M-5からA-2に繋ぐとか選曲が理解りすぎてんだろ(『シン・ウルトラマン』鑑賞メモ)
2022年5月13日金曜日、待望の『シン・ウルトラマン』がついに公開されました。語りたいことは山ほどあるのですが、ここでは私が個人的に気になった要素に特化したメモとして残しておきます。
来たぞ我等の宮内國郎
本作では、庵野秀明・樋口真嗣両監督作品を数多く手がけてこられた鷺巣詩郎さんとともに、宮内國郎さんによる『ウルトラマン』オリジナル音楽が使用されています。このことは2022年4月25日の情報解禁まで伏せられていましたが、蓋を開けてみれば「庵野さんが関わってて宮内曲を使わないはずがない」という大方の予想通りでした。
特に冒頭メインタイトルからVSにせウルトラマン戦までの前半部分では、禍特対関連シーンの2曲を除いて、全て宮内さんによる『ウルトラマン』音楽の新規録音または当時の音源がそのまま使用されました。そしてメフィラス登場以降はラストシーンまで鷺巣さんによる大編成オーケストラやコーラスを用いる重厚で庵野・樋口組の世界観にマッチした音楽で固めることで、一気に映画の空気をガラッと変えるという仕掛けになっています。
子供の頃から聴き慣れているいつもの曲がスクリーンから聞こえてくるのは、とても不思議な気分でした。私が大好きな劇伴を同じ時間に同じ空間でたくさんの人が聴いてくれているのが、純粋に嬉しかったです。
今回は宮内楽曲が使用されるということで一曲たりとも逃すまいと万全の態勢でメモの用意をしていたのですが、ご丁寧にも全曲エンドクレジットで明記してくださった上にパンフレットにも完全掲載されるという予想外の親切配慮が行き届いていました。今回使用された宮内楽曲をリストアップするに際して単なるクレジットの写しになってしまってはつまらないので、可能な限り種々の情報を付加しています。
クレジットにも掲載された曲名には今回の映画に登場していない怪獣や宇宙人の名前も多く、混乱した方もいらっしゃるかも知れません。これはTVシリーズのような特定話数を想定しないストックBGM方式の作品でサウンドトラック盤を作るにあたって楽曲を特定話数の特定シチュエーションに関連付けて構成していく慣例的な手法にもとづくものです。
どちらかといえば曲名の後に括弧書きされている番号の方が、本来その楽曲を特定可能な固有名詞になっています。この番号を「Mナンバー」といいます。
なお最初におことわりしておきますが、私は「マンBGMのMナンバーにハイフン付ける派」なので、各種のタイトルを引用する場合もそのような表記で統一させていただきます。
メインタイトル ウルトラマンOP(『ウルトラQ』・M-1 T2+第1回録音・タイトルT5)
メインタイトル (主題歌録音・タイトルB)
ウルトラマンのメインタイトルを模して『シン・ゴジラ』~『シン・ウルトラマン』のタイトルが出る一連の曲で、当時の音源がそのまま使用されています。『シン・ゴジラ』部分は、『ウルトラQ』でメインタイトルとして使用されたM-1T2と、『ウルトラマン』で新規録音されたタイトルT5を重ねたもの。それぞれパーカッションと特殊楽器による独特の雰囲気を帯びています。なおウルトラマンのタイトルはT1~6の6テイクが残されており、長年最終のテイク6が使われているとされてきましたが、最新の研究で実際に使用されているのはテイク5と判明しています。『シン・ウルトラマン』部分は、ティンパニと金管がけたたましく鳴るタイトルB。こちらは『ウルトラマン』主題歌カラオケと同時に録音されており、現在は音質が劣るコピーでしか残存していません。そのため第1回録音BGMであり15インチ毎秒(約38cm/s)というテープ速度で残されたタイトルT5と比較すると、音質がかなり落ちます。
ウルトラQ テーマIII(『ウルトラQ』・M-2 T2)
これも『ウルトラQ』楽曲で、冒頭の「巨大不明生物出現!」からの一連の『ウルトラQ』パートで使用されました。ここはやはり、この曲しか考えられません。「テーマIII」というタイトルからわかるように『ウルトラQ』には他にもパターンの違うメインテーマがあり、今回使用されたのは最も使用例の多い未編集バージョンです。
