JP2010072636A - 光学物品およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】帯電防止性、反射防止性および耐久性に優れ、むくみの発生しない光学物品およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】眼鏡レンズは、レンズ基材110と、このレンズ基材110の表面に設けられたハードコート層120と、このハードコート層120の上に設けられた反射防止層130とを備えて構成されている。反射防止層130は、屈折率が1.3〜1.5である低屈折率層と、屈折率が1.8〜2.45である高屈折率層とを順に積層したものである。この反射防止層130は、レンズ基材110側から外側に向けて順に配置された第1層131、第2層132、第3層133、第4層134、第5層135、第6層136、第7層である透明導電層137及び第8層138から構成される。
【選択図】図1

Description

本発明は、プラスチック製の光学物品およびその製造方法に関する。
従来、眼鏡レンズ等の光学物品には、ゴースト及びちらつきを防止するためにレンズ基材の表面に反射防止層が設けられている。反射防止層はハードコート層が積層されたレンズ基材の表面に異なる屈折率を持つ物質を交互に積層してなるいわゆる多層反射防止層として形成される。
また、帯電防止のために、反射防止層の一部に透明導電層を含ませたレンズが開示されている(例えば、特許文献1、2および3)。
特開2004−341052号公報 特開平11−149063号公報 特開平4−50801号公報
しかしながら、特許文献1、2および3に記載されているように、透明導電層には通常酸化インジウムスズ(ITO)等が20nm程度以上の厚みで成膜されており帯電防止の効果は得られるものの、これらの材料はガスや水分の透過性が低いため表面にむくみが発生し、レンズの表面に対する反射光が歪んで見えるという問題があった。ここで、むくみとは、レンズの表面の反射光を観察した場合に、反射光の像の輪郭がぼやける、またはかすれて見える状態のことを言う(図6(B)参照)。
さらに、むくみが悪化することによりレンズの耐久性が低下するという問題もあった。
本発明の目的は、帯電防止性、反射防止性および耐久性に優れ、むくみの発生しない光学物品およびその製造方法を提供することである。
本発明の光学物品は、レンズ基材の表面に低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層されてなる反射防止層を備えた光学物品であって、前記反射防止層は、3nm以上9nm以下の厚みである透明導電層を1層有していることを特徴とする。
また、本発明の光学物品において、前記透明導電層は、3.5nm以上7nm以下の厚みであることが好ましい。
この発明では、低屈折率層と高屈折率層とからなる反射防止層の一部に透明導電層を含み、この透明導電層の厚みを3nm以上9nm以下の範囲で形成することとした。透明導電層の厚みが3nm未満であると、帯電防止性の効果を得ることができない。また、透明導電層の厚みが9nmを超えると、むくみが発生し、耐久性が悪化するおそれがある。
ここで、厚みが所定値以上の場合にむくみが発生する理由を、発明者らは以下のように推論している。
透明導電層として厚い膜を形成したとしても、その膜には微小な欠陥が存在しており、その欠陥は散在している。したがって、この欠陥を通じて厚い膜の表面からレンズ基材側へ水分等が浸入する。その結果、水分等が欠陥近傍に存在することになり、レンズ全体としては不均一に水分等が浸入することになる。一方、透明導電層の各層の厚みが9nm以下の場合は、膜全体が粗な状態、つまり、膜全体を通じて水分等が浸入することになる。その結果、レンズ全体に水分等が浸入し、レンズ全体としては均一な状態となる。
このむくみは、レンズ基材がプラスチック等、水分吸収によって屈折率が変化する物質の場合に主に発生する。
なお、透明導電層は、層全体が連続して形成されていなくてもよく、不連続な島状に形成されていてもよい。この場合は、層全体の平均的な厚みが上記の3nm以上9nm以下の範囲であればよく、より好ましくは3.5nm以上7nm以下となる。
したがって、帯電防止性に優れるとともに、むくみの発生しない耐久性に優れた光学物品を提供することができる。
本発明の光学物品において、前記透明導電層は、酸化インジウムスズ(ITO)を含む材料で形成されることが好ましい。
