JP2007277714A - 深絞り用溶融めっき高強度鋼板及びその製造方法 - Google Patents

深絞り用溶融めっき高強度鋼板及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】380MPa以上、540MPa未満の引張り強度で、自動車分野、特に燃料タンク用途に適用可能なプレス成形性を有し、かつ耐二次加工脆性及び溶接継手効率が優れ、更に溶融めっき性が良好な深絞り用溶融めっき高強度鋼板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.0005〜0.0050%、Si:0.30〜1.0%、Mn:0.50〜2.0%、P:0.040%以下、Ti:0.005〜0.030%、Nb:0.005〜0.040%、B:0.0002〜0.0030%、Al:0.005〜0.080%、N:0.0010〜0.0095%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、下記数式(A)により表されるTが0.02%未満で、かつ下記数式(B)を満足する組成の冷延鋼板に溶融めっき層を設け、引張り強さTSの絶対値がP含有量の絶対値の1×10倍以上である溶融めっき高強度鋼板とする。
*=[Ti]−3.42×[N]−0.2[P] ・・・・・(A)
0.3<[Si]/[Mn]<2.0 ・・・・・・(B)
【選択図】なし

Description

本発明は、自動車及び家電等の分野に適用される深絞り用溶融めっき高強度鋼板及びその製造方法に関し、特に、自動車の燃料タンク用途に好適な深絞り用溶融めっき高強度鋼板及びその製造方法に関する。
近年、自動車用鋼板においては、車体重量軽減による燃費向上を目的として、高強度化が進んでいる。燃料タンク用鋼板でも同様に、タンクの軽量化及び車体デザインの複雑化、更には燃料タンクの収納設置場所の関係から、燃料タンク形状の複雑化が進み、優れた成形性及び高強度化が要求されている。従来、このような成形性と高強度との両立の要望を満足させるために、極低炭素鋼にTi及びNbのような炭窒化物形成元素を添加したIF(Interstitial Free)鋼に、P、Si及びMn等の固溶強化元素を添加した高強度IF鋼が開発されてきた。
しかしながら、IF鋼はC及びN等がNb又はTiを炭化物又は窒化物として析出固定するため、結晶粒界が非常に清浄になり、成形後に粒界破壊によって二次加工脆化が発生しやすくなるという問題点がある。また、高強度IF鋼の場合、固溶強化元素で粒内が強化され、相対的な粒界強度の低下が顕著になるため、二次加工脆化が促進されるという問題点もある。
更に、燃料タンクは、上面と下面とが別々にプレス成形され、これらを溶接により接合して使用される。このため、鋼板を高強度化しても、溶接継手強度が鋼板の高強度化に見合ったように高くならないという問題点がある。同時に、燃料タンクは重要保安部品であるため、低温地域において衝突による衝撃を受けた場合の耐破壊性を向上させる必要があるが、従来技術により高強度化した鋼板で燃料タンクを製造した場合、低温衝撃で溶接部が脆性破壊される懸念がある。
更にまた、ガソリン及びアルコール又はガソリンが劣化して生じる有機酸に対して、フィルターの目詰まりの原因となる腐食生成物が生成せず、孔あき腐食が生じない鋼板も求められている。この要求に対しては、従来、鋼板表面にPb−Sn合金、Al−Si合金、Sn−Zn合金及びZn−Al合金めっきを施すことが提案され、適用されている。このため、基体となる鋼板には、これらの合金の溶融めっき性が良好であることが必要である。しかしながら、高強度化のために添加されるMn及びSi等の元素はFeよりも酸化されやすく、溶融めっき前の加熱において、これらの元素が鋼板表面で酸化され、鋼板表面に濃化して酸化物を形成するため、溶融めっき金属の濡れ性が低下し、めっき性が劣化する。
これらの問題点のうち、二次加工脆化については、発生を回避するためのいくつかの方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。例えば、特許文献1では、粒界偏析による耐二次加工脆化の劣化を回避するため、Ti添加IF鋼をベースに、P含有量をできるだけ低減させ、その分、Mn、Siを多量に添加することで、耐二次加工脆性に優れた高張力鋼板を得る技術が提案されている。また、特許文献2では、極低炭素鋼板を使用し、Ti及びNbに加えてBを添加することで、粒界強度を上昇させ、耐二次加工脆性を高める技術が提案されている。この特許文献2に記載の技術では、耐二次加工脆性の向上及びオーステナイト粒の再結晶の遅れに伴う熱間圧延時の負荷の増大防止を目的として、B含有量を最適化している。
