JP3597947B2 - 動圧軸受を使用したモータ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば光・磁気ディスク等の記録ディスクを回転駆動するために用いられる潤滑流体による動圧軸受を使用したモータに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、軸部材とスリーブ部材とを相対的に回転自在に支持するために、両者間に介在させた潤滑流体の流体圧力を利用した動圧軸受が用いられている。この種の流体動圧軸受は、軸部材とスリーブ部材との間に、ラジアル荷重を支持するためのラジアル動圧軸受部及びスラスト荷重を支持するスラスト動圧軸受部が配設されている。そして、このような動圧軸受をモータに用いる場合には、軸部材又はスリーブ部材の一方が固定される。即ち、軸部材を固定したときには、軸固定型のモータとなり、スリーブ部材を固定したときには、軸回転型のモータとなる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
この種の動圧軸受では、次の通りの解決すべき問題が存在する。即ち、動圧軸受で使用する潤滑流体つまり潤滑オイルは、通常、その粘度が高温時に低下し、低温時に上昇し、従って、動圧軸受の発生動圧は高温時には大きく、低温時には小さくなる。このため、使用温度範囲の上限での軸受剛性を確保すべく軸受仕様を設定すれば、低温での軸受剛性が過大になり、また、常温での軸受剛性を適正にすべく設定すれば、使用温度上限近くでは剛性不足となり、軸受剛性の温度依存性が非常に大きいと言った問題がある。
【0004】
ここで、軸部材の熱膨張係数をスリーブ部材のそれより大きくして、軸部材とスリーブ部材との間のクリアランスを温度に応じて制御し、軸受剛性の温度依存性を補償することも考えられるが、この場合、軸部材の円筒状外周面及びスリーブ部材の円筒状内周面に高い加工精度が要求され、製造が困難になる問題を有している。しかも、高温時には、クリアランスが極端に小さくなり、軸部材に対してスリーブ部材がロックされる危険性がある。
【0005】
本発明は、従来の技術の有するこのような問題点に留意してなされたものであり、その目的とするところは、比較的簡単な構成で動圧軸受における軸受剛性の温度依存性を大幅に低減し、使用温度範囲内において適正な軸受剛性を安定して得ることができる動圧軸受を使用したモータを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の動圧軸受を使用したモータにおいては、円筒状外周面を有する軸部材と、この円筒状外周面に対向する円筒状内周面を有し軸部材に対し相対的に回転自在であるスリーブ部材と、前記円筒状外周面と前記円筒状内周面との一方もしくは両方に形成され軸方向に間隔を介して配置されたヘリングボーン状溝からなる一対のラジアル動圧発生溝と、前記円筒状外周面と前記円筒状内周面との間に介在された潤滑流体とを備え、軸部材とスリーブ部材のうち固定側に、前記動圧発生溝の中央部と両端部とのそれぞれの中間部を動圧の低い領域に連通する連通路を設け、この連通路に、高温時に開口面積が小になり低温時に開口面積が大になる開口を有する制御弁を配置したことを特徴とするものである。
【0007】
この場合、前記動圧の低い領域を、前記円筒状外周面と前記円筒状内周面との間における、前記一対の動圧発生溝間とするのが望ましく、また、前記制御弁を、断面扇状の開口を有し前記固定側の材質より熱膨張係数の大なる材質により形成された円柱体より構成するのが好ましい。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳述する。
図1は、例えば磁気ディスクを回転駆動する軸固定型のスピンドルモータを示す断面図である。この例では、記録媒体駆動装置の基盤もしくはこれに固定されるモータブラケット2の円形嵌合孔4に、上下方向の軸心線を有する固定の軸部材6の下端部が嵌合固定されている。軸部材6は、上部にスラスト板8が、上端にカバープレート10がそれぞれ外嵌固定され、スラスト板8より下側の外周面に円筒状外周面12が形成されている。
