JP2004089050A - タンパク質酵素分解物の呈味改善方法 - Google Patents

タンパク質酵素分解物の呈味改善方法 Download PDF

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Nobutoshi Matsumoto
松本 信俊
Kyoko Koibuchi
鯉渕 恭子
Hideki Okamura
岡村 英喜
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Abstract

【課題】分解率80%以上を示すタンパク質酵素分解物の先味を増強する方法を提供する。
【解決手段】分解率80%以上のタンパク質酵素分解物の全窒素1gあたり、0.5〜5gの活性炭(乾物換算)で処理する。
【選択図】なし。

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は分解率が高いタンパク質酵素分解物の呈味の改善に関する。さらに詳細には、分解率が80%以上のタンパク質酵素分解物を活性炭処理し、先味を増強し、呈味を改善する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、3−MCPD(モノクロロジヒドロキシプロパノール)を高含有のタンパク質酸分解調味料が問題となっており、3−MCPDを含まず、安全性の高い高分解タンパク質酵素分解調味料の開発が盛んに行われている。
【0003】
タンパク質酸分解調味料は、大豆等のタンパク質原料を塩酸等の酸で加水分解した調味料で、「先味が強い」、「うま味が強い」等の特徴があり、一方、脱脂大豆を始め様々なタンパク質原料を酵素分解して得られる酵素分解調味料は、中後味にのび膨らみがある特徴を有すると共にうま味等の先味が弱い、苦味が残るなどの問題を抱えている。例えば特開平6−276996におけるタンパク質酵素分解調味料はアミノ酸への分解率が80%以上であるが、先味が弱くタンパク質酸分解調味料の代替にはなりにくい。
【0004】
酵素分解調味料の「先味の弱さ」、「苦味」の原因として、アミノ酸まで分解されずに残存しているペプチドが先味をマスク、あるいはそれ自体が苦味物質となっているためと考えられ、例えば特開平3−49651では、酵素分解物の苦味の元である残存ペプチドを微生物の作用により分解、呈味の改善を行っている。また、特開平2−5829、特開平7−115913においては残存ペプチドをカルボキシペプチダーゼ等のペプチド分解酵素により消化、呈味の改善を行っている。これらの方法は、ある程度の効果はあるものの呈味的に改良の余地があったり、操作が煩雑になるなどの改良すべき課題を残している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、分解率の高いタンパク質酵素分解物における呈味の改善方法、特に先味を増強し、タンパク質酸分解物が示す呈味に、より簡便な操作で近づける方法の提案である。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題に対し、本発明者は、タンパク質酸分解物の特徴は原料タンパク質がほぼ完全にアミノ酸化されており、その呈味質が主としてアミノ酸に基づくものであること、更に、アミノ酸は活性炭には殆ど吸着されず、ペプチドの方が優先的に吸着されることに着目し、種々検討の結果、本発明を完成した。すなわち本発明は、分解率が80%以上のタンパク質酵素分解物を、全窒素1gあたり、乾物換算で0.5〜5gの活性炭(以下g/TNgと表記)で処理することを特徴とするタンパク質酵素分解物の呈味改善方法である。本方法を適用することにより、分解率が80%以上を示すタンパク質酵素分解物中のペプチドの除去あるいは低減により、呈味の改善、特に先味を増強し、タンパク質酸分解物の呈味に近づけることが出来る。
【0007】
また、これまでタンパク質酸分解調味料を初め、調味料の活性炭処理は、脱色、脱臭を目的に多々行われている(特開平02−42822、特開平04−335868)が、本発明のように、80%以上の分解率を示す特定の酵素分解物の、先味増強という特定の呈味改善を目的とした報告はされていない。以下、更に詳細に説明する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明において分解率80%以上のタンパク質酵素分解物とは、動植物タンパク質を原料としタンパク質加水分解活性物質を作用させ、分解物中のアミノ基をオルトフェニルアルデヒドと反応せしめ生成する蛍光を測定するOPA法(Poter,D.,J.Agric. Food Chem., 32,334−339(1984))によって導き出した値が、該タンパク質原料を常法により酸加水分解したときの値を100%とした時、該タンパク質酵素分解物の分解率が80%以上のもの全てを包含する。タンパク質酵素分解物が微生物の培養物等の固形部分を含む場合は、固液分離し、その濾過液を用いることが次工程の活性炭の処理には望ましい。必要があれば、濃縮、加熱処理等の操作を行っても良い。また、酵素分解終了後、食塩、エタノール等を添加しても構わない。分解率80%以上を示すタンパク質酵素分解物が既に乾燥された固形物であるときは、適宜水溶液にして使用することができる。
【0009】
タンパク質原料には大豆、小麦、大麦、米等、あるいはそれらの加工品を含む植物性タンパク質、牛肉、豚肉、鶏肉等の畜肉またはそのエキス、魚およびそのエキス、残さ等の動物性タンパク質が用いられる。
【0010】
タンパク質加水分解活性物質とは、タンパク質加水分解活性を有する物質であれば良く、例えば分離したタンパク質加水分解酵素(プロテアーゼ又は/及びペプチダーゼ)標品、微生物の培養物又はその加工品等がある。微生物の培養物にはアスペルギルス(Aspergillus)属菌やバチルス(Bacillus)属菌の液体培地培養物、またはアスペルギルス(Aspergillus)属菌の固体培地培養物、特に米麹、麦麹、豆麹、フスマ麹、醤油麹などが用いられる。