また、溶接性を改善する目的でもいくつかの提案がなされている(例えば、特許文献3〜5参照。)。例えば、特許文献3に記載の技術は、Ti及び/又はNbを添加した極低炭素鋼板を焼鈍時に浸炭し、表層にマルテンサイト及びベイナイト組織を形成し、スポット溶接性を向上しようとするものである。また、特許文献4に記載の技術は、極低炭素鋼にCuを添加し、溶接時の熱影響部を広くすることにより、スポット溶接継手強度を高めようとするものである。更に、特許文献5に記載の技術は、鋼にMgを添加して鋼板中にMg酸化物及び/又はMg硫化物を生成させることにより、ピニング効果により、溶接部、熱影響部の細粒化を図り、溶接部の疲労強度の劣化を防止する技術である。
更に、高強度鋼板の溶融めっき性を改善する目的の技術もいくつか提案されている(特許文献6及び7参照)。例えば、特許文献6に記載の溶融亜鉛めっき高強度冷延鋼板では、溶融めっき性を阻害するSの含有量を0.03質量%以下及びPの含有量を0.01〜0.12%に制限する一方で、強化元素としてMn及びCrを積極的に添加している。また、特許文献7に記載の高張力合金化亜鉛めっき鋼板では、Si含有量とMn含有量との相互関係を特定の範囲内とすることにより、溶融合金Znめっき性の改善を図っている。
特開平5−59491号公報 特開平6−57373号公報 特開平7−188777号公報 特開平8−291364号公報 特開2001−288534号公報 特開平5−255807号公報 特開平7−278745号公報
しかしながら、前述した従来の技術には以下に示す問題点がある。即ち、特許文献1及び2に記載の方法で作製された鋼板は、加工性は良好であるが、燃料タンクのように厳しい条件でプレス成形加工を行うと耐二次加工脆性が不十分となり、更に、この冷延鋼板を溶接した溶接継手の溶接部の強度及び靭性(以下、これらをまとめて溶接継手効率という)が低いという問題点がある。また、特許文献3に記載の方法は、焼鈍中に浸炭するが、実際の製造設備では通板速度、雰囲気ガス組成及び温度が一定でないため、浸炭量が変化し、製造される鋼板の間で材質のバラツキが大きくなり、安定した鋼板の製造が困難であるという問題点がある。更に、特許文献4に記載の方法はCuを多量に添加するため、Cuによる表面欠陥が多発し、歩留まりが低下するという問題点がある。更にまた、特許文献5に記載の方法は、比較的溶接後の冷却速度が遅いアーク溶接等では効果があるが、冷却速度が速いシーム溶接等ではその効果が認められないという問題点がある。更にまた、特許文献6及び7に記載の鋼板は、溶融亜鉛めっき性は良好であるが、溶接性及び耐二次加工脆性が不十分であるという問題点がある。一方、薄鋼板においては、溶接部の靭性を向上させようとする技術がないばかりか、溶接部の靭性に関する問題提起すらなされていない。
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、380MPa以上、540MPa未満の引張り強度で、自動車分野、特に燃料タンク用途に適用可能なプレス成形性を有し、かつ耐二次加工脆性及び溶接継手効率が優れ、更に溶融めっき性が良好な深絞り用溶融めっき高強度鋼板及びその製造方法を提供することにある。
本発明に係る深絞り用溶融めっき高強度鋼板は、冷延鋼板と、前記冷延鋼板の表面に形成された溶融めっき層とを有し、前記冷延鋼板は、質量%で、C:0.0005〜0.0050%、Si:0.30〜1.0%、Mn:0.50〜2.0%、P:0.040%以下、Ti:0.005〜0.030%、Nb:0.005〜0.040%、B:0.0002〜0.0030%、S:0.01%以下、Al:0.005〜0.080%、N:0.0010〜0.0095%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Ti含有量(%)を[Ti]、N含有量(%)を[N]、P含有量(%)を[P]、Si含有量(%)を[Si]、Mn含有量(%)を[Mn]としたとき、下記数式(A)により表されるTが0.02%未満であると共に下記数式(B)を満足する組成を有し、かつ引張り強さTS(MPa)の絶対値が、P含有量(%)の絶対値の1×10倍以上であることを特徴とする。
*=[Ti]−3.42×[N]−0.2[P] ・・・・・(A)
0.3<[Si]/[Mn]<2.0 ・・・・・・(B)
