレータ130を用いて、第1実施例と同様の燃料電池を構成することにより、セパレータが酸化することに起因して燃料電池の性能が低下するのを抑え、燃料電池の耐久性を向上させることができる。
【0100】
すなわち、金属コート層164を構成するスズとビスマスとの合金における粒界で徐々に酸化が進行する場合にも、この金属コート層164が導電性粒子165を分散保持することで、導電性粒子165によって導電性を確保し、金属コート層164において導電性が低下しすぎるのを抑えることができる。なお、金属コート層164は、低融点金属を溶融処理することで結晶粒を大型化し、粒界密度を低減しているため、内部で酸化が進行するのを抑えることができるが、カーボンコート層66と接する境界である界面の面積は、溶融処理によっても削減することはできない。したがって、上記したように金属コート層164に導電性粒子165を保持させる際には、この導電性粒子165を、少なくともカーボンコート層66との界面に分散保持させることによって、セパレータ全体の導電性を確保する効果を顕著に得ることができる。また、金属コート層164が備える導電性粒子165の量は、セパレータ130に求められる導電性の程度や、導電性粒子165を備える金属コート層164の形成の容易さに応じて適宜決定すればよい。
【0101】
なお、上記第2実施例では、導電性粒子165を分散保持する金属コート層164をスズとビスマスとの合金によって形成したが、他の低融点金属(単独の金属(例えばスズ)または合金(例えばスズとインジウムの合金))によって形成してもよい。スズと同様に、カーボンコート層66が形成された状態で、燃料電池の内部環境において徐々に酸化が進行するおそれがある低融点金属であれば、導電性粒子165を分散保持することによる充分な効果を得ることができる。
【0102】
また、上記第2実施例では、金属コート層164と基板部60との間に下地コート層62を設けたが、基板部60の不動態形成速度が充分に遅ければ、あるいは、基板部60の不動態形成を考慮する必要がないならば、基板部60上に直接金属コート層164を設けることとしてもよい。この場合には、金属コート層164を介して基板部60を構成する金属が腐食によって溶出するのを防ぐために、金属コート層164を充分に厚く形成することが望ましい。
【0103】
(5)セパレータ230の構成:
上記第2実施例では、金属コート層164において導電性粒子165を分散保持させることで、金属コート層164において、特に、金属コート層164とカーボンコート層66との界面において、接触抵抗が増大するのを抑えることとしたが、異なる構成によってこのような接触抵抗を抑えることも可能である。図11は、第3実施例のセパレータ230の構成を表わす説明図である。セパレータ230は、第1実施例のセパレータ30とほぼ同様の構成を有し、同様の燃料電池に組み込まれるため、共通する部材には同じ番号を付して詳しい説明は省略する。セパレータ230は、セパレータ30と同様の金属コート層64とカーボンコート層66との間に、耐食コート層268を備えている。この耐食コート層268は、貴金属(金、銀、白金、ロジウムなど)または、化学的に安定な導電性セラミックス層(TiN,CrN,DLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)など)によって形成される層である。
【0104】
このようなセパレータ230を製造するには、図5に示したセパレータ30の製造工程において、溶融処理によって金属コート層64を形成する工程(ステップS130)の後、あるいは、図9に示したセパレータ30の製造工程において、溶融めっきによって金属コート層64を形成する工程(ステップS125)の後、カーボンコート層66を形成する工程(ステップS140)に先立って、金属コート層64上に貴金属めっきを施す工程を行なえばよい。
【0105】
以上のように構成された第3実施例のセパレータ230によれば、セパレータの酸化による接触抵抗の増加(導電性の低下)を、より一層抑える効果を得ることができる。また、このセパレータ230を用いて、第1実施例と同様の燃料電池を構成することにより、セパレータが酸化することに起因して燃料電池の性能が低下するのを抑え、燃料電池の耐久性を向上させることができる。
【0106】
