2018/11/14 19:00

ダメで元々、どうせ死ぬんだしやらないと──eastern youth、11年ぶりとなるシングルをハイレゾ配信

今年で結成30周年を迎えた孤高のロック・バンド、eastern youthがシングルとしては11年ぶりとなる作品『時計台の鐘』をリリース。新ベーシスト、村岡ゆかを迎えて2作目となる今作では前作『SONGentoJIYU』から更に一歩前へと新たなイースタン節を確立したというべき3曲を収録。また、タイトル曲「時計台の鐘」はTVアニメ『ゴールデンカムイ』第二期エンディングテーマとしても現在放送中(2018年11月時点)。OTOTOYでは今作のハイレゾ配信を行うとともに、吉野寿(G、Vo)へのインタヴューを掲載。様々な出来事を乗り越えて、より考え方がシンプルになってきたと語る吉野が見つめる過去、現在、そしてこれからとは?

11年ぶりとなる3曲入りシングルをハイレゾ配信!

INTERVIEW : 吉野寿(eastern youth)

継続することの難しさ...しかもそれが30年。私たちが知る限りでも、eastern youthのこれまでは決して順風満帆ではなかったのは間違いない。それでもバンドが続いてきたのはこれしかないんだという熱意、いや執念なのだろう。ベーシスト、村岡ゆかが加わったその音と言葉はより厚みと深みを増し、バンドが見つめる視座はより鋭くなっていく。今回のシングルは30年目の到達点であり、通過点。吉村秀樹が言っていた「まだまだアルヨハードコア!」...きっとそうに違いない、吉野寿の音楽への情熱はまだまだ燃えたぎっている。

インタヴュー & 文 : 高木理太
写真 : 大橋悠希

自分の根っこの部分にはあの時計台の存在が必ずある

──今回12年ぶりとなるシングルですが、アルバムを作る際は最初の1曲が出来たときにアルバム全体のイメージが出来ていくと以前のインタビューでおっしゃっていました。久しぶりのシングルはどのようなイメージをしながら創っていったのでしょうか?

そもそもは2曲の予定で、バンっと広がりのあるミドルテンポと早いテンポの2曲でコントラストがあるシングルを出そうと思っていたんです。そしたら製作中にアニメ(『ゴールデンカムイ』)のエンディングテーマのお話をいただいたので、もう1曲足して3曲になった感じですね。

──個人的には今回のシングルを聴いて、演奏ではもちろん、ヴォーカルやコーラスでの村岡さんの存在感がより強くなったのを感じました。前作では聴く側も村岡さんという新しい存在が入ることによってどんな感じになるんだろうかっていう気持ちもあったと思うんです。今回のシングルではそれを感じさせない、新しいイースタンユースが確立されてきているのかなと思いました。その辺は曲を作っていく中で積極的に新しい要素を取り入れたいと思うようになってきたのでしょうか?

そうですね。今の3人でやっていることなんで、彼女の個性を取り入れて重要な要素にしていこうとは思っていました。

──今回のシングルの曲作りに関してはいかがでしたか?

曲自体のアイディアがまとまるまでにも結構時間がかかりましたし、それがちゃんと自分たちの演奏として安定させて、そこから歌を乗せるのも時間がかかりましたね。

──ということは今回のシングルは結構難産で。

はい、ちょっとキツかったですね。でもいつも難産!

──吉野さんは曲作りに関して、制作に入るまでにアイディアをためたりみたいなことはあまりしないのでしょうか?

そういうのができないんですよね。もう絞り出してますよ。

──ということはリリースが決まって、期日も決まっているからそこに向けて曲を固めていくと...

何もないんです、毎回。だからギターを弾きながら何か気持ちにピタッとはまるフレーズはないものかっていうのを苦しみながら絞り出して、なんとか尻尾をつかんでく感じです。

──今回のタイトル曲「時計台の鐘」は、札幌の情景をイメージして書かれたんでしょうか?