この発明では、透明導電層にITOを含む材料を使用するので、帯電防止効果に優れている。
本発明の光学物品の製造方法は、前述の光学物品の製造方法であって、前記反射防止層を真空蒸着にて前記レンズ基材の表面に形成することを特徴とする。
この発明では、前述の効果を達成することができる光学物品を真空蒸着という従来行われている方法で簡易に実現することができる。
本発明の一実施形態にかかる眼鏡レンズの断面図。 実施形態における反射防止層の製造に用いる蒸着装置の模式図。 本実施例におけるITO膜の厚みと反射率との関係を示すグラフ。 (A)金属電極をプラスチックレンズに当接させた状態を示す断面図、(B)金属電極をプラスチックレンズに当接させた状態を示す上面図。 本実施例におけるむくみの判定方法を示す概略図。 (A)レンズ表面においてむくみのない状態を示す模式図、(B)レンズ表面においてむくみのある状態を示す模式図。 本実施例におけるITO膜の厚みとシート抵抗値との関係を示すグラフ。 本実施例におけるITO膜の各厚みにおける視感度曲線を示すグラフ。
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、光学物品として眼鏡レンズを例示して説明するがこれに限定されるものではない。
図1は本実施形態の眼鏡レンズの断面図である。
図1において、眼鏡レンズ100は、レンズ基材110と、このレンズ基材110の表面に設けられたハードコート層120と、このハードコート層120の上に設けられた反射防止層130とを備えて構成されている。
なお、本実施形態では、ハードコート層120を省略してレンズ基材110の上に直接反射防止層130を形成するものでもよく、さらに、レンズ基材110とハードコート層120との密着性を得るために、レンズ基材110とハードコート層120との界面にプライマー層を設けてもよい。そして、反射防止層130の上には、必要に応じて撥水層や防曇性を有する層を形成するものでもよい。
(1.レンズ基材)
レンズ基材110としては、特に限定されないが、(メタ)アクリル樹脂をはじめとしてスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR−39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する重合性組成物を硬化して得られる透明樹脂等を例示することができる。
(2.ハードコート層)
ハードコート層120としては、本来の機能である耐擦傷性を向上するものであればよい。例えば、ハードコート層120に使用される材料として、メラミン系樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられるが、シリコーン系樹脂を用いたハードコート層が最も好ましい。例えば、金属酸化物微粒子、シラン化合物からなるコーティング組成物を塗布し硬化させてハードコート層120を設ける。このコーティング組成物にはコロイダルシリカ、および多官能性エポキシ化合物等の成分が含まれていてもよい。
金属酸化物微粒子の具体例としてはSiO2、Al23、SnO2、Sb25、Ta25、CeO2、La23、Fe23、ZnO、WO3、ZrO2、In23、TiO2等の金属酸化物からなる微粒子または2種以上の金属の金属酸化物からなる複合微粒子を、分散媒たとえば水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒にコロイド状に分散させたものがあげられる。
このようなハードコート層120を形成する方法としては、ディッピング法、スピンナー法、スプレー法、フロー法により、ハードコート層120の組成物を塗布した後、40〜200℃の温度で数時間加熱乾燥する方法が例示できる。
(3.反射防止層)
反射防止層130は、屈折率が1.3〜1.5である低屈折率層と、屈折率が1.8〜2.45である高屈折率層とを順に積層したものである。この反射防止層130は、レンズ基材110側から外側に向けて順に配置された第1層131、第2層132、第3層133、第4層134、第5層135、第6層136、第7層である透明導電層137及び第8層138から構成され、このうち、第1層131、第3層133、第5層135及び第8層138が低屈折率層であり、第2層132、第4層134及び第6層136が高屈折率層である。
