JP2005166276A - 固体高分子型燃料電池セパレータ用ステンレス鋼,それを用いた固体高分子型燃料電池セパレータおよび固体高分子型燃料電池 - Google Patents
固体高分子型燃料電池セパレータ用ステンレス鋼,それを用いた固体高分子型燃料電池セパレータおよび固体高分子型燃料電池 Download PDFInfo
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Abstract
【要 約】
【課 題】 耐食性が良好であると同時に、接触抵抗が小さい(すなわち電気伝導性に優れる)固体高分子型燃料電池用のステンレス鋼製セパレータ、およびそれを用いた固体高分子型燃料電池を提供する。
【解決手段】 ステンレス鋼がC:0.03質量%以下,N:0.03質量%以下,Cr:20〜45質量%,Mo: 0.1〜5.0 質量%を含有し、かつC含有量とN含有量の合計が0.03質量%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、ステンレス鋼の表面の圧縮残留応力が100Mpa以下である固体高分子型燃料電池セパレータを使用する。
【選択図】 図1
【課 題】 耐食性が良好であると同時に、接触抵抗が小さい(すなわち電気伝導性に優れる)固体高分子型燃料電池用のステンレス鋼製セパレータ、およびそれを用いた固体高分子型燃料電池を提供する。
【解決手段】 ステンレス鋼がC:0.03質量%以下,N:0.03質量%以下,Cr:20〜45質量%,Mo: 0.1〜5.0 質量%を含有し、かつC含有量とN含有量の合計が0.03質量%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、ステンレス鋼の表面の圧縮残留応力が100Mpa以下である固体高分子型燃料電池セパレータを使用する。
【選択図】 図1
Description
本発明は、耐食性に優れるとともに接触抵抗値の小さい固体高分子型燃料電池用のステンレス鋼,それを用いたセパレータ、およびそのセパレータを用いた固体高分子型燃料電池に関するものである。
近年、地球環境保全の観点から、発電効率に優れ、CO2 を排出しない燃料電池の開発が進められている。この燃料電池はH2 とO2 を反応させて電気を発生させるものであり、その基本構造は、電解質膜(すなわちイオン交換膜),2つの電極(すなわち燃料極と空気極),O2(すなわち空気)とH2の拡散層,および2つのセパレータから構成される。そして、使用される電解質膜の種類に応じて、リン酸型燃料電池,溶融炭酸塩型燃料電池,固体電解質型燃料電池,アルカリ型燃料電池,固体高分子型燃料電池等が開発されている。
これらの燃料電池のうち、固体高分子型燃料電池は、他の燃料電池に比べて、
(a) 発電温度が80℃程度であり、格段に低い温度で発電できる、
(b) 燃料電池本体の軽量化,小型化が可能である、
(c) 短時間で立上げができる、
等の利点を有している。このため、固体高分子型燃料電池は、電気自動車の搭載用電源,家庭用の定置型発電機,携帯用の小型発電機として利用するべく、今日もっとも注目されている燃料電池である。
(a) 発電温度が80℃程度であり、格段に低い温度で発電できる、
(b) 燃料電池本体の軽量化,小型化が可能である、
(c) 短時間で立上げができる、
等の利点を有している。このため、固体高分子型燃料電池は、電気自動車の搭載用電源,家庭用の定置型発電機,携帯用の小型発電機として利用するべく、今日もっとも注目されている燃料電池である。
固体高分子型燃料電池は、高分子膜を介してH2 とO2 から電気を取り出すものであり、図1に示すように、ガス拡散層2,3(たとえばカーボンペーパ等)およびセパレータ4,5によって膜−電極接合体1を挟み込み、これを単一の構成要素(いわゆる単セル)とし、セパレータ4とセパレータ5との間に起電力を生じさせるものである。
なお膜−電極接合体1は、MEA(すなわち Membrance-Electrode Assembly )と呼ばれており、高分子膜とその膜の表裏面に白金系触媒を担持したカーボンブラック等の電極材料を一体化したものであり、厚さは数10μm〜数100 μmである。ガス拡散層2,3は、膜−電極接合体1と一体化される場合も多い。
固体高分子型燃料電池を上記した用途に適用する場合は、このような単セルを直列に数十〜数百個つないで燃料電池スタックを構成して使用している。
