JP2015039414A - 背筋動作補助装置 - Google Patents

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英樹 戸田
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Abstract

【課題】重量物の持ち上げの際に背筋の動作を確実に補助し、背筋を補助しながら歩行が可能であり、重量物の運搬作業を容易にすることが可能な背筋動作補助装置を提供する。
【解決手段】作業者11の背中に取り付ける肩部材12と、作業者11の背骨に沿って上下方向に取り付けられる固定リンク28を有する。固定リンク28の途中に取り付けられ作業者11の腰に当接する腰部材42と、腰部材42に取り付けられ作業者11の胴に巻き回して固定するベルト44を備える。固定リンク28の下端部に取り付けられ所定の長さを維持し、作業者の股の下に通して身体の前側に達する連結部材38と、連結部材38の先端に取り付けられ作業者11の鼠径部に当接する保持部材40を備える。肩部材12は、固定リンク28に対して、各々ボールねじを利用した第1リニアアクチュエータ16と第2リニアアクチュエータ32により、相対的に移動可能に連結されている。
【選択図】図1

Description

この発明は、作業者の背中に装着して背筋を補助する背筋動作補助装置に関する。
近年、狭隘な空間で重量物を運搬するような引越しや、狭くて重機が入るのが困難な場所での土木工事作業や災害復帰作業、体が不自由な人を移乗したり運搬したりする介護作業などの現場において、重量のある被搬送物を運搬する際に、作業者が装着して身体の動きを補助する筋力補助装置が提案されている。
例えば、農作業等における屈んだ姿勢や中腰での作業の際に姿勢維持の疲労を軽減する装置として、特許文献1に開示されている筋力補助装置は、長手方向の一端部を作業者の肩部に装着し、長手方向の他端部を作業者の下半身に装着して作業者の背部に沿って延在する弾性体と、前記作業者の上半身の曲げ状態を検出する曲げセンサと、弾性体を長手方向に伸長させる電動式ワイヤ巻取器と、曲げセンサの検出結果に応じて電動式ワイヤ巻取器による弾性体の伸長量を制御する制御ユニットが設けられている。
また、特許文献2、特許文献3に開示されているように、作業者の背部に装着され作業者の前方への傾倒に追従移動可能な背中フレームと、背中フレームに取り付けられ作業者の体幹前方へ延出されて利用者の体幹前方側を支持する肩ベルトと、作業者の下肢の前方側に装着される太腿プレートと、一端部が太腿プレートに連結され、他端部が背中フレームと相対移動可能に関節部で連結され相対移動時に非屈曲形状を維持可能な連結フレームと、作動状態において背中フレームの利用者の前方への傾倒を停止させるアクチュエータと、を備えた腰部補助装置も提案されている。この腰部補助装置は、背中に背負った空気圧アクチュエータを駆動させて、腰部にあるプーリを回し、ひざ部に設置したパッドを押し込んで立ち上がり時の力を作り出す。これは、空気圧アクチュエータが伸び縮みすることにより、大腿部に設置されたパッドを押しつけて立ち上がる力を補助するものである。
特開2008−67762号公報 特開2011−87926号公報 WO2011/036906号公報
上記背景技術の特許文献1の場合、屈んだ姿勢や中腰の姿勢を維持するために、電動式ワイヤ巻取器に電力を供給し続けなければならず、コストがかかるものである。また、背中に縮む方向に力が加えられ、身体に負担が大きく、力が荷物を持ち上げるために利用されていないものである。
