JP2006149400A - バクテロイデス用プライマー及び該プライマーを用いた検出方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ヒト腸内において検出される各種の菌を属もしくは菌種レベルで特異的に同定できるプライマーを合成し、このプライマーを用いて菌を迅速、簡便に同定・解析する方法の提供。
【解決手段】特定の塩基配列又は該塩基配列に相補的な配列からなるバクテロイデス用プライマー又はプローブ、並びにこのプライマーを使用するバクテロイデスの検出方法であって、(1)検体中のDNAを抽出する工程および(2)上記プライマーの1又は2以上を用いてPCR反応を行う工程を含む方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、腸内細菌の同定に有用なDNAプライマー、プローブ及びこれを用いた腸内細菌の菌属、菌種特異的な検出・同定・解析方法に関するものである。
ヒトや動物等の腸内には多様な細菌が生息し、腸内細菌叢を形成している。このような腸内細菌としてはビフィドバクテリウム属細菌やバクテロイデス属細菌等様々なものがあり、宿主である生体の生理状態等に影響を与えている。
例えば、ビフィドバクテリウム属細菌や乳酸菌等の腸内有用細菌数が増加すると、整腸効果、免疫賦活効果が高まることが知られており、また、腸内最優勢菌の1つであるバクテロイデスグループの細菌などは、菌体表面のLPS(lipopolysaccarido)にトキシン様の毒素活性があることも見出されているため、比較的悪玉菌として認識されている。
従ってヒトや動物等の腸内細菌叢を解析することは、個体の健康状態の把握、腸管内の病理的研究等に非常に有用である。現状ではその手段として、種々の選択培地を組み合せて用いる選別方法や顕微鏡観察が主に行われている。
このため、菌種の同定、腸内細菌叢の解析を行うためには、対象となる個体の糞便を嫌気条件下において希釈液で希釈し、これを培地上にまき、嫌気性培養を行う必要がある。しかし、培養の際には数日から数週間の時間を要することとなり、コロニー数のカウント等操作も煩雑で、試験者の熟練を要するものであった。
また、近年では、DNA−DNAホモロジーによる判定も行われるようになっている(非特許文献1)。しかしながら、この同定法も長時間を要し、迅速な菌種同定を行うには好ましいものではなかった。
上記検出法の問題点を解消するため、本出願人らはある種の腸内細菌に特異的なプローブやプライマーを用いて、菌の同定を行う方法を検討し、例えばバクテロイデスグループ細菌(特許文献1)に特異的なプローブを、ビフィドバクテリウム属細菌菌種(特許文献2)に特異的なプライマーを開示している。この方法によれば、菌の同定・検出を簡便、迅速に行えるが、ヒト腸内にはこの他にも様々な細菌が存在しているため、上記の他の菌をもカバーできるプライマーやプローブのセットも要望されている。
しかしながら、腸内細菌の同定等に使用しうるプライマーを設計するためには、遺伝子のシークエンシング、アライメント等かなりの手間がかかるばかりか、せっかく設計した配列でプライマーを合成しても、種々の菌と反応してしまい、必要な菌に対する特異性が得られないものであることが多い。このため、腸内の菌の動向を把握するのに十分なプライマーが更に求められていた。
特開平11−28090号 特開平11−123093号 Collins,M.D.,et al INTERNATIONAL JOURNAL of SYSTEMATIC BACTERIOLOGY 39,105-108(1989)
従って、本発明の目的は、ヒト腸内において検出される各種の菌を属もしくは菌種レベルで特異的に同定できるプライマーを合成し、このプライマーを用いて菌を迅速、簡便に同定・解析する方法を提供することにある。
斯かる実状に鑑み本発明者は、多大な労力を投入し、種々の遺伝子のシークエンシング、アライメント等々の煩雑な作業を行った結果、各種腸内細菌に特異的な塩基配列を有するDNAプライマーを見出し、これを用いれば、細菌の培養を行うことなく、検体から抽出した細菌由来のDNAのPCR反応により、迅速かつ簡便に上記の菌の同定・解析が可能となることを見出し本発明を完成した。
すなわち、本発明は、配列番号2、5−10、26及び29−34から選ばれる塩基配列又は該塩基配列に相補的な配列からなるバクテロイデス用プライマー又はプローブを提供するものである。