セパレータ4,5には、
(A) 単セル間を隔てる隔壁
としての役割に加え、
(B) 発生した電子を運ぶ導電体、
(C) O2 (すなわち空気)とH2 が流れる空気流路,水素流路、
(D) 生成した水やガスを排出する排出路
としての機能が求められる。さらに固体高分子型燃料電池を実用に供するためには、耐久性や電気伝導性に優れたセパレータ4,5を使用する必要がある。
(A) 単セル間を隔てる隔壁
としての役割に加え、
(B) 発生した電子を運ぶ導電体、
(C) O2 (すなわち空気)とH2 が流れる空気流路,水素流路、
(D) 生成した水やガスを排出する排出路
としての機能が求められる。さらに固体高分子型燃料電池を実用に供するためには、耐久性や電気伝導性に優れたセパレータ4,5を使用する必要がある。
耐久性に関しては、電気自動車の搭載用電源として使用される場合は、約5000時間と想定されている。あるいは家庭用の定置型発電機等として使用される場合は、約 40000時間と想定されている。したがってセパレータ4,5には、長時間の発電に耐えられる耐食性が要求される。その理由は、腐食によって金属イオンが流出すると電解質膜の導電性が低下するからである。
また電気伝導性に関しては、セパレータ4,5とガス拡散層2,3との接触抵抗は極力低いことが望まれる。 その理由は、セパレータ4,5とガス拡散層2,3との接触抵抗が増大すると、固体高分子型燃料電池の発電効率が低下するからである。つまり、接触抵抗が小さいほど、電気伝導性が優れている。
現在までに、セパレータ4,5としてグラファイトを用いた固体高分子型燃料電池が実用化されている。このグラファイトからなるセパレータ4,5は、接触抵抗が比較的低く、しかも腐食しないという利点がある。しかしながら衝撃によって破損しやすいので、小型化が困難であり、しかも空気流路6,水素流路7を形成するための加工コストが高いという欠点がある。グラファイトからなるセパレータ4,5が有するこれらの欠点は、固体高分子型燃料電池の普及を妨げる原因になっている。
そこでセパレータ4,5の素材として、グラファイトに替えて金属素材を適用する試みがなされている。特に、耐久性向上の観点から、ステンレス鋼を素材としたセパレータ4,5の実用化に向けて、種々の検討がなされている。
たとえば特開平8-180883号公報には、不働態皮膜を形成しやすい金属をセパレータとして用いる技術が開示されている。しかし不働態皮膜の形成は、接触抵抗の上昇を招くことになり、発電効率の低下につながる。このため、これらの金属素材は、グラファイト素材と比べて接触抵抗が大きく、しかも耐食性が劣る等の改善すべき問題点が指摘されていた。
また特開平10-228914 号公報には、SUS304等の金属セパレータの表面に金めっきを施すことにより、接触抵抗を低減し、高出力を確保する技術が開示されている。しかし、薄い金めっきではピンホールの発生防止が困難であり、逆に厚い金めっきではコストの問題が残る。
また特開2000-277133 号公報には、フェライト系ステンレス鋼基材にカーボン粉末を分散させて、電気伝導性を改善(すなわち接触抵抗を低下)したセパレータを得る方法が開示されている。しかしながらカーボン粉末を用いた場合も、セパレータの表面処理には相応のコストがかかることから、依然としてコストの問題が残っている。 また、表面処理を施したセパレータは、組立て時にキズ等が生じた場合に、耐食性が著しく低下するという問題点も指摘されている。
さらに、ステンレス鋼に表面処理を施さず、そのままセパレータに適用しようとする試みがなされている。たとえば特開2000-239806 号公報や特開2000-294255 号公報には、Cu,Niを積極的に添加した上で、S,P,N等の不純物元素を低減し、かつC+N≦0.03質量%,10.5質量%≦Cr+3×Mo≦43質量%を満足するセパレータ用フェライト系ステンレス鋼が開示されている。特開2000-265248 号公報や特開2000-294256 号公報には、Cu,Niを 0.2質量%以下に制限して金属イオンの溶出を抑えた上で、S,P,N等の不純物元素を低減し、かつC+N≦0.03質量%,10.5質量%≦Cr+3×Mo≦43質量%を満足するセパレータ用フェライト系ステンレス鋼が開示されている。