また、特許文献2と特許文献3に開示された装置の場合、大腿部に設置された太腿プレートを押しつけて立ち上がる力を補助するものであり、重量物を持ち上げるところまでは補助できるものの、その後の歩行ができないため、重量物を運搬するためのアシストシステムとして根幹的な問題となる。また、空気圧によって大腿部を強制的に押し付け屈んだ状態から起立状態まで強制的に駆動させるため、中腰姿勢での重量物維持が出来ないという問題点もある。しかも、空気圧アクチュエータの制御は細かい制御ができず、立ち上がる途中の中腰姿勢を維持する状態で止めることが難しく、中腰姿勢で止めている間も動力を消費するものである。例えば介護現場でベッドから車いすへの移乗動作の際に中腰姿勢を取り続ける必要があるが、これが出来ないため介護現場で使用しにくいものである。しかも、コンプレッサが必要であり装置が大掛かりである。また、特許文献1に開示された装置と同様に、屈んだ姿勢や中腰の姿勢を維持するために電力を供給し続けなければならず、コストがかかるものである。
この他、肩や肘、膝等の関節にDCモータが設けられている筋力補助装置も提案されている。これは、荷物を持ち上げる際や歩行時について筋電や重心位置の変化に対して「特定の時間だけ特定のトルクを与える」という方式で各関節のモータを駆動させているために、必ず一定時間で一定の運動補助を行うものである。作業者が希望する動作を予めプログラムし、毎回切り替えながら対応する事で様々な運動を可能にしているが、作業者が動作中に、任意に速度や姿勢維持を変更するとはできないものである。従って、パターン化された動きのみであり、作業者の動きに追随して任意の角度の前屈状態で止まる等の動きをすることができないものであり、運搬重量の変化についてもプログラムを書き換える手間が発生するものである。また、重量物維持の場合にモータに巨大電流を流し続ける必要があり、稼働時間を長くすることができないものである。DCモータを利用しているため、トルクを発生すると、運搬荷物の重量が増えるほどモータにかかる負荷が大きくなり、電流量が大きくなるだけでなくトルクの制御が困難になる。また、上記の空気圧アクチュエータを利用した筋力補助装置と同様に、立ち上がる途中の中腰姿勢で止めている間も動力を消費し、コストがかかるものである。
また、背中に張ったベルトにワイヤを取り付け、腰部に設置したモータによりワイヤを巻き取り背中を引っ張り上げる筋力補助装置がある。これは、体に沿った駆動機構を持つため装置が大がかりにならないが、アシスト可能な力は弱く、重量物維持等は不可能であり、疲労・負担を軽減する効果しか得られないものである。また、背中をワイヤで引っ張ると背中に圧縮力が強く作用し体に負荷がかかるものであり、モータによる力が効果的に荷物を持ち上げるために利用されていない。
この発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な構造で、重量物の持ち上げの際に背筋の動作を確実に補助し、背筋を補助しながら歩行が可能であり、重量物の運搬作業を容易にすることが可能な背筋動作補助装置を提供することを目的とする。
本発明は、作業者の背中の一対の肩甲骨の間付近に取り付ける肩部材と、前記肩部材に取り付けられ作業者の肩に係止する一対の肩紐と、作業者の背骨に沿って上下方向に取り付けられる固定リンクと、前記固定リンクの途中に取り付けられ作業者の腰に当接する腰部材と、前記腰部材に取り付けられ作業者の胴に巻き回して固定するベルトと、前記固定リンクの下端部に取り付けられ所定の長さを維持する長尺物であり作業者の股の下に通して身体の前側に達する連結部材と、前記連結部材の先端に取り付けられ作業者の鼠径部に当接する保持部材が設けられ、前記肩部材と前記固定リンクは、前記肩部材を移動させる第1リニアアクチュエータと前記第1リニアアクチュエータの角度を変える第2リニアアクチュエータの2軸で相対的に移動可能に連結され、前記第1リニアアクチュエータと前記第2リニアアクチュエータはボールねじを使用する背筋動作補助装置である。前記固定リンクの上端部に、第1リニアアクチュエータの中間部分が、作業者の背骨に対して平行な仮想円上を回転可能に取り付けられ、前記第1リニアアクチュエータの一方の端部は前記肩部材に連結され他方の端部は前記第2リニアアクチュエータの一方の端部に回転可能に連結されている。前記第2リニアアクチュエータの他方の端部は前記固定リンクの下端部に回動可能に連結されている。この背筋動作補助装置は、前記作業者が直立姿勢から前屈姿勢になる時は、前記第1リニアアクチュエータは延びて前記肩部材を前に押し、この時前記第2リニアアクチュエータも延びて、前記第1リニアアクチュエータの前記肩部材と反対側の端部を上昇させ、前記作業者が前屈姿勢から直立姿勢になる時は、前記第1リニアアクチュエータは縮んで前記肩部材を引き起こし、この時第2リニアアクチュエータも縮んで徐々に第1リニアアクチュエータの前記肩部材と反対側の端部を下降させ、前記作業者の背面の近くにコンパクトに引き寄せるものである。