本発明に係る深絞り用溶融めっき高強度鋼板の製造方法は、質量%で、C:0.0005〜0.0050%、Si:0.30〜1.0%、Mn:0.50〜2.0%、P:0.040%以下、Ti:0.005〜0.030%、Nb:0.005〜0.040%、B:0.0002〜0.0030%、S:0.01%以下、Al:0.005〜0.080%、N:0.0010〜0.0095%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Ti含有量(%)を[Ti]、N含有量(%)を[N]、P含有量(%)を[P]、Si含有量(%)を[Si]、Mn含有量(%)を[Mn]としたとき、上記数式(A)により表されるTが0.02%未満であると共に上記数式(B)を満足する組成の溶鋼を連続鋳造してスラブを得る工程と、前記スラブを、仕上げ温度がAr温度以上、巻取り温度が750℃以下の条件で、熱間圧延して熱延コイルを得る工程と、前記熱延コイルを50%以上の冷延率で冷間圧延して所定の厚さの冷延コイルとする工程と、前記冷延コイルを再結晶温度以上の温度で焼鈍すると共に、その冷延過程において前記冷延コイルの表面に溶融めっきを施す工程とを有し、引張り強さTS(MPa)の絶対値が、P含有量(%)の絶対値の1×10倍以上である溶融めっき高強度鋼板を製造することを特徴とする。
本発明によれば、従来、固溶強化元素として添加されていたPの含有量を引張り強さに応じた値以下に低減し、更にSi含有量とMn含有量とのバランスを適正化すると共に、Ti含有量、P含有量及びN含有量が特定の関係を満足する鋼組成にしているため、優れたプレス成形性を有し、かつ優れた耐二次加工脆性及び溶接継手効率を併せ持ち、更に溶融めっき性が良好な深絞り用溶融めっき高強度鋼板が得られる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、詳細に説明する。なお、以下の説明においては、組成における質量%は、単に%と記載する。
本願発明者は、従来技術では極めて困難であった優れたプレス成形性を有し、かつ優れた耐二次加工脆性及び溶接継手効率を併せ持ち、しかも溶融めっき性にも優れた高強度溶融めっき鋼板を得るため、鋭意検討を重ねた。その結果、従来、固溶強化元素とされていたPの含有量をできだけ低減すると共に、Mn及びSiの含有量のバランスが特定の範囲になるように制御し、更に、加工性を高めるために鋼中のC及びNを固定するTiの含有量を規定し、かつ、Ti、N及びPの含有量の関係が特定の条件を満足するようにすると、シーム溶接性、レーザ溶接性、耐二次加工脆性及び溶融めっき性を一段と改善できることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明の深絞り用溶融めっき高強度鋼板(以下、単に溶融めっき鋼板という)は、冷延鋼板の表面に、Zn、Zn合金、Al、Al合金、Sn及びSn合金等からなる溶融めっき層が形成されたものであり、その冷延鋼板は、C:0.0005〜0.0050%、Si:0.30〜1.0%、Mn:0.50〜2.0%、P:0.040%以下、Ti:0.005〜0.030%、Nb:0.005〜0.040%、B:0.0002〜0.0030%、S:0.01%以下、Al:0.005〜0.080%、N:0.0010〜0.0095%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、下記数式(A)により表されるTが0.02%未満であると共に、下記数式(B)を満足する組成を有する。なお、下記数式(A)及び数式(B)における[Ti]はTi含有量(%)、[N]はN含有量(%)、[P]はP含有量(%)、[Si]はSi含有量、[Mn]はMn含有量(%)である。更に、本発明の溶融めっき鋼板は、引張り強さTS(MPa)の絶対値が、P含有量(%)の絶対値の1×10倍以上となっている。
*=[Ti]−3.42×[N]−0.2[P] ・・・・・(A)
0.3<[Si]/[Mn]<2.0 ・・・・・・(B)
先ず、本発明の溶融めっき鋼板における数値限定理由について説明する。
C:0.0005〜0.0050%
Cは、本発明において極めて重要な元素である。具体的には、Cは、Nb及びTiと結合して炭化物を形成し、高強度化を達成するために極めて有効な元素である。しかしながら、C含有量が0.0050%を超えると、Cの固定に必要なTi及びNbを添加したとしても加工性が低下すると共に、シーム溶接及びレーザ溶接における溶接継手効率が低下する。一方、本発明の溶融めっき鋼板においては、C含有量が低くても、他の強化方法で補うことができるが、C含有量が0.0005%未満の場合、強度確保が困難になると共に、製鋼時の脱炭コストが上昇する。よって、C含有量は0.0005〜0.0050%とする。また、極めて高い加工性及び溶接継手効率が要求される場合には、C含有量を0.0030%以下とすることが好ましい。
