JP2009084626A - R−t−b系焼結永久磁石用急冷合金およびそれを用いたr−t−b系焼結永久磁石 - Google Patents

R−t−b系焼結永久磁石用急冷合金およびそれを用いたr−t−b系焼結永久磁石 Download PDF

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Abstract


【課題】Rリッチ相が均一かつ微細に分散された組織を有し、粉砕性に優れ、かつ配向度を高めることができるR−T−B系焼結永久磁石用急冷合金の提供。
【解決手段】合金溶湯を急冷してなる薄板状のR−T−B(Rは希土類元素のうち少なくとも一種、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種、Bはほう素)系焼結永久磁石用急冷合金であって、薄板状急冷合金の両主面に核発生点を起点とした放射状組織を有し、前記両主面及び一方主面から他方主面までの領域にある前記両主面に平行な面におけるX線回折パターンの(410)の強度I(410)と(006)の強度I(006)の比I(410)/I(006)が0.2以下であり、前記両主面に対して垂直な方向にc軸が配向していることを特徴とするR−T−B系焼結永久磁石用急冷合金。
【選択図】 図5

Description

この発明は、R−T−B系焼結永久磁石用急冷合金およびそれを用いたR−T−B系焼結永久磁石に関する。
高性能永久磁石として代表的なR−T−B系焼結永久磁石は、三元系正方晶化合物であるR14B型結晶相を主相として含む組織を有し、優れた磁石特性を発揮する。ここで、Rは希土類元素のうち少なくとも一種、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種、Bはほう素である。
近年、R−T−B系焼結永久磁石がその高磁気特性から急激に生産量を伸ばしており、各種モータ用、各種アクチュエータ用、MRI装置用等様々な用途に使用されている。
R−T−B系焼結永久磁石は、磁化作用に寄与する強磁性相であるR14B相からなる結晶を主相とし、非磁性で希土類元素の濃縮した低融点のRリッチ相を含有する組織を有する。R−T−B系焼結永久磁石は、一般に以下のような方法によって製造される。まず、上記R14B相とRリッチ相を含有する合金を鋳造する。溶解、鋳造は、磁石成分に活性なR金属を含むため、一般に真空中又は不活性ガス雰囲気中で行われる。鋳造されたR−T−B系合金を3μm(FSSSで)程度に粉砕して合金粉末にした後、磁場中でプレス成形し、約1000〜1100℃の高温にて焼結し、その後必要に応じ熱処理、機械加工する。さらに必要に応じて、耐食性を向上するためにめっき等の表面処理を施す。
R−T−B系焼結永久磁石において、Rリッチ相は、以下のような重要な役割を担っている。
1)融点が低く、焼結時に液相となり、磁石の高密度化、磁化の向上に寄与する。
2)粒界の凹凸を無くし、逆磁区のニュークリエーションサイトを減少させ保磁力を高める。
3)主相を磁気的に絶縁し保磁力を増加する。
従って、焼結前の成形体においてRリッチ相の分散状態が悪いと、局部的な焼結不良が起こり、磁化の低下や保磁力の低下を招くため、Rリッチ相が均一に分散していることが重要となる。Rリッチ相の分布は、出発原料となるR−T−B系焼結永久磁石用合金の組織に大きく影響される。
Rリッチ相を均一に分散させた合金を製造する方法として、ストリップキャスト法(SC法)などの急冷法が知られている。例えば、SC法は内部が水冷された銅製の鋳造用回転ロール上にR−T−B系合金の溶湯を流して急冷凝固させ、薄板状の合金に鋳造するものであり、αFeの残存がなく、Rリッチ相が均一に分散された、組織が微細で均質な合金を製造することができる。
急冷合金の製造方法として、R(但しRはYを含む希土類元素のうち少なくとも1種)8原子%〜30原子%、B2原子%〜28原子%、Fe42原子%〜90原子%を主成分とする合金を、溶融後、少なくとも室温での保磁力が12kOe以上を有する微細正方晶化合物を形成するような速度で急冷する製造方法が提案されている(特許文献1)。