悪魔はふたたび 死闘 二大怪獣(第2回録音・M-6)
ネロンガが実体化して変電所を襲撃するシーンで使用されました。「ネロンガなのに第2回録音BGM」という意外性に、意表を突かれた瞬間です。
大まかに説明しておくとウルトラマン劇伴音楽の大半は『ガス人間第一号』『ウルトラQ』からの流用を除けば「主題歌録音(タイトルB、特捜隊のテーマ他)」「第1回録音(A~H)」「第2回録音(K~M)」「第3回録音(m ※小文字エムは同作サントラにおける伝統的な慣用表記)」「最終回録音(未発見)」「その他流用曲(未発見)」に分類することができ、第2回録音分は第12話以降で、第3回録音分は第30話以降で使用されています。そのため、第3話に登場したネロンガで第2回録音BGMが使われているのは新鮮なのです。原典をなぞることだけにこだわらず、ハマると判断された曲は臨機応変に充てられているようです。
大爆発五秒前 ラゴンの復襲(第1回録音・B-3A)
威力偵察に対してネロンガが反撃してくるシーンで使用された楽曲です。本曲は原作『ウルトラマン』第3話「科特隊出撃せよ」でボタ山の向こうからネロンガが出現し発電所を襲撃するシーン、そしてホシノ少年がスパイダーショットでネロンガに立ち向かうシーンで使用されており、原作再現ということになります。テンポの遅い別バージョンB-3Bもあります。
怪獣無法地帯 レッドキングの襲撃(第1回録音・B-1 ※前半のみ新規録音)
襲い来るネロンガから小学生を守るために走り出す神永、そしてウルトラマン出現のシーンで使用されました。
本曲は前半部分が何と新規録音です。原曲の編成にはなかった弦が加わって、何度も聴いたはずの楽曲に知らない迫力が足されています。そして後半部分は1966年当時の音源に管楽器などを追加してモノラル音源をステレオに広げています。こちらも原作では前述B-3AやB-3Bと交互にネロンガの発電所襲撃シーンで使用されています。
本曲に限らず、『ウルトラマン』では特定楽曲が交互にループする例がよく見られます。たとえば前述のM-6は、M-3という曲とセットでループして使われたりしています。そういった使用を想定してか編集が容易な形で作ってあることも『ウルトラマン』劇伴音楽の特徴です。
科特隊出撃せよ 電光石火の一撃(第1回録音・A-1 ※新規録音)
ネロンガと戦うウルトラマン。こちらも新規録音です。弦やハープなど原曲にない楽器が鷺巣さんによってプラスされ、違和感なくリニューアルされています。数々のオマージュカットとともに、本曲も原作再現になっています。この曲は36秒程度しか尺がなく同話数では何度もループして使用されているのですが、今回の新規録音ではその点も含めて再現したアレンジになっていました。
なお鷺巣さんの宮内さんへリスペクトは、パンフレットに掲載された鷺巣さんのプロフィールからも伝わってきます。ぜひお読みください。
無限へのパスポート ブルトンの最期(第2回録音・M-2)
ウルトラマンが放った「光波熱線」がネロンガを葬り山体を大きく抉るシーンで使用された楽曲です。原作では怪獣出現シーンや戦闘シーンなどで使用される楽曲であって、到底スペシウム光線発射の直後に使用される類のものではありません。
今回のこのシーンが「正体不明の銀色の外星人が恐ろしい熱量を持つ光線兵器を使用した」という人類にとっては恐怖と衝撃のシチュエーションであることを、音楽を通じて物語る演出になっています。
この後に流れる浅見分析官登庁のシーン(『シン・ウルトラマン』M9)、禍特対のシーン(『シン・ウルトラマン』M10)の2曲は鷺巣さん楽曲です。
宇宙から来た暴れん坊 科学特捜隊(主題歌録音・特捜隊のテーマ)
禍威獣第8号「ガボラ」出現の報を受けて、禍特対が出動するシーン。『ウルトラマン』でも科特隊(科学特捜隊)のテーマですが、本曲は「特捜隊のテーマ」が正式な曲名です。ややこしいですが覚えておいてください。