また、前記第1リニアアクチュエータの一端部には第1ロッドが伸縮可能に設けられ、前記第1ロッドは前記肩部材に取り付けられ、前記第2リニアアクチュエータの一端部には第2ロッドが伸縮可能に設けられ、前記第2ロッドは前記第1リニアアクチュエータに取り付けられている。
また、前記第1リニアアクチュエータの側方には、前記第1ロッドの伸縮方向に対して略平行に並ぶ可動リンクが取り付けられ、前記可動リンクの一端部は前記固定リンクの上端部に回転可能に取り付けられ、他方の端部は前記第2リニアアクチュエータの端部に回転可能に取り付けられている。
また、前記肩紐付近に、操作ボタンが設けられていると良い。前記連結部材は、伸縮性をもたない紐体等の柔軟な部材である。また、前記保持部材は、硬い棒体の側周面に弾性体を巻いて作られた棒状のものであり、硬い棒体の長手方向を水平に鼠径部に対して平行に位置するようにセットするものである。
本発明の背筋動作補助装置は、簡単な構造で、重量物の持ち上げの際に背筋の動作を確実に補助し、背筋による引き上げ動作を補助しながら歩行が可能であり、重量物の運搬作業を容易にすることができる。いろいろな姿勢で動きを止めて維持することができ、維持している間は高負荷時でも電力を消費せず、エネルギーコストが安価である。重量物の持ち上げの際に、上体を起こす方向に近い角度で、上体を引き上げる力を加えることができ、腰や背骨に負荷がかからず、エネルギー効率よく、背筋の補助を行うことができる。作業者の必要な時に必要なだけ腰の角度を曲げることができ、自由な動作が可能となる。
この発明の一実施形態の背筋動作補助装置の作業者が前屈姿勢となった状態を示す概略図である。 この実施形態の背筋動作補助装置の作業者が前屈姿勢から直立姿勢となる途中の状態を示す概略図である。 この実施形態の背筋動作補助装置の作業者が直立姿勢となった状態を示す概略図である。 この実施形態の背筋動作補助装置の正面図である。 この実施形態の背筋動作補助装置の持ち上げ動作と持ち下げ動作の際に、第1リニアアクチュエータ16と第2リニアアクチュエータ32の動作の順番や同期タイミングを3パターンに設定し、概略図で説明したものである。 図5のパターン1でこの実施形態の背筋動作補助装置を使用した場合と、しない場合について、重量物の持ち上げ、持ち下げ動作を行い、脊柱起立筋の筋電を測定し、グラフに表したものである。 図6と同じ実験を他の3人の被験者で行い、グラフに表したものである。 図5のパターン1〜3についてこの実施形態の背筋動作補助装置を各々使用した場合と、しない場合について、重量物の持ち上げ、持ち下げ動作を行い、脊柱起立筋の筋電を測定し、グラフに表したものである。 図8と同じ実験を他の3人の被験者で行い、グラフに表したものである。 図5のパターン2についてこの実施形態の背筋動作補助装置を使用した場合としない場合について、2種類の異なる重さの重量物の、持ち上げ、持ち下げ動作を行い、脊柱起立筋の筋電を測定し、グラフに表したものである。
以下、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。図1〜図4はこの発明の一実施形態を示すもので、この実施形態の背筋動作補助装置10は、作業者11の背中の一対の肩甲骨の間付近に取り付ける肩部材12が設けられ、肩部材12は作業者11の筋肉や骨、皮膚を傷めないように柔軟性と弾性を有する素材で作られている。肩部材12には、作業者11の肩にかかる一対の肩紐14が取り付けられている。一対の肩紐14は、作業者11の肩の上から胸の前を通過して互いに交差し、反対側の脇の下を通過して背中に回り、肩部材12に達している。肩紐14は図示しない着脱可能なバックルが設けられ、バックルには図示しない長さ調節手段が設けられている。肩紐14付近には、図示しない後述する操作ボタンが設けられている。
