補給艦とは、洋上を航行する艦艇に対して食料・燃料・弾薬などを補給する海軍補助艦艇の総称である。
概要
母国領海外から遠く離れて艦隊行動を行う必要がある海軍にとって補給は死活問題となる。自国あるいは友好国の停泊地があればまだ良いがそうではない場合など洋上で燃料・弾薬・食料などを補給する必要がある。
領海外での艦隊行動を行うだけの規模と練度をもつ外洋海軍(ブルーウォーター・ネービー)として必須の艦艇であり、正面装備…空母やイージス艦、フリゲート艦がどれだけあろうとも、そのような補助艦艇がどれだけ充実しているかを見るとその国の海軍の実力、本気のほどが見えてくる。
たとえば洋上補給方法として代表的なハイライン方法の場合、波が高い外洋において補給艦と対象艦という同型艦でもない二隻が横に30~50mの至近距離で併走する間にロープを渡し、補給物資の提供などを行う。この方法ではお互い接触する危険性もあり、操艦技術が一定以上の練度を持つ必要があるのが理解できるだろう。つまりそれだけの技量と錬度を(外洋に出る艦艇すべてが)達成してのち有効な艦ともいえ、それはその国の海軍の能力を示すものである。
第二次世界大戦前後、これらの艦艇は燃料補給用タンカー(AO)、武器弾薬の補給担当の給兵艦(AE)、食料担当の給糧艦(AFS)、貨物弾薬補給艦(AKE)などに分かれていたが、最近では総合補給艦(AOE)として集約されている。
(が、アメリカでもさすがに高価なAOEを量産、運用することは難しく、AO/AKEで分担しているケースもある)
さらに最近では諸外国で相次ぐ海外派遣などの任務から、補給艦+輸送艦+揚陸艦の任務を多目的にこなすことを目的とした艦艇を建造する動きもでている。後述する英国のフォートビクトリア級補給艦が嚆矢となって作られており、大きめの飛行甲板をもってヘリによる艦艇間補給(Vertrep)だけではなく揚陸時などのヘリ運用拠点にもしようという動きが見られる。これらは統合支援艦(JSS)という艦種で現在、カナダ、オランダで建造が計画、あるいはスタートしている。
マイナーな艦艇分類だが、その中でも有名な艦艇としては太平洋戦争中に日本海軍艦艇・根拠地に食料などを輸送するだけでなく船内でアイスクリームや饅頭・羊羹まで作っていた(それも大層美味しく、行く先々でくるのが待ち望まれた)という給糧艦「間宮」があるだろう。詳しく知りたい方はwikipediaやサイトを探してほしい。
海上自衛隊では現在、5隻の補給艦が存在している。特徴としてはアメリカ海軍の補給艦と同じように補給艦としては速力が20ノット以上を出せる高速艦でもある。
その中でも「ひゅうが」が就役するまで最大規模の艦艇だった「ましゅう」型補給艦「ましゅう」「おうみ」)が有名である。ヘリの着艦・格納スペースも備える一方、災害派遣時には病院船の役割も果たせるこの艦艇は、イラク戦争に伴うインド洋海上補給活動において数多く派遣された艦艇の1隻となった。
海上自衛隊の補給艦は「ましゅう」型のほか「とわだ」型(3隻)もあるが、艦サイズが「ましゅう」型より一回り以上小さいため、「ましゅう」型の追加建造も噂されているし望まれてもいるが…が、昨今の予算不足というか緊縮財政下では難しいだろうなぁ。
各国海軍の主な補給艦
アメリカ海軍
世界最大の艦艇数を保有している事と、世界規模で展開しているため、様々な種類の補給艦を多数保有しているのが特徴。
サプライ級高速戦闘支援艦 (T-AOE-6~9) |
正規空母及び随伴する巡洋艦や駆逐艦等への艦船燃料、艦隊が搭載する航空機用の燃料、弾薬、食糧、真水といった艦船が必要とするあらゆる物資を搭載し補給する事ができる総合補給艦である。 |
ヘンリー・J・カイザー級給油艦 (T-AO-187~204) |
名前のとおりの能力を持っている、オイルタンカーに近いが故に足が遅い!(最大20kt)。主に液体燃料を補給するために建造され運用されているが、弾薬、食糧等のドライカーゴを多少積載するスペースがある。 |
ルイス・アンド・クラーク級貨物弾薬補給艦 (T-AKE-1~14) |
これも名前のとおりの能力を持つ補給艦。貨物(食糧等の消耗品、部品)、弾薬(爆弾、銃弾)、おまけとして燃料の補給が可能。ルイス・アンド・クラークが作られる前までは、貨物専用の船と弾薬専用の船に仕事を分けていたのを1隻に統合した結果がこの補給艦である。サプライ級より一回り小さく、速度は遅く最大20kt、搭載量も少ないがそれでも十分な貨物・弾薬6000トン、燃料18000バレル。 |
海上自衛隊
アメリカに次ぐ数の大型戦闘艦を有するため、補給艦を保有している。
