概要
幸村誠の漫画『ヴィンランド・サガ』の登場人物であるが史実の人物でもある。
ただし、生没年も良く分かっていない。
元はヨーム戦士団に所属し、4人の大隊長の1人。
後にクヌートに帰参し、彼の家臣になる。
人並外れた巨躯を誇り、人呼んで「のっぽのトルケル」。得物には二挺の斧若しくは丸太。デーン人(ヴァイキング)の戦士の間では、その恐るべき強さから、「雷神トールの生まれ変わり」と噂されるほどの生きる伝説として語られている。
人物
戦士であることに強い誇りを持っており、手応えのある戦いを常に追い求めている生粋の戦闘狂。そのために不利な戦いも敢えて挑む(ただし、負け戦は嫌い)。
一方、己が認めた相手なら年端もゆかぬ少年であろうと彼なりに敬意を払う。
逆に戦わずに降伏するような敵は、武器を与えてヴァルハラに送ってやるほどには生きる資格がないと考えている。
降伏してきた相手を皆殺しにするなどその振る舞いは残虐極まりない半面、裏表のない気さくな性格でもあり、部下たちからは慕われている。部下たちもトルケルほどではないが、かなりの実力を持つ手練れ揃いであり、同時に多かれ少なかれトルケル同様の戦闘狂で、故に彼に付き従っているともいえる。
事実、部下の一人はトルケルと戦って死ねば「ヴァルハラで最期の相手がトルケルだった」と自慢できると嘯いており、トルケル隊の副将的なアスゲートもトルケルが死ねば、獣のような彼の部下500名を束ねる者が居なくなると危惧する程である。
その実力は作中でも随一で、自分より巨大な岩を軽々と持ち上げ、遠く離れている敵に槍を投擲して4人まとめて貫き、太い丸太を難なく扱って投擲する、熊を鯖折りで倒すほどの怪力を誇る。また指が欠損した右手で斧を振るっても落とす事は無い程の握力もある。
特に一人破城槌(ひとりラム)と称し、単身で城門を破壊するなど規格外のパワーを見せた。
死への恐怖が薄く、己が体を欠損しようと、その痛みや無くした事にショックを受ける事も気にかける事も無い。この精神性も彼の強さを支えている。
実はヨーム戦士団首領シグヴァルディの弟で、シグヴァルディの娘ヘルガを母に持つトルフィンから見るとトルケルは大叔父にあたる。
トルケルは、ヘルガの夫でシグヴァルディからも後継者と目され、唯一自分より強かった同じ大隊長のトールズには強い友情と敬意を抱いていた(好意的な意味で「いつかこの手で殺す」と誓っていたらしい)。そしてヨーム戦士団をトールズが抜けた折に、彼について行けば真の戦士となれたかもしれないという悔いを抱いている。
作中の活躍
当初、デンマーク王スヴェンのイングランド遠征において他のヨーム戦士団と同じくデーン軍に味方していたが、「イングランド人が弱い」という理由から強い敵と戦うためにあえて手勢とともに離反してイングランド軍側に寝返り、ロンドンの砦の守将となってデーン軍と敵対する。
説得に来たフローキを追い返し、デーン軍との攻防戦の時に自分の首を狙うトルフィンと対峙し、トールズの名を口にし、自分の右手の薬指・小指を切り落とした彼に興味を抱く。
デーン軍のスヴェン王がロンドン攻略から引き上げると自らの手勢のみで砦から打って出て留まっていた4000人の包囲軍を破り、指揮官のクヌートとラグナル(と修道士のヴィリバルド)を捕虜にした。
デンマーク王子であるクヌートを人質にスヴェン王を誘き出そうとする。しかし、移送中に待ち伏せていた包囲軍の残党の存在に気付いて対峙。あえてクヌート達を解放すると、彼らを挑発して交戦し圧倒していたが、アシェラッド達の横やりで火を放たれたどさくさでトルフィンにクヌートたちを奪われる。
その際、トルフィンと再会して母親の名がヘルガと当てて、トールズの息子であることを確信し、再び対峙することを望む。
その後、強行軍でアシェラッド達を追跡するが、ウェールズに逃げられて見失う。
しかし、冬越えをするためにグロースターの町に滞在(しかし、その領主からは無尽蔵に飲み食いするトルケル達に「略奪と変わらない」と悲鳴を上げていた)していたところに、ある村がデーン人集団に占拠され、地元領主からそのデーン人集団の討伐要請が来ていることを聞き、状況から察するにその集団がトルフィン達であると確信して再び追跡を開始する。