また、他の従来技術として、R214B結晶粒子を含むR−T−B系合金粉末を準備する準備工程と、該粉末を磁界中に装入して所要の形状の成形体を成形する成形工程と、該成形体を焼結温度で焼結する焼結工程とによって焼結磁石を製造する方法において、上記R−T−B系合金粉末は、溶融状態のR−T−B系合金を準備し、該溶湯を急冷して、所定の平均粒子径を有する上記結晶粒子が均一に分散されておりしかも所定の厚さを有する各々の急冷薄帯及び/又は鱗片状急冷合金は厚さを形成し、上記急冷薄帯及び/又は鱗片状急冷合金を上記厚さより小さく上記平均粒子径より大きな平均粒径を有する粉末に粉砕することによって製造され、上記粉末の各々の粒子は一方向に伸びる結晶粒子を有し、それによって上記粉末は上記磁界中で磁気的に配向することを可能としたことを特徴とする希土類金属−鉄−ホウ素異方性焼結磁石の製造方法が提案されている(特許文献2)。
さらに、他の従来技術として、主相をNd26.7Fe72.3wt%(NdFe14B)、Ndリッチ非磁性相をNd66Fe33wt%とし、Ndリッチ相の割合が8%になるように配合して、片ロール法により急冷した薄帯において、フリー面、ロール面とも良好なc軸配向が得られることが報告されている(非特許文献1)。
特開昭60−89546号公報 特表平2−501101号公報 東北大学金属材料研究所強磁場超伝導材料研究センター年次報告(Vol.2005 Page.140−142(2006.06))
上述したSC法を用いた様々な提案により、Rリッチ相を均一に分散させた合金を製造することが可能となり、R−T−B系焼結磁石の磁気特性は向上した。しかし、電気・電子機器における小型・軽量化及び高機能化が進むに伴い、それらに用いられるR−T−B系焼結磁石にもより一層の高性能化が要求されている。
一般に、R−T−B系焼結磁石は、その配向度が高いほど高い残留磁束密度を示す。SC法により得られた合金は、組織が微細なため、合金の粉砕粉が単結晶になる確率が低下し、磁界中配向が困難となり、例えばインゴット法を用いた場合よりも得られる焼結磁石の配向度が低くなることがある。
SC法により得られた焼結磁石の配向度を向上させるには、合金中のR14B相のデンドライト径を成長させて大きくし、単結晶領域をさらに広くすることが考えられるが、合金を粉砕する際の能率が低下するとともに、微細粉末の粒度分布がブロード化し易くなり、また、Rリッチ相の分散状態が悪化するため、焼結温度を高くする必要が生じ、その結果、保磁力の低下を招くこととなる。
また、粉砕の粒径を小さくして粉砕粉の単結晶比率を高める方法も考えられるが、粉末の酸化防止方法や取り扱いの困難さの点から、問題が多い。
本発明は、Rリッチ相が均一かつ微細に分散された組織を有し、粉砕性に優れ、かつ配向度を高めることができるR−T−B系焼結永久磁石用急冷合金の提供、並びにその急冷合金を用いて、保磁力及び残留磁束密度を向上させた、優れた磁気特性を有するR−T−B系焼結磁石の提供を目的とする。
発明者らは、R−T−B系焼結磁石をより一層高性能化させるために、Rリッチ相をより均一かつ微細に分散させるとともに、配向度をさらに向上させることができる合金について鋭意研究の結果、急冷速度と合金の厚みを制御し、合金表面に特殊な組織を形成するように急冷することによって、合金中のR14B相のデンドライト径を成長させるという手段を用いず、粉砕時の能率低下や微細粉末の粒度分布をブロード化させずに配向度を向上させることができ、かつRリッチ相が均一かつ微細に分散された組織を有するR−T−B系焼結永久磁石用急冷合金が得られることを知見し、この発明を完成した。
本発明のR−T−B系焼結永久磁石用急冷合金は、合金溶湯を急冷してなる薄板状のR−T−B(Rは希土類元素のうち少なくとも一種、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種、Bはほう素)系焼結永久磁石用急冷合金であって、薄板状急冷合金の両主面に核発生点を起点とした放射状組織を有し、前記両主面及び一方主面から他方主面までの領域にある前記両主面に平行な面におけるX線回折パターンの(410)の強度I(410)と(006)の強度I(006)の比I(410)/I(006)が0.2以下であり、前記両主面に対して垂直な方向にc軸が配向していることを特徴とする。
また、本発明のR−T−B系焼結永久磁石用急冷合金は、上記構成において、厚みが0.05mm以上、0.2mm以下であることを特徴とする。
また、本発明のR−T−B系永久磁石用急冷合金は、上記構成において、急冷方法が単ロール法であることを特徴とする。
さらに、本発明は、上記R−T−B系焼結永久磁石用急冷合金を用いたR−T−B系焼結永久磁石を特徴とする。