本曲は『ウルトラマン』副主題歌「特捜隊の歌」のインスト版アレンジ曲という位置づけで、主題歌カラオケと同時に録音されています。冒頭「タイトルB」でも触れましたが、主題歌カラオケの現存するコピー音源は音質に難があります。本曲も例外ではなく、使用にあたっては10kHzより上の高音域を異様に持ち上げているように聞こえました。その結果、劇場でも聴感上はっきりわかる程度にヒスノイズが盛大に出ています。そのためか、本曲はイントロが使われたのみですぐに止まりました。願わくば新録してほしかったな……というのが本音です。
悪魔はふたたび 赤い怪獣の猛威(第2回録音・L-8)
禍威獣第8号の移動した後に放射性物質が検出され、緊張が走るシーン。淡々と刻まれるピアノのリズムに、金管楽器が不安を煽ります。ガボラ回は原作では初期エピソードながら、第2回録音より数々の怪獣出現や危機一髪を飾ってきたL-8が選曲されました。
故郷は地球 見えない敵(第2回録音・L-10)
ケースBが発動され、パゴスと同族と断定。禍威獣第8号はガボラと命名される。本作の使用時は編集で切られていましたが、序盤のピアノを打ち付けるズドーンという音が良いんですよ。やはりピアノは打楽器。
ウルトラ作戦第一号 危機(第1回録音・B-2)
ガボラが地上に姿を現し、拠点を離れ走り出す神永。そしてウルトラマン変身。こちらの曲はガボラ回、第9話「電光石火作戦」でも変身直前のシーンで使用されており、原作再現です。怪獣が迫っているのにベーターカプセルが見つからなかったり少し遠くにあって手が届かなかったりといった緊張のシーンで多用された曲です。
ウルトラ作戦第一号 戦い(Mナンバー不詳 ※新規録音)
ウルトラマンVSガボラ。さきほどのB-3A後半と共通のメロディですが、こちらは2分近くとやや長めです。こちらの選曲も原作再現ですが、まあ初期の戦闘シーンはだいたいこの曲が流れるので。
この曲も今回、新規に録音されています。どうやらバトルの中核をなす楽曲が新録の対象となっているようです。やはり迫力は大切ですからね。
さて、この曲は色々と謎が多いのです。「初期から使用されているけど、弦が入っているから主題歌録音でも第1回録音でもない」という不可解な事実が横たわっています。そして他の音源より群を抜いて音質が悪い。音源そのものも永らく行方不明で、初めてサウンドトラックとして商品化されたのは平成に入ってから、1991年9月21日発売の「ウルトラマン総音楽集」でした。『ウルトラマン』音楽の未解決ミステリーの一つです。興味のある方は、ぜひこっちの沼まで沈んできてください。
ミイラの叫び 出撃(第2回録音・M-4 T2)
ガボラの光線を自ら受け止め、禍特対メンバーを守るウルトラマン。ノリがよく人気の高い曲です。使用例としては第26話、ゴモラ戦などが有名ですね。
遊星から来た兄弟 来訪者(第2回録音・L-9)
禍特対の前に姿を現したザラブ。バスクラリネットが印象的な曲です。この曲は『ウルトラマン』第18話「遊星から来た兄弟」でも科特隊本部に客として部屋を用意されるシーンで使用されており、やはり原作再現になっています。
科特隊宇宙へ 新兵器(第2回録音・L-4)
総理以下閣僚達と面談するザラブ。本曲は、ファンには「マルス133のテーマ」として知られています。
遊星から来た兄弟 悪魔の正体(第2回録音・K-5)
車を出そうとする神永の手に突然重ねられる、ザラブの手。衝撃ブリッジが並ぶK番台の楽曲です。原作でもザラブの正体を看破した後にジェットビートルのスロットルを操作するハヤタの手にザラブ星人の手が重ねられるシーンで使用されました。「好奇心は身を滅ぼす」という台詞まで、そっくり再現されています。急にこれが鳴るとマジでビックリするんですよね。今回は劇場の音響で子供の頃と同じ不意を突かれました。
噴煙突破せよ 急速発進(第2回録音・L-5)
ザラブによって眠らされ、拉致される神永。こちらも「眠ってもらおうか」という台詞まで含めてそっくりそのまま原作が再現されています。
噴煙突破せよ ケムラー出現(第2回録音・K-1)
