C-2とは、
本頁では1.について記載。
概要
現在航空自衛隊の輸送機の主力はC-1とC-130Hだが、C-1は運用を開始してからもう40年近く経過しており、そろそろ退役も始まることから、次世代哨戒機(P-1)と同時に開発された。
P-1とは一部の部品が共通化されており、C-2の機体重量の15%、搭載品目の75%が共用される。[1]
主翼を高翼に配置、T字型の水平尾翼を持つ、オーソドックスなデザインを採用。高翼機は低翼機に比べ飛行性能で不利になるが、胴体デザインの低抵抗化や衝撃波の影響を受けにくい超臨界翼の採用などにより、最大速度はC-1の650km/時を上回る890km/時を実現した。[2]
開発
C-1の後継機計画が始動したのは2000年末で、2001年に川崎重工を主契約者にすることに決定した。当初は2014年度末に制式化する予定だった。C-Xの地上試験初号機は2006年に防衛省に引き渡されたが、静強度試験で不具合が発見されて再設計が行なわれ、飛行試験初号機もリベットの強度不足が発覚し初飛行は2010年までずれ込んだ。[3]
2017年3月27日、開発を完了し、今後はC-2として運用が開始されることが防衛装備庁より発表された。[4]
量産機の仕様[5]
- 全長43.9m / 全幅44.4m / 全高14.2m
- 貨物室 15.7m(長さ) / 4.0m(幅) / 4.0m(高さ)
- 速度性能 0.82Mach
- 貨物重量(最大荷重) 36t(2.25G) / 32t (2.5G)
- 航続距離 4,500km(36t) / 5,700km(30t) / 7,600km(20t) / 9,800km(Ferry)
その他[6]
派生機
- RC-2…電波情報収集機。初号機が2020年10月に配備されている。[7]
- スタンドオフ電子戦機。 …開発中[8]
- 民間型…検討されていたが、川崎重工業が民間転用を事実上断念した、と2017年1月に報道されている。[9]
C-2の要求にみる先進性
前述したように、C-2の計画前、自衛隊の海外派遣に伴い航空輸送時の航続距離不足が大きく問題視されるようになってきた。諸外国、特にアメリカでは戦域間を行き来する輸送機としてはC-17のような大型輸送機もあるほか、複数の海外拠点もあるため航空輸送にはさほど支障はない。しかし、その任務の都合上、基本的に国内での運用を中心として考えている自衛隊にとって、海外派遣時の負担はかなりのものであった。そして今後とも海外派遣は増えることはあっても減ることはないのは自明ともいえた。そのため自衛隊では現状と未来を踏まえて、C-1の後継機にあたるC-X計画に以下のような要求を出すことになった。
- 巡航速度を民間のジェット旅客機並みに引き上げ、民間の航空路を飛行出来るようにする。
- 国内の主要滑走路で運用できる離着陸性能はキープする。
- すくなくとも30tは積みたい。カーゴスペースはH4×W4×L16程度。
トラック貨物の積み下ろしは行わないでそのまま乗せられるといい。
※なお防衛省および川崎重工双方で要求仕様としては12t積載時に航続距離6500kmである。
※のちに発表された民用バージョンは場合最大積載37tとなっている。 - 空中給油が可能であること。
上記のような要求はC-2のような戦域内輸送機(戦術輸送機)クラスの飛行機にいままでなかったのだ。
これがどれだけ先進的であるか、なお詳細に記述することにする。
従来の軍事輸送機は大別して、戦域間輸送機(戦略輸送機)・戦域内輸送機(戦術輸送機)の二つに分けられる。アメリカ軍のケースで話をすると、C-5、C-17などの戦域間輸送機が本国などから部隊展開地域後方におかれた集積基地まで空輸し、そこから戦域内輸送機が部隊展開地域にある空港まで輸送するという手順を踏む(コンビニや宅配便の配送方法を思い浮かべてもらえるとわかりやすいかもしれない)。
そのため従来まで戦域内輸送機に求められていたのは、ある程度の不整地滑走路での離着陸機能(STOL機能もあればよし)などであったが、昨今、アメリカ軍・NATO諸国、そして日本の足かせともなっているのは空輸可能距離と積載能力、そして速度の問題だった。
航続距離については空中給油能力があれば(無理やりにでも)解決できるが、機体に給油できる機体が同じ速度で飛べる給油機であることが必要となると問題はあまり解決されたとはいえない。つまり空中給油機にさらに給油をして…という、悪夢のようなケースが発生するためでもある。(興味のある方はフォークランド紛争時における爆撃機アブロ・バルカンで行われたブラック・バック作戦を調べてみてほしい。6000km彼方のフォークランドへの爆撃任務につく爆撃機バルカン1機のために、予備機を含めて13機(!)をつぎ込んで空中給油を行っている)