反射防止層130の低屈折率層および高屈折率層である第1層131、第2層132、第3層133、第4層134、第5層135、第6層136および第8層138に使用される無機物の例としては、SiO2、SiO、ZrO2、TiO2、TiO、Ti23、Ti25、Al23、TaO2、Ta25、NbO、Nb23、NbO2、Nb25、CeO2、MgO、Y23、SnO2、MgF2、WO3などが挙げられる。これらの無機物は単独で用いるかもしくは2種以上の混合物を用いる。例えば、第1層131、第3層133、第5層135及び第8層138をSiO2の層とし、第2層132、第4層134及び第6層136をTiO2の層とすることができる。
なお、二酸化ケイ素(SiO2)からなる低屈折率層は、可視光領域の屈折率nが1.40〜1.50である。また、酸化チタン(TiO2)からなる高屈折率層は、可視光領域の屈折率nが2.10〜2.45である。
第7層である透明導電層137に使用される材料としては、例えば、インジウム、スズ、亜鉛のうち少なくとも1種を含む無機酸化物が用いられるが、特に、酸化インジウムスズ(ITO)が好ましく用いられる。
透明導電層137の厚みは、3nm以上9nm以下の範囲に形成される。透明導電層137の厚みが3nm未満であると、帯電防止性の効果を得ることができない。また、透明導電層137の厚みが9nmを超えると、眼鏡レンズの表面にむくみが発生し、耐久性が悪化するおそれがある。より好ましい範囲は3.5nm以上7nm以下である。本実施形態では、例えば、透明導電層137の厚みを4nmとする。
また、透明導電層137は、層全体が連続して形成されていなくてもよく、例えば、不連続な島状に形成された層であってもよい。この場合は、層全体の平均的な厚みが上記の範囲内となる。
透明導電層137は、前述の高屈折率層の一部として設けられることが好ましい。本実施形態では、第6層136に隣接して設けられ、第6層136の一部として反射防止性にも寄与する。そのため、透明導電層137の可視光領域の屈折率は、1.8〜2.4であることが好ましい。
なお、透明導電層137は、反射防止層130の最外層とならない位置であれば、第2層132から第7層137のどの位置に形成されてもよい。これらの位置の中でも、レンズ基材110から最も遠い最外層のレンズ基材110側の位置(本実施形態の第7層137)に形成されることが好ましい。
なお、本実施形態では、反射防止層130は、必ずしも8層で構成されるものに限定されるものではなく、例えば、第1層131がレンズ基材110側であり、低屈折率層と高屈折率層とが交互に配置され、最外層が低屈折率層で形成された構成であれば、他の層構成であってもよい。例えば、第1層、第2層、第3層、第4層、第5層である透明導電層及び第6層の6層から構成するものでもよい。
本実施形態では、低屈折率層である第1層131、第3層133、第5層135及び第8層138にSiO2、高屈折率層である第2層132、第4層134及び第6層136にTiO2、透明導電層137にITOを用いた。
反射防止層130の各層を形成するには、通常のイオンアシスト(IAD)電子ビーム蒸着装置が好適に用いられる。
図2は、本実施形態の反射防止層130の製造に用いる蒸着装置10の模式図である。
図2において、蒸着装置10は、真空容器11、排気装置20、及びガス供給装置30を備えているいわゆる電子ビーム蒸着装置である。
真空容器11は、真空容器11内に蒸着材料がセットされた蒸発源(るつぼ)12、13の蒸着材料を加熱溶解(蒸発)する加熱手段14、レンズ基材110が載置される基材支持台15、レンズ基材110を加熱するための基材加熱用ヒーター16、フィラメント17および導入したガスをイオン化し加速してレンズ基材110に照射するイオン銃18等を備えている。また、必要に応じて真空容器11内に残留した水分を除去するためのコールドトラップや、層厚を管理するための装置等が具備される。層厚を管理する装置としては、例えば、反射型の光学膜厚計や水晶振動子膜厚計などを用いることができる。
蒸発源12、13は、蒸着材料がセットされたるつぼであり、真空容器11の下部に配置されている。着色に用いられる金属は、予め金属酸化物やフッ化物に混ぜられている。
加熱手段14は、フィラメント17の発熱によって発生する熱電子を、図示しない電子銃により加速、偏向して、蒸発源12、13にセットされた蒸着材料に照射し蒸発させる、いわゆる電子ビーム蒸着が行われる。
基材支持台15は、所定数のレンズ基材110を載置する支持台であり、蒸発源12、13と対向した真空容器11内の上部に配置されている。基材支持台15は、レンズ基材110に形成される反射防止層の均一性を確保し、かつ量産性を高めるために回転機構を有することが好ましい。
