歯車とは工業部品の機械要素の一つである。
回転の動力を伝える機械要素だが、回転を直動の動力に変えることもできる。ベルト駆動とか流体継手に比べてロスが少ない。ステキ。英語で「ギア」もしくは「ギヤ」という。JISでは「ギヤ」と表記される。
チェーン&スプロケットもここでは一応「歯のついた車」だからギヤと見なす。定義によっては「歯車とは言わない」とされる場合もあるが、こまけぇこたぁいいんだよ!!
大小さまざまあるし、形はイロイロである。素材も金属から樹脂から木から紙までさまざまである。どんなものか見たい方は、今触られているお手元の機械を分解してみると良し。入っている可能性もある。あくまで可能性であり、責任はもてない。分解した後その機械が使えなくなっても、正直すまんとしか言いようがないので、よく考えてから行動されたし。
歯の形にもいろいろあるが、一番メジャーなのがインボリュート曲線というもの。机上の計算では歯同士の滑りが0で、伝達効率は他のどんな歯型よりも高い。しかも製造しやすい。加えて丈夫。あらゆるところに使われているので、とりあえずそれっぽい形の歯は全てこいつだと思っていればいい。また、実際にはこのインボリュート歯車を元に変形したものが使われることも多い。普通の歯形を並歯と呼ぶのに対して転位歯車、高歯、低歯などがあり、それぞれ長所と短所がある。
文学などで「運命の歯車」とかそういう表現を目にすることがあるように「伝達するものやシステム」といった認識でとらえられているようだ。
また歯車は工業や労働者の象徴であり、そこからの派生で社会主義、共産主義のシンボルとしても用いられる(後者の場合歯車とともに農具や穀物の穂を組み合わせたシンボルを使うことが多い)。
本来は、軸の向きで分類するのが一般的であるが、ここでは歯車そのものの形を基準に並べる。
板状の歯車。平歯車同士で組み合わされる場合、入力と出力の回転軸が平行。
直歯平歯車 |
歯車と言ったら多くの人はこれを連想するのではないかと思う。
板の周上に、軸に対してまっすぐ歯が切られているもの。円盤をくりぬいた形の内側に歯を切ったものもこれの一種(内歯車という)。単純に平歯車といった場合これを指すが、他の平歯車と明確に区別するため、直歯平歯車と呼ばれることがある。
みんな大好き遊星歯車もよくこれらを組み合わせて作られる。
純粋に、シンプルに回転力同士を伝達する方式であり、伝達効率に優れる。しかも回転方向以外に余計な力が作用しない。さらに製造が簡単なので、精度良く作ることができる。
だが欠点もある。
そもそもすべての歯車というのは、敢えてほんの少し隙間を開けて配置される(バックラッシュと呼ばれる「遊び」を作るため)&接触面は弾性変形する&歯車の加工精度には限界がある&間には多くの場合潤滑油を介在するので机上の理論計算通りの運動をしない。その結果歯面が噛みあう時にどうしても衝撃が出てギヤの「鳴り」が発生してしまう。
直歯平歯車は歯面の当たり方が不連続になりやすく、ギヤの鳴りが特に発生しやすいのである。高速回転させるとさらに顕著である。
たとえば、軽トラックなどでリバースに入れ、加速すると「ムゥィ~ン」とかいう音を発するだろう。あれが直歯平歯車の鳴きである。他にも、多くのレーシングカーのオンボード映像などで速度によって高さが変わる「キーーン」という高周波の音が聞こえるが、あれもそうである(関連動画参照)。一般の乗用車のトランスミッションには後述する斜歯歯車が使用されるため鳴きがほとんど聞こえないが、レース用ミッションは直歯平歯車なのである。ちなみに自動車のミッションに限っては、直歯平歯車のことをストレートカットギヤと呼ぶこともある。
斜歯平歯車 |
英名:helical gear(ヘリカルギヤ) または helical spur gear(ヘリカルスパーギヤ)
板の周上にらせん状に歯が切られている。ようは直歯平歯車の歯が斜めになったものである。直歯平歯車と同様、円周の内側に歯が切られている内はすば歯車も存在する。
一つ一つの歯が接触する角度が斜めになっているので噛みあう衝撃が逃げる。歯面同士の接触時間が長く、歯にかかる力の変動が少ないため動力の伝達が滑らかである。その結果、鳴きがあまり発生しない。乗用車に乗っていてもトランスミッションは静かでほとんどエンジン音と走行音しか聞こえないのはこれのおかげである。