結果的にそんな感じになっちゃいましたけど、そういうつもりでもなかったんです。ただ自分の根っこの部分には札幌に住んでいたころのあの時計台の存在ってのが必ずあって、象徴するようなものではありますよね、やっぱり。10代のころに住んでいたのが時計台の近くのボロアパートだったんですけど、あの鐘の音がよく聞こえていたんですよね。それがわびしくて乾いたしょぼい音なんですよ。特に札幌っていうイメージで曲にしたわけじゃないですけど、自分の根っこを掘り下げてった結果、そういうイメージにたどり着いちゃったっていう。

──それでいうと前々作『ボトムオブザワールド』にも「テレビ塔」っていう曲がありましたが、ここまで生きてきて、そうした自分の根っこに触れたり立ち返るみたいなことが増えてきたのでしょうか?

そうですね。折に触れて自分のイメージや内面みたいなものを深く掘っていくと、そういうところに行き当たることはあるのかなと思います。

「時計台の鐘」MV
「時計台の鐘」MV

──自分は新潟出身で、冬に雪が切々と積もっていくあの感じがどうしても嫌で東京に出てきたんですけど、吉野さんは札幌や故郷に対して、今現在どんな感情をお持ちですか?

自分も嫌で東京に出てきたクチですけど、札幌だけに限らず北海道って、どこまでいっても雪と氷みたいなのは原風景としてありますよね。もう北海道で暮らしてた時間よりも東京で過ごしてる時間の方が長いんですけど、子供の頃、多感な時期に住んでた大事な感覚を培った場所として根っこにはやっぱり北海道があるのかなと。

──先ほど時計台の鐘の音はわびしい音だったっておっしゃってましたけど、吉野さんの中では札幌の街はわびしいイメージなんでしょうか?

まあ自分の中での記憶でそうなっているってだけで、札幌の街じたいがわびしいわけではないですよ。札幌に罪はない(笑)。自分の中でのイメージがそうなっちゃってるのかなってだけで。

「みんな」なんてものでくくられてたまるか

──そうした原風景みたいなものとの対比じゃないですけど「循環バス」は吉野さんの今の生活が切り取られているのかなと思いました。

「時計台の鐘」も「循環バス」も切り口、イメージの貼り付け方の差だけで、やっぱり今のわびしさなんだと思いますよ。

──なるほど。ちなみに「循環バス」を初披露した先日の〈極東最前線〉では、MCで吉野さんがバスに乗ることが増えたとおっしゃっていましたが...

今は荻窪の駅から少し離れたところに住んでいるんで、なんせ毎日バスに乗ってますよ。今日もここまでバスだし、帰りもバス(笑)。

──(笑)。吉野さんは、上京後はずっと荻窪の街に住んでらっしゃいますけど、荻窪という街に対してはやはり愛着がありますか?

そこ以外で暮らしを立てたことがないですからね。ずっと住んでるから安心はしますけど、いいところだなとかも思わなくなってきてますよ。

──ずっと暮らしてきた中で荻窪の街並みも変化してると思うんですが、街もそうですし、時間の経過によって何かが変化していくことに対する抵抗感みたいなものはありますか?

ないですね。変化するのであれば適正に変化していくんだろうと思いますよ。変わらないものは変わらないんだろうし、変わるなら変われと思ってますね。変わることが悪いことだとは思わないです。自然に変わるものは変わればっていう。年も取るし。それでいいんじゃないかなと思ってます。

──自分はイースタンユースの曲から「街」を連想することが多いんですけど、それは吉野さんがずっと「街」というものを見続けてるからなのかなと。

街で暮らしてますからね。いろんな人がいて、いろんな事情が交錯して、それがひとつのうねりになってるっていう街の懐みたいなのが好きなんですよ。都会であれば都会なほどいろんなやつがいるのが面白いし。

──そこには好きな人もいるけど、嫌いな人もいてっていう。

そういうのを全部内包しているというか必然的にそうなってしまっているというか。そういうところが好きなんじゃないかなとは思います。

──「街」というものへの肯定ですよね?