また、本発明は、配列番号2と26、5と29、6と30、7と31、8と32、9と33及び10と34から選ばれる塩基配列の組み合せ又はこれらの塩基配列の組み合せに相補的な配列からなるバクテロイデス用プライマーを提供するものである。
更に、本発明は、上記プライマーの1又は2以上を使用することを特徴とするバクテロイデスの検出方法を提供するものである。
更にまた、本発明は、(1)検体中のDNAを抽出する工程及び(2)上記プライマーの1又は2以上を用いてPCR反応を行う工程を含むバクテロイデスの検出方法を提供するものである。
本発明のプライマーを使用すれば、菌を培養することなく、迅速、簡便、低コスト且つ高精度に腸内細菌の検出・同定を行うことができる。また他の菌に特異的なプライマー等と組み合せて使用することで、腸内細菌叢の解析等をも行い消化管等の状態を把握できるため、種々疾病等の予防・治療が容易になる。
本発明の抽出に特異的なプライマーを具体的に挙げれば、属特異的プライマーであるビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属特異的プライマー、バクテロイデス(Bacteroides)グループ細菌のサブグループ特異的プライマーであるバクテロイデス(Bacteroides)クラスター特異的プライマー、プレボテラ(Prevotella)クラスター特異的プライマー、クロストリジウム(Clostridium)クラスターXIV特異的プライマー、及び菌種特異的プライマーであるバクテロイデス・オバタス(Bacteroides ovatus)、バクテロイデス・セタイオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)、バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)、バクテロイデス・ユニフォルミス(Bacteroides uniformis)、バクテロイデス・エガーシィー(Bacteroides eggerthii)、バクテロイデス・ブルゲイタス(Bacteroides vulgatus)、クロストリジウム・スフェノイデス(Clostridium sphenoides)、クロストリジウム・インドリス(Clostridium indolis)、クロストリジウム・イノカム(Clostridium innocuum)、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)、クロストリジウム・パラプトリフィカム(Clostridium paraputrificum)、クロストリジウム・バイファーメンタンス(Clostridium bifermentans)、クロストリジウム・ディフィサイル(Clostridium difficile)、クロストリジウム・ソルデリー(Clostridium sordellii) 、クロストリジウム・クロストリジフォーム(Clostridium clostridiiforme)、クロストリジウム・ネクサイル(Clostridium nexile)、クロストリジウム・コクレアータム(Clostridium cocleatum)を例示することができる。
バクテロイデスグループ(Bacteroidesceae)細菌は、グラム陰性の嫌気性菌であり、ヒトの腸管内における最優勢菌である。バクテロイデスグループには、近年新しい属が提唱され、そのサブグループは、バクテロイデス(Bacteroides)クラスター、プレボテラ(Prevotella)クラスター、ポルフィロモナス(Porphyromonas)クラスター、ニュー1(New1)、ニュー2(New2)の5つに大別される。
上記バクテロイデス属細菌は、全てバクテロイデスサブグループ内のバクテロイデスクラスター内に属する。クロストリジウム属細菌は、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ブチリカム、クロストリジウム・パラプトリフィカムがクラスター1に、クロストリジウム・ディフィサイル、クロストリジウム・バイファーメンタンス、クロストリジウム・ソルデリーがクラスター11に、クロストリジウム・スフェノイデス、クロストリジウム・インドリス、クロストリジウム・クロストリジフォーム、クロストリジウム・ネクサイルがクラスター14aに、クロストリジウム・イノカムがクラスター16に、クロストリジウム・ラモーサム、クロストリジウム・コクレアータムがクラスター18にそれぞれ属する。