欠点としては、歯面の接触角が斜めであるため回転方向以外に軸方向に力が掛ってしまう(この力を「スラスト」という)。当然、その余計な軸方向の力に耐えるか、あるいは打ち消すような力を発生させるような設計が必要になる。歯車自体の強度は直歯平歯車よりも大きいが、結果的に伝えられる最大トルクや伝達効率が直歯平歯車と比べると小さくなる可能性がある。
山歯歯車 |
英名:double helical gear(ダブルヘリカルギヤ)
鏡うつしの斜歯歯車を二つ向かい合わせて組み合わせ、一つの歯車にしたもの。
斜歯歯車のところで軸方向に余計な力がかかること(スラスト)を説明したが、「じゃあ、逆方向に同じスラストを発生させれば打ち消せるんじゃね?」と考えて発明されたものである。
確かに、スラストは打ち消せるし静粛性も斜歯歯車並みだが、いかんせん加工が大変で、本来一つ分で済む歯車の加工を二つに増やさなければならないなどの理由であまり使われていない。歯車メーカーのカタログを見てもたいてい載っていない。
ちなみに、右の図は二つの歯車がぴったりくっついているが、実際は間をあけた形になっているものがほとんどであろう。
傘(円錐)の上部をぶった切ったような形をした歯車。動力の伝達軸の方向を変えたいときに使う。かさ歯車同士の組み合わせのとき、だいたいの場合入出力軸は直角で交わる。減速を目的に使う場合は、平歯車よりも減速比を大きくとることが多い。
また、かさ歯車同士の組み合わせのうち「軸が90度で交わる」かつ「2つのかさ歯車の歯数が同じ」ものをマイタ歯車(miter gear)と呼ぶ。
直歯かさ歯車 |
英名:straight bevel gear(ストレートベベルギヤ)
円錐の母線と歯の向きが一致するもの。ぶっちゃけ簡単に言うと直歯平歯車のかさ歯車バージョン。直歯平歯車と同じように歯面は一気に全面当たる。ただし、そもそも歯自体が軸に対して斜めに並んでいるので、平歯車の時と違ってスラストは発生する。
各種性能面では斜歯のまがり歯かさ歯車に後れをとる。しかしながら、比較的安価に製造できるのが美点。
自動車のデファレンシャル(差動装置)の中のピニオンギヤ(凄く大ざっぱに言うと、小さなギヤのこと)に使われているのが有名。
減速比は5:1くらいまでとれると言われている。
まがり歯かさ歯車 |
英名:spiral bevel gear(スパイラルベベルギヤ)
もはや説明するまでもないが、斜歯歯車のかさ歯車バージョンである。円錐の母線に対して斜めに歯が切られている。
効率は直歯かさ歯車よりもよく、動力伝達が滑らかで静粛性が高い。しかも直歯かさ歯車よりも大きなトルクを伝えられるうえに、減速比も大きくできる。
ただし、加工が難しく、高価であるのが欠点。
他にも船舶の逆転機・石炭の掘削ミルなど、各種機械の大きな荷重がかかる部位に使われるのが知れ渡っているが、自動車の場合には後述するハイポイドギヤが用いられることが多い。なんにせよ、直歯斜歯車とともに軸の向きを90度変えたいときよく用いられる。
歯があたかも直歯かさ歯車のようにうまく放射状に並ぶように加工したものをゼロールギヤと呼ぶ。こちらは耐久性があり、性能の良い歯車として重宝される。
ハイポイドギヤ |
一見するとまがり歯かさ歯車に似ているが、こちらは出力軸が交差しないものを指す(軸がねじれの位置。これを食い違い軸という)。右のように、ピニオンギヤの軸の位置がリングギヤ(赤いほう)の半径の半分だけずれている形をしているものが多く用いられていて有名。
前述のように、自動車のファイナルギヤによく使われている。ハイポイドギヤを用いることで軸の高さを変えることができる。また、まがり歯かさ歯車よりもさらに滑らかな伝達ができる。
ただし、歯にかかる負担はまがり歯かさ歯車よりも大きく、極圧性(大きな圧がかかった時に性質が変化して表面を保護する薬品)のある潤滑油を使用することが望まれる。
ハイポイドギヤを製造する歯切り装置はグリーソン社しか作っていないため、同社の独占状態にある。ハイポイドという名称も同社がつけたらしい。
冠歯車 |
回転軸に対して垂直に歯がならんでいるもの。…なんて言葉で説明するよりは、王冠みたいな形をしたギヤと呼んだ方が早かろう。ミニ四駆の駆動軸からプロペラシャフトに伝達するピンク(もしくはオレンジ)のギヤといえばもっとわかりやすいだろうか。いわゆる右の図のパーツである。
この歯車も、一応かさ歯車の一つとして分類されている。どこが円錐をぶった切った形なんだよとか思われるかもしれないが、ちょっと待ってほしい。円錐の高さがゼロだったらこういう形になる。こらそこ、高さがゼロだったらそもそも円錐じゃないとか言わない!