しかし、これらの発明は、いずれもステンレス鋼の成分を所定の範囲に規定して、不働態皮膜を強固にすることによって、表面処理を施さず、そのまま使用しても溶出金属イオンによる電極担持触媒の触媒能の劣化を低減し、腐食生成物による電極との接触抵抗の増加を抑制しようとする思想に基づいている。したがって、ステンレス鋼自体の接触抵抗を低下させようとするものではない。また、数万時間にわたって出力電圧の低下を防止する耐久性を確保できるものでもない。
特開平8-180883号公報
特開平10-228914 号公報
特開2000-277133 号公報
特開2000-239806 号公報
特開2000-294255 号公報
特開2000-265248 号公報
特開2000-294256 号公報
本発明は、従来の技術が抱えている上記のような問題点に鑑み、耐食性が良好であると同時に、接触抵抗が小さい(すなわち電気伝導性に優れる)固体高分子型燃料電池用のフェライト系ステンレス鋼,それを用いたセパレータ、およびそれを用いた固体高分子型燃料電池を提供することを目的とする。
すなわち本発明は、素材となるステンレス鋼の成分のみならず、ステンレス鋼をセパレータに加工した後の表面の圧縮残留応力を所定の範囲に規定して接触抵抗の増加を抑制することにより、表面処理を施さなくても接触抵抗が小さく、発電効率が優れ、かつステンレス鋼自体の耐食性が高い固体高分子型燃料電池用のフェライト系ステンレス鋼,それを用いたセパレータ、およびそれを用いた固体高分子型燃料電池を提供することを目的とする。
本発明者らは、まず酸洗仕上げしたステンレス鋼を切削加工すると接触抵抗が増加するという知見を得た。これは鋼板表面の圧縮残留応力が切削加工により高くなり、不働態皮膜の緻密さが低下し、かつ皮膜厚さも増加し、接触抵抗が増加したものと推定される。
そこで本発明者らは、接触抵抗を低く抑えた上で、高い耐食性を発揮するためのステンレス鋼製セパレータについて、ステンレス鋼の成分,表面の残留応力の観点から鋭意研究を行なった。その結果、Moを含有するフェライト系ステンレス鋼を素材として、その表面における圧縮残留応力を所定の範囲に維持することによって、燃料電池の動作環境で接触抵抗が大幅に低減されることを見出した。
まず本発明を想到するにいたった実験結果について説明する。
実験では、C: 0.004質量%,N: 0.007質量%,Si: 0.1質量%,Mn: 0.1質量%,Cr:30.5質量%,Mo:1.85質量%,P:0.03質量%,S: 0.005質量%を含有するフェライト系ステンレス鋼を素材とし、板厚0.5mm の冷延鋼板を製造し、湿式でエメリー紙600 番研磨を行ない、70℃のリン酸 350ml+クロム酸 100gの混合溶液で電解研磨した。その後、混酸水溶液(5質量%硝酸+ 2.5質量%フッ酸)に浸漬して酸洗処理を行ない、純水で洗浄,冷風で乾燥し、X線回折によって残留応力を測定した。次いで、下記の手順で定電位保持試験および接触抵抗測定を行なった。
定電位保持試験は、燃料電池の動作環境を模して行なった。すなわち燃料電池が動作する環境は、pHが3〜4,アノード側の電位が−0.2 〜0V(SCE),カソード側の電位が約 0.6V(SCE)と推定されている。そこで、硫酸を用いてpHを3に調整した酸性水溶液をArで脱気しながら80℃に加熱して試験片を浸漬し、ポテンショスタットにより酸性水溶液中の試験片の電位を−0.1 Vおよび 0.6V(SCE)に5時間保持した。なお、試験片の寸法は30mm×30mmで、その片面中央部の20mm×20mmを残してシールし、定電位保持試験に供した。
接触抵抗の測定は、図2に示すように2枚の試験片8を、その両側から同じ大きさの3枚のカーボンペーパ9(東レ製 TGP-H-120)で交互に挟み、さらに銅板に金めっきを施した電極10を接触させ、単位面積あたり 147N/cm2 (すなわち 15kgf/cm2 )の圧力をかけて試験片8間の抵抗を測定した。その測定値に接触面の面積を乗じ、さらに接触面の数(=2)で除した値を接触抵抗値とした。
なお接触抵抗値は、同一処理をした2枚1組の試験片8を交換しながら6回測定した測定値に基づいてそれぞれ算出し、その平均値を表1に示す。
参考例として、表面に金めっき(厚さ約 0.1μm)を施したステンレス鋼板(厚さ0.3mm ,SUS304相当)およびグラファイト板(厚さ5mm)についても、同様の測定を行ない、接触抵抗値を算出した。その結果を表1に併せて示す。