上記の腸内細菌に特異的なプライマーを作成するにあたり、そのターゲットには系統分類の指標として信頼性の高い16SrRNA遺伝子を用い、同定・解析には、PCR法等の手段が必要となるため、RNAでなくDNAを用いた。
プライマーは、本発明者がシークエンスを行って得た塩基配列とデータベース(DDBJ、Genbank等)や本発明者が比較対象として新たにシークエンスを行って得た塩基配列とを比較・検討することにより得たものである。ここで本発明者が比較対象として新たに16SrRNA遺伝子のシークエンスを行った菌種は、具体的には、クロストリジウム・パーフリンジェンスJCM1290T、クロストリジウム・ブチリカムJCM1391T、クロストリジウム・バイファーメンタンスJCM1386T、クロストリジウム・ディフィサイルJCM12960T、クロストリジウム・ソルデリーJCM3814T、クロストリジウム・スフェノイデスJCM1415T、クロストリジウム・コクレアータムJCM1397T、クロストリジウム・インドリスJCM1380Tである。これらの配列は、遺伝研データベースDDBJに登録する予定である。
プライマーの設計の際には、同定の対象となる菌とその近縁の菌を配列をアライメントした。その結果、ビフィドバクテリウム属に特異的なプライマーでは、大腸菌のナンバリングにおける153〜169領域と720〜699領域に属に特徴的な配列があり、以下バクテロイデスクラスターでは149〜169領域と646〜626領域に、プレボテラクラスターでは803〜827領域と1335〜1311領域に、クロストリジウムクラスターXIVでは477〜496領域と916〜895領域に属に特徴的な配列があったので、この領域をターゲットとしてPCRプライマーを設計した。また、オリゴヌクレオチドの長さはプライマーによって異なっており、15〜25b.pとなっている。これらは操作上最も好適な長さであるが、使用に際しては、各々の16SrRNA遺伝子中において、該オリゴヌクレオチドに隣接する数〜十数b.pの塩基配列を増減させたものを用いても良い。
このようにして得られたプライマーのうち、配列番号1及び25記載の塩基配列を有するものは、ビフィドバクテリウム属に特異的なDNAオリゴヌクレオチドであり、菌種の同定、解析を行うためのプライマーやプローブとして使用することができる。プライマーとしては、公知のユニバーサルプライマー等と組み合せて用いることも可能であるが、その組み合せによっては種特異的な検出を行えないものもあるので、両者を組み合せることが望ましい。
また、配列番号2及び26記載の塩基配列を有するものは、バクテロイデスクラスターに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
また、配列番号3及び27記載の塩基配列を有するものは、プレボテラクラスターに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
また、配列番号4及び28記載の塩基配列を有するものは、クロストリジウムクラスターXIVに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
また、配列番号5及び29記載の塩基配列を有するものは、バクテロイデス・オバタス及びバクテロイデス・セタイオタオミクロンに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
また、配列番号6及び30記載の塩基配列を有するものは、バクテロイデス・セタイオタオミクロンに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
また、配列番号7及び31記載の塩基配列を有するものは、バクテロイデス・フラギリスに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
また、配列番号8及び32記載の塩基配列を有するものは、バクテロイデス・ユニフォルミスに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
また、配列番号9及び33記載の塩基配列を有するものは、バクテロイデス・エガーシィーに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
また、配列番号10及び34記載の塩基配列を有するものは、バクテロイデス・ブルゲイタスに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