すなわち、金属コート層64は、低融点金属を溶融処理することで結晶粒を大型化し、粒界密度を低減しているため、内部で酸化が進行するのを抑えることができるが、カーボンコート層66側の界面の面積は、溶融処理によっても削減することはできない。ここで、上記したように金属コート層64上に、貴金属から成る耐食コート層268を形成すると、耐食コート層268に覆われる金属コート層64の表面が酸化されるのを抑えることができる。貴金属は、耐食性に優れ、イオン化して溶出したり酸化する活性が非常に低いため、このような構成とすることで、セパレータ全体の導電性を充分に確保することができる。
【0107】
なお、上記第3実施例では、金属コート層64をスズとビスマスとの合金によって形成したが、他の低融点金属(単独の金属(例えばスズ)または合金(例えばスズとインジウムの合金))によって形成してもよい。スズと同様に、カーボンコート層66が形成された状態で、燃料電池の内部環境において徐々に酸化が進行するおそれがある低融点金属であれば、貴金属から成る耐食コート層268をさらに形成することによる充分な効果を得ることができる。
【0108】
なお、上記第3実施例のセパレータ230では、貴金属に覆われる下側の層である金属コート層64を、低融点金属を溶融処理して形成することによって、この金属コート層が腐食して金属が溶出するのを防止している。したがって、貴金属から成る耐食コート層268は、下側の層を構成する金属が腐食による溶出を起こすのを防止可能なほどに厚く(めっきのミクロ欠陥が充分に抑えられるほどに厚く)形成する必要はなく、金属コート層64の表面の酸化を防止するだけの極薄貴金属めっきでよい。したがって、貴金属を用いることでコストが上昇しすぎるのを抑えることができる。耐食コート層268を設けることで金属コート層64の表面の酸化が防止できるので、セパレータ230の接触抵抗を充分に抑えることができる。
【0109】
また、上記第3実施例では、金属コート層64と基板部60との間に下地コート層62を設けたが、基板部60の不動態形成速度が充分に遅ければ、あるいは、基板部60の不動態形成を考慮する必要がないならば、基板部60上に直接金属コート層64を設けることとしてもよい。この場合には、金属コート層164を介して基板部60を構成する金属が腐食によって溶出するのを防ぐために、金属コート層64を充分に厚く形成することが望ましい。
【0110】
なお、既述した第1ないし第3実施例では、金属コート層と基板部60との間に下地コート層62を設けたが、この下地コート層62は、基板部60と金属コート層との密着性を向上させるために形成している。そのため、基板部60と金属コート層との密着性が充分に高い場合には、下地コート層62を設けなくてもよいことはもちろんである。さらに、基板部60と金属コート層との密着性を向上させることができる技術であれば、下地コート層62を設ける以外の構成であっても、既述した実施例のセパレータに適用することによって、燃料電池における内部抵抗の低減などの所定の効果を得ることができる。
【0111】
また、既述した第1実施例ないし第3実施例では、下地コート層62からカーボンコート層66までを積層する構造は、セパレータ表面全体に形成することとし、これによって導電性と耐食性とを確保したが、このように各層を重ねた構造は、燃料電池内で隣接する部材(上記実施例ではガス拡散電極)と接触するセパレータの接触面のうち、接触抵抗に関わる面に対応する領域のみに設けることとしてもよい。このような構成としても、他の領域において異なる方法で充分な耐食性が確保できれば、セパレータ全体で、所望の耐食性と導電性を実現することができる。
【0112】
なお、燃料電池用セパレータは、既述したようにそのいずれかの面で燃料ガスあるいは酸化ガスの流路を形成するほかに、少なくとも一方の面において、燃料電池の運転温度を調節するための冷却液を通過させる流路を形成する場合がある。このような冷却液流路を形成するセパレータにおいても、本発明を適用することは可能であり、これによって、セパレータの耐食性(腐食による溶出および酸化に対する耐性)を充分に確保することができる。ただし、セパレータにおいて、冷却液の流路を形成する面では、必ずしも上記実施例と同様の構成にする必要はない。すなわち、冷却液を通過させる側は、単セル内部のようにpH2といった厳しい酸性条件下にはならず、冷却液の性質に従って通常はほぼ中性であるため、はるかに金属の腐食が進行しにくい。また、固体高分子電解質膜に直接連通していないため、溶出した金属イオンが直ちに燃料電池の性能に影響することもない。したがって、冷却水の流路を形成する側は、充分な導電性を維持することができ、燃料電池を構成する部材としての充分な耐久性を有していればよい。例えば、既述した各実施例の構成において、カーボンコート層66を備えない構成とすることができる。この場合にも、溶融処理を施した金属層を形成したことによる所定の効果(下側の層の溶出を抑える効果や、接触抵抗の増大を抑える効果)を得ることができる。