Si:0.30〜1.0%
Siは、固溶強化元素として一般に知られている元素である。しかしながら、Si含有量が多くなると、具体的には、Si含有量が1.0%を超えると、その他の条件は本発明の範囲内であったとしても溶融めっき性が損なわれる。一方、Si含有量が少なくなると、具体的には、Si含有量が0.3%未満の場合、耐二次加工性脆性、溶接継手効率及び溶融めっき性を確保するために他の添加元素を調整すると、鋼板の強度が低下する。よって、Si含有量は0.3〜1.0%とする。
Mn:0.50〜2.0%
Mnは、Siと同様に固溶強化により鋼板強度を高める元素であり、耐二次加工脆性、溶接継手効率及び溶融めっき性の向上を目的とした本発明の溶融めっき鋼板を高強度化するために重要な元素の1つである。Mnには、組織を微細化して高強度化する機構と、固溶強化による高強度化機構とがあるが、Mn含有量が0.50%未満の場合、その添加効果が得られず、また他の元素で補完した場合は、耐二次加工脆性、溶接継手効率及び溶融めっき性の全ての項目で目標を達成することができない。一方、Mnの含有量が2.0%を超えると、深絞り性の指標であるr値の面内異方性が大きくなり、プレス成形性が損なわれると共に、鋼板の表面にMn酸化物が生成し、溶融めっき性が損なわれる。よって、Mn含有量は0.50〜2.0%とする。
P:0.040%以下
Pは、添加しても加工性の劣化が少なく、固溶強化で高強度化に有効な元素である。しかしながら、Pは、粒界に偏析して耐二次加工脆性を劣化させると共に、溶接部に凝固偏析を生じ、溶接継手効率を劣化させる元素でもある。また、Pは、溶融めっき時までの熱履歴により、鋼板の表面に偏析し、溶融めっき性も劣化させる。具体的には、P含有量が0.040%を超えると、これらの偏析が生じる。よって、P含有量は0.040%以下に規制する。なお、P含有量の下限値は特に規定する必要はないが、P含有量を0.005%未満にすると、精錬コストが高くなると共に、強度の確保が困難になる。よって、P含有量は0.005%以上とすることが好ましい。
Ti:0.005〜0.030%
Tiは、C及びNとの親和力が強く、凝固時又は熱間圧延時に炭窒化物を形成し、鋼中に固溶しているC及びNを低減して、加工性を高める効果がある。しかしながら、Ti含有量が0.005%未満では、この効果が得られない。一方、Ti含有量が0.030%を超えると、溶接継手の溶接部の強度及び靭性、即ち、溶接継手効率が劣化する。よって、Ti含有量は0.005〜0.030%とする。
Nb:0.005〜0.040%
Nbは、Tiと同様にC及びNとの親和力が強く、凝固時又は熱間圧延時に炭窒化物を形成し、鋼中に固溶しているC及びNを低減して、加工性を高める効果がある。しかしながら、Nb含有量が0.005%未満の場合、この効果が得られない。一方、Nb含有量が0.040%を超えると、再結晶温度が高くなり、高温焼鈍が必要になると共に、溶接継手の溶接部の靭性が劣化する。よって、Nb含有量は0.005〜0.040%とする。
B:0.0002〜0.0030%
Bは、粒界に偏析することにより、粒界強度を高め、耐二次加工脆性を良好にする元素である。しかしながら、B含有量が0.0002%未満の場合、その効果が得られない。一方、B含有量が0.0030%を超えると、溶接時にBがγ粒界に偏析してフェライト変態を抑制し、溶接部及びその熱影響部の組織が低温変態生成組織となるため、この溶接部及び熱影響部が硬質化すると共に靭性が劣化し、その結果、溶接継手効率が劣化する。また、多量にBを添加すると、熱間圧延時におけるフェライト変態も抑制され、低温変態生成組織の熱延鋼板となるため、熱延鋼板の強度が高くなり、冷間圧延時の負荷が高くなる。更に、B含有量が0.0030%を超えると、再結晶温度が高くなり、高温での焼鈍が必要となるため、製造コストの上昇を招くと共に、深絞り性の指標であるr値の面内異方性が大きくなり、プレス成形性が劣化する。よって、B含有量は0.0002〜0.0030%とする。なお、B含有量の好ましい範囲は、前述した理由から0.0003〜0.0015%である。
S:0.010%以下(0%は含まない)
Sは、鋼の精錬時に不可避的に混入する不純物であり、Mn及びTiと結合して析出物を形成し、加工性を劣化させるため、S含有量は0.010%以下に規制する。ただし、0%は含まない。また、S含有量を0.001%未満に低減するには製造コストが高くなるため、S含有量の好ましい範囲は0.001〜0.008%である。
Al:0.005〜0.080%