また、配列番号11及び35記載の塩基配列を有するものは、クロストリジウム・パーフリンジェンスに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
また、配列番号12及び36記載の塩基配列を有するものは、クロストリジウム・ブチリカムに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
また、配列番号13及び37記載の塩基配列を有するものは、クロストリジウム・パラプトリフィカムに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
また、配列番号14及び38記載の塩基配列を有するものは、クロストリジウム・バイファーメンタンスに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
また、配列番号15及び39記載の塩基配列を有するものは、クロストリジウム・ディフィサイルに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
また、配列番号16及び40記載の塩基配列を有するものは、クロストリジウム・ソルデリーに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
また、配列番号17及び41記載の塩基配列を有するものは、クロストリジウム・クロストリジフォームに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
また、配列番号18、19及び42記載の塩基配列を有するものは、クロストリジウム・ネクサイルに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
また、配列番号20及び43記載の塩基配列を有するものは、クロストリジウム・スフェノイデスに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
また、配列番号21及び44記載の塩基配列を有するものは、クロストリジウム・インドリスに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
また、配列番号22及び45記載の塩基配列を有するものは、クロストリジウム・イノーカムに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
また、配列番号23及び46記載の塩基配列を有するものは、クロストリジウム・ラモーサムに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
また、配列番号24及び47記載の塩基配列を有するものは、クロストリジウム・コクレアータムに特異的なオリゴヌクレオチドである。このため、プライマーとしては両者を組み合せて用いることが好ましい。
上記のように設計したオリゴヌクレオチドプライマーは、その塩基配列に従い、DNA合成機により、人工的に合成される。その特異性は、以下の実施例に示す近縁種(標準株及び基準株)のDNAに対する、プライマーのバンド形成能を指標として確認した。結果として、上記全ての菌種の特異性に問題はなかった。
一方で、今回新たにシークエンスを行ったことにより、配列番号1〜47に示す配列番号にも種特異的な配列が見出されている。例えばバクテロイデス・オバタスでは、プライマー設計時には特異性を有すると考えられた配列がフォワードで3箇所、リバースで2箇所見出されたが、これらの中には同定の際、別の種に属する株と反応してしまうものがあった。また、クロストリジウム属ではパーフリンジェンス、ブチリカムで1組、パラブトリフィカム、バイファーメンタンス、ディフィサイル、スフェノイデスで2組、クロストリジフォーム、インドリスで4組、ネクサイルで15組、ソルデリーで31組のプライマーセットを作製したが、インドリスで2組、その他は1組だけが特異性を有しているに過ぎず、これ以外の配列では、他菌種と反応してしまったり、目的とする菌種と反応しないといった問題があり使用上好ましいものではなかった。
因みに、他菌種と反応してしまったものを例示すると、バクテロイデス・オバタス特異的な配列のプライマーでは、バクテロイデス属のセタイオタオミクロン、フラギリス、エガーシーとの反応が、クロストリジウム・ネクサイル特異的な配列のプライマーでは、バクテロイデス属のフラギリス、エガーシー、ユニフォルミスとの反応が、クロストリジウム・ソルデリー特異的な配列のプライマーでは、クロストリジウム属のバイファーメンタンス、バクテロイデス属のセタイオタオミクロン、フラギリス、エガーシー、ユニフォルミス、オバタス、ブルゲイタスとの反応が見られた。
