Iwankof「in miracle」特集|謎多きプロジェクトに迫る初インタビュー

今年1月に1stシングル「where???」でデビューしたシンガーソングライター・Iwankofが、新曲「in miracle」を10月23日に配信リリースした。

覆面姿のアーティスト写真、非公表の年齢や出身地……そんな謎の多い存在ながらも、J-POPやJ-ROCKにトラップビートをかけ合わせた先鋭的な音楽性でシーンにおける存在感をじわじわと拡大させているIwankof。身近にある愛の大切さにスポットを当てた新曲「in miracle」は、EDMを軸にIwankofのルーツにあるさまざまなジャンルの音楽を独自の感性でミックスした1曲となっている。

音楽ナタリー初登場となるこのインタビューでは、Iwankofが音楽を始めたきっかけや、クリエイティブにおけるこだわり、「in miracle」の制作秘話についてたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 小松香里

音楽を諦めきれなかった

──Iwankofさんはもともとバンドを組んでいたそうですが、シンガーソングライターとしてソロプロジェクトを始めることになった経緯から教えていただけますか?

スリーピースバンドをやっていたんですが、僕以外のメンバーが全員抜けちゃって解散状態になったんです。もう音楽は辞めようと思っていたときに、それまで支えてくれていた友達が背中を押してくれて。僕自身、音楽をあきらめきれていなかったからDTMで作曲して、地元の先輩にミュージックビデオを撮ってもらって、YouTubeにMVをアップして……そこで今のレーベルの方とつながることができたんです。

──バンド時代も曲は作ってたんですか?

はい。激しいシューゲイザーやミクスチャーロックを軸にしながらも、やりたいジャンルを全部取り入れるような音楽をやっていて。僕はギターボーカルで曲作りもしていました。

──最初に好きになったアーティストは?

今も昔も変わらずONE OK ROCKさんが一番好きです。中学生の頃からバンドの音楽を聴くようになったんですが、たまたま姉と一緒にYouTubeを見ていたら、ONE OK ROCKさんの「Re:make」のMVが流れてきて。その動画を再生したところから僕のバンド人生が始まりました。最初はドラムをやりたかったんですけど、父親に「モテたいならギターをやれ」と言われて(笑)。お小遣いを貯めてギターを購入してからは、ONE OK ROCKさんの曲をずっと練習していました。

自分のやりたいことを追求するソロプロジェクト

──Iwankofの活動を始めるにあたって参考したアーティストはいるんですか?

Vaundyさんは意識してますね。1人で音楽をやるならロックに限らずEDMなど幅広いジャンルの要素を取り入れたいと思っていたので。あと僕はラップも好きで、歌詞の書き方やビートの作り方はTohjiさんの作品を参考にしています。いろいろな音楽を聴いて育ったから、アイドルやR&B、ダンスミュージックも好きで。曲を作るときは自分の引き出しにある音楽の要素を引っぱってきて、レゴブロックで遊んでるような感覚があります。

──バンドとソロでは活動スタイルも変わってくるかと思うのですが、ソロならではのよさはどういった部分にありますか?

まず、僕は自分のやりたいことを突き詰めたい気持ちが強くて、バンド時代はそれが原因でほかのメンバーとぶつかることが多かったんです。そういう衝突の中で新しいアイデアが生まれるのがバンドのよさではありつつ、1人なら自分のやりたいことを徹底的に追求できるし、気が楽なところはいいですね。ちなみにIwankofはもともと2人組のユニットだったんですよ。先ほどお話しした僕に声をかけてくれた友人がメンバーだったんですけど、MV撮影の話になったところで急に「すいません! 僕やっぱり自分のバンドをもう1回やりたいです」と言ってきて(笑)。

──そんなことが(笑)。Iwankofさんはこれまでに4曲リリースしていますが、最初に作ったのはどの曲になるんですか?

1stシングルの「where???」ですね。そもそもSNSをあまり見るタイプではなかったけど、Iwankofの活動を始めるにあたってTikTokでどんな曲が流行ってるのかをチェックするようになったんです。研究した結果、アップテンポで口ずさめる曲がいいんじゃないかと思って、人生で初めて誰かに聴いてもらうことを意識して作ったのが「where???」なんですよ。それまでは完全に自分がやりたいことだけをやってきたんですけど。実際友達が「where???」を歌ってくれたりして、手応えはありましたね。

ラッパーからのインスピレーション

──「where???」はギターロックサウンドで始まり、途中でラップが入るという構成ですが、何かイメージした楽曲はあったのでしょうか?