基材加熱用ヒーター16は、例えば赤外線ランプからなり、基材支持台15の上部に配置されている。基材加熱用ヒーター16は、レンズ基材110を加熱することによりレンズ基材110のガス出しあるいは水分とばしを行い、レンズ基材110の表面に形成される層の密着性を確保する。
なお、基材加熱用ヒーター16には、赤外線ランプの他に抵抗加熱ヒーター等を用いることができる。但し、レンズ基材110の材質がプラスチックの場合には、赤外線ランプを用いることが好ましい。
排気装置20は、真空容器11内を高真空に排気する装置であり、ターボ分子ポンプ21と、真空容器11内の圧力を一定に保つ圧力調整バルブ22とを備えている。
ガス供給装置30は、Ar、N2、O2などのガスを内蔵するガス容器310と、ガスの流量を制御する流量制御装置320とを備えている。ガス容器310に内蔵されたガスは、流量制御装置320を介して真空容器11内に導入される。
圧力計50は、真空容器11内の圧力を検出する。圧力計50によって検出された圧力値に基づき、排気装置20の圧力調整バルブ22が、図示しない制御部からの制御信号により制御されて、真空容器11内の圧力が所定の圧力値に保たれる。
前述した真空容器11内の基材支持台15に、ハードコート層120の形成されたレンズ基材110が載置されてから、蒸着装置10を稼動する。
ここで、透明導電層137、および高屈折率層を構成する第2層132、第4層134、第6層136を形成するにあたり、その成膜条件は、電子銃の加速電圧が5〜10kV、電流値が50〜500mA、イオン銃18の電圧値が200〜1000V、電流値が100〜500mAである。
ここで、電子銃の電流値を大きくするとITO材料中の低沸点成分の蒸発割合が多くなり、ITO膜の透明性が低下する傾向がある。そこで、電子銃の電流値は、100mA以下がより好ましい。
低屈折率層を構成する第1層131、第3層133、第5層135及び第8層138を形成するためには、前述のイオンアシスト法を用いてもよいが、他の方法、例えば、タングステン等の抵抗体に通電し蒸着材料を溶融/気化する方法(いわゆる、抵抗加熱蒸着)、高エネルギーのレーザー光を蒸発させたい材料に照射する方法等を採用してもよい。
次に製造工程について説明する。
まず、ハードコート層120を塗布したレンズ基材110(以下、レンズ基材110と記載する)を基材支持台15に装着し、基材加熱用ヒーター16で加熱処理を行い、レンズ基材110に付着した水分を蒸発させる。
次に、レンズ基材110の表面にイオンクリーニングを実施する。具体的には、イオン銃18を用いて酸素イオンビームを数百eVのエネルギーでレンズ基材110の表面に照射し、レンズ基材110の表面に付着した有機物の除去を行う。この方法により、レンズ基材110の表面に形成する膜の付着力を強固なものとすることができる。なお、酸素イオンの代わりに不活性ガス、例えばアルゴン(Ar)、キセノン(Xe)、窒素(N2)を用いて同様の処理を行ってもよいし、酸素ラジカルや酸素プラズマを照射してもよい。
そして、排気装置20により真空容器11内を十分に排気した後、反射防止層130の形成を実施する。具体的には、蒸発源12および13に蒸着材料であるSiO2、TiO2およびITOをそれぞれの層形成時にセットし、図示しない電子銃を蒸着材料に照射することで蒸着材料を加熱蒸発させ、レンズ基材110の表面に蒸着させる。特に、TiO2およびITOを蒸着させる場合には、酸素イオンビームをイオン銃18からレンズ基材110に対して照射するイオンアシスト蒸着を行うことが好ましい。
各層は、層厚を測定しながら形成され、所望の層厚になった時点で蒸着を停止する。
なお、各層を形成するには、これ以外にも通常の真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等を用いても良い。
以上のようにして各層が形成され、反射防止層130となる。
(4.本実施形態の作用効果)
以上説明した本実施形態によれば、次のような作用効果を得ることができる。
上記実施形態では、反射防止層130の一部に透明導電層137を設け、透明導電層137の厚みを4nmとしたので、帯電防止効果を十分に得ることができるとともに、ガスや水分の透過性にも優れ、むくみの発生を防止することができ、耐久性に優れている。