一方、本発明のプライマーとして選択したものの中でも、バクテロイデス・オバタス特異的プライマーは、バクテロイデス・セタイオタオミクロンと、クロストリジウム・ソルデリー特異的プライマーは、バクテロイデス属のオバタス及びブルゲイタスと反応してしまう。しかし、これらの菌種ではより特異性の高いプライマーを作製することは不可能と考えられ、また、非特異的な反応を起こす菌種に特異的なプライマーを併用すれば、菌種の同定、検出を簡便に行えるものと判断されるため、使用に支障をきたすことはないと考えられる。
本発明のプライマーは、このように各種腸内細菌への特異性を有するため、これらを用いて腸内細菌を迅速に検出・同定できる。また、各菌の選択培地(例えばバクテロイデス属細菌であれば、選択培地であるNBGT培地(腸内菌の世界p324;光岡知足、叢文社(1980))に形成されたコロニーから直接、あるいは培養した菌体からDNAを抽出し、各プライマーとの反応性を調べることによって菌の簡易同定を行うことができる。
培養を行うことなく糞便等から目的とする菌属、菌種を特異的に検出するためには、例えば、まず、糞便1mLを遠心分離して得られるペレットからベンジルクロライド法(Zhu,H.,Qu,L.H.(1993)Isolation of genomicDNA from plants,fungi and bacteria usingbenzyl chloride.nucleic Acids Res.21,5279-5280)等によってDNAを抽出し、これを鋳型DNAとする。この鋳型DNAに本発明のプライマーを組み合せ、増幅反応を行うことにより、菌に特異的なDNA配列(PCR産物)を得ることができる。このようにして得られたDNAを電気泳動すれば、バンドの有無と用いたプライマーから菌を特異的に検出することができる。
また、DNA−DNA相同性試験や生物、生化学的性状試験等の煩雑な操作を行うことなく、菌の同定を行うためには、例えば、まずボイリング法(Wang et al FEMS Microbiology letters 124(1994)229-238 )等によってDNAを抽出し、これを鋳型DNAとする。この鋳型DNAに本発明のプライマーを組み合せ、増幅反応を行うことにより、菌に特異的なDNA配列(PCR産物)を得ることができる。このようにして得られたDNAを電気泳動すれば、バンドの有無と用いたプライマーから菌を同定することができる。
DNAを抽出する方法としては、上記ボイリング法、定法であるMaraur法、その変法である酵素法、及び簡便法である上記ベンジルクロライド法が好ましい。これらの方法は多少煩雑になるものの、酵素法において、幅広い菌種から収率よくDNAを抽出できる。
このように、コロニーや糞便等から抽出したDNAを鋳型とし、本発明のプライマーを用いて菌の同定を行うと、従来の方法では検出限界以下であった菌株や種の判別が困難であった菌株も簡便に検出することが可能であった。また、鋳型のDNA量を段階希釈しPCRを行えば、目的とする菌の定量的検出も可能である。
また、本発明のプライマーは、単独でもプローブとして使用できる。これらは他の公知のユニバーサルプライマーやオリゴヌクレオチド等と組み合せても用いることができる。
また、本発明のプライマーを上記腸内細菌菌種特異的プライマーやその他の多岐にわたる細菌のプライマーと組み合せて用いれば、ヒト、動物等の腸内細菌叢等の解析も行い、細菌叢の全体像を把握することも可能である。
以下、実施例を挙げて本発明更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例1 プライマーの設計及び合成
(1)ビフィドバクテリウム属、バクテロイデスクラスター、プレボテラクラスター及びクロストリジウムクラスターXIV特異的プライマー
DDBJ、Genbank 等のデータベースより得られた細菌の16SrRNA遺伝子配列を基に、プライマーの設計を行った。大腸菌のナンバリングにおける、ビフィドバクテリウム属はV2領域とV4周辺の領域に、バクテロイデスクラスターはV2領域とV4領域にプレボテラクラスターはV5周辺の領域とV8周辺の領域に、クロストリジウムクラスターXIVはV3領域とV5−V6間の領域に特異性が認められたので、この部分をターゲットとして用いた。こうして設計した塩基配列に従い、DNA合成機を用いてプライマーを合成した(表1)。