街で暮らしたいと思うんでしょうね。温泉とか行きたくないですもん、全然。

──(笑)。やっぱり街の中の方がしっくりきますか?

そうですね。何が楽しくてあんな山の中に入ってくんだろうって感じですよ。大自然で心が洗われるとか全然ないです。恐ろしいですもん、山とか。むしろ嫌いです。

──丁度今はツアーの巡業中ですけど、地方にもそれぞれの街並みがありますよね。それはどう感じるんですか?

ツアーとかで行った先が田園風景だとしても、そこには人がちゃんと田んぼを耕して区画してっていう人の営みの結果があるじゃないですか。その向こうに自然の山もありますけど、そういうのを見てるのは飽きないですよね。その中にぽつんと入ってみたい気持ちにもなったり。でもそれってやっぱり人の営みを「街」として捉えてるというか。だからといって人と関わりたいかっていうと、そういうわけでもなくて。ただその中で身を置いてるのが好きなだけで、人とコミュニケーションを取るのが好きっていうわけでもないんですよね。

──人の多いところの方が人とコミュニケーションを取らずにすみますもんね。

ほっといてくれる優しさみたいなのは感じますよね。いちいち干渉しないというか。

──勝手にしたいから勝手にしといてくれみたいな。

自由を束縛されたくないですからね。

──「自由」っていう言葉は、吉野さんの歌詞でもキーワードとして何度か出てきていると思うんですけど、吉野さんの中では「自由」というものをどう捉えているんでしょうか?

まあ、好きに生きていくってことですよね。しくじったら自分のせいですけど。誰しもそうあるべきというか。自分に自由があるように、人にも自由があるわけだから、それを踏みつけるのはルール違反だなっていうか。そこだけ意識すればあとは何も言われる筋合いはないと思います。

──人の尊厳を踏みにじりさえしなければってことですよね。

自分の尊厳を大事にしたいんだったら相手にもそれがあるからっていうのが「自由」の定義なんじゃないかなって思います。それ以外はほっといてほしいし、つべこべ言われたくないっていうところはある。

──そういった意味でもイースタンユースの曲はひとりでいることを肯定してくれるなといつも思わされます。

みんなで心をひとつにしたりすることによる陶酔や熱狂って気持ち悪いんですよ。ロックでひとつになる必要はないですし、むしろ一人一人にするためにやってるようなところはありますからね。「みんな」なんてものでくくられてたまるかというか。もっと「自分」になれっていうところはありますよ。

──でも自分が安易に人を集団でくくってしまったり、逆に自分が集団にいつのまにかくくられてしまうことって多いじゃないですか。そうした時にイースタンユースの曲を聴くとハッとさせられるんですよね。

それぞれの気持ちがバラバラになっていがみあえってわけではなく、ひとりひとりにならないとお互いを尊重できないじゃないですか。助けないといけないみたいになると強要や抑圧になるけど、自分っていうのをもっていれば自らの意思として助け合うことはできる。けど、助けることが義務なんだとか貸し借りになったりしてしまって、個人が抗えないのは結局自分がないからでしょって思うんですよね。自分を持つってことはむしろ助け合ったりすることにも繋がるんじゃないかと。強制になるとなんでも気に入らないですね。

──それは音楽を始めた時から変わらず?

そうですね、わかってたまるかで始まってますから。

──そういった意味だとバンドも集団なわけですけど、イースタンユースの場合は田森さんが植木屋さんもやっていて、村岡さんは岡山に住んでいる。それもお互いを尊重しあっている結果なわけですよね。

音楽をやろうよって集まりなわけですから、各々ができることを持ち寄ってやりたいので強制はしたくないし、それが個性になるのかなと。

死なないと思ってましたよ、永遠に

──3曲目の「歩いた果てに何もなくても」は「走る」という言葉ではなく「歩く」という言葉を使っているところに個人的にはグッときました。

「走る」なんてのは盛った言い方ですよね。実際はみんな1日1日トコトコ歩いてますよ。自分の話でいうと、予定のないときはめちゃくちゃな距離を歩いてますから。目的もなくひたすら歩くんですけど、それが自分の暮らしなんですよね。だからそういうところから来てるんじゃないかなと。「歩く」っていうことの意味合いというか。

──それは吉野さんの人生としても、バンドとしても確実に一歩一歩ここまで歩いてきたっていうことですよね。

そうとも捉えられますね。

──だからこうしてバンドを30年続けてきた中で、山あり谷ありたくさんの出来事があったと思うのですが、特に印象的な出来事って吉野さんの中ではなんでしょうか?