肩部材12には、第1リニアアクチュエータ16が連結されている。第1リニアアクチュエータ16はボールねじを使用したものであり、第1リニアアクチュエータ16には第1ロッド18が設けられ、第1ロッド18は雄ネジ部を有し図示しないボールを介在して図示しないナットに螺合されている。第1ロッド18は第1リニアアクチュエータ16の本体の一方の端部16aから外側に突出して設けられ、第1ロッド18は図示しないモータによって軸回りに回転し突出量が変化するものである。第1ロッド18の先端部18aは肩部材12に軸止され、垂直方向の回転が可能になっている。
第1リニアアクチュエータ16の本体は、端部16aと反対側の端部16bで、取付部材20を介して可動リンク22に固定されている。可動リンク22は、第1ロッド18の伸縮方向に対してほぼ平行で、第1リニアアクチュエータ16の本体の側周面16cの下方に配置され、第1リニアアクチュエータ16の側周面16cとも固定部材24により連結固定されている。可動リンク22の、第1リニアアクチュエータ16に取り付けられた取付部材20と反対側の端部には、回動軸部26を介して固定リンク28が連結されている。固定リンク28は可動リンク22に対して垂直方向の回転が可能に軸止され、作業者11の背骨に沿って取り付けられほぼ垂直に下方に延出し、作業者11の股下付近に達している。
固定リンク28の下端部より少し上には、作業者11の腰に当接する腰部材42が設けられている。腰部材42には、作業者11の胴に巻き回して固定するベルト44が設けられている。ベルト44の途中には、着脱可能な図示しないバックルが設けられ、バックルには長さ調節手段が設けられている。
固定リンク28の下端部には、第2リニアアクチュエータ32が連結されている。第2リニアアクチュエータ32はボールねじを使用したものであり、第2リニアアクチュエータ32には第2ロッド34が設けられ、第2ロッド34は雄ネジ部を有し図示しないボールを介して図示しないナットに螺合されている。第2ロッド34は第2リニアアクチュエータ32の本体の一方の端部32aから側方に突出して設けられ、第2ロッド34は図示しないモータによって軸回りに回転し突出量が変化するものである。第2ロッド34の先端部34aは、第1リニアアクチュエータ16に取り付けられた可動リンク22の、取付部材20に近い位置に回動軸部36を介して連結され、垂直方向の回転が可能に軸止されている。第2リニアアクチュエータ32の、端部32aと反対側の端部32bが、回動軸部30を介して固定リンク28に連結され、垂直方向の回転が可能に軸止されている。
可動リンク22、固定リンク28、第2リニアアクチュエータ32によって作業者11の背面に三角形が形成され、この三角形により第1リニアアクチュエータ16が支持されている。三角形の各角部には回動軸部26,30,36が設けられ、第2リニアアクチュエータ32により三角形の各角度を変えることができ、これにより第1リニアアクチュエータ16の角度を変えることができる。
固定リンク28の下端部には、作業者11の股の下を通過して身体の前側に達する連結部材38が設けられ、連結部材38の先端には作業者11の鼠径部に当接する保持部材40が設けられている。連結部材38は、伸縮性を持たない部材であれば良く、例えば紐体であり、棒体でもよい。連結部材38には図示しない長さ調節手段が設けられ、背筋動作補助装置10を装着した時作業者11の鼠径部に保持部材40が適度に密着する長さに調節する。保持部材40は、容易に変形しない部材で鼠径部に係合可能であれば良く、例えば硬い棒体である鉄パイプ41の側周面に弾性体であるスポンジ43を巻いて作られた棒状のものである。保持部材40は、鉄パイプ41の長手方向を水平に鼠径部に対して平行に位置するようにセットする。