Figure 2006149400
(2)バクテロイデス属に菌種特異的なプライマー
DDBJ、Genbank 等のデータベースより得られた細菌の16SrRNA遺伝子配列及び本発明者が新たにシークエンシングした配列を基に、プライマーの設計を行った。大腸菌のナンバリングにおけるV3からV5領域の間に特異性が認められたので、この部分をターゲットして用いた。こうして設計した塩基配列に従い、DNA合成機を用いてプライマーを合成した(表2)。
Figure 2006149400
実施例2 プライマーの特異性確認
実施例1(1)のプライマーが、実際に特異性を有しているかを確認するため、近縁種の(標準株及び基準株)とプライマーとの反応性を検討した。
(1)菌株の純粋培養及びDNAの抽出
表3に示す、14菌属87菌種の細菌をGAM培地(Nissui社製)にて嫌気的に一晩純粋培養した。こうして得た菌体各々から、ベンジルクロライド法(Zhu,H.et al(1993)Nucleic Acids Research 21,5279-5280)により、DNAを抽出した。
すなわち、GAM培地を用いた一夜培養菌液1.5mLの遠心菌体にExtraction buffer(100mM Tris,40mM EDTA pH9.0)250μL、ベンジルクロライド150μL、10%SDS50μLを加え、50℃で30分間激しく振盪した。3M酢酸ナトリウム150μLを加えて氷中で15分間静置した後、15000rpm、10分間の遠心で得られた上清をイソプロパノールで沈殿させ70%エタノールで洗浄した。沈殿を50μLのTE buffer(10mM Tris−HCL(pH8.0)/1mM EDTA)に溶かして濃度を測定し、10μg/mLの濃度に調製して鋳型DNA溶液とした。
(2)PCR反応
総量を25μLとし、10mM Tris−HCl(pH8.3)、50mM KCl、1.5mL MgCl2 、200μM dNTP mixtureに、各々0.8μMプライマー、1.0U Taq DNA polymerase(タカラ社製)、10ng鋳型DNAを含む反応液で、DNAサーマルサイクラーPJ480(タカラ社製)により、94℃、20秒、55℃、20秒、72℃、30秒を30回のPCR反応を行った。
(3)プライマーの特異性の検討
PCR反応で得られたPCR産物を電気泳動し、バンドの有無によりプライマーの各菌株のDNAとの結合能を確認することにより、プライマーの特異性を判定した。1.5%アガロース(Morecular Biology Certified Agarose;バイオラッド社製)で、Mupid-2(コスモ・バイオ)により100V、25分電気泳動し、Ethidium Bromide(0.5mg/mL)で染色後、UVランプ下でバンドを観察した。その結果は表3に示す通りであり、プライマーは特異的にバンドを形成した。
Figure 2006149400
実施例3 プライマーを用いた菌の同定
35名の成人糞便サンプルから抽出したDNAを鋳型にPCRを行った。抽出法及びPCRの条件は実施例1(1)と同じである。その結果、ビフィドバクテリウム属とクロストリジウムクラスターXIVは35名全てから、バクテロイデスは34名からプレボテラは22名から、それぞれ検出された。
実施例4 プライマーの特異性確認
実施例1(2)のバクテロイデス属細菌菌種特異的プライマーが、実際に特異性を有しているかを確認するため、近縁種の基準株とプライマーとの反応性を検討した。
(1)菌株の純粋培養及びDNAの抽出
表4、5に示す、6菌種のバクテロイデスクラスター細菌基準株、バクテロイデスサブグループに属する21菌株、及びその他の腸内から分離される代表的な菌種23株をEG培地(Nissui社製)にて嫌気的に2晩純粋培養した。こうして得た菌体各々から、ボイリング法により、DNAを抽出した。
すなわち、培地上に出現したコロニーから菌体をかきとり、100μLのTE buffer中に懸濁する。この懸濁液を100℃、5分間熱した後、氷中で急冷した。
(2)PCR反応
総量を30μLとした。添付buffer、dNTP mixtureに、2.4μLのプライマー(20pM)、0.6UのTaq DNA polymerase(タカラ社製)、鋳型DNA1μLを混合して反応液を調製し、DNAサーマルサイクラーPJ480(タカラ社製)で、94℃、30秒、57℃、30秒、72℃、2分を35回のPCR反応を行った。