やっぱり心筋梗塞でぶっ倒れたことじゃないですかね。ツアー中だったからそれも飛んじゃって。もはやこれまでかと思いましたよ。こうして生き延びましたけど。

──そのとき改めて生の実感っていうを感じましたか?

湧きましたね、伝説じゃないんだ、死はって(笑)。死なないと思ってましたよ、永遠に。

──心筋梗塞や二宮(友和)さんが抜けたりっていうのもあって、この10年ってイースタンユースにとっては激動だったのかなと。

ただまあ、拾った命ですからね。精一杯やればいいんじゃないのかなって。あまり気負いみたいなのはないですよ。

──その辺は削ぎ落とされていったというか。

シンプルになりましたね、考え方が。死ぬまでの時間なんだなって。だったら思った通り、嫌なことは嫌だ、やりたいことはやるっていう。できるだけ精一杯自分の人生を自分のものにしたいじゃないですか。ダメで元々、どうせ死ぬんだしっていう。

──そうしてシンプルになっていたことで得られたものっていうのはあるんでしょうか?

自由になりましたよ、気楽になったというか。

──前は考え過ぎてた部分もありましたか?

迷いや不安は多くて自由になりきれない、どうすればいいんだろうって思ってましたね。今もないわけではないですけど、もうちょっとシンプルになったのかなと。

──その結果が音楽を鳴らし続ける、これだけをやるというか。

そうですね、単純にいってしまえば。

──ということはこうして結成30周年といわれてもみたいに思う部分もありますか?

生きてりゃ30年経ちますよっていうだけで、出来れば伏せておきたいですよね。恥ずかしいですよ、30年もこんなことやってんのみたいな。でも曲げないで続けてきてよかったなとは思っています。

──これからのイースタンユースもこれまで通りシンプルに、続けていくだけっていうことですよね。

うん、なかなか難しいですけどこの前の演奏よりマシな演奏ができれば上出来だと思ってます。それだけが目標ですね。

──つまり、日々を更新していけたらっていうことですよね?

それ以上の目標はないです。

──最後になんですが、次の作品の予定とかは考えていますか?

全然予定は立ててないですけど、機会があれば。今のメンバーになってからはまだアルバム1枚しか出せていないので。アイディアはまだ全然ないですけど、音楽に対する情熱はまだまだあるのできっと何かをつかめると思っています。

『時計台の鐘』のご購入はこちらから

eastern youthの過去作はこちら

LIVE SCHEDULE

eastern youth 極東最前線 / 巡業 〜石の上にも三十年〜

2018年11月23日(金・祝)@広島 4.14
2018年11月24日(土)@岡山 PEPPERLAND
2018年12月1日(土)@大阪 梅田CLUB QUATTRO
2018年12月2日(日)@名古屋 CLUB QUATTRO
2018年12月8日(土)@渋谷 TSUTAYA O-EAST

PROFILE

easten youth

吉野寿 : エレキギター、ボイス
村岡ゆか : ベースギター
田森篤哉 : ドラムス

1988年 札幌にて、吉野寿、田森篤哉、三橋徹により結成
1991年 バンド上京に伴い三橋脱退
1992年 二宮友和加入
2015年 二宮脱退
2015年 村岡ゆか加入

何がなにやら暗中模索で今日も迷走中

公式HP https://hadashino-ongakusha.jp/

この記事の筆者
高木 理太 (Rita Takaki)

1993年生まれ、志田未来と同じ生年月日。お酒はほどほどに。

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[インタヴュー] eastern youth

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