ピーク位置(2θ)を半価幅中点法により読み取り、2θ−sin2ψ線図の傾きより求めた。X線の照射は鋼板表面3ケ所で行ない、1ケ所についてC方向入射,L方向入射をそれぞれ5回行ない、すべての平均を算出した値を残留応力値として採用した。
試験片8に施した電解研磨の条件,定電位保持試験の条件および圧縮残留応力の測定値を併せて表1に示す。
表1から明らかなように、機械研磨の直後には試験片表面に大きな圧縮残留応力が存在するが、電解研磨によって表層を除去すると、圧縮残留応力は低下する。この試験片を定電位に保持すると、特に電位が 0.6V(SCE)の場合に接触抵抗値が増加する。ただし圧縮残留応力が100MPa以下であれば、圧縮残留応力の増加は抑制され、接触抵抗値は10mΩ・cm2 以下となる。接触抵抗値が10mΩ・cm2 以下であれば、燃料電池の特性に悪影響をほとんど及ぼさない。
このようにして、セパレータ表面の圧縮残留応力を低減すれば、電極の接触抵抗の劣化を軽減でき、特にカソード側の接触抵抗の劣化を大幅に軽減できるという、従来にない重要な知見を得た。この知見に基づいて完成された本発明は下記の通りである。
すなわち本発明は、C:0.03質量%以下,N:0.03質量%以下,Cr:20〜45質量%,Mo: 0.1〜5.0 質量%を含有し、かつC含有量とN含有量の合計が0.03質量%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成のステンレス鋼であって、燃料電池セパレータとして加工されたステンレス鋼の表面の圧縮残留応力が100MPa以下である固体高分子型燃料電池セパレータ用ステンレス鋼である。
本発明の固体高分子型燃料電池セパレータ用ステンレス鋼は、前記した組成に加えて下記の (1)〜(4) の群から選ばれる1種以上を含有することが好ましい。
(1) Si: 1.0質量%以下
(2) Mn: 1.0質量%以下
(3) Al: 0.001〜0.2 質量%
(4) TiおよびNbのうちの少なくとも1種を0.01〜0.5 質量%
また本発明は、ステンレス鋼からなる固体高分子型燃料電池セパレータであって、ステンレス鋼がC:0.03質量%以下,N:0.03質量%以下,Cr:20〜45質量%,Mo: 0.1〜5.0 質量%を含有し、かつC含有量とN含有量の合計が0.03質量%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、燃料電池用セパレータとして加工されたステンレス鋼の表面の圧縮残留応力が100MPa以下である固体高分子型燃料電池セパレータである。
(2) Mn: 1.0質量%以下
(3) Al: 0.001〜0.2 質量%
(4) TiおよびNbのうちの少なくとも1種を0.01〜0.5 質量%
また本発明は、ステンレス鋼からなる固体高分子型燃料電池セパレータであって、ステンレス鋼がC:0.03質量%以下,N:0.03質量%以下,Cr:20〜45質量%,Mo: 0.1〜5.0 質量%を含有し、かつC含有量とN含有量の合計が0.03質量%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、燃料電池用セパレータとして加工されたステンレス鋼の表面の圧縮残留応力が100MPa以下である固体高分子型燃料電池セパレータである。
本発明の固体高分子型燃料電池セパレータでは、素材のステンレス鋼が、前記した組成に加えて下記の (1)〜(4) の群から選ばれる1種以上を含有することが好ましい。
(1) Si: 1.0質量%以下
(2) Mn: 1.0質量%以下
(3) Al: 0.001〜0.2 質量%
(4) TiおよびNbのうちの少なくとも1種を0.01〜0.5 質量%
ただし、上記の (4)は、TiまたはNbを含有する場合は、Ti:0.01〜0.5 質量%またはNb:0.01〜0.5 質量を含有し、TiおよびNbを含有する場合は合計0.01〜0.5 質量%を含有することを指す。
(2) Mn: 1.0質量%以下
(3) Al: 0.001〜0.2 質量%
(4) TiおよびNbのうちの少なくとも1種を0.01〜0.5 質量%
ただし、上記の (4)は、TiまたはNbを含有する場合は、Ti:0.01〜0.5 質量%またはNb:0.01〜0.5 質量を含有し、TiおよびNbを含有する場合は合計0.01〜0.5 質量%を含有することを指す。
また本発明は、固体高分子膜,電極およびセパレータからなる固体高分子型燃料電池であって、セパレータとして上記の固体高分子型燃料電池セパレータを用いる固体高分子型燃料電池である。