この発明によれば、Rリッチ相が均一かつ微細に分散された組織を有し、粉砕性に優れ、かつ配向度を高めることができるR−T−B系焼結永久磁石用急冷合金を提供することができる。
また、本発明による急冷合金を用いることにより、Rリッチ相が均一かつ微細に分散されることによって保磁力が向上され、配向度を高めることによって残留磁束密度が向上された、優れた磁気特性を有するR−T−B系焼結永久磁石を提供することができる。
本発明のR−T−B系焼結永久磁石用急冷合金は、薄板状急冷合金の両主面に核発生点を起点とした放射状組織を有し、前記両主面及び一方主面から他方主面までの領域にある前記両主面に平行な面におけるX線回折パターンの(410)の強度I(410)と(006)の強度I(006)の比I(410)/I(006)が0.2以下であり、前記両主面に対して垂直な方向にc軸が配向していることを特徴とする。
両主面に核発生点を起点とした放射状組織となすことにより、両主面及び一方主面から他方主面までの領域にある両主面に平行な面におけるX線回折パターンに、R14B相のc面である(004)、(006)、(008)の回折ピークが認められ、そのうち、最も高い強度を示す(006)と、粉末X線回折法におけるR14B相の最強ピークである(410)との強度比I(410)/I(006)を測定すると、両主面及び一方主面から他方主面までの領域にある両主面に平行な面のそれぞれにおいて、前記強度比が0.2以下となる。
すなわち、両主面及び一方主面から他方主面までの領域にある両主面に平行な面のそれぞれの面に平行にR14B相のc面が存在しており、前記各面のそれぞれの面において、大部分がR14B相のc面で占められている。
14B相においては、c面の法線であるc軸が磁化容易軸である。本発明による急冷合金は、c面が存在する、両主面及び一方主面から他方主面までの領域にある両主面に平行な面に対して垂直な方向にc軸が配向している。なお、本発明においては、両主面及び一方主面から他方主面までの領域にある両主面に平行な面を代表する形で「両主面に対して垂直な方向にc軸が配向している」と表記する。また、後述の如く、本発明の急冷合金を単ロール法にて製造する場合は、両主面のうち、一方主面が冷却面、他方主面が放冷面となるため、この場合は、冷却面を代表とする形で「冷却面に対して垂直な方向にc軸が配向している」「冷却面に対して垂直な方向にc軸が配向している」と表記する。
例えば、本発明の急冷合金を単ロール法にて製造した場合、得られた薄板状の急冷合金は薄板の厚さ方向にc軸が配向している、言い換えると、薄板の厚さ方向に磁化容易軸が揃っていることとなる。そのため、薄板を粉砕して粉末となしても、個々の粉末内の磁化容易軸の方向が揃っており、それらの粉末を用いて磁界中にて成形し、焼結することにより、配向度が極めて高い、磁気特性の優れたR−T−B系焼結永久磁石を得ることができる。
従って、従来のように、配向度向上のために、合金中のR14B相のデンドライト径を成長させて大きくする必要がないので、粉砕能率の低下の懸念もなく、微細粉末の粒度分布のブロード化による保磁力の低下を招くこともない。さらに、粉砕効率の向上や粉末のハンドリング性向上のため、微粉砕粒度を大きくすることになっても、従来のように、個々の微粉砕粉末内でc軸、すなわち磁化容易軸の方位が異なる結晶が存在するマルチグレインとはならず、微粉砕粉末内でc軸の方位が揃った結晶のみからなるマルチグレインになるため、得られる焼結磁石の配向度を維持したまま、微粉砕粒度を任意に調整できるという利点がある。
ここで、本発明によるR−T−B系焼結永久磁石用急冷合金と、背景技術に挙げた各文献との差異ついて述べる。
特許文献1には、R、T、Bを主成分とする合金を急冷することにより、合金溶湯急冷のままで、5μm以下の微細な複合組織より構成され、主相が正方晶化合物である永久磁石合金が得られることが記載され、また、単ロール法により急冷を行うこと、ロール周速度が5m/秒から35m/秒が好ましいこと、冷却速度として10〜10℃/秒が好ましいこと、得られた合金を焼結磁石用の原料粉末として用いることができることなどが記載されている。
しかし、特許文献1には、実際に焼結磁石を作製した実施例はない。従って、焼結磁石に適用した際に磁気特性が向上するかどうかも定かではない。また、リボン状細片の表面のX線回折結果が第5図に示されているが、それが冷却面なのか放冷面なのか不明であり、両方の面において第5図のような結果が得られるかどうかも定かではなく、さらに、リボン状細片の表面組織についても記載がない。