最近のトレンドの1つでもある、トラップビートを取り入れたJ-POPっぽさのあるロックに、ヒップホップの要素を混ぜた曲をイメージしました。あとは懐かしくて聴き馴染みのあるメロディにしたいなと。

──歌詞を読むと恋愛に翻弄される主人公の姿が描かれています。

彼女への罪悪感を抱きながらも浮気を繰り返してしまう男性を想像しながら書きました。いろんな形がありますが、恋愛は多くの人にとって身近なトピックだと思うんです。それで曲の主人公をどうしようもない男という設定にして歌詞を書き進めて、気持ちが行ったり来たりしてる様子を「where???」というタイトルで表現しました。

──歌詞をご自身の感情や経験をもとに書くのか、フィクションに振り切るのか、どちらが多いですか?

自分の感情というよりは、面白いワードや言い回しを優先してますね。「where???」の歌詞にある「a whole new world」というフレーズは、ディズニー映画「アラジン」の主題歌を引用していて。アラジンとジャスミンが宮殿を抜け出して歌ってるシーンと、浮気がバレないように夜に抜け出してる男性の姿を重ねて書きました。歌詞は好きなラッパーのリリックに影響されている部分が大きいと思います。ラッパーが書くリリックはすごく自由なものが多いですよね。そういう面白さを意識してるところはあります。

──今年1月に「where???」を発表して以降、コンスタントなリリースが続いていますが、今のところ持ち曲はどのくらいあるんですか?

曲の欠片を含めると10曲以上あります。曲作りの途中で「あまり面白くないな」「これを形にするには技量が足りないな」と思うと手が止まってしまうんです。1つの楽曲について悩む時間も楽しいんですけど、別の新しいアイデアを思いつくとそっちを作り始めちゃう。遊んでる感覚が強いからこそ飽きずに音楽を続けられているというか。今ある4曲はどれも曲調が違うんですけど、そうやって次々と新しいことに挑戦できるのは1人で活動しているからこそだと思います。

Iwankof「where???」ジャケット

Iwankof「where???」ジャケット

奇跡に気付いてほしい

──最新曲の「in miracle」は、ある人の「両思いって奇跡だよね」というひと言を受けて「ロミオとジュリエット」をモチーフに書いたそうですね。

そうですね。両思いになったり、付き合ったり、結婚したりすることって奇跡だと思うんです。例えば人を好きになったとして、相手が自分を好いてくれるかはわからない。歌詞はその奇跡に気付いてほしいと思って書きました。「ロミオとジュリエット」では障壁のある恋愛が描かれてますけど、あの物語を読むと好きな人と一緒になれることがよりハッピーに思える。そのことも伝えたかったんです。

──「in miracle」で描かれている2人の登場人物も何らかの障害を乗り越えているように思いました。

カップルや夫婦、家族間でもぶつかることって多いと思うから「どんな関係性でも困難ってあるよね?」「でも、その都度学んでステップアップしてきたよね?」ということを確かめ合えるような歌詞を意識しました。MVには「好きな者同士が一緒にいることは奇跡だよね」というメッセージを凝縮したかったので、なんてことはないラブストーリーの中に「これってやっぱり当たり前じゃないよね」と感じてもらえるようなシーンをちりばめています。

──サウンドに関しては何かイメージはあったんですか?

よくマネージャーさんがお題を出してくれるんですが、今回はEDMでもありバラードチックでもありギターロックでもあり……というようなお題をもらって。それなら自分のルーツにある音楽をたくさん詰め込もうと思い、今の形になりました。

──特徴的なシンセが入っていて、途中からテンポが速くなるEDM感の強いサウンドデザインですよね。

そうですね。サビで踊れる曲にしたかったのと、ライブをイメージしたところがあったかもしれないです。

──お題をもらって曲を作るのは楽しいですか?

はい。お題をもらうことで、自分の好きなジャンルだけでなく、いろいろな音楽の要素を引っぱってこようとするんですよね。なので毎回新しいおもちゃをもらうような感覚で楽しいです。