本発明によれば、従来のグラファイト製セパレータや金めっきステンレス鋼製セパレータと同等に接触抵抗値が低く、かつ耐食性に優れた固体高分子型燃料電池に使用するのに好適なステンレス鋼製セパレータが得られる。 したがって、従来から耐久性を考慮して高価なグラファイト製セパレータや金めっきステンレス鋼製セパレータを使用していた固体高分子型燃料電池に、安価なステンレス鋼製セパレータを提供することが可能となった。
なお、本発明は、固体高分子型燃料電池セパレータに限らず、電気伝導性を有するステレンス鋼製電気部品としても広く利用できる。
まず、本発明に係るセパレータ用ステンレス鋼の成分の限定理由を説明する。
C:0.03質量%以下,N:0.03質量%以下,C+N:0.03質量%以下
CおよびNは、いずれもステンレス鋼中のCrと反応して化合物を形成し、粒界にCr炭窒化物として析出するので、耐食性の低下をもたらす。したがってC,Nの含有量は小さいほど好ましく、Cが0.03質量%以下,N:0.03質量%以下であれば、耐食性を著しく低下させることはない。またC含有量とN含有量の合計が0.03質量%を超えると、セパレータをプレス加工する際に割れが発生しやすくなる。したがってCは0.03質量%以下,Nは0.03質量%以下,かつC+Nは0.03質量%以下とする。なお、好ましくはC: 0.015質量%以下,N: 0.015質量%以下,C+N:0.02質量%以下である。
CおよびNは、いずれもステンレス鋼中のCrと反応して化合物を形成し、粒界にCr炭窒化物として析出するので、耐食性の低下をもたらす。したがってC,Nの含有量は小さいほど好ましく、Cが0.03質量%以下,N:0.03質量%以下であれば、耐食性を著しく低下させることはない。またC含有量とN含有量の合計が0.03質量%を超えると、セパレータをプレス加工する際に割れが発生しやすくなる。したがってCは0.03質量%以下,Nは0.03質量%以下,かつC+Nは0.03質量%以下とする。なお、好ましくはC: 0.015質量%以下,N: 0.015質量%以下,C+N:0.02質量%以下である。
Cr:20〜45質量%
Crは、ステンレス鋼板としての基本的な耐食性を確保するために必要な元素であり、Cr含有量が20質量%未満では、セパレータとして長時間の使用に耐えられない。また、Cr含有量が20質量%未満では、接触抵抗値を10mΩ・cm2 以下とすることが困難である。一方、Cr含有量が45質量%を超えると、σ相の析出によって靭性が低下する。したがってCr含有量は、20〜45質量%の範囲内を満足する必要がある。なお、好ましくは22〜35質量%である。
Crは、ステンレス鋼板としての基本的な耐食性を確保するために必要な元素であり、Cr含有量が20質量%未満では、セパレータとして長時間の使用に耐えられない。また、Cr含有量が20質量%未満では、接触抵抗値を10mΩ・cm2 以下とすることが困難である。一方、Cr含有量が45質量%を超えると、σ相の析出によって靭性が低下する。したがってCr含有量は、20〜45質量%の範囲内を満足する必要がある。なお、好ましくは22〜35質量%である。
Mo: 0.1〜5.0 質量%
Moは、ステンレス鋼板の隙間腐食等の局部腐食を抑制するのに有効な元素である。この効果を得るためには、 0.1質量%以上含有させる必要がある。一方、5.0 質量%を超えると、ステンレス鋼が著しく脆化して生産性が低下する。したがってMoは、0.1〜5.0 質量%の範囲内を満足する必要がある。なお、好ましくは 0.5〜3.0 質量%である。
Moは、ステンレス鋼板の隙間腐食等の局部腐食を抑制するのに有効な元素である。この効果を得るためには、 0.1質量%以上含有させる必要がある。一方、5.0 質量%を超えると、ステンレス鋼が著しく脆化して生産性が低下する。したがってMoは、0.1〜5.0 質量%の範囲内を満足する必要がある。なお、好ましくは 0.5〜3.0 質量%である。
本発明のセパレータ用ステンレス鋼では、C,N,Cr,Mo,CとNの含有量合計の限定に加えて、必要に応じて下記の元素を添加しても良い。
Si: 1.0質量%以下
Siは、脱酸のために有効な元素であり、ステンレス鋼の溶製段階で添加される。しかし過剰に含有させるとステンレス鋼が硬質化し、延性が低下する。したがってSiを添加する場合は、 1.0質量%以下が好ましい。ただし、0.01〜0.6 質量%が一層好ましい。