【0009】
軸部材6には、回転スリーブ体14が回転自在に外嵌されている。回転スリーブ体14の下部の小径のスリーブ部16は内周面に円筒状内周面18を有し、軸部材6におけるスラスト板8の下側の部分に外嵌され、その円筒状内周面18が軸部材6の円筒状外周面12に対向している。回転スリーブ体14の上部の拡径部20は、上端部に内嵌固定されたスラストカバー22と共にスラスト板8の上下及び外周部を囲んでいる。
【0010】
回転スリーブ体14の外周部には略円筒状のハブ24が外嵌固定され、ハブ24の下部内周側にロータマグネット26が内嵌固定されている。ステータコアにステータコイルが巻回されてなるステータ28が、ブラケット2に円形嵌合孔4と同軸に突設された支持筒30に外嵌固定され、ロータマグネット26と径方向に相対して回転駆動部を構成している。
【0011】
スラストカバー22の内周下部には、内上方に傾斜するテーパ部32が形成され、軸部材6の外周部のうちスリーブ部16の下端部に相対する部分には、内下方に傾斜するテーパ部34が形成されている。軸部材6と回転スリーブ体14との間隙に、潤滑流体(液体)の一例としての潤滑オイル36が充填されている。その一端すなわちスラスト板8の上側の間隙における潤滑オイル36の内周端部は、スラストカバー22のテーパ部32の基部とスラスト板8の上面の間に臨んで外気に通じ、他端は軸部材6のテーパ部34の基部とスリーブ部16の内周面の間に臨んで外気に通じた状態で毛細管現象によってその潤滑オイル36が保持されている。
【0012】
スラスト板8の上下面、並びにスリーブ部16の内周面(円筒状内周面18)には、それぞれヘリングボーン状溝からなるスラスト動圧発生溝38、40並びにラジアル動圧発生溝42、44(破線で示す)が設けられ、回転スリーブ体14及びスラストカバー22の順方向回転により、それぞれの位置の潤滑オイル36に、スラスト荷重支持圧並びにラジアル荷重支持圧が発生する。これにより、スラスト板8の上下にスラスト動圧軸受手段が構成され、スリーブ部16の外周部にラジアル動圧軸受手段が構成される。なお、これらの溝は、それぞれ相対する部材の側に設けることもできる。
【0013】
軸部材6には、ラジアル動圧軸受手段における両動圧発生溝42、44のそれぞれの対応位置を動圧の低い領域つまり一対の動圧発生溝42、44間に連通する連通路46が設けられている。
すなわち、図2に示すように、まず、軸部材6の軸心位置に、その下端面からスラスト板8よりやや下側の位置にかけて軸方向の縦穴48が形成され、次に、上側のラジアル動圧発生溝42に対応する円筒状外周面12において、動圧発生溝42の中央部(山部)と両端部とのそれぞれの間における中途から前記縦穴48にかけてそれぞれ縦穴48に対し軸方向に直交する高圧側横穴50、51が形成されると共に、下側のラジアル動圧発生溝44に対応する円筒状外周面12において、動圧発生溝44の中央部と両端部とのそれぞれの間における中途から前記縦穴48にかけてそれぞれ縦穴48に対し軸方向に直交する高圧側横穴52、53が形成される。
【0014】
さらに、両ラジアル動圧発生溝42、44間の中間に対応する円筒状外周面12から縦穴48にかけて縦穴48に対し軸方向に直交する低圧側横穴54が形成され、最下段の横穴53より下側の縦穴48を封止部材56により閉塞することにより、円筒状外周面12と円筒状内周面18との間の間隙における、両ラジアル動圧発生溝42、44による動圧発生部分と両ラジアル動圧発生溝42、44間とを軸部材6内部でバイパスする連通路46が形成される。なお、図2では、軸部材6の各横穴50〜54の位置関係の理解のために便宜上スリーブ部16の動圧発生溝42、44が示されている。
【0015】
連通路46の低圧側横穴54には、高温時に開口面積が小になり低温時に開口面積が大になる開口を有する制御弁58が配置されている。具体的には、制御弁58は、図3に示すように、断面扇状の開口60を有し、軸部材6より熱膨張係数の大なる材質により形成された円柱体62よりなっている。この制御弁58を低圧側横穴54に取り付けるには、円柱体62をその開口60の両側面が内方に寄るように縮ませて低圧側横穴54に挿入することにより行われる。