この実施形態では、第1リニアアクチュエータ16と第2リニアアクチュエータ32の操作ボタンが、肩紐14のあごの周辺など、手以外の身体の部位で操作可能な位置に設けられている。また、第三者が操作するリモートコントローラが設けられてもよい。
ここで、リニアアクチュエータの特性について説明する。リニアアクチュエータはボールねじを利用したものであり、電動ベッドやパワーショベル等に使用され、特定のアーム角度を維持するとき高負荷時でも電力を消費せず、ある一定位置を維持し続けることが容易である。高負荷がかかった場合でもボールねじの原理からモータに司令を入れない限り位置が変化することはなく、重量物を持ち上げる動作でも全ての負荷をアクチュエータにかけることができる。しかし、高負荷に対する角度維持能力が高い代わりに、関節を自由に曲げる自由度が減ってしまうという問題があり、この点ではDCモータや、空気圧等のアクチュエータを利用した筋力補助装置よりも、人間が行う膝や肘などの関節の動作を妨げる。しかし、この背筋動作補助装置10は、腰部だけのアシストを目的としたもので、腰関節は他の膝や肘といった関節よりも素早い動きが必要な場面が少なく、特に重量物を運搬する際に負荷はほとんど腰にくるため、腰部専用のアシストを目的とするため問題とならない。
ここで、保持部材40による鼠径部での固定について説明する。鼠径部とは、左右の大腿部の付け根の前の部分を言う。保持部材40による鼠径部での固定がない場合は、背筋動作補助装置10が腰部にベルト44で接続された状態で荷物を持ち上げる動作をすると、腰にベルト44を設置しても荷物46の重みで背筋動作補助装置10自体が前方向にズレ上がったり前方に傾いたりして、固定リンク28の下端部が作業者11から離れ、ある程度のアシスト感は感じるものの、しっかり重量物の重さを預けることが出来ないものとなる。保持部材40を鼠径部で固定することにより、重量物を持ち上げる際に、背筋動作補助装置10がズレ上がったり前方に傾いたりする力に対して、鼠径部によって逆方向に引っ張る力が生まれ、固定リンク28の下端部が作業者11から離れることがなくしっかりと装着され、重量物の重さのすべてを背筋動作補助装置10に預けて荷物46を持ち上げる動作が可能となる。
次に、第1リニアアクチュエータ16と第2リニアアクチュエータ32を使用する二軸構造について説明する。作業者11の前屈姿勢と直立姿勢では、背骨を曲げたり伸ばしたりして腰から肩までの距離は大きく変動するが、この変動を吸収するため、第1リニアアクチュエータ16と第2リニアアクチュエータ32を配置して2軸構造として背骨の曲がりに対応する。しっかり腰を曲げて重量物を持ち上げようとする場合には、かなり腰が曲がることと、背骨も大きくたわむため、腰部の回転のみでは背中を持ち上げる力を生み出しにくい。もし第1リニアアクチュエータ16がなく、第2リニアアクチュエータ32の伸縮のみで補助すると、第2リニアアクチュエータ32が丸めた背中を縮めるような力がかかってしまい、荷物を持ち上げているというよりは背中を圧迫し痛みにつながるものになり、アシスト感が生まれなかった。
次に、この実施形態の背筋動作補助装置10の使用方法について説明する。背筋動作補助装置10の肩部材12を作業者11の背中の一対の肩甲骨の間に当接し、一対の肩紐14を肩にかけて身体の前側で交差させてバックルで係止し、長さ調節手段で身体に密着させる。ベルト44を胴体に巻き回してバックルで係止し、長さ調節手段で腰に腰部材42を密着させる。連結部材38を股の下に通して保持部材40を鼠径部に当接させ、連結部材38の長さを長さ調節手段で身体に適度に密着するように調節する。これにより、図3、図4に示すように背筋動作補助装置10の装着が完了する。直立姿勢で作業者11の背骨の後ろに沿って固定リンク28がほぼ垂直に取り付けられ、可動リンク22,固定リンク28、第2リニアアクチュエータ32による三角形が取り付けられる。この時、第1リニアアクチュエータ16と第2リニアアクチュエータ32は縮んだ状態であり、第1リニアアクチュエータ16は、第1ロッド18の先端部18aが第1リニアアクチュエータ16の端部16bよりも高い位置にあり、端部16bに近づくにつれて作業者11より離れて腰付近の低い位置に達する傾斜で支持されている。第1リニアアクチュエータ16を傾斜して支持するため、第1ロッド18は作業者11の背中に対する角度αが大きくなり、第1ロッド18の縮む力が効率よく作業者11の動作に伝えられる。