特許文献2には、溶融状態のR−T−B合金を準備し、該溶湯を急冷して所定の平均粒子径を有する上記結晶粒子が均一に分散されている、所定の厚さを有する急冷薄帯及び/又は鱗片状急冷合金を形成し、該急冷薄帯及び/又は鱗片状急冷合金を上記厚さより小さく上記平均粒子径より大きな平均粒径を有する粉末に粉砕し、該粉末を成形、焼結して焼結磁石を製造することが記載されており、R−T−B合金を急冷して得られる急冷薄帯及び/又は鱗片状急冷合金の好ましい厚みが20〜500μmであること、5μm以下に成長した結晶粒子は薄帯の主平面に平行に配向したc面を有することが記載されている。
しかし、特許文献2には、「粒径が5μm以下に成長した結晶粒子は薄帯の主平面に平行に配向したc面を有する。一方、各々の5μmより大きく成長した結晶は針状の結晶で、薄帯の主平面と直角方向に伸びたc面を有している。」(特許文献2第5頁右下欄5〜8行)との記載はあるものの、その主平面がどの面であるのか不明である。また、FIG.12cには、FIG.11にて示される噴霧装置を用いて作製した鱗片状急冷合金の組織写真が示されているが、「結晶粒子のc面は概して鱗片状急冷合金の主面に垂直な方向に配向する」(同文献第11頁右下欄2〜3行)と記載されており、本発明の、両主面及び一方主面から他方主面までの領域にある前記両主面に平行な面のそれぞれの面に平行にR14B相のc面が存在している急冷合金とは異なる。
さらに、特許文献2の実施例4は、異なる厚みの薄帯を比較した例を示すものであり、その結果として特許文献2には、「厚さ200μm以下の薄帯は3μm以下の粒子径、厚さ500μm以下の薄帯は10μm以下の粒子径、厚さ1000μm以下の薄帯は20μm以上の粒径の結晶粒子を含み、粒径が5μm以下に成長した結晶粒子は薄帯の主平面に平行に配向したc面を有し、5μmより大きく成長した結晶は針状の結晶で、薄帯の主平面と直角方向に伸びたc面を有している。」(同文献第5頁左下欄下1行〜右下欄8行)と記載されている。そして実施例4の結果を示す第2図では、急冷合金薄帯の厚さが厚くなるに従ってBr、(BH)maxが向上している。これらの記載から、特許文献2において磁気特性を向上させるには、薄帯の厚みが厚い方がよい、粒子径が大きい方がよい、結晶は針状の結晶で、薄帯の主平面と直角方向に伸びたc面を有している方がよい、ということになり、本発明の、両主面及び一方主面から他方主面までの領域にある前記両主面に平行な面のそれぞれの面に平行にR14B相のc面が存在している急冷合金とは異なる。
非特許文献1には、主相をNd26.7Fe72.3wt%(NdFe14B)、Ndリッチ非磁性相をNd66Fe33wt%とし、Ndリッチ相の割合が8%になるように配合して、片ロール法により急冷した薄帯において、フリー面、ロール面とも良好なc軸配向が得られることが報告されている。非特許文献1においては、フリー面、ロール面とも良好なc軸配向が得られる薄帯を得るに際して、Ndリッチ相の割合を変化させることによりそれを実現しているが、本発明は、薄板の両主面における組織を制御するものであり、手段が全く異なる。
非特許文献1のFig.3には薄帯の破断面組織のSEM写真が開示されているが、薄帯中心部における結晶組織は結晶に方向性が見られず、ロール面及びフリー面近傍の結晶組織とは明らかに異なっている。本発明の急冷合金は、後述する実施例の図9に示すように、一方主面から他方主面までの全領域において結晶が方向性を有しており、一方主面から他方主面近傍の結晶組織とほぼ同じ組織を有している。従って、非特許文献1による薄帯では、両主面及び一方主面から他方主面までの領域にある前記両主面に平行な面におけるX線回折パターンの(410)の強度I(410)と(006)の強度I(006)の比I(410)/I(006)が0.2以下であり、冷却面に対して垂直な方向にc軸が配向したという本発明の急冷合金が有する特徴は得られないと推察される。
さらに、非特許文献1には、「焼結法で行われる熱処理」が施されているものの、実際に、薄帯を粉砕し、磁場中で成形し、焼結した焼結磁石は開示されていない。従って、焼結磁石に適用した際に磁気特性が向上するかどうかも定かではない。
以上の通り、本発明による急冷合金と背景技術に挙げた各文献に記載された合金とは、合金の組織及びc面の方向、すなわち、c軸の配向方向に大きな差異を有している。