【0113】
なお、既述した実施例では、スズとビスマスからなる合金によって形成される金属コート層を備えるセパレータについて説明したが、金属コート層は、このような合金ではなく、既述したように例えばスズだけを用いて形成しても、溶融処理を施すことによる所定の効果を得ることができる。図12に、スズとビスマスとから成る金属コート層64に代えて、溶融処理を施したスズから成る金属コート層を備えるセパレータの性能を評価した結果を、第4実施例および第5実施例として示す。
【0114】
図12で比較を行なった各セパレータは、第3実施例のセパレータ230と同様の構成を備えており、溶融金属であるスズから成る金属コート層上に、貴金属である銀から成る耐食コート層を備える。すなわち、図12では、銀によって形成される耐食コート層と銅によって形成される下地コート層とを備えるセパレータEと、銀によって形成される耐食コート層とスズ(溶融処理なし)によって形成される金属コート層と銅によって形成される下地コート層とを備えるセパレータFと、銀によって形成される耐食コート層とスズ(溶融処理あり)によって形成される金属コート層と銅によって形成される下地コート層とを備えるセパレータG(第4および第5実施例のセパレータに対応)とについて、腐食電流と接触抵抗に関して比較を行なった。
【0115】
ここで、図12においては、接触抵抗を調べる際に用いた各セパレータは、既述した実施例と同様に炭素材料から成るカーボンコート層を備えることとしたが、腐食電流を調べる際に用いた各セパレータは、炭素材料から成るカーボンコート層を備えないこととした。以下、カーボンコート層を備えず腐食電流を調べるために用いたセパレータGを第4実施例のセパレータ、カーボンコート層を備えて接触抵抗を調べるために用いたセパレータGを第5実施例のセパレータと呼ぶ。なお、各セパレータにおいて、銀によって形成される耐食コート層は0.1μmの厚さとし、銅によって形成される下地コート層と、スズによって形成される金属コート層とは、いずれも10μmの厚さとした。また、セパレータE,F,Gを構成する基板部は、アルミニウムによって形成した。
【0116】
図12において、腐食電流について調べた結果とは、燃料電池の内部環境と類似した環境中で腐食電流が生じるかどうかを調べたものであり、これによって腐食の有無が判断できる。図13は、各セパレータについて腐食電流を測定する様子を表わす説明図である。腐食電流の測定は、試料である各セパレータを一方の電極とし、その対極として黒鉛電極を用い、pH2、80℃の硫酸中で、電気的に接続した上記それぞれのセパレータと黒鉛電極との間に流れる(硫酸に浸漬した試料の単位面積当たりの)電流を、腐食電流として測定した(単位は、μA/cm)。測定の対象としているセパレータにおいて腐食が進行するときには、腐食の進行に伴って試料であるセパレータから金属イオン(図13ではMと表わす)が溶出すると共に電流が流れる。なお、このような腐食電流は、pH2,80℃の硫酸中に24時間浸漬後に、それぞれ測定した。
【0117】
また、図12において、接触抵抗の変化を調べた結果とは、上記した各セパレータを燃料電池の内部環境と類似した環境中に所定時間さらし、その前後での接触抵抗の変化を調べた結果である。すなわち、炭素材料からなるカーボンコート層を備えるセパレータE〜Gについて、80℃でpH2の硫酸中に24時間浸漬し、それぞれ、その前後での接触抵抗の変化を調べた。セパレータの接触抵抗の測定は、各セパレータを、カーボンクロス(既述した単セル28内で隣接する部材であるガス拡散電極に対応する)と重ね合わせて加圧しながら保持し、ここに定電流(1A)を流してその際の電圧降下を測定し、電流値と電圧値とから抵抗値を求めて、上記した酸による処理の前後での抵抗値(接触面積を乗じた値)の変化を調べた(単位は、mΩcm)。なお、ここでは、加圧して保持するセパレータとガス拡散電極とを合わせた全体の抵抗値を測定しており、セパレータ表面で生じる接触抵抗を含めた、燃料電池スタックの様子を反映して加圧などによる影響を受ける総合的な抵抗値によって比較を行なっている。