そして、第1リニアアクチュエータ16と第2リニアアクチュエータ32に電源を接続する。図1に示すように、作業者11が床に置かれた荷物46を持ち上げるために前屈する時は、第1リニアアクチュエータ16の第1ロッド18と、第2リニアアクチュエータ32の第2ロッド34を身体の前屈動作に合わせて伸ばし、荷物46を手で持つ。この時、第1リニアアクチュエータ16の端部16bは第2リニアアクチュエータ32に押し上げられて水平方向を通過して水平よりも端部16bが第1ロッド18の先端部18aよりも高い角度にセットされ、端部16bが作業者11から離れた位置にくる。
次に、荷物46を手で持ちながら上体を起こして直立姿勢に戻るときは、図2に示すように第1リニアアクチュエータ16の第1ロッド18と、第2リニアアクチュエータ32の第2ロッド34を身体の動作に合わせて徐々に縮める。作業者11が直立姿勢に近づくと、第1リニアアクチュエータ16は水平方向を通過して図3に示す状態に戻り、第2リニアアクチュエータ32も縮まって第1リニアアクチュエータ16は比較的垂直に近い角度になり、作業者11の背中に近い位置に引きよせられてコンパクトとなる。作業者が前屈姿勢から直立姿勢に戻る時に第1リニアアクチュエータ16と第2リニアアクチュエータ32を縮めると、図1において背筋動作補助装置10の回動軸部30付近の下端部が腰部材42を中心に図面上で時計回りに回り上端部が前のめりに倒れ込もうとするが、保持部材40が鼠径部で支えられて回転が抑えられ、確実に上体を引き起こすことができ、荷物46の重量の全てを背筋動作補助装置10に預けて荷物46を持ち上げる動作が可能となる。そして、荷物46を持って直立した状態で歩行して目的の場所まで運び、第1リニアアクチュエータ16と第2リニアアクチュエータ32を伸ばして前屈し、荷物46を床など任意の高さのところに下ろす。なお、作業者11が直立姿勢か前屈姿勢のいずれでも第1リニアアクチュエータ16と第2リニアアクチュエータ32はボールねじで長さを一定にキープして、姿勢を正確に維持することができる。直立姿勢と前屈姿勢の間の任意の姿勢でもキープすることができる。
この実施形態の背筋動作補助装置10によれば、簡単な構造で、重量物の持ち上げの際に背筋を確実に補助し、背筋を補助しながら歩行が可能であり、重量物の運搬作業を容易にすることができる。ボールねじを使用しているため、いろいろな姿勢で動きを止めて正確に維持することができ、維持している間は高負荷時でも電力を消費せず、エネルギーコストの消費がなく、省エネルギーである。重量物の持ち上げの際に、上体を起こす方向に近い角度αで上体を引き上げる力を加えることができ、腰や背骨に負荷がかからず、エネルギー効率がよく、背筋の補助を確実に行うことができる。作業者の必要な時に必要なだけ前屈することができ、自由な動作が可能となる。また、背中を曲げたり伸ばしたりする時に発生する腰から肩までの距離の変動を吸収することが可能であり、体に負担が少ないものとなる。
さらにこの背筋動作補助装置10は、保持部材40により鼠径部で身体前側から支えるため、背筋動作補助装置10が倒れることがなく力が逃げず、大きい力で持ち上げ動作の補助を行うことができる。そして、保持部材40は棒状であり、ほぼ水平に鼠径部に対して平行に取り付けられるため、足の自由度が確保され、荷物46を持って自由に歩行することができる。背筋動作補助装置10は、比較的軽量なため、作業者11の負担が少なく、また着脱が簡単であるため、介護施設、災害現場、建築現場などで、手軽に利用して運搬作業を効率よく補助することができる。その他、肩紐14付近に操作ボタンが設けられている場合、両手に荷物46を持った状態で作業者11は顎等で操作することができる。作業者11の必要な時に姿勢を変えることができ、自由な動作が可能となる。リモートコントローラで第三者が遠隔操作することもでき、便利である。