本発明によるR−T−B系焼結永久磁石用急冷合金は、以下の製造方法によって得ることができる。
まず、所要組成のR、T、B原料を準備する。Rは希土類元素のうち少なくとも一種、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種、Bはほう素である。配合組成は従来から知られる組成範囲を適用することができる。以下に好ましい組成範囲の一例を示す。
Rは、Nd、Pr、Dy、Tbのうち少なくとも一種から選択され得る。ただし、Rは、NdまたはPrのいずれか一方を必ず含むことが望ましい。更に好ましくは、Nd−Dy、Nd−Tb、Nd−Pr−Dy、またはNd−Pr−Tbで示される希土類元素の組合わせを用いる。
Rのうち、DyやTbは、特に保磁力の向上に効果を発揮する。上記元素以外に少量のCeやLaなど他の希土類元素を含有してもよく、ミッシュメタルやジジムを用いることもできる。また、Rは純元素でなくてもよく、工業上入手可能な範囲で、製造上不可避な不純物を含有するものでも差し支えない。含有量は、25質量%未満では高磁気特性、特に高保磁力が得られず、40質量%を超えると残留磁束密度が低下するため、25質量%以上40質量%以下が好ましい範囲である。
Bは、0.6質量%未満では保磁力が低下し、1.6質量%を超えると残留磁束密度が低下するため、0.6質量%以上1.6質量%以下が好ましい範囲である。Bの一部はCで置換することができる。C置換は磁石の耐食性を向上させることができ有効である。B+Cとした場合の含有量は、Cの置換原子数をBの原子数で換算し、上記のB濃度の範囲内に設定されることが好ましい。
Tは、上記R、Bの残部を占める。TはFeを必ず含み、その50%以下をCoで置換することができる。また、FeやCo以外の少量の遷移金属元素を含有することができる。Coは温度特性の向上、耐食性の向上に有効であり、通常は10質量%以下のCoおよび残部Feの組合わせで用いる。
上記組成に加えて、保磁力向上のためにM元素を添加することができる。M元素は、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Ga、Sn、Hf、Ta、Wのうち少なくとも一種である。添加量は2.0質量%以下が好ましい。2.0質量%を超えると残留磁束密度が低下するため好ましくない。
上記元素以外に不可避的不純物を許容することができる。例えば、Feから混入するMn、Crや、Fe−B(フェロボロン)から混入するAl、Si、Cuなどである。
次に、準備したR、T、B原料を溶解、急冷して鋳造する。この時、溶解した合金溶湯をそのまま後述する急冷方法にて急冷してもよいし、合金溶湯を一旦鋳造してインゴットを作製し、該インゴットを急冷装置のるつぼで再溶解した後、後述する急冷方法にて急冷してもよい。急冷雰囲気は、合金溶湯あるいは得られる急冷合金の酸化を防ぐため、真空中又は不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
急冷方法としては、ロール法、スパッタリング法、スプラットクエンチ法、回転ディスク法などの方法が適用できるが、溶融合金を回転体に接触させて急冷するのみで、すぐれた配向度、磁気特性を得るためには、溶湯の厚さを調整することが重要である。製造上、比較的容易にできるのは単ロールや双ロールを用いたロール法であるが、安定した製造を行うには双ロールよりも単ロールの方が好ましく、さらに、ロール面に接したときの溶湯の厚さを容易に調整でき、c軸配向を崩さずに急冷するには単ロール法が最も好ましい。
急冷速度としては、均質なデンドライトが生成する領域として10〜10℃/秒程度が好ましい。急冷条件としては、後述する実施例に示す通り、単ロール法を用いる場合はロール周速度が2〜4m/sが好ましい範囲ではあるが、ロール周速度は溶湯の温度、銅、鉄などのロール材質、ロールの冷却機構、あるいは溶湯の噴出ノズル径、単位時間当たりの噴出量、噴出ノズルとロール表面とのギャップ等の実施条件により若干変化するため、使用するロール条件に応じて好ましいロール周速度を選定することが好ましい。
急冷方法として単ロール法を用い、急冷合金の厚みを0.05mm以上0.2mm以下の範囲に制御することにより、本発明によるR−T−B系焼結永久磁石用急冷合金を容易に製造することができる。
本発明によるR−T−B系焼結永久磁石用急冷合金を用いて、R−T−B系焼結永久磁石を製造する方法の一例を以下に説明する。