傑作輸送機C-130は確かに優れていたが、その積載能力に足を引っ張られるケースも最近は目立つようになってきた。25t程度の積載能力とスペースはいささか現在の軍事組織が求める兵站には足りず、また兵器開発にも制限をうけるケースすらある。例えばアメリカのストライカー戦闘車は当初よりC-130より積載可能なサイズと重量という制限をもうけられて開発されたなどというケースがそれで、搭載重量とサイズに制限が加えられると装甲や搭載能力に影響が出るのでこれまた頭が痛い話となる。そのためC-2と同時期にNATO諸国で開発がスタートしたA400Mは当初より最大購入先であるドイツ陸軍の意向をうけて、プーマ歩兵装甲戦闘車の積載を求めて31t以上の積載力を仕様を定めている(ま、飛んでみれば重いわエンジンの出力不足で31tも詰めませんとなって、涙目状態ではあるのだが)。
また軍用輸送機はどうしても民間航空路で飛び交う旅客・輸送機よりも遅く、昨今の高速・高高度化の流れも加わってどうしても同一空路を飛ぶことは(同一空路を飛ぶ航空機はニアミスを防ぐため制限が多々あるので)かなり難しい。これは軍用輸送機の一般的な形状…すなわち高翼式で貨物を搭載するための幅広な機体からして実用速度を上げるのは難しい面もある。
となると、次善の策として軍用輸送機が特別に飛ぶ独自空路の策定になるのだが、今度は飛行場やらアチコチの手続きも面倒になる。アメリカではアフガニスタンへの兵站輸送に一度キルギスタンのマナス基地を経由して送っていたが、それにしてもロシア及び周辺諸国の空を飛ぶ必要があるほか、そこまでの手段のないNATO諸国は鉄路での輸送まで行っていた。このマナス基地からさらにアフガニスタン各地の飛行場へ飛ぶには輸送機の航続距離に不安が多いため、結局陸路を選ばざるをえなくなり、アフガニスタンでの兵站業務はかなりの負担を強いられ、結果的に軍事行動にもかなりの制限をうけることとなった。
また世界最大の兵站輸送能力を誇るアメリカ軍のC-17も到底巡航速度は遅く民間航空路を飛べるわけではない現実もある。おまけに機体サイズに比べて積載能力が大きいのもあってタイヤ一本あたりにかかる重量(荷重)が大きく、滑走路の舗装しだいでは文字通り「耕す」羽目になったケースが発生している。また離陸に必要な滑走路距離なども制約が多い(そういうわけで自衛隊にC-17は大きすぎて使いづらいという点がある)。
NATO諸国や日本など中堅の国家として考えた場合、アメリカ軍みたいな大小二つの輸送機を抱え込むほど予算も人手もないので、どちらか一つを選べとなると必然と小回りのきく戦域内輸送機となるのが普通である(とはいえ英国はC-17を採用した)。ところがC-130の最新版C-130Jは、コクピット周りやエンジンを最新式に換装したのはいいが性能がさほど向上したわけでもないのにコストだけは高上がりという頭の痛い展開になっていることにも触れておいたほうがいいだろう。つまり、代替手段は既存の軍用輸送機には見当たらないという結果なのだ。
結果的にC-2に対する要求のポイントとは、上記の問題点の大半をクリアできるものだった。
民間航空路を飛行できるだけの速度を有するならば空路策定に大きな面倒は生じない。また長距離を飛べればなお更といえる。さらに輸送可能な貨物重量はC-130シリーズのおよそ 1.5倍程度としており、陸上自衛隊などが運用する車輌やヘリの大半を輸送できるサイズとなっている。貨物の積み下ろし能力が足りない空港であっても搭載した車両で乗り降りできればべつに問題も生じない。
つまりC-2は戦域間輸送機の枠組みを越える新たな分野を目指したものとなっているといえるだろう。(自衛隊の中の人たちは海外派遣などでC-130を使ってアチコチ経由していくことに散々な苦労したんだろうなぁ…ということを思わせる仕様要求であることが伺える)
のちにアメリカ軍で立案された輸送機計画AMC-Xでは民間航空路への乗り入れ可能なスピードを要求することになるので、この方向性に間違いはなかったともいえるだろう。
C-2のFAQ
「なんでC-17とか買わないの? C-130Jとかじゃダメなの?」
C-17は最初にも書いたように大きすぎる。コンビニの集配・配達にトレーラー使うようなもので、不経済極まりない。
C-17を買ったところで冒頭の自衛隊の悩みは解決されない。今、日本はおろか諸外国の軍用輸送機の抱える問題は「配達用のC-130(軽トラ)じゃ小さいし遠出が出来ない!C-17(トレーラー)に変えたら大きすぎるし、配達もできやしない。っていうか、軽トラもトレーラーも高速道路(旅客機航路)に乗り入れできないぐらい遅い! どうしよう!」。ついでに書くとC-130Jは傑作輸送機C-130に要らぬ改良加えた駄作であり、コストばかりかかってしょうがない。
A400Mが「よし判った。じゃ間をとって4tトラックにするか!」という対応で、日本のC-2は「4tトラックで高速道路も乗って長距離も走れるぜ」という対応だと思ってもらえれば判りやすいかもしれない。
防衛省の各機体への評価はここで見ることができる。
「どうしてこんなに炎上する羽目になったの? 他のA400Mとかボーイング787とは違う理由なの?」
C-X計画が遅延していたのは、基本的に試験で判明した強度不足を解消する為の設計変更に時間がかかっているものと推測される。が、単純に「弱い部分を補強すれば良い」というものではない。