Siは、脱酸のために有効な元素であり、ステンレス鋼の溶製段階で添加される。しかし過剰に含有させるとステンレス鋼が硬質化し、延性が低下する。したがってSiを添加する場合は、 1.0質量%以下が好ましい。ただし、0.01〜0.6 質量%が一層好ましい。
Mn: 1.0質量%以下
Mnは、不可避的に混入したSと結合し、ステンレス鋼に固溶したSを低減する効果を有するので、Sの粒界偏析を抑制し、熱間圧延時の割れを防止するのに有効な元素である。このような効果は、含有量が 1.0質量%以下で発揮される。したがってMnを添加する場合は、1.0質量%以下が好ましい。ただし、 0.001〜0.8 質量%が一層好ましい。
Mnは、不可避的に混入したSと結合し、ステンレス鋼に固溶したSを低減する効果を有するので、Sの粒界偏析を抑制し、熱間圧延時の割れを防止するのに有効な元素である。このような効果は、含有量が 1.0質量%以下で発揮される。したがってMnを添加する場合は、1.0質量%以下が好ましい。ただし、 0.001〜0.8 質量%が一層好ましい。
Al: 0.001〜0.2 質量%
Alは、脱酸のために有効な元素であり、ステンレス鋼の溶製段階で添加される。その効果を得るためには、 0.001質量%以上含有させる必要がある。一方、 0.2質量%を超えると、その効果が飽和し、Alを過剰に消費することによって製造コストが上昇する。したがってAlを添加する場合は、 0.001〜0.2 質量%の範囲内が好ましい。
Alは、脱酸のために有効な元素であり、ステンレス鋼の溶製段階で添加される。その効果を得るためには、 0.001質量%以上含有させる必要がある。一方、 0.2質量%を超えると、その効果が飽和し、Alを過剰に消費することによって製造コストが上昇する。したがってAlを添加する場合は、 0.001〜0.2 質量%の範囲内が好ましい。
TiおよびNbのうちの少なくとも1種:0.01〜0.5 質量%
Ti,Nbは、いずれもステンレス鋼中のC,Nと反応して炭窒化物を形成する。Ti,Nbは、このようにしてC,Nを固定するので、ステンレス鋼のプレス成形性を改善するのに有効な元素である。CとNの含有量が合計0.03質量%以下では、TiまたはNbのいずれかを添加する場合のプレス成形性の改善効果は、Ti:0.01質量%以上またはNb:0.01質量%以上で発揮される。TiおよびNbをともに添加する場合のプレス成形性の改善効果は、TiおよびNbの含有量が合計0.01質量%以上で発揮される。一方、 0.5質量%を超えて含有させてもその効果は飽和する。したがってTiまたはNbのいずれかを添加する場合は、Ti:0.01〜0.5 質量%またはNb:0.01〜0.5 質量%の範囲内が好ましい。TiおよびNbをともに添加する場合は、TiおよびNbを合計0.01〜0.5 質量%の範囲内が好ましい。
Ti,Nbは、いずれもステンレス鋼中のC,Nと反応して炭窒化物を形成する。Ti,Nbは、このようにしてC,Nを固定するので、ステンレス鋼のプレス成形性を改善するのに有効な元素である。CとNの含有量が合計0.03質量%以下では、TiまたはNbのいずれかを添加する場合のプレス成形性の改善効果は、Ti:0.01質量%以上またはNb:0.01質量%以上で発揮される。TiおよびNbをともに添加する場合のプレス成形性の改善効果は、TiおよびNbの含有量が合計0.01質量%以上で発揮される。一方、 0.5質量%を超えて含有させてもその効果は飽和する。したがってTiまたはNbのいずれかを添加する場合は、Ti:0.01〜0.5 質量%またはNb:0.01〜0.5 質量%の範囲内が好ましい。TiおよびNbをともに添加する場合は、TiおよびNbを合計0.01〜0.5 質量%の範囲内が好ましい。
本発明では、上記した元素の他に、ステンレス鋼の熱間加工性向上のためにCa,Mg,希土類元素(いわゆるREM ),Bをそれぞれ 0.1質量%以下の範囲内で添加しても良い。またステンレス鋼の靭性向上のためにNiを1質量%以下の範囲内で添加しても良い。また接触抵抗低減のためにAgを1質量%以下,Cuを5質量%以下の範囲内で添加しても良い。さらにそのAgを微細に分散させるためにVを 0.5質量%以下の範囲内で添加しても良い。
その他の元素は、残部Feおよび不可避的不純物である。
次に、本発明のセパレータが具備すべき特性について説明する。