【0118】
図12に示すように、スズから成る金属コート層を溶融処理しないセパレータFと、金属コート層を溶融処理したセパレータG(第4実施例のセパレータ)とを比較すると、セパレータGの方がはるかに腐食電流が小さく、スズ層に対して溶融処理を施すことによってセパレータの耐食性を大きく向上させることができるといえる。ここで、セパレータEは、その金属コート層を構成する銅のイオン化傾向が、セパレータFの金属コート層を構成するスズのイオン化傾向よりも小さいため、セパレータFに比べて腐食電流は小さいが、スズを溶融処理したセパレータG(第4実施例のセパレータ)の腐食電流は、このセパレータEの腐食電流に比べてもさらに小さい(腐食速度が約20分の1以下に抑えられる)。
【0119】
既述したように、腐食電流を測定する際に用いた各セパレータは炭素材料から成るカーボンコート層を備えておらず、また、貴金属から成る耐食コート層は、その厚さが0.1μmと薄く、この耐食コート層によってセパレータの耐食性を確保するには不十分な厚さであるが、セパレータG(第4実施例のセパレータ)では充分に腐食電流が小さくなることから、スズのような低融点金属を溶融処理することによって、セパレータの耐食性を充分に確保することが可能になるといえる。このようなセパレータGにおいて、既述した実施例のように炭素材料から成るカーボンコート層をさらに設けるならば(第5実施例のセパレータに対応)、燃料電池内での長期的な使用にも耐えるより優れた耐食性を備えるセパレータを得ることができるといえる。また、上記セパレータE〜G(このときのセパレータGは、第5実施例のセパレータ)は、貴金属(銀)から成る耐食コート層を備えているため、各セパレータについて測定した接触抵抗は充分に小さい。このように、上記したように溶融処理によって耐食性を充分に高めると共に耐食コート層を備えることによって接触抵抗を充分に抑える(酸化を防ぐ)ことによって、優れた性能のセパレータを得ることができる。
【0120】
なお、図12に示した第5実施例のセパレータでは、第3実施例と同様に、貴金属から成る耐食コート層を設けることで接触抵抗を抑える(酸化を抑える)構成としたが、第2実施例と同様に、溶融処理を施した低融点金属(スズなど)からなる金属コート層において、導電性粒子を備えさせて、接触抵抗を抑えることとしても良い。このような構成としても、溶融処理によって耐食性を充分に向上させると共に、導電性粒子によって導電性を確保して、同様の優れた性能をセパレータにおいて実現することが可能となる。
【0121】
図14は、本発明に基づいて実施可能なセパレータの態様をまとめた説明図である。本発明に基づくセパレータは、セパレータ基材、所定の処理の有無、金属コート層の構成、金属コート層における導電性粒子の有無、耐食コート層の有無、カーボンコート層の有無に関して、セパレータの使用条件に合わせて、図14のいずれの組み合わせでも選択可能である。
【0122】
以上本発明の実施例について説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる様態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の好適な一実施例であるセパレータ30の断面の様子を模式的に表わす説明図である。
【図2】単セル28の構成を例示する断面模式図である。
【図3】単セル28の構成を表わす分解斜視図である。
【図4】スタック構造14の外観を表わす斜視図である。
【図5】セパレータ30の製造工程を表わす説明図である。
【図6】カーボンコート層66の構成を模式的に表わす説明図である。
【図7】セパレータ30を製造する際の様子を表わす説明図である。
【図8】種々のセパレータに対して所定の処理を施し、処理の前と後とで接触抵抗の上昇の様子を調べた結果を表わす説明図である。
【図9】セパレータ30の製造工程の変形例を表わす説明図である。
【図10】セパレータ130の構成を表わす説明図である。
【図11】セパレータ230の構成を表わす説明図である。
【図12】溶融したスズ層を備えるセパレータの性能を評価した結果を表わす説明図である。
【図13】腐食電流を測定する様子を表わす説明図である。
【図14】本発明の実施の態様をまとめた説明図である。
【符号の説明】
14…スタック構造
21…電解質膜
22…アノード
23…カソード