急冷合金を、公知の方法によって平均粒径1μm〜10μmに粉砕する。このような急冷合金の粉末は、粗粉砕工程と微粉砕工程の2種類の粉砕を行うことによって好適に作製され得る。粗粉砕は、水素吸蔵粉砕法や、ディスクミルなどを用いた機械的粉砕法によって行うことができる。また、微粉砕は、ジェットミル粉砕法、ボールミル、アトライターなどの機械的粉砕法によって行うことができる。
上記の粉砕によって得られた微粉砕粉は、公知の成形技術を用いて様々な形状に成形される。成形は、磁場中圧縮成形法を用いて行うことが一般的であるが、パルス配向した後静水圧成形やゴムモールド内で成形する方法を用いて行っても良い。
成形時の給粉の能率、成形密度の均一化、成形時の離型性などを向上させるために、脂肪酸エステルなどの液状潤滑剤やステアリン酸亜鉛などの固状潤滑剤を微粉砕前の粉末および/または微粉砕後の粉末に添加することが好ましい。添加量は、粉末100重量部に対して0.01重量部〜5重量部が好ましい。
成形後の成形体は、公知の方法によって焼結することができる。焼結温度は1000℃〜1180℃、焼結時間は1〜6時間程度が好ましい。焼結後の焼結体には、所定の熱処理を施す。熱処理条件は、温度400℃〜600℃、時間1〜8時間程度である。
本発明によるR−T−B系焼結永久磁石用急冷合金を用い、上記の製造方法を実施することによって、保磁力及び残留磁束密度を向上させた、優れた磁気特性を有するR−T−B系焼結磁石が得られる。
実施例1
21.3%Nd−7.0%Pr−2.7%Dy−1.0%B−0.9%Co−0.1%Cu−0.2%Al−残部Fe(質量%)組成の合金を溶解、鋳造してインゴットを作製した。次にこのインゴットを先端部に3mm径のノズルを有する石英製るつぼに投入して、アルゴン雰囲気中で高周波溶解して1450℃の溶湯となし、その溶湯を表1に示すロール周速度で回転する急冷ロールのロール面に2.5kg/minの出湯速度で噴出させて、薄板状のR−T−B系焼結永久磁石用急冷合金を作製した。なお、急冷ロールには冷却装置を付設した235mm径のロールを用いた。
得られた薄板状の急冷合金の厚みの測定結果を表1に示す。また、得られた急冷合金の冷却面と放冷面のそれぞれを(株)リガク製のX線回折装置RINT2400により、CuKα線を用いてθ−2θ法によるX線回折測定を行い、測定結果から(006)と(410)との強度比I(410)/I(006)を求めた。その結果を表1に示す。なお、表中、試料番号横に*印を付したものは比較例である。
また、得られた急冷合金のうち、ロール周速度2m/sで急冷した厚み0.18mmの急冷合金(試料番号2)と、ロール周速度1m/sで急冷した厚み0.38mmの急冷合金(試料番号1)のX線回折測定の結果を図1〜図4に示す。図1は試料番号2の冷却面、図2は試料番号2の放冷面、図3は試料番号1の冷却面、図4は試料番号1の放冷面の測定結果である。図中、黒丸印が(006)の強度I(006)、黒三角印が(410)の強度I(410)を示す。なお、図1〜図4は、測定結果のうち最も高い強度を示すピークを100%として、各ピークの強度を示したものである。
さらに、上記試料番号2と試料番号1の急冷合金の、冷却面と放冷面のそれぞれの組織観察、並びに断面の組織観察を行った。その結果を図5〜図10に示す。図5が試料番号2の冷却面、図6は試料番号2の放冷面、図7は試料番号1の冷却面、図8は試料番号1の放冷面の組織写真であり、図9は試料番号2の断面、図10は試料番号1の断面の組織写真である。図9及び図10では上側が放冷面、下側が冷却面を示す。
次に上記の急冷合金を水素吸蔵粉砕法により粗粉砕を行い、得られた粗粉砕粉に0.05%のステアリン酸亜鉛を添加、混合した後、ジェットミル粉砕法により微粉砕を行った。得られた微粉砕粉の粒径は、気流分散法によるレーザー回折法でD50が4〜5μmであった。得られた微粉砕粉を0.8MA/mの静磁界中、加圧力98Mpaで成形した後、成形体を真空中、1040℃の温度で4時間焼結した。その後、500℃2時間の時効処理を行った。得られた焼結磁石の磁気特性の測定結果を表1に示す。
表1から明らかなように、ロール周速度が2m/s〜4m/sで急冷された厚み0.09mm〜0.18mmの本発明による試料番号2及び3の急冷合金は、X線回折ピークの(410)の強度I(410)と(006)の強度I(006)の比I(410)/I(006)が、冷却面、放冷面ともに0.2以下となっており、それらの急冷合金を用いた焼結磁石の磁気特性は、高い残留磁束密度Brと保磁力HcJを有している。