動力を曲げたいときにはほかのかさ歯車を使うことが多いため、目にする機会はミニ四駆以外ではそう多くないだろう。
ラック&ピニオン |
英名:rack(ラック)
直線の棒状の材料に歯を切ったもの。直歯平歯車もしくはウォームギア(後述)のピニオンギヤを組み合わせて、「ラック&ピニオン」という形で用いられることが多い。棒なのに、どこが「車」なんだという突っ込みはしてはいけない。直歯平歯車の内歯車の径を無限に大きくしたものと解釈することもできる。
ピニオンギヤから回転の動力を伝えて、ラックの直動として動力を伝えるときに使う。高速回転する場合は少なく、斜歯を使うメリットは低いので、直歯が用いられることがほとんどである。
自動車のステアリング機構、工作機械の送りが有名。他にも、ラック式鉄道というものもある。普通の鉄道では滑り落ちてしまうような勾配でも昇ることができるため登山鉄道等に採用されてきたが、多くはロープウェイ・ケーブルカーにとって代わられて現在ではあまり使われていない。
ねじ歯車 |
英名:spiral gear(スパイラルギヤ) または screw gear(スクリューギヤ) または crossed helical gear(クロスドヘリカルギヤ)
斜歯歯車を二枚、軸が平行にならないように噛み合わせたもの。歯面の傾斜がきつい斜歯歯車を使用する。ハイポイドギヤとともに、食い違い軸の歯車の代表。
接触面が点接触であり摩耗しやすいので、そこを十分に考えて設計してやらないといけない。動力の伝達は滑らかだが大きな荷重をかけて使うことはできない。
ウォームギヤ&ウォームホイール |
ねじ歯車よりもねじ山に似た形をしたギアである。外人に言わせると芋虫(ウォーム)みたいらしい。普通は斜歯平歯車の歯面をウォームギヤに合うように凹ませたような形のウォームホイールと組み合わせて使う。ウォームギヤから入力して、ウォームホイールに出力する。
これの特徴はなんといっても大きな減速比を得られることである。ものすごく低速で正確に歯車を回したいときに重宝する。他の歯車の多くは出力と入力を逆転させてもスムーズに回るものが多いが、これの場合は多条であること、進み角(中心軸に対する歯の角度)が一定以上の大きさを持つなどの特定の条件下でのみ回転する。
またその条件下であっても回す時にはどうしても強烈に歯面が摩擦するので、極圧性のある潤滑材を使用しなければならない。使用される例としては、オルゴール、各種計測機器のステージ位置調整、ラック&ピニオンのピニオンギヤなどがある。
模型用などとして流通しているものは基本的にこの条件を満たしていないので出力側から回転させることは出来ない場合がほとんどであるがこの特性もセルフロックという一つの機能とされている。
チェーン&スプロケット |
自転車やバイクの駆動部のアレである。チェーンと組み合わせて使う。
チェーンのピンの間にスプロケットの歯が噛みこんで動力を伝達する。
チェーンの構造は各種歯車と比べて複雑で、チェーン内部で摩擦する個所がいくつかあるため伝達効率はあまり良くないと言われる。しかし最近性能がずいぶん向上したらしい。離れた位置にある平行で回転方向が同一の軸に用いられる。
間違ってもチェーン&スプロケットを5-56みたいなCRCで潤滑しようとしちゃダメである。潤滑にはちゃんとその場に残るチェーングリスを使おう。
最近は自動車のエンジンのタイミングベルトの代わりに用いられるようになってきた。
ここに挙げた以外にもいろんなギヤがあります。
↓よく見るとかさ歯車の組み合わせであることが分かる
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最終更新:2024/12/13(金) 22:00
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