【0016】
このような構成において、スピンドルモータが回転すると、両ラジアル動圧発生溝42、44を有するそれぞれのラジアル動圧軸受手段では、それらに存在する潤滑オイル36の圧力が高められ、かかるオイル層を介して回転スリーブ体14に作用するラジアル荷重を支持する。また、両スラスト動圧発生溝38、40を有するそれぞれのスラスト動圧軸受手段では、それらに存在する潤滑オイル36の圧力が高められ、このオイル層を介して回転スリーブ体14に作用するスラスト荷重を支持する。
【0017】
この動作時、軸部材6の円筒状外周面12とスリーブ部16の円筒状内周面18との間に充填された潤滑オイル36は、その一部が連通路46をバイパスし、循環される。すなわち、両ラジアル軸受手段では、ヘリングボーン溝である動圧発生溝42、44でのそれぞれの中央部が最も圧力大となり溝の両端部に向かうに従って圧力が徐々に小さくなる圧力勾配を呈するが、動圧発生溝42、44の溝領域全体が圧力発生部であり、この部分は高圧域である。他方、両ラジアル軸受手段間では、この部分の潤滑オイル36が両ラジアル軸受手段側に吸引されるため圧力小になり、低圧域となる。連通路46の高圧側横穴50、51、52、53はそれぞれ両ラジアル軸受手段の圧力発生部分に開口され、低圧側横穴54は両ラジアル軸受手段間の低圧域に開口されているため、上記した圧力差により前記圧力発生域それぞれの潤滑オイル36が連通路46内の各高圧側横穴50、51、52、53及び縦穴48を経て低圧側横穴54から前記低圧域に流れ、潤滑オイル36が循環される。
【0018】
潤滑オイル36は、低温時には粘性大、高温時には粘性小となり、何らの対策も施さなければ、動圧軸受部の発生動圧が低温時に高く、高温時に低くなる。上記制御弁58の円柱体62は、軸部材6より熱膨張係数の大なる材質により形成されているので、低温時に図4の実線の状態であった円柱体62が、高温時には同図1点鎖線に示すようにその開口60の両側面が開口内方に寄り、開口断面積が小さくなる。
【0019】
従って、高温時には潤滑オイル36の粘性が小さくなって発生動圧が低くなるが、連通路46の制御弁58における開口60の開口面積が小さくなって潤滑オイル36の循環量が大幅に制限されるため、ラジアル動圧軸受手段における発生動圧の圧力抜けを抑制し、動圧発生溝42、44全域で動圧を発生してラジアル荷重を支持する。
【0020】
他方、低温時には、制御弁58における開口60の開口面積が図2の実線のように大きくなり、潤滑オイル36の前記した循環により、動圧発生溝42、44の両端部から溝中途近くまでの部分で加圧された潤滑オイル36が連通路46を通して低圧側に逃げる。従って、ラジアル荷重を支持する動圧発生部は、動圧発生溝42、44のそれぞれの中央部分つまり動圧発生溝42においては高圧側横穴50、51間、動圧発生溝44においては高圧側横穴52、53間となり、ラジアル荷重を支持する動圧溝幅が小さくなる。この結果、低温時には潤滑オイル36の粘性が大きくなって発生動圧が高くなるが、動圧溝幅が小さくなることにより高温時とほぼ等しいラジアル荷重支持圧が得られることになる。
【0021】
このように、温度に応じて制御弁58における開口60の開口面積を変化させて動圧溝幅つまりベアリング幅を変化させることにより、温度に応じて潤滑オイル36の粘性が変化し発生動圧が変化してもラジアル動圧軸受手段における発生動圧の一定化を図ることができ、使用温度範囲内において軸受剛性をほぼ同レベルに保持することが可能になる。この結果、軸受剛性の温度依存性を減少することができるので、上限温度で必要な軸受剛性を確保した場合でも全使用温度範囲で軸損をほぼ同レベルに保持することができ、従来に比べ低温領域での軸損低減を実現でき、定格電流の低減に寄与することができる。
【0022】