一方、ロール周速度が1m/sと遅く、合金厚みが厚い比較例の試料番号1では、放冷面における強度比I(410)/I(006)が0.2を超えており、その合金を用いた焼結磁石は、上記の冷却面、放冷面ともに0.2以下を満足する合金から製造した本発明による焼結磁石に比べ、残留磁束密度Br、保磁力Hcjともに劣っている。また、ロール周速度が10m/sと速く、合金厚みが薄い比較例の試料番号4では、冷却面における強度比I(410)/I(006)が0.2を超えており、その合金を用いた焼結磁石は、上記の冷却面、放冷面ともに0.2以下を満足する合金から製造した本発明の焼結磁石に比べ、残留磁束密度Brが著しく低下している。
以上の結果から、急冷方法として単ロール法を用いた場合、ロール周速度は2m/s〜4m/sが好ましく、得られる急冷合金の厚みは0.05mm以上0.2mm以下の範囲に制御することが好ましいことが分かる。
また、図1に示す通り、本発明による試料番号2の冷却面におけるX線回折の測定結果では、2θの29.2°近傍、44.5°近傍、60.6°近傍に、それぞれR14B相のc面を示す(004)、(006)、(008)の大きなピークが認められ、中でも44.5°近傍の(006)が最も大きな強度を示す。図2に示す放冷面では若干R14B相のc面以外を示すピークが現れるものの、冷却面と同様にR14B相のc面を示す(004)、(006)、(008)の大きなピークが認められ、(006)が最も大きな強度を示す。
一方、比較例となる試料番号1においては、図3に示す冷却面では試料番号2と同様なピークが現れているが、図4に示す放冷面ではR14B相のc面を示す(004)、(006)、(008)の各ピークが著しく小さくなり、代わって、R14B相のc面以外を示すピークが大きくなり、特に、R14B相のメインピークを示す(410)の強度が極端に大きくなっている。すなわち、試料番号1の放冷面においては、冷却面(放冷面)に対して垂直な方向にc軸が配向しておらず、そのため、表1に示す通り、得られる焼結磁石の磁気特性が試料番号2の本発明による焼結磁石に比べ劣っている。
さらに、図5及び図6に示す通り、本発明による試料番号2の冷却面及び放冷面においては、核発生点を起点とした放射状組織が大部分を占めていることが分かる。これに対して、図7及び図8に示す比較例である試料番号1の冷却面及び放冷面においては、冷却面では核発生点を起点とした放射状組織が大部分を占めているものの、放冷面では明確な放射状組織を観察することができない。
また、図9に示す通り、本発明による試料番号2の断面は、微細なデンドライトが大部分を占め、冷却面とほぼ平行な方向に並んでいるものが多く存在する。このため、冷却面、放冷面及び冷却面から放冷面までの領域にある冷却面に平行な面におけるX線回折パターンにおける(410)の強度I(410)と(006)の強度I(006)の比I(410)/I(006)が0.2以下となり、冷却面に対して垂直な方向にc軸が配向するものと考えられる。
また、図9から明らかなように、本発明による急冷合金は、極めて微細な組織を有しており、Rリッチ相(図中黒色の部分)も均一かつ微細に分散されていることが分かる。この急冷合金を用いて焼結磁石を製造することにより、焼結磁石中においてもRリッチ相を均一かつ微細に分散させることができ、焼結磁石の保磁力を向上させることができる。
一方、図10に示す通り、比較例である試料番号1の断面は、冷却面から放冷面に伸びる柱状結晶が大部分を占めている。このような組織においては、c軸は冷却面に対して平行な方向に配向することとなる。
以上の結果から、本発明による試料番号2のように、ロール周速度2m/s〜4m/sで急冷され、厚みが0.05mm以上0.2mm以下の範囲に制御された急冷合金は、冷却面と放冷面の各面に核発生点を起点とした放射状組織を有し、冷却面、放冷面及び冷却面から放冷面までの領域にある冷却面に平行な面におけるX線回折パターンの(410)の強度I(410)と(006)の強度I(006)の比I(410)/I(006)が0.2以下となり、冷却面に対して垂直な方向にc軸が配向するものとなる。そしてこの急冷合金を用いて焼結磁石を製造することにより、高い保磁力HcJと高い残留磁束密度Brを有するR−T−B系焼結永久磁石が得られる。