海上自衛隊の護衛艦に向かってくるにせウルトラマン。
怪獣無法地帯 不吉な予感(第1回録音・C-3)
日本政府の幹部達にウルトラマン抹殺を迫るザラブ。
侵略者を撃て バルタン星人(第1回録音・C-1)
監禁した神永がベーターカプセルを持っていないことを確認し、立ち去るザラブ。打ち付けるようなピアノのビートが印象的な楽曲です。ピアノは打楽器。こちらの選曲も、忠実な原作再現になっています。
遊星から来た兄弟 破壊者ウルトラマン(第2回録音・EXTRA 1)
にせウルトラマンが暴れ回り街を破壊するシーン。焦燥感たっぷりに乱打されるティンパニとドラムに、不気味な不協和音を奏でるオルガン。こちらも原作再現です。なお本曲が『ウルトラマン』で使用されたのは、にせウルトラマンのシーン一度きりでした。
さらばウルトラマン 謎の円盤群(第2回録音・M-7)
さらばウルトラマン 円盤群接近(第2回録音・M-8)
出動する禍特対。そして神永の情報を浅見に伝えるべく接触してくる加賀美。緊張感と期待感が漂う一連のシーンで使用されたのは、『ウルトラマン』最終回・第39話「さらばウルトラマン」にて円盤群の接近シーンで使用された2曲でした。
M-8は他の話数でも使用されていますが、M-7の使用例は最終回でM-8と編集して使用されたのみです。本作でもM-7から始まり、浅見が加賀美の導きで単独行動に移ったところで自然にM-8に切り替わるという秀逸な選曲が行われています。
遊星から来た兄弟 勝利(第2回録音・M-5 ※新規録音)
にせウルトラマンの前に現れた、正真正銘本物のウルトラマン。この曲は新規録音され、弦などがプラスされ盛り上がりを演出します。こちらの選曲も完全に原作をなぞる形で再現されています。ウルトラマンがにせマンにチョップをお見舞いして「痛ってえ!」とばかりに右手を下に振る仕草まで含めて、完璧な原作再現です。
使用されなかった主題歌候補「進め!ウルトラマン」のメロディーをアレンジした曲です。なので原曲には歌詞が存在しています。本曲は後期エピソードでは定番の戦闘テーマとして毎回のように使われていますが、その初使用がまさにこのザラブ星人回、第18話だったのです。
なお庵野さんはこの曲があまりにも好きすぎたためか、過去に本曲を自身の監督作品『彼氏彼女の事情』(1998)第24話にて使用しています。当時「何故、この曲が今ここで?」と耳を疑いました。
侵略者を撃て 空中戦(第1回録音・A-2 ※新規録音)
空に逃げるザラブを追って、CGならではの迫力ある空中戦が展開されるシーン。同じく新規録音され、スケールアップしています。こちらも原作を再現した選曲になっています。第18話以外では第2話「侵略者を撃て」、ウルトラマンによるバルタン星人追撃シーンでの使用例が特に有名ですね。
なお、M-5からA-2は間を置かずそのまま綺麗に繋げて使用されています。『ウルトラマン』劇伴大好きっ子にとってはカレーの後にハンバーグが出てくるようなものですが、こちらの編集も原作再現です。絶対にここだけは外せない、という鞏固な意志を感じました。
以降メフィラスのくだりから先は鷺巣さんによる新規楽曲となっており、本作の音楽世界はその姿を大きく変えます。
本作のサントラ盤は6月22日発売です。忘れないうちにご予約ください。
しかし6月では待てない、前半の『ウルトラマン』楽曲だけでも今すぐ聴きたいという方もいらっしゃるでしょう。そんな方におすすめなのが、こちらのCDBOXです。
『ウルトラマン』音楽に加えて、同作でも使用された『ウルトラQ』『ガス人間第一号』の音楽も含めて現在見つかっている音源を可能な限り収録しています。なお今回『シン・ウルトラマン』で「劇中曲」としてクレジットされた際の曲名は全て、こちらの商品に準拠したものです。
ウルトラマンの音楽、特に主題歌まわりについて深く知りたい方は、ぜひこちらの文献を参照なさってください。
TORIさんの特撮放談③ ウルトラQ/ウルトラマン のまき Part.Ⅱ
耳の内部のデザインが左右で違うんだが?