Alは、鋼の精錬時に脱酸材として使用される元素であり、鋼中の介在物を減少させ、加工性を良好にする効果がある。しかしながら、Al含有量が0.005%未満の場合、その効果が得られない。一方、Alが0.080%を超えると、クラスター状のアルミナ介在物が多くなるため、加工性が低下すると共に、鋼板の表面形状が劣化する。よって、Al含有量は0.005〜0.080%とする。
N:0.0010〜0.0095%
Nは、鋼の精錬時に不可避的に混入する元素である。また、Nは、Ti、Al及びNbの窒化物を形成するため、加工性には悪影響を及ぼさないが、溶接継手効率を劣化させる。このため、N含有量は0.0095%以下に規制する必要がある。一方、N含有量を0.0010%未満に低減するには、製造コストが高くなる。よって、N含有量は0.0010〜0.0095%とする。
:0.02%未満
本願発明者は、上記数式(A)により規定されるTの値が大きくなると、溶接継手効率が劣化することを見出した。このTの値が0.02%以上の場合、低温における継手効率の劣化が顕著となり、脆性破面が生じる温度が高温になって、溶接部の靭性が劣化する。以上の理由から、本発明においては、Tの値を0.02%未満とする。
[Si]/[Mn]:0.3超え2.0未満
本願発明者は、Si含有量([Si])とMn含有量([Mn])との比([Si]/[Mn])が0.3を超え2.0未満の範囲になるように、これらの含有量を調整することにより、溶融めっき性が良好になると共に、プレス成形性が良好になることを知見した。以下、この事実を知見した実験内容について説明する。
本願発明者は、先ず、C:0.0020〜0.0080%、Si:0.02〜1.50%、Mn:0.50〜2.5%、P:0.025〜0.080%、S:0.010%、Al:0.05〜0.06%、Ti:0.010〜0.035%、Nb:0.01〜0.050%、N:0.0025〜0.0045%、B:0.0010〜0.0030%の範囲で組成を変化させた鋼を、真空溶解炉で溶製し、1200℃で1時間に加熱保持した後、仕上げ温度を880〜905℃として、3.7mmの厚さまで熱間圧延して熱延板とした。次に、この熱延板を酸洗いした後、冷間圧延し、厚さが1.2mmの冷延板とした。更に、この冷延板を、800℃の温度で60秒間保持するサイクルで焼鈍し、その冷却中に、無酸化炉−還元タイプの装置を使用し、浴組成をAl:90%及びSi:10%として、鋼板の表面に溶融アルミニウムめっきを施した。そして、めっき付着量が両面で60g/mになるようにガスワイピング法により調整して、溶融めっき鋼板とした。
次に、この溶融めっき鋼板の表面を目視で観察し、めっき付着状況を評価した。また、各溶融めっき鋼板からJIS5号試験片を切り出し、圧延方向、圧延方向に対し45度、90度の3方向についてr値を測定し、最小のr値を求めた。その結果を下記表1に示す。なお、下記表1に示すめっき性の評点は、不めっきが全く発生しなかったものを○、微細な不めっきが発生したものを△、不めっきが発生したものを×とした。
Figure 2007277714
図1は横軸にMn含有量([Mn])をとり、縦軸にSi含有量([Si])をとってMn含有量及びSi含有量と溶融めっき性の関係を示す図である。なお、図1に示すめっき性の評点のうち、黒塗り印はP含有量が0.040%を超えるものを示し、白抜き印はP含有量が0.040%以下のものを示す。図1に示すように、めっき性は、Si含有量、Mn含有量及びP含有量に大きく影響され、P含有量が0.040%以下、Si含有量が1.0%以下、かつ[Si]/[Mn]が2.0未満の条件を満足する組成の鋼板は、めっき性が良好であることがわかる。また、上記表1に示すように、[Si]/[Mn]が0.3を超える組成の鋼板は、最小r値が1.40以上で良好であるが、この条件を満足しない組成の鋼板は最小r値が低く、プレス成形性が劣っている。以上の実験事実に基づき、本発明においては、良好なめっき性と良好なプレス成形性が得られる条件として、上記数式(B)を満たす組成、即ち、[Si]/[Mn]が0.3超え2.0未満となる組成とする。
|TS|≧|P|×10