本発明のセパレータの素材となるステレンス鋼は、その表面の圧縮残留応力は小さいほど好ましい。ただし表面の圧縮残留応力が100MPaを超えると、特にカソード側の接触抵抗が増加し、発電特性の劣化に及ぼす影響が無視できなくなる。したがってセパレータの素材となるステレンス鋼の表面の圧縮残留応力は、100MPa以下とする必要がある。
次に、本発明のセパレータの製造方法について説明する。
本発明のセパレータの素材となるステンレス鋼を製造する際には、通常の公知の溶製技術が全て適用でき、使用する装置やその手順を限定する必要はない。たとえば、精錬の工程では、転炉や電気炉等で溶製し、さらに強攪拌真空酸素脱炭処理(いわゆるSS−VOD法)によって2次精錬を行なうのが好ましい。鋳造の工程では、生産性および品質の観点から連続鋳造を行なうのが好ましい。
得られたスラブに熱間圧延を施して熱延ステンレス鋼板とした後、焼鈍( 800〜1150℃)し、さらに酸洗を行なう。この熱延ステンレス鋼板は、切削加工によって溝を形成してセパレータを製造する際の素材となる。
プレス加工によって溝を形成してセパレータを製造するためには、焼鈍した後の熱延ステンレス鋼板に冷間圧延を施して冷延ステンレス鋼板とする。あるいは冷間圧延の後、さらに焼鈍( 800〜1150℃)し、さらに酸洗を行なっても良い。この冷延ステンレス鋼板は、プレス加工によって溝を形成してセパレータを製造する際の素材となる。
溝を形成するためには、上記した切削加工,プレス加工の他に、エッチングやコイニング等の加工方法を採用しても良い。素材となるステンレス鋼は、これらの加工方法に応じて適宜選択する。
溝を形成したステンレス鋼の表面の圧縮残留応力を、所定の範囲に維持するためには、焼鈍あるいは電解研磨が適している。つまり、溝を形成するために種々の加工を施すことによって、ステンレス鋼の表面に残留応力が発生するので、その表面近傍の残留応力が高い部位を焼鈍によって軟質化するか、あるいは電解研磨で除去する。さらにこの後、酸洗処理により脱スケール,不働態化を行なえば表面の圧縮残留応力が100MPa以下で、接触抵抗の低いステンレス鋼製セパレータを得ることができる。
このようにして作製したステンレス鋼製セパレータを用いて固体高分子型燃料電池を製造すると、接触抵抗値が低く、発電効率が優れ、かつ耐食性が高い固体高分子型燃料電池が製造できる。
転炉および2次精錬(SS−VOD法)によって表2に示す成分のステンレス鋼を溶製し、さらに連続鋳造法によって厚さ200mm のスラブとした。このスラブを1250℃に加熱した後、熱間圧延によって厚さ4mmの熱延ステンレス鋼板とし、さらに焼鈍( 850〜1100℃)および酸洗処理を施した。
得られた熱延ステンレス鋼板の板幅中央部かつ長手方向中央部から 200mm×200mm の試験片を4枚ずつ切り出した。鋼番号1〜8の熱延ステンレス鋼板をそれぞれ切削加工して2枚1組のセパレータとし、その後、各セパレータを1組ずつ70℃のリン酸+クロム酸による電解研磨( 0.5A/cm2×60秒,600秒)と混酸水溶液(5質量%硝酸+ 2.5質量%フッ酸)による酸洗を行なった。
次に、各セパレータの発電特性を調査した。
発電特性を評価するため、図1に示すように、高分子膜としてナフィオン(デュポン社製)を使用し、ガス拡散層2,3も一体化された有効面積50cm2 の膜−電極接合体1(エレクトロケム社製 FC50-MEA )を用いて、図1に示す形状の単セルを作成した。単セルの空気流路6と水素流路7は、いずれも高さ1mm,幅2mmの矩形とし、全体で17列配置した。カソード側には空気を流し、アノード側には超高純度水素(純度 99.9999体積%)を80±1℃に保持したバブラにより加湿した後供給して、電流密度 0.4A/cm2 で10時間稼動させた後の出力電圧を測定した。
また同様の条件で2000時間にわたって連続して稼動させた後、出力電圧を測定した。この単セルの発電実験の期間中は、単セル本体の温度は80±1℃に保持した。また膜−電極接合体1,カーボンペーパ9等は試験片を替えるたびに新品に取り替えた。
参考例として、ステンレス鋼板(SUS304相当)を上記の鋼番号1〜8と同様の形状に加工した後、表面に金めっき(厚さ約 0.1μm)を施したセパレータ、および厚さ4mmのグラファイト板の片面に幅2mm,高さ1mmの溝を切削加工によって2mm間隔で17列配置したセパレータを使用した単セルを用いて、電流密度 0.4A/cm2 の出力電圧を測定した。出力電圧の測定方法は、上記の鋼番号1〜8と同じである。