上記実施形態では、反射防止層130の各層の形成に、真空蒸着法を用いた。特に、透明導電層137を成膜する際は、イオンアシスト蒸着により成膜しているので、ITOで形成される透明導電層137の酸化度が促進され、透明性を向上させることができる。
(5.変形例)
なお、本発明を実施するための構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
例えば、上記実施形態においてレンズ表面の撥水撥油性能を向上させる目的で、反射防止層130の上にフッ素を含有する有機ケイ素化合物からなる防汚層を形成してもよい。フッ素を含有する有機ケイ素化合物としては、例えば、含フッ素シラン化合物を好適に使用することができる。含フッ素シラン化合物は、有機溶剤に溶解し、所定濃度に調整した撥水処理液を用いて有機系反射防止層上に塗布する方法を採用することができる。塗布方法としては、ディッピング法、スピンコート法等を用いることができる。なお、撥水処理液を金属ペレットに充填した後、真空蒸着法などの乾式法を用いて防汚層を形成することも可能である。防汚層の層厚は、特に限定されないが、0.001〜0.5μmが好ましい。より好ましくは0.001〜0.03μmである。防汚層の層厚が薄すぎると撥水撥油効果が乏しくなり、厚すぎると表面がべたつくので好ましくない。また、防汚層の厚さが0.03μmより厚くなると反射防止効果が低下するため好ましくない。
また、反射防止層130の形成方法に制限はなく、イオンアシスト蒸着法以外にも、高周波スパッタリング法、直流スパッタリング法、CVD法(化学気相成長法)イオンプレーティング法等種々の方法が採用できる。
さらに、上記実施形態では、光学物品を眼鏡レンズとして説明したが、本発明の光学物品は眼鏡レンズ以外、例えば、カメラ用レンズ、顕微鏡レンズを始め各種光学レンズとしてもよく、あるいは、プリズム等の光学素子としてもよい。
次に、本発明の実施例について説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
まず、以下の実施例および比較例に示す眼鏡用のプラスチックレンズを作製した。
ハードコート層付きレンズ基材として、セイコースーパーソブリン(セイコーエプソン(株)製)を用いた。
次に、イオンアシスト蒸着法にて反射防止層を以下のように形成した。
まず、ハードコート層付きレンズ基材をアセトンにて洗浄後、真空チャンバー内にて約70℃の加熱処理を行い、ハードコート層付きレンズ基材に付着した水分を蒸発させた。
次に、ハードコート層付きレンズ基材の表面にイオンクリーニングを実施した(実施形態参照)。
イオンクリーニング終了後、十分に真空排気を行い、電子ビームで材料を加熱蒸発させて薄膜を得る真空蒸着法によって以下の表1に示す膜厚(単位:nm)となるように各層
を成膜した。なお、第1層、第2層、第3層、第4層、第5層、第6層および第8層を成膜するときの成膜レートは2nm/secであり、第7層を成膜するときの成膜レートは0.1nm/secであった。
各層に使用した材料は、以下の通りである。
SiO2:顆粒状のSiO2材料。
TiO2:顆粒状のTiO2材料。
ITO:酸化インジウム(InO2)に対して酸化スズ(SnO2)を5質量%混入さ
せた焼結体材料。
なお、各層の屈折率は膜材料によって決まっており、波長550nmにおける屈折率は、SiO2は1.462、TiO2は2.431、ITOは2.1であった。
また、ITO膜の成膜は、以下の条件にて行なった。電子銃の加速電圧を7kV、電流値を50mAとし、ITO膜の酸化を促進させるために真空容器内に毎分15ミリリットルの酸素ガスを導入し、酸素雰囲気とした。また、イオン銃へは毎分35ミリリットルの酸素ガスを導入し、電圧値を500V、電流値を250mAとして酸素イオンビームを照射した。酸素ガスとしては、合計で毎分50ミリリットルの酸素ガスが導入されたことになる。レンズ基材の温度は約60℃であった。光吸収特性を示す消衰係数は、550nmで0.001であった。
また、膜厚の測定は、光学式の膜厚計を用いて成膜時に実施した。
第7層である透明導電層(ITO膜)の場合について具体的に説明する。
ITO膜をガラス基板(白板ガラス)上に薄膜としてλ/4堆積させると、波長550nmにおける光の反射光は図3に示されるように変化する。図3は、ITO膜の厚みと反射率との関係を示すグラフである。
初期の反射率を20%とすると、ITOを堆積した場合、光学膜厚λ/4を堆積したときに反射率が最高値61.7%となる。例えば、5nm堆積したい場合は、20.74%の反射率のところで成膜を停止させればよい。また、10nm堆積したい場合は、22.9%の反射率のところで成膜を停止させる。このように、反射率のモニターを行いながら成膜を実施することにより、所望の膜厚の層を形成することができる。