前述したように、Pは添加による加工性の劣化が少なく、固溶強化による高強度化に有効な元素である。このため、従来は高強度を得るために、Pを多量に添加する傾向があったが、本願発明者は、強度に対して特定量以上にPを添加すると、具体的には、引張り強さTS(MPa)の絶対値|TS|が、P含有量(%)の絶対値|P|の1×10倍未満になると、耐二次加工脆性及び溶接継手効率が急激に劣化することを知見した。そこで、本発明においては、引張り強さTS(MPa)の絶対値|TS|が、P含有量(%)の絶対値|P|の1×10倍以上になるようにする。一般に、鋼材の引張り強さは、主に鋼成分に依存し、製造条件は副次的に影響する。そこで、鋼の成分設計に際しては、P含有量を極力少なくすると共に、溶接性、加工性、耐二次加工脆性、めっき性に悪影響を及ぼさない範囲でSi及びMnの含有量を多くする必要がある。また、製造する際は、強度の低下を防止するため、熱間圧延時の巻取り温度を高温にしないようにすると共に、850℃を超える高温での焼鈍を行わないようにすることが好ましい。
なお、本発明の溶融めっき鋼板における残部、即ち、上述した各元素以外の成分は、Fe及び不可避的不純物である。また、本発明の溶融めっき鋼板に含まれる不可避的不純物としては、例えば、Sn、Sb、Ta、Zr、V及びCo等が挙げられる。更に、本発明の溶融めっき鋼板には、上述した各元素以外にNi、Cr、Mo及びCu等の元素を通常の範囲で添加することもでき、その場合でも本発明の特徴が損なわれることはない。
本発明の溶融めっき鋼板においては、従来、固溶強化元素として添加されていたPの含有量を引張り強さに応じた値以下に低減し、更にSi含有量とMn含有量とのバランスを適正化すると共に、Ti含有量、P含有量及びN含有量が特定の関係を満足する鋼組成にしているため、優れたプレス成形性を有すると共に、優れた耐二次加工脆性と優れた溶接継手効率とを併せ持ち、更に溶融めっき性が良好である。これらの効果により、鋼板の高強度化が可能となり、自動車の車体重量軽減による燃費向上が可能となり、とりわけ、燃料タンクの軽量化、車体デザインの複雑化が可能となる。この効果は工業的には極めて大きい。
次に、本発明の溶融めっき鋼板の製造方法について説明する。本発明の溶融めっき鋼板を製造する際は、先ず上述した鋼組成となるように調整した原料を転炉又は電気炉に投入し、真空脱ガス処理を行ってスラブにする。次に、このスラブを、仕上げ温度がAr温度以上、巻取り温度が750℃以下の条件で熱間圧延し、熱延コイルを得る。このとき、熱間圧延の加熱温度は、何℃に設定しても本発明の特徴を損なわれないため、圧延の操業に支障がない範囲で選べばよい。また、熱間圧延の仕上温度がAr温度未満であると、鋼板の加工性が損なわれるため、熱間圧延の仕上温度はAr温度以上とする。更に、熱間圧延後の巻取り温度が750℃を超える高温になると、冷延焼鈍後の鋼板の強度が低下するため、巻取り温度は750℃以下とする。
次に、上述の方法で作製した熱延コイルを、必要に応じて脱スケールした後、50%以上の冷間圧延率で冷間圧延して、所定の板厚の冷延コイルを得る。このとき、冷間圧延率が50%未満の場合、焼鈍後の鋼板の強度が低下すると共に、深絞り加工性が劣化する。なお、この冷間圧延率は65〜80%とすることが好ましく、これにより、強度及び深絞り加工性がより優れた溶融めっき鋼板が得られる。
その後、冷延コイルを再結晶温度以上の温度で焼鈍する。その際、焼鈍温度が再結晶温度未満の場合は、良好な集合組織が発達せず、深絞り加工性が劣化する。一方、焼鈍温度が高くなると鋼板の強度が低下するため、焼鈍は850℃以下の温度で実施することが好ましい。
次に、冷延コイルの表面に溶融めっきを施し、溶融めっき鋼板とする。この溶融めっきは、焼鈍後の冷却途中で行っても、焼鈍後に再加熱して行ってもよい。また、冷延コイル表面に溶融めっきされる金属は、Zn、Zn合金、Al、Al合金、Sn及びSn合金等が挙げられるが、いずれの金属を使用しても本発明の特徴が損なわれることはない。そして、上述の方法により作製された溶融めっき鋼板は、更に、必要に応じて表面にクロメート等の電気めっきが施された後、出荷される。
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、下記表2に示す鋼組成のスラブを、1250℃に加熱保持した後、熱延仕上温度が860〜895℃、巻き取り温度が630〜670℃の条件で熱間圧延し、板厚が3.7mmの熱延コイルにした。次に、この熱延コイルを、酸洗した後で冷間圧延して、厚さが1.2mmの冷延コイルにした。更に、この冷延コイルに対して、800℃で60秒間保持するサイクルの焼鈍を行った後、その冷却途中で冷延コイルの表面に溶融アルミニウムめっきを施した。その際、溶融アルミニウムめっきは、無酸化炉−還元タイプのラインを使用して、浴組成をAl:90%、Si:10%として行った。また、めっき後ガスワイピング法によりめっき付着量が両面で60g/mになるように調整した後、冷却し、ゼロスパングル処理を施した。更に、溶融めっき処理後の鋼板に、Cr3+主体のクロメート処理を施した後、インラインで1.0%の調質圧延を行って、実施例及