一般的に航空機は以下の重量配分割合を決めてから設計に入る。
最大離陸重量 = 構造重量 + エンジン重量 + ペイロード + 燃料重量 +その他(配線・配管等)
補強するということは構造重量が増えるということなので、単純に補強だけを繰り返した場合、構造重量が増加し予定した割合をオーバーする可能性がある。もしそうなった場合、最大離陸重量は後から増やせないので、ペイロードと燃料を削ることになり、結果として当初予定していた性能を達成することが出来なくなってしまう。ではどうするかというと、どうにもならない。ひたすら「構造重量の増加をできるだけ抑えつつ必要な強度が確保できる設計」を模索するだけである。ちなみに最初から頑丈に作っておき、後から強度が過剰な部分を探り出して削っていくという手もあるが、こちらの方はもっと難易度が高いだろう。
A400Mの炎上はエンジニアリング上の問題とマネージメント上の問題が重なっている。
機体構造がC-2と同様に強度不足でアチコチ手を入れて重量増加。ついでに同時開発したエンジンの推力も足りない。重量増加・推力不足のダブルパンチで搭載貨物量が激減。使い道がない→機体構造のダイエット→それはいいけどコスト増大→残った参加国頭抱える。が現状。
多国籍開発とエンジン+機体の同時新規開発は炎上する燃料にはうってつけという事例がまたもや証明されてしまったことになる。
ボーイング787はマネージメントの失敗と言われている。多国籍企業の開発で各地のメーカーがパーツ単位で作成。アメリカで組み立てるという、話だけは立派だったが細かい設計変更が必要な場合一気に話が面倒になる。まだ同一国内で開発していればすぐに手をうてるが…。多国籍開発は(いくら一社の主導があったとしても)やはり大変だということだろう。
「戦車は積めないの?」
積む理由がない。当初計画どおり30t程度の積載が可能なら現在陸上自衛隊が装備する予定の将来装輪装甲車ファミリーが搭載可能になる。装甲車の空輸は必要になるだろうが、戦車を空輸するという必要性は、この国の防衛戦略を考える上では薄い、と言うのが正直なところ。世界的に見ても戦車の空輸は「出来なくもない」と言うレベルの話で、大型輸送機を丸々ひとつ占用して1両2両の戦車を運ぶ、というのはどうしても効率が悪い。
「じゃ欠点はないの?」
よく国産開発兵器となるとさしたる根拠もないのに理不尽な否定があったり、できるかぎり正確に書くと今度はチートだとか贔屓目だとかといわれるのだが、日本の要求仕様に合わせて開発を行っている以上痒い所に手が届くのは当然ではある。
C-2は同時開発のP-1と同様ににライフサイクルコスト(その機体が配備されて、退役するまでにかかるすべての経費)についても軽減が考えられていて、その点でもC-17、あるいはC-130Jより優れている。
もし問題が指摘されるとしたら、同規模の民間機に比べ大型のエンジンを使用していることによる燃費の悪さだろう。しかしこれは広いカーゴベイを備える機体を民間ジェットと同じ巡航速度で飛ばし、なおかつSTOL性能も確保したことの結果なので、少なくとも防衛省はトータルではデメリットでは無いと考えているはずである。
あとは無事に、今後の各種の試験・改良を経て、C-2の性能がドコまでなのかが明らかになったときにもう少しはっきりするだろう。本当に当初計画通りの積載能力が実現できるか等、まだ不安な要因はある。
兵器は実戦参加して初めて本当の評価をうける。C-2にとっての実戦とは、日常の輸送業務であり、海外派遣時の輸送任務である。その評価がはっきりする日が近いことを楽しみにこれからのC-2に期待しよう。
関連動画
関連項目・外部リンク
- 主要装備 C-2|防衛省 [JASDF] 航空自衛隊
- 次期輸送機(C-2(仮称))の概要(平成22年度 事前の事業評価)
- 次期輸送機(XC-2)試作2号機 初飛行に成功 2011.1.27
- 軍用機の一覧
- 航空自衛隊
脚注
- *朝雲ニュース(アーカイブ)
- *「新世代自衛隊機ビッグスリー」竹内修 軍事研究2016年6月号
- *「新世代自衛隊機ビッグスリー」
- *http:https://www.mod.go.jp/atla/pinup/pinup290327.pdf
- *http:https://www.mod.go.jp/atla/research/kaihatsusoubi/C-2.html
- *http:https://www.aviationwire.jp/archives/93475
- *電波情報収集機「RC―2」 大型のレーダーや多くの電子機器を搭載 秘匿性高くひっそりと任務 22年度末までに3機を配備へ 2021.12.24
- *川崎重工業、スタンドオフ電子戦機、25年度納入向け加速 2022.2.25
- *http:https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/011800541/
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