今回のウルトラマンは成田亨さんの思い描いた姿を忠実に映像化すべく、カラータイマーをはじめとして眼の覗き穴や背ビレなどが徹底して排除されました。
シン・ウルトラマンの姿|映画『シン・ウルトラマン』公式サイト
しかし、ただ一つだけ「成田氏が望まなかった」ものが残りました。右耳内部の突起です。そして何故か、反対側の左耳にはこの突起がありません。すなわちアシンメトリー、左右非対称なデザインになっているのです。(そもそもウルトラマンのマスク自体が僅かに左右非対称であり、ファンはその造型を含めてオリジナルのマスクを心より愛しています。それこそ、反転させた鏡像を見せたら誰しもが一発で言い当てる程度には。が、今ここでしているのはそういったレベルの話ではありません。)
この突起は『ウルトラマン』当時のマスクに存在しています。その正体は、機電(電飾)のトグルスイッチです。
一方が眼とタイマーの電源ON/OFF、もう一方がカラータイマーの点灯/点滅切り替えスイッチになっていました。
本編映像から確認できる限りでは、Cタイプマスクでは右耳のスイッチを上げると電源ON、下げると電源OFF、そして左耳のスイッチが真ん中でタイマー点灯、上げるとタイマー点滅(遅)、下げるとタイマー点滅(速)という配線だったようです。
なお、カラータイマーの色替えは物理的なセロファン交換によって行われていました。中身は豆電球なので、スイッチ操作で色は変えられません。
「『シン・ウルトラマン』デザインワークス」p.5に掲載されたデザイン資料からは、当初は右耳にも左耳にもスイッチが存在したことがわかります。つまり、後から左耳側だけが意図的に消されたことになります。
穿ちすぎかも知れませんが、これらの情報から「カラータイマーの排除にともなって当時タイマー切り替えに使用していた左耳のスイッチを排除したが、何らかの意図をもって右耳の主電源は残した」という仮説を立てることができます。
さらに妄想を拡げると、本作ではたとえ成田氏の意に反してでもウルトラマンを「眼の光が消える=死に至る」存在として描くべく、ウルトラ族の「死の象徴」あるいは「生の象徴」としての右耳スイッチだけは残されたのではないか、みたいな深掘りも可能かも知れません。まあ、“庵そ考”だとは思いますが。
果たして、真相はどうなのでしょうか。
(追記) 実際、左耳のスイッチはカラータイマー用であることから削除されたようです。ATACさんから答え合わせがありました。
やっぱエヴァ明朝(マティスEB)なんだよな
本作では『シン・ゴジラ』と異なり、『エヴァンゲリオン』シリーズと同じ極太明朝体・フォントワークス「マティスEB」が字幕に使用されています。『ウルトラQ』M-2 T2をバックにマティスEBで矢継ぎ早に流れてくる情報の洪水は、庵野秀明を大好きな人間が死ぬ前に見る夢が間違って映写されちゃったかな??? と思うほど個人の性癖にブッ刺さる演出でした。
あまりに嬉しすぎたので、本稿のヘッダ画像もマティスEBで作ってみました。私はLETS契約した。君達もLETS契約しろ。
そこにいたの、Aタイプ先輩
『シン・ウルトラマン』のビジュアルが発表された当初、「なんだCタイプかよ、日和ったな……」という不遜な第一印象を抱いたことは、今更隠すまでもないでしょう。
確かにCタイプマスクはウルトラマンの完成形ですが、やはりファン心理としてはオリジンであるAタイプ(と、同じ型からFRPで抜き直したBタイプ)に期待したいところもあったのです。