び比較例の溶融めっき鋼板とした。なお、下記表2に示す鋼組成における残部は、Fe及び不可避的不純物である。また、下記表2における下線は、本発明の範囲外であることを示す。
Figure 2007277714
次に、上述の方法で作製した実施例及び比較例の各溶融めっき鋼板について、引張り特性、深絞り加工の指標であるr値、耐二次加工脆性、溶接継手効率及びめっき性について評価した。以下、その評価方法について説明する。
引張り特性は、各溶融めっき鋼板から引張り方向が圧延方向と並行になるようにして採取したJIS5号試験片を使用して引張り試験を行い、その引張り強さTS及び伸びElにより評価した。そして、引張り強さTSが440MPa以上で、伸びElが35%以上のものを合格とした。
r値の評価は、各溶融めっき鋼板から圧延方向に平行方向、45°方向、直角方向の3方向について夫々JIS5号引張り試験片を採取し、各試験片のr値を測定した。そして、圧延方向に平行なr値をr、45°方向のr値をr45、直角方向のr値をr90としたとき、下記数式(C)により求められる各方向のr値の平均値raveにより評価し
た。なお、本実施例においてはraveが1.50以上のものを合格とした。また、測定
した3方向のr値のうち、最も低い値をrminとし、rminが1.3以上を合格とし
た。
ave=(r0+2×r45+r90)/4・・・・・・・・・・・(C)
耐二次加工脆性は、溶融めっき鋼板を直径100mmにブランキングした後、外径が50mmのポンチで円筒絞りを行い、その絞りカップを30°の円錐台に載せ、種々の温度条件下で、高さ1m位置から重さ5kgの錘を落下させて、カップに割れが発生しない最低の温度(耐二次加工脆性温度)を求めた。この耐二次加工脆性温度は、鋼板の板厚及び試験方法により変化するが、冷延鋼板の板厚が1.2mmである本実施例においては、−50℃以下を合格とした。
溶接継手効率は、図2に示すように、2枚の溶融めっき鋼板1a,1bを重ねてシーム溶接した試験片の溶接部2について、温度を変えてピール試験を行い、その破断面をSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)で観察し、破断面に脆性破面が見られない最低の温度(延性破面温度)及び−60℃におけるピール強度で評価した。そして、本実施例においては、−60℃におけるピール強度が母材の引張り強さTSの80%以上のもの、及び延性破面温度が−30℃以下のものを合格とした。
また、めっき性は、目視により各溶融めっき鋼板の表面を観察し、めっき付着状況で評価した。具体的には、不めっきの発生がないものを〇、軽微な不めっきが発生していたものを△、不めっきがあるものを×とした。以上の評価結果を下記表3及び表4にまとめて示す。
Figure 2007277714
Figure 2007277714
上記表3及び表4に示すように、実施例No.1〜5の溶融めっき鋼板は、いずれも優れたプレス成形性を有すると共に、耐二次加工脆性、めっき性及び溶接継手効率の全ての特性が優れていた。
これに対して、No.6の溶融めっき鋼板はC含有量が本発明の範囲から外れた比較例である。この溶融めっき鋼板は、深絞り加工性の指標であるrave及びrminが低く、プレス成形性が劣っており、更に溶接継手効率も劣っているため、本発明の目的を達成していなかった。No.7の溶融めっき鋼板は、Si含有量が本発明の範囲に満たない比較例である。この溶融めっき鋼板は、引張り強さが365MPaであり、本発明の目的である380MPa以上で540MPa未満の引張り強度に達しておらず、本発明の目的に合致しない。一方、No.8の溶融めっき鋼板は、Si含有量が本発明の上限を超えている比較例である。この溶融めっき鋼板は、プレス成形性、耐二次加工脆性及び溶接継手性能は良好であるが、表面に不めっきが生じ、めっき性が劣っているため、本発明の目的に合致しなかった。
No.9の溶融めっき鋼板は、Mn含有量が本発明の下限に満たない比較例である。この溶融めっき鋼板は、引張り強さが365MPaであり、本発明の目的である380MPa以上で540MPa未満の引張り強度に達しておらず、本発明の目的に合致しない。また、No.9の溶融めっき鋼板は、不めっきが生じ、溶融めっき性も劣っていた。一方、No.10の溶融めっき鋼板は、Mn含有量が本発明の上限を超えている比較例である。この溶融めっき鋼板は、伸びElが34.2%と低く、またrminが1.12と劣っているため、加工性が劣っていた。更に、No.10の溶融めっき鋼板は、溶接継手性能及び溶融めっき性も劣っていた。No.11の溶融めっき鋼板は、Ti含有量が本発明の下限に満たない比較例である。この溶融めっき鋼板は、raveが1.40、rminが1.25と低く、本発明の目的の1つである優れたプレス成形性が得られない。No.12の溶融めっき鋼板は、Ti含有量が本発明の範囲を超えている比較例である。この溶融めっき鋼板は、前述した実施例No.1〜4の溶融めっき鋼板に比べて溶接継手性能が大幅に劣っていた。