一方、トルケル達の接近を知ったアシェラッド達はすぐに村から逃走を図るが、戦士達はトルケルの恐怖で怖気づいており、一部は村に留まって投降しようとするも、村に到着したトルケルは彼らを軽蔑して皆殺しにし、追跡を続行。アシェラッド達が小川に架かる橋を破壊した時に彼らを遠くから視認し、直後に敵が反乱を起こして仲間割れしている間に到着。武器を捨てて降伏する反乱を起こしたトルグリム達を白い目で見下して無視してアシェラッドからトルフィンは反乱に加わっていないことを聞いて安心すると、部下達にアシェラッド以外の皆殺しを命じる。
トルグリム達は激しく動揺するが、トルケル軍に情けで「丸腰ではヴァルハラに逝けない」と武器を持って戦うように強いられ、トルグリム達は戦う以外の選択肢が無いことを悟ってヤケクソで交戦するも、一方的に殺戮される。反乱の主犯格のトルグリムは、トルケルに武器を持たされて決闘を強いられるが、悪鬼のような気迫を受けたトルグリムは戦意喪失して廃人になってしまう。
一方、部下達の反乱で捕らえられていたアシェラッドは、そのままトルケルの捕虜になるが、クヌートの護衛を放棄して駆け付けたトルフィンがアシェラッドの身柄を条件に決闘を挑む。
決闘は、俊敏なトルフィンに幾度も傷を負わされながらもトルフィンの腕の骨を折る等の重傷を負わさせる。
ところがアシェラッドがトルフィンに作戦を与え、剣を使った光の反射で目をくらまされ、その隙にトルフィンに顎をこすられて脳しんとうを起こし、左目を潰される。
耐え兼ねた部下たちがトルフィンたちを殺そうとしたところ、決闘に水を差されたと激昂するも部下のアスゲートに諫められ、怒気を納める。
決闘に勝利したトルフィンとアシェラッドは、自由になったが当初の目的通り、クヌートを再び捕虜にする。
しかしクヌートから「父王は兄王子(ハーラル2世)をデンマーク王にするため、私を殺したがっている」と告白され、スヴェン王を誘き出す材料にならないと判明する。
この時、クヌートの豹変に何かを感じたトルケルは、クヌートに同行し、スヴェン王が駐屯するヨークに向かう。
《農場編》
ヨークでスヴェン王がアシェラッドに殺されるとトルフィンは、奴隷として売り飛ばされ、クヌートもデーン軍と共にイングランドから撤退する。
ここから2年後の物語、トルフィンが農奴としてケティル農場で生活する《農場編》が始まる。
トルケルは、クヌートと共にイングランド遠征に従軍していた。しかしクヌートは、略奪や戦闘を控えさせ、謀略によってイングランド軍を陥落させようとする。
(なお史実では、数々の残虐行為でイングランドを苦しめており、これは史実と異なる)
かつてスヴェン王からクヌートに与えられるはずだったマーシア(イングランド南部。かつてはマーシア王国と名乗り、アングロサクソン七王国でも有力な諸侯。後にウェセックス王家に臣従してマーシア伯国となった)を攻めるもクヌートから停戦命令を受ける。
クヌートは、エゼルレッド2世を毒殺するようマーシア伯エアドリックに寝返り工作を計り、この地の攻略を達成すると同時に父王の代からデーン軍を苦しめたイングランド王エゼルレッド2世も葬り去る。
(ただし、史実ではエドマンド2世が激しく抵抗。どちらかが死んだ時、生きていた方がイングランド王となるという約束を結んだがエドマンド2世が先に死にクヌートがイングランド王に即位)
またクヌートの兄、デンマーク王ハーラル2世を毒殺してデンマーク王位をも奪った。
《ヨーム戦士団編》
クヌートは、バルト海制覇の仕上げとして散々、利用して来たヨーム戦士団の解体をトルケルに命令する。
これは、戦いの少なくなったイングランド・デンマーク王国にとって巨大な盗賊兼傭兵団である危険なヨーム戦士団が民衆に危害を加える上、邪魔になったからである。
トルケルは、最強と謳われ、かつて自分も所属したヨーム戦士団解体に喜ぶ反面、何でも思い通りに利用しようとするクヌートに不満を覗かせた。
トルケルは、謀略を繰り返すクヌートに苛立ち、平定したイングランドの領地の統治を任されるが、小競り合いすら起きないほどの平和によって他所の夫婦喧嘩にも乱入しようとするほど戦いに飢える。
挙句、クヌートはトルフィンの説得を受け、デーン軍を縮小する。この報せを受け、トルケルは激しく落胆し、その場で気を失って倒れる。