(3)プライマーの特異性の検討
PCR反応で得られたPCR産物を電気泳動し、バンドの有無によりプライマーの各菌株のDNAとの結合能を確認することにより、プライマーの特異性を判定した。1.5%アガロース(Morecular Biology Certified Agarose;バイオラッド社製)で、Mupid−2(コスモ・バイオ)により100V、25分電気泳動し、Ethidium Bromide(0.5mg/mL)で染色後、UVランプ下でバンドを観察した。その結果は表4、5に示す通りである。バクテロイデス・オバタス以外のプライマーは特異的にバンドを形成したがオバタス特異的プライマーはフラギリスやセタイオタオミクロンともバンドを形成してしまった(表4、5)。
Figure 2006149400
Figure 2006149400
実施例5 バクテロイデス・オバタス特異的プライマーの再設計及び合成
DDBJ、Genbank 等のデータベースより得られた細菌の16SrRNA遺伝子配列を基に、実施例1と同様にプライマーの設計を行った。大腸菌のナンバリングにおけるV2領域及びV3とV8の間の領域に特異性が認められたので、この部分をターゲットとして用いた。こうして再度設計した塩基配列に従い、DNA合成機を用いてプライマーを合成した(表6)。
Figure 2006149400
実施例6 プライマーの特異性確認
実施例5のバクテロイデス・オバタス特異的プライマーが、実際に特異性を有しているかを確認するため、近縁種の(基準)株とプライマーとの反応性を検討した。
(1)菌株の純粋培養及びDNAの抽出
前記表4、5に示す細菌をEG培地(Nissui社製)にて嫌気的に2晩純粋培養した。こうして得た菌体各々から、実施例4と同様ボイリング法により、DNAを抽出した。
(2)PCR反応
総量を30μLとした。添付buffer、dNTP mixtureに、2.4μLのプライマー(20pM)、0.6UのTaq DNA polymerase(タカラ社製)、鋳型DNA1μLを混合して反応液を調製し、DNAサーマルサイクラーPJ480(タカラ社製)で、94℃、30秒、57℃、30秒、72℃、2分を35回のPCR反応を行った。
(3)プライマーの特異性の検討
PCR反応で得られたPCR産物を電気泳動し、バンドの有無によりプライマーの各菌株のDNAとの結合能を確認することより、プライマーの特異性を判定した。1.5%アガロース(Morecular Biology Certified Agarose;バイオラッド社製)で、Mupid−2(コスモ・バイオ)により100V、25分電気泳動し、Ethidium Bromide(0.5mg/mL)で染色後、UVランプ下でバンドを観察した。その結果は表4、5に示す通りであり、バクテロイデス・セタイオタオミクロンと弱いバンドを形成したものの、バクテロイデス・オバタス特異的プライマーは特異的にバンドを形成した。
実施例7 プライマーの設計及び合成
表7、8に示すクロストリジウム属細菌菌種に特異的なプライマーを設計した。各種データベースより得られた16SrRNA遺伝子配列及び本発明者がシークエンシングした配列を基に、特異性の認められた部分をターゲットとしてプライマーを設計した。こうして設計された塩基配列に従い、DNA合成機を用いてプライマーを合成した(なお、特異性を有する配列は、上記のように表7、8以外にも多種認められたが、後に示す特異性確認試験で、問題が生じたものは記載していない)。
Figure 2006149400
Figure 2006149400
実施例8 プライマーの特異性確認
実施例7のクロストリジウム属の菌種に特異的プライマーが、実際に特異性を有しているかを確認するため、近縁種の(基準)株とプライマーとの反応性を検討した。
(1)菌株の純粋培養及びDNAの抽出
表9(グループ1)、グループ2及びグループ3に示す、11菌属47菌種の細菌をEG培地(Nissui社製)にて嫌気的に2晩純粋培養した。こうして得た菌体各々から、実施例4と同様ボイリング法により、DNAを抽出した。
(2)PCR反応
総量を30μLとした。添付buffer、dNTPmixtureに0.6μLのプライマー(20pM)、0.12μLのTaq DNA polymerase(5U/μL、タカラ社製)、鋳型DNA0.6μLを混合して反応液を調製し、DNAサーマルサイクラーPJ480(タカラ社製)で94℃、30秒、60℃、30秒、72℃、2分を35回のPCR反応を行った。