No.13及びNo.14の溶融めっき鋼板は、Nb含有量が本発明の範囲から外れた比較例である。Nb含有量が本発明の範囲に満たないNo.13の溶融めっき鋼板は、加工性の指標である伸びEl及びr値が劣っており、Nb含有量が本発明の範囲を超えているNo.14の溶融めっき鋼板は、伸びEl及び溶接継手性能が劣っていた。No.15の溶融めっき鋼板は、P含有量が本発明の範囲から外れた比較例である。この溶融めっき鋼板は、耐二次加工脆性、溶接継手性能及び溶融めっき性がいずれも前述した実施例No.1〜5の溶融めっき鋼板に比べて劣っていた。No.16の溶融めっき鋼板は、B含有量が本発明の下限に満たない比較例である。この溶融めっき鋼板は、耐二次加工脆性が20℃と劣っていた。No.17の溶融めっき鋼板は、B含有量が0.0050%と本発明の上限を超えており、更にNb含有量も本発明の範囲に満たない比較例である。この溶融めっき鋼板は、800℃で60秒間保持する熱サイクルの焼鈍を行っても未再結晶組織であり、r値の測定及び耐二次加工脆性の試験が実施できず、更に、溶接継手性能も劣っていた。
横軸にMn含有量([Mn])をとり、縦軸にSi含有量([Si])をとってMn含有量及びSi含有量と溶融めっき性の関係を示す図である。 ピール試験方法を示す断面図である。
符号の説明
1a,1b 溶融めっき鋼板
2 溶接部

Claims (2)

  1. 冷延鋼板と、
    前記冷延鋼板の表面に形成された溶融めっき層とを有し、
    前記冷延鋼板は、質量%で、C:0.0005〜0.0050%、Si:0.30〜1.0%、Mn:0.50〜2.0%、P:0.040%以下、Ti:0.005〜0.030%、Nb:0.005〜0.040%、B:0.0002〜0.0030%、S:0.01%以下、Al:0.005〜0.080%、N:0.0010〜0.0095%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Ti含有量(%)を[Ti]、N含有量(%)を[N]、P含有量(%)を[P]、Si含有量(%)を[Si]、Mn含有量(%)を[Mn]としたとき、下記数式(A)により表されるTが0.02%未満であると共に下記数式(B)を満足する組成を有し、
    *=[Ti]−3.42×[N]−0.2[P] ・・・・・(A)
    0.3<[Si]/[Mn]<2.0 ・・・・・・(B)
    かつ引張り強さTS(MPa)の絶対値が、P含有量(%)の絶対値の1×10倍以
    上であることを特徴とする深絞り用溶融めっき高強度鋼板。
  2. 質量%で、C:0.0005〜0.0050%、Si:0.30〜1.0%、Mn:0.50〜2.0%、P:0.040%以下、Ti:0.005〜0.030%、Nb:0.005〜0.040%、B:0.0002〜0.0030%、S:0.01%以下、Al:0.005〜0.080%、N:0.0010〜0.0095%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Ti含有量(%)を[Ti]、N含有量(%)を[N]、P含有量(%)を[P]、Si含有量(%)を[Si]、Mn含有量(%)を[Mn]としたとき、下記数式(A)により表されるTが0.02%未満であると共に下記数式(B)を満足する組成の溶鋼を連続鋳造してスラブを得る工程と、
    *=[Ti]−3.42×[N]−0.2[P] ・・・・・(A)
    0.3<[Si]/[Mn]<2.0 ・・・・・・(B)
    前記スラブを、仕上げ温度がAr温度以上、巻取り温度が750℃以下の条件で、熱間圧延して熱延コイルを得る工程と、
    前記熱延コイルを50%以上の冷延率で冷間圧延して所定の厚さの冷延コイルとする工程と、
    前記冷延コイルを再結晶温度以上の温度で焼鈍すると共に、その冷延過程において前記冷延コイルの表面に溶融めっきを施す工程とを有し、
    引張り強さTS(MPa)の絶対値が、P含有量(質量%)の絶対値の1×10倍以上である溶融めっき高強度鋼板を製造することを特徴とする深絞り用溶融めっき高強度鋼板の製造方法。
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