他国へ侵攻しないのだから、補給艦なんて必要ないと思われるかもしれない。しかし、海上自衛隊が守る海域は広大でソマリアまで出掛けちゃったりしている。いくら強力な戦闘艦を持っていても、燃料補給のために毎度港へ戻り、作戦行動中の半分の艦が港へ燃料補給中とか目も当てられない。でも補給艦があればそんな心配も解決さ。
ましゅう型補給艦 |
上記の概要のとおり、海上自衛隊最大の艦船である。艦隊が必要とする物資を補給する事ができる総合補給艦。 |
とわだ型補給艦 |
燃料、弾薬、食糧等の消耗品、水を補給できる総合補給艦で、満載16,000tほどのやや小振りな補給艦。上記の概要にもあるが、この船体規模が問題となった。理由として、設計要求時の頃の護衛艦の船体規模に比べて、現在の護衛艦はより大型化したために、補給能力が追いつかなくなった。さらに、海外派遣で酷使したため想定よりも早く老朽化が進んだが、厳しい財政状況から代替艦の建造は当分望めそうにもない、そのために艦齢延長のための修理を行う事が決定された。当分も主力の補給艦になる予定である。 |
イギリス海軍
世界各地に植民地又は領土を持っており、さらに宗主国としての元植民地の国の防衛を考慮しなければならない。
そのため、外洋遠征能力を重視し、戦闘艦に限らず揚陸艦や空母への補給を行う必要がある。
フォートヴィクトリア級補給艦 |
なんでも補給する総合補給艦。特徴としては補給艦の中では広めの航空機格納庫を持っているため、多少の揚陸作戦も考慮されて設計されていると見ることができる。 全2隻就役中。 |
ローバー級給油艦 |
いわゆるオイルタンカー、とわだ型よりも小さい船体規模。液体燃料を主に補給するが、船体規模が小さいため、大型艦の多い艦隊に補給などすれば、すぐに燃料が底をついてしまうため、小型艦への補給が中心。老朽化が激しい、ていうかまだ動いてるのかな? 全5隻建造、減勢中。 |
ウェーブ・ナイト級給油艦 |
新鋭の補給艦。フォートヴィクトリア補給艦と同じ船体規模を誇る巨艦。将来のイギリス海軍を支える事になり、今絶賛炎上中のエリザベス級空母への補給も視野にいれているとかもしれない。船体からすべてを新規で設計した補給艦であるのだが運用上まずい点が多々あり、その一つとして冷たい冷凍食品を荷造りしてクレーンまで運ぶためには全て人の手でやらなければなりません。ましゅう型ならベルトに乗せるだけの簡単な仕事です♪ |
タイド級給油艦 |
新鋭の補給艦。前述のローバー級が小さく小型艦しか給油できないため時代に合わなくなったという反省から、代艦は大型にしようぜー、ということで計画された。設計は英国で行われたが建造は韓国。 |
フランス海軍
イギリスと同様に世界中に植民地と領土を保有し、宗主国として元植民地国を保護?するために、補給艦を建造した。
デュランス級補給艦 |
とわだ型に近いサイズ、無難な能力。 5隻が建造されたが1隻が退役し1隻がアルゼンチンへ売却され 現役にあるのは3隻。 |
イタリア海軍
補給艦視点から見ると地中海という内海にあるため、他の海軍に比べれば必要性は少ない。
しかし軽空母や揚陸艦を保有しているため補給艦の需要はある。
なお、自衛用に国産76㎜砲を艦首に装備するが実際に装備しているのはストロンボリ級のみ。
1975年に就役したイタリア海軍初の本格的補給艦で2隻が配備された。 |
エトナ級補給艦 |
軽空母ジュゼッペ・ガリバルディの支援用に計画されたが予算の都合で |
ストロンボリ級の後継として新規建造され2020年中に就役予定。 |
中華人民共和国人民解放軍海軍
中国海軍は現在ブルーウォーターネイビーを目指しており、大型補給艦の取得・建造を着々と進めている。
青海湖 |
中国初の大型補給艦。 |
千島湖級補給艦(903 / 903A型補給艦、福池型補給艦とも) |
先述の青海湖の建造経験を元に建造されたとされる中国第二世代補給艦。 |
中華民国(台湾)海軍
様々な制約付きながらアジア圏では有力な海軍を保有している。この海軍の主要艦船の共通事項として40㎜、20㎜の機関砲を搭載しているがこれは隣国の高速戦闘艇対策用である。更に艦首にシーチャパラル艦対空ミサイルAIM-9[1]の旋回式4連装発射機を搭載している。
武夷級補給艦 |
1990年に就役。 |
磐石級補給艦 |
2013年11月に進水し、2015年1月に就役した最新型補給艦。 |
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関連項目
脚注
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