他の層についても同様にして膜厚の測定を行った。
なお、光学式の膜厚計に限らず、水晶振動子膜厚計を用いて同じように測定を実施してもよい。また、スパッタ装置で成膜する場合は、成膜時間を制御することにより膜厚を調整することができる。
Figure 2010072636
次に、反射防止層の上にフッ素系撥水層を成膜した。
そして、真空チャンバーを大気開放し、レンズ基材を反転して前述と同じ工程で反射防止層を形成し、レンズ基材の両面に反射防止層が形成されたプラスチックレンズを作製した。
実施例1から3および比較例1から4で作製したプラスチックレンズのシート抵抗、帯電効果およびむくみの有無を以下の方法で測定した。
(シート抵抗の測定方法)
図4(A)および(B)に示す金属電極を用いてシート抵抗を測定する。図4(A)は金属電極をプラスチックレンズに当接させた状態を示す断面図、図4(B)は金属電極をプラスチックレンズに当接させた状態を示す上面図である。
図4(A)および(B)に示すように、プラスチックレンズ1の凸面1Aに金属電極61を当接させ、電極間に1kVの電圧を印加し、このときのシート抵抗値を計測した。
(帯電効果の判定方法)
プラスチックレンズの表面上で、眼鏡レンズ用拭き布を1kgの垂直荷重にて10往復こすりつけ、このときに発生した静電気によるごみの付着の有無を調べた。ごみの付着がない場合は帯電効果に優れ、ごみの付着がある場合は帯電効果が劣っている。
(むくみの判定方法)
プラスチックレンズの表面または裏面の表面反射光を観察する。具体的には、図5に示すように、プラスチックレンズ1の凸面1Aにおける蛍光灯71の反射光を観察し、図6(A)に示すように反射光72の像の輪郭がくっきりと明瞭に観察できる場合は「むくみ無し」と判定し、図6(B)に示すように反射光73の像の輪郭がぼやけているまたはかすれて観察できるときは「むくみ有り」と判定する。
これらの測定結果を以下の表2および図7に示す。
Figure 2010072636
表2および図7からわかるように、実施例1から3では、シート抵抗値も問題なく、むくみも発生しない。また、ごみの付着がないことから、帯電防止性にも優れている。
一方、比較例1および2はITOの膜厚が薄いのでむくみは発生しないが、シート抵抗値が大きくごみが付着しており、帯電防止性が劣っている。比較例3および4は膜厚が厚いのでシート抵抗値が低く帯電防止性に優れるが、むくみが発生する。
また、実施例2および比較例1で作製したプラスチックレンズの光学特性に変化がないことを確認するために、一般に使用されている分光光度計を用いて各プラスチックレンズの反射率を測定し、図8に示す視感度曲線を得た。
図8からわかるように、実施例2と比較例1とを比較しても、反射率に関して大きな差はなく、光学特性に問題ないことを確認できた。
本発明は、眼鏡レンズに利用できる他、カメラ用レンズを始め各種光学レンズ等に利用することができる。
110…レンズ基材、120…ハードコート層、130…反射防止層、131…第1層(低屈折率層)、132…第2層(高屈折率層)、133…第3層(低屈折率層)、134…第4層(高屈折率層)、135…第5層(低屈折率層)、136…第6層(高屈折率層)、137…透明導電層(第7層)、138…第8層(低屈折率層)。

Claims (4)

  1. レンズ基材の表面に低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層されてなる反射防止層を備えた光学物品であって、
    前記反射防止層は、3nm以上9nm以下の厚みである透明導電層を1層有していることを特徴とする光学物品。
  2. 請求項1に記載の光学物品において、
    前記透明導電層は、3.5nm以上7nm以下の厚みであることを特徴とする光学物品。
  3. 請求項1または請求項2に記載の光学物品において、
    前記透明導電層は、酸化インジウムスズ(ITO)を含む材料で形成されることを特徴とする光学物品。
  4. 請求項1から請求項3のいずれかに記載された光学物品の製造方法であって、
    前記反射防止層を真空蒸着にて前記レンズ基材の表面に形成することを特徴とする光学物品の製造方法。
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