大まかに説明しておきますと、『ウルトラマン』ではマスクが大きくわけて3世代ありました。第1~13話で使用されたゴム張りのアゴが動かせるAタイプマスク、第14~29話で使用された同デザインでFRP製のBタイプ、そして第30~39話で使用された口を広くし表情も柔らかく刷新されたCタイプ。
今作でネロンガの前に飛来した銀色の巨人の顔が、Aタイプマスクの持つエイリアン然とした皮膚感と、Bタイプマスクの持つ神秘感のある端正な顔立ちを併せ持ったデザインであることに気が付いた瞬間、鳥肌が立ちました。
徹底した東宝・円谷効果音
『シン・ゴジラ』同様、今回も徹底してあらゆる箇所に東宝・円谷効果音が使用されています。
現代のPCやタブレットに見えていても、鳴る音は伝統の信号音。ザラブが出現する際の電磁波による機器故障には、「いつもの」電気ノイズと発火音。MOP2大型貫通爆弾を投下するために飛んできたB-2戦略爆撃機には、ジェットビートルやウルトラホーク1号の機内音。
そして空にゼットンの姿が浮かび上がり禍特対に連絡が殺到するシーンは、科特隊以外にも歴代の防衛チームの呼び出し音がけたたましく鳴り響きました。
実相寺回は入ってないけど……
本作にはガマクジラもガヴァドンA/Bもテレスドンもジャミラもスカイドンもシーボーズも登場しません。つまり、庵野さんが敬愛する実相寺昭雄監督の回が対象話数に含まれていません。
一方で、人物の手前、カメラ至近に静物を配してパースを強調するなどのいわゆる「実相寺アングル」は全編を通して多用されています。なお「『シン・ウルトラマン』デザインワークス」に掲載された庵野さんインタビューによれば、実相寺監督風の画面構成については庵野さんが指示、意図したことではないことが語られています。
また他に実相寺監督を感じさせる要素として、浅見分析官の初登庁シーンが挙げられます。人物の顔を見せずに背中越しに道行く人々を切り取りその会話を順繰りに聞かせていくという演出手法は『ウルトラセブン』第8話「狙われた街」、メトロン星人の回で弔問客の話に耳を傾けるモロボシ・ダンのシーンを再現したものです。
妙にフレンドリーで日本の習俗に馴染みきっておりウルトラマンに対して不思議な余裕を見せるメフィラスも、同じく実相寺監督による『ウルトラマンマックス』第24話「狙われない街」で描かれたメトロン星人を彷彿とさせます。居酒屋で飲み食いしながら人類の運命を左右するやり取りをするウルトラマンとメフィラスの姿は、昭和・平成を通して描かれた「メトロン星人のちゃぶ台」のオマージュであると解釈できます。
児童誌の雑なデタラメ記述を55年越しに映像化
今回、「光の星」からウルトラマンを迎えにきた使者はゾフィではなく「ゾーフィ」でした。初回上映では山寺宏一さんの美声でその名が語られた瞬間、私の右斜め前に座っていたグループが肩を震わせて笑いを堪えていました。私も笑いそうになるのを必死に抑えました。無理ですって、あんなん。何てことしますの。
というのも、「宇宙人ゾーフィ」というのは放送当時の児童誌に載ってしまった本編とはまるっきり違うデタラメな紹介記事なのです。姿形はゾフィですが、何故かゼットン星人と混同され、ゼットンを操って大暴れする悪の宇宙人にされてしまいました。力はないが頭は良く、スーパーガンには弱いそうです。そのインパクトからネットミームとして流布され、ファンの間ではそこそこ有名なネタになっています。
「『シン・ウルトラマン』デザインワークス」に掲載された庵野さんインタビューによれば、今回、庵野さんはそのネタから着想を得てウルトラマンと同族のゾーフィが立ちはだかるアイディアに辿り着いたとのことです。この見事で鮮やかな廃品利用がクリエーターという生き様なのか、と感歎しないではいられません。
ウルトラマンは誰のもの?