(3)プライマーの特異性の検討
PCR反応で得られたPCR産物を電気泳動し、バンドの有無によりプライマーの各菌株のDNAとの結合能を確認することにより、プライマーの特異性を判定した。0.8%アガロース(H14「TAKARA」;タカラ社製)で、Mupid−2(コスモ・バイオ)により100V、25分電気泳動し、Ethidium Bromide(1.0mg/mL)で染色後、UVランプ下でバンドを観察した。その結果は表9に示す通りである。また、表9以外の菌に対しては、クロストリジウム・ソルデリー菌種特異的プライマー(CISOR−FR)が、クロストリジウム・ソルデリー以外に下記グループ3のバクテロイデス・オバタスJCM5824T 及びバクテロイデス・ブルガタスJCM5826T でバンドが認められた。その他のプライマーに関しては標的とした菌種以外にバンドは認められなかった。
Figure 2006149400
グループ2
13菌体以外のClostridium9菌種(基準株)
C.barati ATCC 27639T
C.celatum ATCC 27791T
C.loptum ATCC 29065T
C.ghoni ATCC 25257T
C.aminovalericum ATCC13725T
C.coccoides ATCC 29236T
C.oroticum ATCC 13619T
C.symbiosum ATCC 14940T
C.spiroforme ATCC 29900T
グループ3
代表的ヒト腸内細菌25菌種
Fusobacterium necrophorum subsp. necrophorum JCM 3718T
F.varium JCM 3722
F.necrophorum subsp. funduliforme JCM 3724T
Acinetobacter sp. ATCC 15308
Eschelihia coli MGG
Proteus vulgatus M52
Pseudomonas aeruginosa PA-15
Enterococcus faecalis ATCC 19433T
E.faecium ATCC 19434T
Lactobacillus acidophilus ATCC 4356T
Lactobacillus salivarius subsp. salivarius ATCC 11741T
Bifidobacterium adolescentis aE 1949
B.bifidum aE 319
B.breve aS-1
B.longum aE 1946
Eubacterium aerofaciens S 603
E.lentum VPI 0225 1
E.limosum ATCC 8486T
Bacterodies ovatus JCM 5824T
B.thetaiotaomicron JCM 5827T
B.fragilis DSM 2151T
B.eggerthii DSM 20697T
B.uniformis JCM 5828T
B.vulgatus JCM 5826T
B.distasonis JCM 5825T
実施例9 プライマーの特異性確認
バクテロイデス属細菌菌種特異的プライマーを用い、ヒトふん便分離株をサンプルとして実施例4と同様の方法でサンプル中の菌種同定を行った。その結果、分離株26株が同定された(表10)。
なお、同一のサンプルの生物・生化学的性状を光岡らの方法(腸内菌の世界−嫌気性菌の分離と同定、光岡知足、叢文社)により確認したところ、本発明のプライマーによる同定(検出)結果と一致していた。
Figure 2006149400

Claims (4)

  1. 配列番号2、5−10、26及び29−34から選ばれる塩基配列又は該塩基配列に相補的な配列からなるバクテロイデス用プライマー又はプローブ。
  2. 配列番号2と26、5と29、6と30、7と31、8と32、9と33及び10と34から選ばれる塩基配列の組み合せ又はこれらの塩基配列の組み合せに相補的な配列からなるバクテロイデス用プライマー。
  3. 請求項1又は2記載のプライマーの1又は2以上を使用することを特徴とするバクテロイデスの検出方法。
  4. (1)検体中のDNAを抽出する工程及び(2)請求項1又は2記載のプライマーの1又は2以上を用いてPCR反応を行う工程を含むバクテロイデスの検出方法。
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