24P…燃料ガス流路
25P…酸化ガス流路
28…単セル
30,130,230…セパレータ
30a,30b…セパレータ
36,37…集電板
36A,37A…出力端子
38,39…絶縁板
40,41…エンドプレート
42…燃料ガス供給孔
44…酸化ガス供給孔
50,51…燃料ガス孔
52,53…酸化ガス孔
54,55…リブ
60…基板部
62…下地コート層
64,164…金属コート層
66…カーボンコート層
165…導電性粒子
268…耐食コート層

Claims (22)

  1. 燃料電池内に組み込まれたときにその表面で流体の流路を形成する燃料電池用セパレータであって、
    セパレータ基材と、
    前記セパレータを燃料電池内に組み込んだときに、隣接する部材と接触する接触面に対応する前記セパレータ基材表面のうち、前記隣接する部材との間の接触抵抗に関わる表面上に少なくとも形成され、所定の金属によって構成される金属コート層と
    前記金属コート層の表面に形成され、耐食性および導電性を有する物質から構成される耐食コート層と
    を備え、
    前記金属コート層は、前記所定の金属を溶融させた後に、徐冷を行なって成ることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
  2. 燃料電池内に組み込まれたときにその表面で流体の流路を形成する燃料電池用セパレータであって、
    セパレータ基材と、
    前記セパレータを燃料電池内に組み込んだときに、隣接する部材と接触する接触面に対応する前記セパレータ基材表面のうち、前記隣接する部材との間の接触抵抗に関わる表面上に少なくとも形成され、所定の金属によって構成される金属コート層と
    前記金属コート層の表面に形成され、耐食性および導電性を有する物質から構成される耐食コート層と
    を備え、
    前記金属コート層は、該金属コート層を構成する前記金属の結晶粒の平均粒径が、0.1mm以上であることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
  3. 前記セパレータ基材表面に所定の処理を施した後、前記金属コート層を設けてなることを特徴とする
    請求項1または2記載の燃料電池用セパレータ。
  4. 前記金属コート層を構成する所定の金属は、前記セパレータ基材の材料よりも融点が低い金属であることを特徴とする
    請求項1ないし3いずれか記載の燃料電池用セパレータ。
  5. 前記金属コート層は、前記所定の金属に加えて、該所定の金属に添加することでその融点をより低下させる働きを有する物質を、さらに添加して成ることを特徴とする
    請求項1または2記載の燃料電池用セパレータ。
  6. 前記所定の金属は、スズまたはスズ合金であることを特徴とする
    請求項1または2記載の燃料電池用セパレータ。
  7. 前記所定の金属は、スズよりも融点が低いスズ合金であることを特徴とする
    請求項1または2記載の燃料電池用セパレータ。
  8. 請求項1または2記載の燃料電池用セパレータであって、
    前記所定の金属はスズ合金から成り、
    該スズ合金を構成するスズ以外の元素のうち少なくとも一つの元素は、その酸化物がスズの酸化物よりも導電性が高いことを特徴とする
    燃料電池用セパレータ。
  9. 前記金属コート層は、複数の導電性粒子を備えることを特徴とする
    請求項1ないし8いずれか記載の燃料電池用セパレータ。
  10. 請求項1ないし9いずれか記載の燃料電池用セパレータであって、
    前記耐食コート層は、貴金属によって構成される貴金属コート層と、高耐食性の導電性セラミックによって構成されるセラミックコート層と、炭素材料によって構成されるカーボンコート層と、から選択されるいずれかの層である
    燃料電池用セパレータ。
  11. 請求項1ないし9いずれか記載の燃料電池用セパレータであって、
    前記耐食コート層は、前記金属コート層表面に形成されると共に貴金属によって構成される貴金属コート層あるいは高耐食性の導電性セラミックによって構成されるセラミックコート層である層と、該層上に形成されて炭素材料によって構成されるカーボンコート層と、を備える
    燃料電池用セパレータ。
  12. 請求項1ないし9いずれか記載の燃料電池用セパレータであって、