かつてのウルトラ大好き少年だった私の心をこんなにまで摑んだ本作ですが、一方で『ウルトラマン』の名を冠する作品として相応しくない描写が見受けられました。それについては公開初日より多くの方が様々な批評を出されていますので、本稿ではこれ以上の言及はしません。このような声が熱心なファンの側から上がるということは、この世界が僅かずつでも誰かにとって「生き易い」ものになっていることの表れでしょう。
私は、ウルトラマンはずっといつまでも子供達の“夢”であってほしいと願っています。もちろん積極的な大人向けの展開は大歓迎ですし、私自身も子供の頃からそれらを享受して本稿のような作品に対する面倒くさい愛で方をするように育ってきました。しかしそれは決して、「子供達に見せたくないイヤなもの」であってほしくはないのです。
たとえストーリーや描写が大人向けで難解であっても、真摯に作られた作品は必ず子供達の心に響きます。情報を咀嚼しきれないもどかしさとそれでも何となく感じ取ることのできた凄さとが幼少期の想い出の中で同居して、大人になってからも人生のたからものとして輝き続けるのです。願わくば本作も、ウルトラマンが大好きな子供達にとってそんな作品になってくれればいいなと思っています。
結局、本作はミリしらで楽しめるのか?
今回、「元ネタを予習していかなかったからよくわからなかった」という感想をたくさん聞きました。確かに、私が上記で散々やったような楽しみ方を現場でするのならば、ある程度のネタを仕込む必要があるでしょう。
しかし慣れない状態で本作を鑑賞して受ける驚きと戸惑いは、とても稀有なものです。全ての探究活動の原動力となるものですので、大切にしてほしいのです。
今の状態を活かしていただくべく、本作『シン・ウルトラマン』をより深く理解するために視聴しておくと良い原作エピソードを集めてみました。
まずは冒頭の禍威獣ラッシュ。こちらは前述のとおり『ウルトラマン』前作である『ウルトラQ』をなぞっています。
『ウルトラQ』第1話「ゴメスを倒せ!」
『ウルトラQ』第4話「マンモスフラワー」
『ウルトラQ』第5話「ペギラが来た!」
『ウルトラQ』第14話「東京氷河期」
『ウルトラQ』第12話「鳥を見た」
『ウルトラQ』第24話「ゴーガの像」
『ウルトラQ』第18話「虹の卵」
それから『ウルトラマン』との出会い、本作に登場した禍威獣・外星人のモデルとなった怪獣・宇宙人の登場話数。
『ウルトラマン』第1話「ウルトラ作戦第一号」
『ウルトラマン』第3話「科特隊出撃せよ」
『ウルトラマン』第9話「電光石火作戦」
『ウルトラマン』第18話「遊星から来た兄弟」
『ウルトラマン』第33話「禁じられた言葉」
そしてウルトラマンという絶対的存在を前に自らの存在理由に苦悩する若き天才科学者と、最終的に人類の力で危機を乗り越えた話数。
『ウルトラマン』第37話「小さな英雄」
『ウルトラマン』第39話「さらばウルトラマン」
関係しそうな話数をつらつら挙げてみましたが、余裕のある方は『ウルトラQ』『ウルトラマン』は全話見てほしいです。ぜひ。
今回初めて映像作品としての『ウルトラマン』を見た方もいらっしゃるかも知れません。本作をきっかけに、60年近くにわたって連綿と紡がれてきた『ウルトラ』シリーズの世界に少しでも触れていただければ嬉しく思います。
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