ローラン・ラフィット、フランソワ・ファヴラ監督『ミモザの島に消えた母』インタビュー
『サラの鍵』の原作者タチアナ・ド・ロネのベストセラー小説を映画化した『ミモザの島に消えた母』が7月23日より公開となる。
30年前「ミモザの島」として有名なフランスの避暑地、ノアールムーティエ島で謎の死を遂げた母の面影を引きずるアントワン(ローラン・ラフィット)は、母の死の真相を探ろうとする。頑なに口を閉ざす父や祖母に、隠された真実があると確信したアントワンは、ノアールムーティエ島を訪れるのだがーーー。本作は真実と向き合う痛みと救済、愛するが故に打ち明けられない秘密など、繊細な心の機微と家族愛を描いた人間ドラマとなっている。
フランス映画祭のために来日した、主演のローラン・ラフィット、フランソワ・ファヴラ監督に作品の魅力を伺った。
Q.作品に出会ったきっかけと、撮影中に念頭に置かれたことを教えてください。
フランソワ・ファブラ監督 題材を探していた時、パリの行きつけの書店で勧められたのがこの作品でした。タチアナ・ド・ロネの作品はヨーロッパでとても人気がありますが、読んで気に入りました。読みやすいけれど深い内容で、多くの方に親しんでもらえるのではと思いました。タチアナとも実際に何度も会い、作品について話しました。
元々、家族間の緊張や秘密といったテーマに非常に興味をもっていて、家族の物語であると同時に、原作にはヒッチコックのようなスリラーの要素もあり、シナリオを書く時にはそれをより強く感じました。
Q.本作には、秘密を探ろうとする側と隠そうとする側の二者が存在しますが、どちらがより苦しいと思いますか?どちらに共感しますか?
ファヴラ監督 誰もが、小さな幸せでもいいので、毎日ゆったりと暮らしたいというのが本音だと思います。しかし、それが本当に幸せであるかは分からない。作品の冒頭を交通事故ではじめたのも、家族の秘密というのはどうしてもついて回るもの、精算し光を当てない限り追いかけてくるものであり、真実を明らかにする以外、選択肢は無いと思ったからです。
ローラン・ラフィット 真実の追求は苦しいですが、先には進めると思います。ただ、真実が全てであり、完全な価値であるとは思いません。自分だけの秘密であれば明らかにする必要はありませんが、家族の秘密は色々な人が関わるため、影響を考えながら判断すべきだと思います。私個人としては秘密は口に出す方です。秘密によって何か障害が生じるとか、“言外の意味”などは好きではないですね。
―― 真実を明らかにされたいということですか?
ラフィット ええ、作品で言うと妹役(メラニー・ロラン)よりもアントワンに近いですね。
Q.繊細な感情表現が要求される作品だと思いますが、監督から指導があったのでしょうか?
ラフィット フランソワ監督のやり方は最初のテイクは俳優が思う通りにやらせ、必要であれば調整するといった形でした。俳優から提案があれば聞いてくれますし、非常にバランスがよく、俳優としてはやりやすかったです。感情表現は監督と二人で相談して探りました。
ファヴラ監督 ローランと二人でシナリオを読みこみ、細かい感情表現などを詰めていくという感じでした。第一段階として、撮影現場でローランや他キャストからも提案があれば話を聞きましたし、第二には編集の段階で感情表現に強弱をどうつけるかを調整しました。
Q.本作を経験し、御自身の家族への考えが変わったり、改めて感じたことはありますか?
ラフィット 母にもう少し冷たくしてもいいんじゃないかと思いました(笑)問題がある時は家族という関係を越えて、真の大人同士として向き合うことが大切だと感じました。現実に立ち向かう勇気が必要なのです。
Q.舞台となったノアールムーティエ島での撮影はいかがでしたか?
ファヴラ監督 フランス人がバカンスで訪れる島ですが、私はロケハンで初めて行きました。ヒッチコックの『レベッカ』を思わせるような断崖絶壁に立つ家々、繁る木々の迫力に、一瞬にして魅了されました。また“ゴア通路”は、潮の満ち引きで消えたり現れたりする道路としては、確かヨーロッパでは最長のはずです。
Q.有名な観光地での撮影は大変ではなかったでしょうか?
ファヴラ監督 人気観光地ですので、撮影は4月~5月の人が少ない時期に行いました。
いつ人が少ないのかをアシスタント達が綿密に調べてくれたので、ひとけのないビーチを撮影できました。8月なんかに撮影していたら大変だったと思います。
Q.非常にエモーショナルで鑑賞後も心をとらえて離さない作品ですが、心に残るシーンはありますか?
ファヴラ監督 作中でこのシーン、というより、いま仰ったように“最初から最後まで惹き付けられ、エモーショナルだ”と言われるようなシーンが、私にとっては一番のシーンです。
ラフィット 妹のアガット(メラニー・ロラン)と父親が墓地で言い争いをするシーンと、教会のシーンです。父親はもう言い訳が出来ないという状況の時です。
Q.本作が最も伝えたいメッセージとは何だと思われますか。
ファヴラ監督 観る人に問題を提起することです。こんな家族もいて、それでもみんな頑張っているんだと鑑賞した人に感じてもらえたらと思います。
ラフィット 映画は伝えたいことを伝えますし、あとは観る人が判断することだと思います。「これでないといけない」というメッセージは無いのではないでしょうか。
Q.日本の印象はいかがですか?
ラフィット 来日してから、映画祭会場とここ(インタビュー会場)にしか行っていません(笑)フランス人にとって日本は好きな国ですし、色々な所を見たいと思います。
フランスと日本の共通点は映画においては、洗練されている、心理描写が深い、といった点があります。しかし同時に違いもあり、日本の映画には人工的で余計な表現が無く、会話も少ないけれど、きちんと伝わるものがあると思います。
Q.日本の観客にメッセージをお願いします。
ファヴラ監督 20歳の時、川端康成の作品を読んで「遠い国の人が書いたのに、なぜ私はこの人の気持ちが分かるのだろう」と思いました。同じように日本の皆さんにも「フランスの家族の話なのに、なぜ気持ちが分かるのだろう」というふうに観ていただければと思います。
ラフィット 日本映画は、家族をテーマにしたものは多いと思いますが、フランス映画で家族をテーマにするとどんな作品になるのかと期待して観ていただければと思います。家族間の問題は世界中にあることですし、本作には同性愛というテーマもありますので、そこも注目していただきたいです。
取材・インタビュアー:小林サク、スチール撮影:南野こずえ
『ミモザの島に消えた母』
7月23日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
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