その結果を表3に示す。なお表面の圧縮残留応力は、表1と同様、2θ−sin2ψ線図より求めた。X線照射は、図1のように、セパレータ凸部について幅方向中心かつ長手方向3ケ所で5本の凸部で計15ケ所行なった。1ケ所あたり幅方向入射と、それに直交する長手方向入射それぞれ2回行ない、15ケ所すべての平均を算出した値を残留応力値として採用した。
表3から明らかなように、本発明の成分範囲を満足する熱延ステンレス鋼板(すなわち鋼番号3〜6)に電解研磨を施して表面の圧縮残留応力を100MPa以下に低減したセパレータを用いた単セルは、10時間経過後の出力電圧および2000時間経過後の出力電圧ともに、金めっきを施したステンレス鋼のセパレータやグラファイト板のセパレータを用いた単セルと同等の出力電圧が得られた。
一方、Cr含有量が本発明の範囲を外れる鋼番号1のセパレータおよび圧縮残留応力を100MPa以下に低減しなかったセパレータは接触対抗が大きいので、そのセパレータを用いた単セルは、10時間経過後の発電特性が十分ではなく、2000時間経過後の出力電圧の低下も大きかった。
また耐食性が低い鋼番号1,2,7,8のセパレータを用いた単セルでは、10時間経過時には十分な発電特性が得られる場合もあるが、2000時間経過後の出力電圧が著しく低下した。
なお、ここでは切削加工で溝を形成したセパレータについて説明したが、他の方法(たとえばプレス加工等)で溝を形成したセパレータについても、表面の圧縮残留応力が100MPaであれば同様の効果が得られる。
1 膜−電極接合体
2 ガス拡散層
3 ガス拡散層
4 セパレータ
5 セパレータ
6 空気流路
7 水素流路
8 試験片
9 カーボンペーパ
10 電極
11 X線照射位置
2 ガス拡散層
3 ガス拡散層
4 セパレータ
5 セパレータ
6 空気流路
7 水素流路
8 試験片
9 カーボンペーパ
10 電極
11 X線照射位置
Claims (5)
- C:0.03質量%以下,N:0.03質量%以下,Cr:20〜45質量%,Mo: 0.1〜5.0 質量%を含有し、かつC含有量とN含有量の合計が0.03質量%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成のステンレス鋼であって、燃料電池セパレータとして加工された前記ステンレス鋼の表面の圧縮残留応力が100MPa以下であることを特徴とする固体高分子型燃料電池セパレータ用ステンレス鋼。
- 前記ステンレス鋼が、前記組成に加えて下記の (1)〜(4) の群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池セパレータ用ステンレス鋼。
(1) Si: 1.0質量%以下
(2) Mn: 1.0質量%以下
(3) Al: 0.001〜0.2 質量%
(4) TiおよびNbのうちの少なくとも1種を0.01〜0.5 質量% - ステンレス鋼からなる固体高分子型燃料電池セパレータであって、前記ステンレス鋼がC:0.03質量%以下、N:0.03質量%以下、Cr:20〜45質量%、Mo: 0.1〜5.0 質量%を含有し、かつC含有量とN含有量の合計が0.03質量%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、燃料電池用セパレータとして加工された前記ステンレス鋼の表面の圧縮残留応力が100MPa以下であることを特徴とする固体高分子型燃料電池セパレータ。
- 前記ステンレス鋼が、前記組成に加えて下記の (1)〜(4) の群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項3に記載の固体高分子型燃料電池セパレータ。
(1) Si: 1.0質量%以下
(2) Mn: 1.0質量%以下
(3) Al: 0.001〜0.2 質量%
(4) TiおよびNbのうちの少なくとも1種を0.01〜0.5 質量% - 固体高分子膜、電極およびセパレータからなる固体高分子型燃料電池であって、前記セパレータとして請求項3または4に記載の固体高分子型燃料電池セパレータを用いることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
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