一方、比較例である試料番号1のように、ロール周速度が遅く、合金厚みが厚い急冷合金では、放冷面において核発生点を起点とした放射状組織が見られず、放冷面における強度比I(410)/I(006)が0.2を大きく超え、冷却面に対して平行な方向にc軸が配向することとなる。そしてこの急冷合金を用いた焼結磁石は、上記試料番号2による焼結磁石より、残留磁束密度Br、保磁力Hcjともに劣ることとなる。
実施例2
実施例1によって得られた本発明による試料番号2の急冷合金に対して、冷却面側と放冷面側からそれぞれ所定量研削し、その研削毎に実施例1と同様な方法によって研削加工面のX線回折測定を行った。測定結果を図11に示す。
また、実施例1によって得られた比較例である試料番号1の急冷合金に対して、冷却面側から所定量研削し、その研削毎に実施例1と同様な方法によって研削加工面のX線回折測定を行った。測定結果を図12に示す。
図11に示す通り、本発明による試料番号2の急冷合金では、冷却面、放冷面、冷却面から放冷面までの領域にある冷却面に平行な面のいずれの面においても、X線回折パターンの(410)の強度I(410)と(006)の強度I(006)の比I(410)/I(006)が0.2以下となる。これは、上述した実施例1の通り、合金断面の大部分においてc軸の方向が揃っていることによると考えられる。
一方、図12に示す通り、比較例である試料番号1の急冷合金では、冷却面からの深さが0.05mmを超えると、強度比I(410)/I(006)が著しく大きくなり、0.2をはるかに超えてしまう。これは、冷却面から離れて行くにしたがって、R14B相のc面を示す(004)、(006)、(008)の強度が小さくなっていき、それに代わってR14B相のメインピークを示す(410)の強度が大きくなっているためである。
以上の結果から、試料番号2のように、ロール周速度2m/s〜4m/sで急冷され、厚みが0.05mm以上0.2mm以下の範囲に制御された急冷合金は、冷却面と放冷面のみならず、冷却面から放冷面までの領域にある冷却面に平行な面におけるX線回折パターンの(410)の強度I(410)と(006)の強度I(006)の比I(410)/I(006)が0.2以下となっていることが分かる。
本発明によるR−T−B系焼結永久磁石用急冷合金は、Rリッチ相が均一かつ微細に分散された組織を有し、粉砕性に優れ、かつ配向度を高めることができるため、高磁気特性が要求されるR−T−B系焼結磁石用合金として最適である。
本発明による急冷合金の冷却面のX線回折測定結果を示す図である。 比較例による急冷合金の放冷面のX線回折測定結果を示す図である。 本発明による急冷合金の冷却面のX線回折測定結果を示す図である。 比較例による急冷合金の放冷面のX線回折測定結果を示す図である。 本発明による急冷合金の冷却面の組織写真を示す図である。 比較例による急冷合金の放冷面の組織写真を示す図である。 本発明による急冷合金の冷却面の組織写真を示す図である。 比較例による急冷合金の放冷面の組織写真を示す図である。 本発明による急冷合金の断面の組織写真を示す図である。 比較例による急冷合金の断面の組織写真を示す図である。 本発明による急冷合金の研削量とX線回折強度比との関係を示す図である。 比較例による急冷合金の研削量とX線回折強度比との関係を示す図である。

Claims (4)

  1. 合金溶湯を急冷してなる薄板状のR−T−B(Rは希土類元素のうち少なくとも一種、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種、Bはほう素)系焼結永久磁石用急冷合金であって、薄板状急冷合金の両主面に核発生点を起点とした放射状組織を有し、前記両主面及び一方主面から他方主面までの領域にある前記両主面に平行な面におけるX線回折パターンの(410)の強度I(410)と(006)の強度I(006)の比I(410)/I(006)が0.2以下であり、前記両主面に対して垂直な方向にc軸が配向していることを特徴とするR−T−B系焼結永久磁石用急冷合金。
  2. 厚みが0.05mm以上、0.2mm以下である請求項1に記載のR−T−B系焼結永久磁石用急冷合金。
  3. 急冷方法が単ロール法である請求項1または2に記載のR−T−B系焼結永久磁石用急冷合金。
  4. 請求項1ないし3に記載のR−T−B系焼結永久磁石用急冷合金を用いたR−T−B系焼結永久磁石。
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