(部下曰く「平和は命に関わる」)
デーン軍の大半を帰国させて自身はそのまま留まって領地を治めるように命令が出るが、戦いを求めて命令を無視してイングランドを離れる。そして、フローキから反乱を起こしたヴァグン率いる大隊の討伐要請が来たため、それに応じてヨーム戦士団の本拠地であるヨムスボルグへ赴く。
そこで、部下が偶然トルフィンを発見して連れて来て、フローキにトルフィンはトールズの息子であることを明かしたことで、トルフィンをヨーム戦士団の後継者争いに巻き込む。
その後、ヴァグンの討伐に向かうが、ヨーム戦士団のガリムが勝手にヴァグンを殺したことで、獲物を奪われたと激昂し怒りの矛先をフローキに向けてヨムスボルグ攻略に取り掛かる。
ヨーム戦士団を指揮するフローキは、様々な手段を講じてトルケルと和睦しようとするが突っぱねられる。その上、トルフィンにとってフローキは、父トールズの殺害をアシェラッドに依頼した張本人であり、彼からの復讐を警戒する。
しかし結局、ヨムスボルグ内部に侵入したトルフィンやシグルドたちのために砦は大混乱に陥り、フローキの孫バルドルがトルフィンたちに捕らえられ人質にされてしまう。
バルドルは、フローキが次のヨーム戦士団の首領に据えたいと望んでおり、これまで数々の汚い手段を繰り返して来たのも孫をヨームの首領にするためだった。
なんとかフローキは、バルドルを取り戻すも城門をトルケルが突破し、包囲するトルケル軍が砦内に侵入する。
収拾が着かない混乱にフローキは、もはやヨムスボルグや部下たちすら見捨て、バルドルを連れて脱出しようと考えるが悪辣な祖父に失望するバルドルは、戦闘の中に姿を消してしまう。
またフローキの前にトルケルが現れ、難敵トルケルを退けるために得体の知れない怪人ユミルを差し向けた。
人間が好物らしい怪人ユミルは、トルケルと夜明けまで大格闘を繰り返し、ついにチョークスリーパーで失神する。
久しぶりの戦闘にトルケルは、怪人ユミルを捕虜にし、大満足のうちに戦争を終える。
トルフィンは、かつての首領シグヴァルディの孫でトールズの息子であったからヨーム戦士団の新首領に就くがバルドル、フローキを処刑せずに放逐し、ヨーム戦士団の解体を宣言した。
異議を唱えるヨーム戦士団に対し、トルケルもクヌートの密命があったことをヨーム戦士団に明かし、トルフィンの命令を実行するようにクヌートに代わって強制した。
トルフィンの諸所の問題の処理を手伝ったトルケルは、見返りに決闘を申し込んで来た。
しかし人を殺める事を止めたトルフィンにとって絶体絶命の状況に怒ったグズリーズの気迫ある非難とトルフィンへの想いを聞いたことで良い物を見れたと満足し、決闘を取りやめる。
《ヴィンランド入植編》
本人は直接登場していないが、ハーフダンの奴隷の一人に彼と瓜二つのコーデリア(本当の名はハルヴァル)が登場し、「将軍様」と呼ばれる男の息子として生まれたのだが、母が自分を戦から遠ざけるために父に「女の子」と嘘を吐き、そのまま女の子として育てられた。
後の回想シーンで顔は隠れているが、父親らしき男が登場。トルケルそっくりな風貌から将軍様とは十中八九、トルケルと思われる。
史実のトルケル
ちなみに実在の人物であり、そのまま「Þorke(ti)ll inn hávi(のっぽのトルケル)」という名前で記録され、立派な伯爵だったりする。
ヨムスヴァイキング(ヨーム戦士団)は伝説的な存在であり、本拠地ヨムスボルグがどこにあったのかも分かっていない。
しかし歴史上、さまざまな戦いに傭兵として参加している。
トルケルは、首領シグヴァルディ伯爵の兄弟とされ、クヌートとは幼少から面識があった(らしい)。
史実では、イングランド王エゼルレッド2世に雇われ、スヴェン王とクヌートの率いるデーン軍に敗北し、フランスのノルマンディー公を頼って逃亡し、スヴェン王に服従する。
しかしスヴェン王の死後、イングランド貴族と同じくエゼルレッド2世をブリテン島に呼び戻すと再びクヌートと敵対するが1015年にクヌートのイングランド遠征によってマーシア伯爵エアドリックと共にデーン軍に寝返ったとされる。
その後、クヌート大王とは複雑な関係を繰り返し、やがて歴史上から姿を消した。