次に、この発明の背筋動作補助装置10を装着して荷物46を持ち上げる動作を行い、その時に発生する筋電を計測して、効果を調べる実験を行った。荷物46の持ち上げ動作時には、生理学的には脊柱起立筋と大腰筋の二箇所に筋電があらわれることが知られており、ここでは脊柱起立筋の筋電の計測を行い、評価することとした。なお、背筋動作補助装置10の、第1リニアアクチュエータ16と第2リニアアクチュエータ32の動作のタイミングを変えて実験を行った。図5は、持ち上げる動作と下げる動作の際に、第1リニアアクチュエータ16(図中1)と第2リニアアクチュエータ32(図中2)の動作のタイミングを3パターンに設定し、概略図で説明したものである。パターン1は、第1リニアアクチュエータ16と第2リニアアクチュエータ32が、持ち上げの準備として5秒経過後に、同期して動作し8秒間継続して持ち上げる動作をアシストし、5秒経過後に、同期して動作し8秒間継続して下げる動作をアシストするものである。パターン2は、持ち上げる動作と下げる動作の開始時に、第1リニアアクチュエータ16は第2リニアアクチュエータ32より1秒遅れて動作し各々8秒間継続し、合計9秒間アシストするものである。パターン3は、持ち上げる動作と下げる動作の開始時に、第1リニアアクチュエータ16は第2リニアアクチュエータ32より3秒遅れて動作し各々8秒間継続し、合計11秒間アシストするものである。なお、現在のところ俊敏に動くまでは至っていないものの、重量物を持ち上げて運ぶ動作のような時はそれほどの高速性は必要がないと思われる。さらにこれはアクチュエータの選択と電圧の選択により速度コントロールが可能であるため、どの現場でどのくらいの性能が必要かを判明して対応が可能である。
図6は、図5のパターン1で背筋動作補助装置10によるアシストを使用した場合と、しない場合について、10kgの荷物46の持ち上げる動作と、下げる動作を行い、脊柱起立筋の筋電を測定し、グラフに表したものである。縦軸は、筋電に対して全波整流をかけた波形の200ms間の時間平均値をプロットした値を示す。これによると、背筋動作補助装置10を使用した場合の方が、しない場合に比べて筋電は減少し、背筋動作補助装置10の背筋補助効果が高いことが分かる。
図7は、図6と同じ実験を他の3人の被験者で行い、グラフに表したもので、背筋動作補助装置10によるアシストを行った場合と、行っていない場合で、図6の波形を「持ち上げ」「下げる」区間で時間積分した値を示す。いずれの被験者においても、背筋動作補助装置10を使用した場合の方が、しない場合に比べて筋電は減少し、個人差がほぼなく、背筋動作補助装置10の背筋補助効果が高いことが分かる。
図8は、図5のパターン1〜3について背筋動作補助装置10を各々使用した場合と、しない場合について、10kgの荷物46の持ち上げる動作と、下げる動作を行い、脊柱起立筋の筋電を測定し、グラフに表したものである。これによると、アシスト無しの場合は、筋電が大きいことが分かる。パターン1で背筋動作補助装置10を使用した場合は、アシスト無しの場合よりも筋電が小さいことが分かるが、持ち上げる動作の際に、他の動作時に比べて筋電がやや高くなり、アシストが十分ではないことがわかる。パターン2(アクチュエータ1秒ずれ)とパターン3(アクチュエータ3秒ずれ)で背筋動作補助装置10を使用した場合は、劇的に筋電が下がっていることが分かる。まず第2リニアアクチュエータ32が動作して腰が曲がりはじめ、1秒後或いは3秒後に第1リニアアクチュエータ16が動作して背中が曲がることになり、作業者11は自然に背中を保持されている感じがあり、荷物46の重量をすべて背筋動作補助装置10に預けて十分にアシストされることが分かる。