    前記耐食コート層は、前記金属コート層が形成された領域に加えて、前記燃料電池内で前記流体の流路を形成する領域上にさらに設けられ、炭素材料によって構成されるカーボンコート層である
    燃料電池用セパレータ。
  13. 積層された複数の単セルを備え、水素を含有する燃料ガスと酸素を含有する酸化ガスの供給を受け、電気化学反応によって起電力を得る燃料電池であって、
    隣接する前記単セル間に設けられ、前記燃料電池に供給される流体であって前記燃料ガスおよび酸化ガスを含む複数の流体同士が、前記単セル間を越えて混合するのを防ぐセパレータを備え、
    該セパレータは、請求項1ないし12いずれか記載の燃料電池用セパレータである
    燃料電池。
  14. 燃料電池内に組み込まれたときにその表面で流体の流路を形成する燃料電池用セパレータの製造方法であって、
    (a)前記燃料電池用セパレータを構成するセパレータ基材上の少なくとも一部の領域に、所定の溶融金属から成る層を形成する工程と、
    (b)前記(a)工程で形成した所定の溶融金属から成る層を、金属の結晶粒の平均粒径が0.1mm以上となる速度で徐冷して凝固させ、金属コート層と成す工程と
    を備えることを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
  15. 前記(a)工程は、前記セパレータ基材表面に所定の処理を施した後、前記溶融金属から成る層を形成する工程であることを特徴とする
    請求項14記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
  16. 前記(a)工程で形成する前記所定の溶融金属から成る層は、該所定の溶融金属に加えて、複数の導電性粒子をさらに備えることを特徴とする
    請求項14または15いずれか記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
  17. 燃料電池内に組み込まれたときにその表面で流体の流路を形成する燃料電池用セパレータの製造方法であって、
    (c)前記燃料電池用セパレータを構成するセパレータ基材上の少なくとも一部の領域に、所定の金属から成るめっき層を形成する工程と、
    (d)前記めっき層を構成する前記所定の金属を、前記セパレータ基材の融点以下の温度で溶融する工程と、
    (e)前記(d)工程で溶融した前記所定の金属を、金属の結晶粒の平均粒径が0.1mm以上となる速度で徐冷して凝固させ、金属コート層と成す工程と
    を備えることを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
  18. 前記(c)工程は、前記セパレータ基材表面に所定の処理を施した後、前記めっき層を形成する工程であることを特徴とする
    請求項17記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
  19. 前記(c)工程で形成する前記めっき層は、前記所定の金属に加えて、複数の導電性粒子をさらに備えることを特徴とする
    請求項17または18記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
  20. 請求項14ないし19いずれか記載の燃料電池用セパレータの製造方法であって、
    (f)前記金属コート層の上に、耐食性および導電性を有する物質から構成される耐食コート層を形成する工程を
    さらに備えることを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
  21. 請求項14ないし19いずれか記載のセパレータの製造方法であって、
    (g)前記金属コート層の上に、炭素材料によって構成されるカーボンコート層を形成する工程を
    さらに備えることを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
  22. 請求項20記載のセパレータの製造方法であって、
    (h)前記耐食コート層の上に、炭素材料によって構成されるカーボンコート層を形成する工程を
    さらに備えることを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
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