【0011】
酸分解調味料とは、動植物タンパク質を塩酸等の酸によりほぼ完全にアミノ酸にまで加水分解したものを指し、いわゆるHVP、HAPと呼ばれる物がこれにあたる。一般的には、大豆又はその加工品、グルテンやコーンミール等の植物性タンパク質を酸分解したものやコラーゲンを主体とした動物性タンパク質を酸分解した製品が知られている。
【0012】
本発明における先味とは、遊離アミノ酸、有機酸を中心とした呈味であり、口に含んだ際に素早く広がる味を、中味は先味に続く味を、後味は中味の後に続く味をいい、ここでの中後味は中味と後味を総称したものである。膨らみは味風味が収斂することなく好ましい広がりを持つことを意味する。
【0013】
活性炭は食品に使用できるものであれば特別の制限は無く、何れも使用可能であり、その使用方法も特別の工夫を必要とせず、定法により実施できる。活性炭処理時のタンパク質酵素分解物の濃度には特別の制限は無く、当業者であれば適宜実施できるが、通常1〜35%(W/V)以下のタンパク質酵素分解物濃度が扱いやすい。ただし活性炭の添加量は、0.5〜5g/TNgの範囲で添加し、定法により一定時間接触させた後濾過することにより実施できる。活性炭の量が0.5g/TNg以下では先味増強効果が低く、5g/TNg以上ではアミノ酸の収率が低下し、先味の強さも低減する。
【0014】
本発明の実施の態様は、特段制限されるものではなく、分解率が80%以上のタンパク質酵素分解物を製造又は購入等により用意し、これに活性炭を前述の範囲量で添加、接触させ、必要があれば適度な攪拌を行い、その後、定法により活
性炭を除去し濾過液を得ればよい。
【0015】
【実施例】
1.タンパク質酵素分解物の作成
市販の醤油麹「うすむらさき」(樋口松之助商店製)より分離した麹菌をフスマ培地に接種し、30℃に3日間培養することによってフスマ麹を製麹した。
5%エタノール水溶液4Lに脱脂大豆1kg、フスマ麹300gを浸漬後、市販清酒粕(メルシャン株製)より分離した非耐塩性酵母を10万個/mlとなるように添加した。本混合溶液を30℃、5日間保持、エタノール発酵を行い、その後50℃、5日間保持して酵素分解を行った。
得られた酵素分解液を濾布で圧搾濾過し、アミノ酸への分解率90%の大豆タンパク質酵素分解液(TN 2.03g/dL, 3.4L)を得た。
【0016】
2.活性炭処理
得られた酵素分解液に活性炭(活性炭BA:味の素ファインテクノ株製)を0.5、1、2、5、10g(Dry)/TNgとなるように加え、65℃,1時間処理を行い、処理液を濾紙(アドバンテック製 No.5C)で濾過を行い、官能評価に供した。
【0017】
3.官能評価
得られた活性炭処理済み酵素分解液を用いて、TN 0.12%、NaCl 0.8%となるよう調製、うま味の強さ、先味の強さについて官能評価を実施した。比較対照には大豆タンパク質酸分解調味料である淡口「味液」(味の素株製)を使用し、評価方法は各項目とも5点満点(弱い;1点〜強い;5点)で味覚パネル(n=12)による評価を行った。評価結果の平均値を表1に示した。表1に示すように、活性炭処理濃度0.5〜5g/TNgでタンパク質酸分解調味料に匹敵する先味の強さ、呈味を実現することが出来た。また、中でも評価の高かった1g/TNg活性炭処理したタンパク質酵素分解物について3点識別試験を行った。評価液は上記と同様に調製した。(試験区1)は、淡口「味液」と1g/TNg活性炭処理したタンパク質酵素分解物であり、(試験区2)は、活性炭未処理物と1g/TNg活性炭処理したタンパク質酵素分解物であり、評価パネル(n=12)により試験を行った。その結果、(試験区1)での正解者は5名、(試験区2)では11名であった。有意差検定の結果、1g/TNg活性炭処理したタンパク質酵素分解物は淡口「味液」とは有意差が見られず、活性炭未処理物とは有意水準0.1%で有意差があった。すなわち活性炭処理を行ったタンパク質酵素分解物はタンパク質酸分解物の代替として有用であることを認めた。
【0018】
【表1】
Figure 2004089050
【0019】
4.調味液の成分分析。
表1に示した活性炭未処理と、活性炭2g/TNgで処理した大豆タンパク質酵素分解物につき、分解率を分解物中のアミノ基をオルトフェニルアルデヒドと反応せしめ生成する蛍光を測定する方法OPA法(Poter,D.,J.Agric. Food Chem., 32,334−339(1984))によって測定した。
アミノ酸濃度はアミノ酸アナライザー(日立製作所製)で、TN濃度はケルダール法で分析、アミノ酸濃度をTN濃度で割った値をアミノ酸組成として表2に示した。
【0020】
【表2】
Figure 2004089050
【0021】
【発明の効果】
本発明によれば、タンパク質酵素分解物中のMet、Tyr、Phe等の疎水性アミノ酸やペプチド等が活性炭により吸着除去され、表2に示す通り窒素あたりのアミノ酸量が増加した。表1ではタンパク質酸分解調味料と遜色ない呈味を備えたタンパク質酵素分解物を作製できたことを示している。尚本方法で得られたタンパク質酵素分解物はそのままでも調味料として、あるいは更に食塩その他の食品を加えた調味料として、タンパク質酸分解調味料の代替のみならず、用途に制限なく汎用調味料の素材として利用でき、極めて有用な製品である。

Claims (2)

  1. 分解率が80%以上のタンパク質酵素分解物を、該酵素分解物の全窒素1g当たり、乾物換算で0.5〜5gの活性炭にて処理することを特徴とするタンパク質酵素分解物の呈味改善方法。
  2. タンパク質酵素分解物が、植物性タンパク質原料又は/及び動物性タンパク質原料を用いて、タンパク質加水分解酵素活性物質で分解するプロセスで製造されたものであることを特徴とする請求項1記載の呈味改善方法。
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