図9は、図8と同じ実験を他の3人の被験者で行い、図7と同様に、「持ち上げ」「下げる」区間で時間積分した値をグラフに表したものである。いずれの被験者も、アシスト無しよりもアシスト有りの方が筋電は下がるが、アシスト有りのうち、パターン1〜3のいずれの効果が高いかは被験者により異なることが分かる。被験者の身長の差等の影響があるとみられ、今後模索することが必要である。
図10は、背筋動作補助装置10を使用した場合と、しない場合について、10kgと20kgの重さが異なる荷物46をそれぞれ持ち上げる動作と下げる動作を行い、脊柱起立筋の筋電を測定し、グラフに表したものである。背筋動作補助装置10の各アクチュエータの動作は、パターン2の通りに1秒ずらして動作させたものである。これによると、荷物の重量が増えればアシスト無しでは当然筋電量が増えるが、背筋動作補助装置10を使用したアシスト有りでは、背中にほとんど負荷がかからなくなり、十分にアシストされ、背筋動作補助装置10の背筋補助効果が高いことが分かる。
10 背筋動作補助装置
11 作業者
12 肩部材
14 肩紐
16 第1リニアアクチュエータ
18 第1ロッド
20 取付部材
22 可動リンク
24 固定部材
26,30,36 回動軸部
28 固定リンク
32 第2リニアアクチュエータ
34 第2ロッド
38 連結部材
40 保持部材
41 鉄パイプ
42 腰部材
43 スポンジ
44 ベルト
46 荷物

Claims (6)

  1. 作業者の背中の一対の肩甲骨の間付近に取り付ける肩部材と、前記肩部材に取り付けられ作業者の肩に係止する一対の肩紐と、作業者の背骨に沿って上下方向に取り付けられる固定リンクと、前記固定リンクの途中に取り付けられ作業者の腰に当接する腰部材と、前記腰部材に取り付けられ作業者の胴に巻き回して固定するベルトと、前記固定リンクの下端部に取り付けられ所定の長さを維持する長尺物であり作業者の股の下に通して身体の前側に達する連結部材と、前記連結部材の先端に取り付けられ作業者の鼠径部に当接する保持部材が設けられ、前記肩部材と前記固定リンクは、前記肩部材を移動させる第1リニアアクチュエータと前記第1リニアアクチュエータの角度を変える第2リニアアクチュエータの2軸で相対的に移動可能に連結され、前記第1リニアアクチュエータと前記第2リニアアクチュエータはボールねじを使用するものであり、前記固定リンクの上端部に、第1リニアアクチュエータの中間部分が、作業者の背骨に対して平行な仮想円上を回転可能に取り付けられ、前記第1リニアアクチュエータの一方の端部は前記肩部材に連結され他方の端部は前記第2リニアアクチュエータの一方の端部に回転可能に連結され、前記第2リニアアクチュエータの他方の端部は前記固定リンクの下端部に回動可能に連結されてなることを特徴とする背筋動作補助装置。
  2. 前記第1リニアアクチュエータの一端部には第1ロッドが伸縮可能に設けられ、前記第1ロッドは前記肩部材に取り付けられ、前記第2リニアアクチュエータの一端部には第2ロッドが伸縮可能に設けられ、前記第2ロッドは前記第1リニアアクチュエータに取り付けられている請求項1記載の背筋動作補助装置。
  3. 前記第1リニアアクチュエータの側方には前記第1ロッドの伸縮方向に対して略平行に並ぶ可動リンクが取り付けられ、前記可動リンクの一端部は前記固定リンクの上端部に回転可能に取り付けられ、他方の端部は前記第2リニアアクチュエータの端部に回転可能に取り付けられている請求項1記載の背筋動作補助装置。
  4. 前記肩紐付近に、操作ボタンが設けられている請求項1記載の背筋動作補助装置。
  5. 前記連結部材は伸縮性をもたない柔軟な部材である請求項1記載の背筋動作補助装置。
  6. 前記保持部材は、硬い棒体の側周面に弾性体を巻いて作られた棒状のものであり、硬い棒体の長手方向を水平に鼠径部に対して平行に位置するようにセットする請求項1記載の背筋動作補助装置。
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