なお、前記図3及び図4における円柱体62の材質(熱膨張係数)や長さ、開口60の開角等は、全使用温度範囲において軸受剛性をほぼ同レベルに保持することができるよう、スピンドルモータにおけるラジアル軸受手段の発生動圧や潤滑オイル36の特性(粘性)等に応じて適宜選定されるものである。
【0023】
以上、本発明に従う動圧軸受を使用したモータの実施の形態について詳述したが、本発明はこれら実施例に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更乃至修正が可能である。
【0024】
例えば、上述した実施の形態においては、軸固定型のスピンドルモータに適用した場合について説明したが、軸回転型のモータにおいても本発明を同様に実施することができる。この場合、回転する軸部材が挿入される固定のスリーブ部材に動圧発生領域と動圧の低い領域とを連通する連通路を設け、この連通路に制御弁を配置するようにすればよい。
【0025】
【発明の効果】
本発明は、以上説明したように構成されているので、次に記載する効果を奏する。
軸部材とスリーブ部材のうち固定側に、ヘリングボーン溝からなる動圧発生溝の中央部と両端部とのそれぞれの中間部と動圧の低い領域とを連通する連通路を設け、この連通路に、高温時に開口面積が小になり低温時に開口面積が大になる開口を有する制御弁を配置したので、高温時には潤滑流体の循環を抑制して動圧発生溝全域でのベアリング幅を確保し、粘性小の潤滑流体によっても所定の動圧を発生させることができると共に、低温時には潤滑流体の循環によって軸受荷重を支持するためのベアリング幅を実質上小さくし、粘性大の潤滑流体による高い発生動圧を高温時とほぼ等しい所定の動圧に押さえることができる。従って、使用温度範囲内における発生動圧の一定化を図り、軸受剛性をほぼ同レベルに保持でき、軸受剛性の温度依存性を減少することができる。この結果、上限温度で必要な軸受剛性を確保した場合でも全使用温度範囲で軸損をほぼ同レベルに保持することができ、従来に比べ低温領域での軸損低減を実現でき、定格電流の低減に大きく寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の動圧軸受を使用したモータをスピンドルモータに適用した場合の実施の形態を示す切断正面図である。
【図2】図1の軸部材の斜視図である。
【図3】図1の制御弁の斜視図である。
【図4】図3の制御弁の正面図である。
【符号の説明】
6 軸部材
12 円筒状外周面
14 回転スリーブ体
16 スリーブ部
18 円筒状内周面
36 潤滑オイル
42、44 ラジアル動圧発生溝
46 連通路
58 制御弁
60 開口
62 円柱体

Claims (3)

  1. 円筒状外周面を有する軸部材と、該円筒状外周面に対向する円筒状内周面を有し前記軸部材に対し相対的に回転自在であるスリーブ部材と、前記円筒状外周面と前記円筒状内周面との一方もしくは両方に形成され軸方向に間隔を介して配置された一対のラジアル動圧発生溝と、前記円筒状外周面と前記円筒状内周面との間に介在された潤滑流体とを備えたモータであって、
    前記ラジアル動圧発生溝は中央部において最も圧力が大きく両端側では圧力が小さい動圧を発生するヘリングボーン形状溝であり、
    前記軸部材と前記スリーブ部材のうち固定側には、
    前記動圧発生溝の中央部と両端部とのそれぞれの軸方向中間部を動圧の低い領域に連通する連通路が設けられており、
    該連通路に、高温時には開口面積が小になり低温時には開口面積が大になる開口を有する制御弁を配置した、ことを特徴とする動圧軸受を使用したモータ。
  2. 前記動圧の低い領域は、前記円筒状外周面と前記円筒状内周面との間における、前記一対の動圧発生溝間である請求項1記載の動圧軸受を使用したモータ。
  3. 前記制御弁は、断面扇状の開口を有し前記固定側の材質より熱膨張係数の大なる材質により形成された円柱体よりなる、請求項1または2記載の動圧軸受を使用したモータ。
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