特別企画
マウントアダプターで広がるフルサイズミラーレスの世界…Nikon ZにSONYレンズを装着してみた
AF対応「TECHART TZE-01」の実力を検証
2019年11月7日 12:00
ミラーレスカメラ全盛期となり「マウントアダプター」という名をよく耳にするようになった。マウントアダプターと聞くと、ミラーレス機にオールドレンズを装着するために使われるもの、というイメージを持つ人も多いだろう。
マウントアダプターとは、マウントの形が異なるボディとレンズを連結するものだ。「マウントの変換リング」と言っても良い。
このマウントアダプターは、ミラーレス機の普及とともに数を増やしてきた。なぜなら、ミラーを稼働させるスペースが必要な一眼レフカメラと違って、ミラーレス機はフランジバック(マウント面から撮像素子までの距離)が短いため、様々なマウントのマウントアダプターを製造しやすいからだ。
そのマウントアダプターは、フルサイズミラーレス機の登場でさらに注目されるようになった。フルサイズミラーレス機であれば、レンズ本来の画角で撮れるからだ。
さらに、最近のマウントアダプターは電子接点を有しており、AF機能が可能であったり、手ブレ補正や、Exif記録にも対応しているものがある。
以上より、現在はミラーレス機とマウントアダプターを組み合わせることで、レンズ本来の力を生かしつつ、ボディと異なるマウントのレンズを楽しめるようになったといえる。
今回はNikon Z 7にマウントアダプターを装着し、ソニーEマウントレンズを付けて撮影を行ってみた。ソニー純正だけではなく、カールツァイスやフォクトレンダーのEマウントレンズも試している。
マウントアダプターの実際
今回はマウントアダプターを2つ使用した。1つは、焦点工房の「TECHART(テックアート)TZE-01」(以下TZE-01)だ。ソニーα「Eマウント」レンズをニコンZシリーズのミラーレスカメラで使用するために設計されたものだ。
「TZE-01」は、Eマウントレンズの電子コントロール、AF撮影が可能であり、レンズ内およびボディ内手ブレ補正機構に対応している。また、Zの「顔検出」「瞳AF」に対応している。そして、撮影した画像の焦点距離、露出などの情報はExifデータとして記録される。
写真を見てもらうとわかる通り、こんなに薄く、軽くて、レンズはきちんと動くのだろうかと心配になるくらい存在感がない。そのおかげでNikon Z 7にTZE-01を装着してみると、もともとこういうマウントだった気がするくらい、ボディに馴染む。マウントアダプターが変に出っ張るようなこともない。
レンズを取り付けるのも、外すのも非常に簡単かつスムーズだ。初心者でもまず迷うことはないだろう。
触ってみると、真鍮パーツのしっかりとした強度を感じられる。ボディとレンズの密着度は非常に高く、撮影時に、マウントアダプターにありがちなガタつきは全く感じられなかった。
これでレンズのAFもきちんと動作するのだから驚きだ。純正と完全に同等、とは言えないが、想像の上をいくレベルでAFは動作していた。実際のAF精度については以下で検証しているのでご覧いただきたい。
AF-Sで静物にフォーカス
次の動画は、Z 7+TZE-01+Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZAを組み合わせた例だ。
フォーカスモードは「AF-S(シングルAF)」。モデルに落ち葉を持ってもらい、EVF上で落ち葉にタッチし、フォーカスポイントを移動した。迷うことなく、一瞬で落ち葉に合焦したので正直びっくりした。
AF-Sで人物にフォーカス
次の動画は、Z 7+TZE-01+FE 100mm F2.8 STF GM OSSの例。
フォーカスモードは「AF-S(シングルAF)」。AFエリアモードは「オートエリアAF」。事前にカスタムメニューで[顔認識と瞳認識する]をONにしておく。
モデルが正面を向いているときはもちろん、横を向いた場合でも、常に瞳を認識し続けている。こんなにちゃんと追えるのだ、という印象。
AF-Cで人物にフォーカス
フォーカスモードは「AF-C(コンティニュアスAF)」。AFエリアモードは「オートエリアAF」。事前にカスタムメニューで[顔認識と瞳認識する]をONにしておく。
モデルに、奥からカメラの方に向かってゆっくりと歩いてきてもらった。ほんの一瞬迷うような動きを見せたが、ほとんどモデルの瞳を認識し続けていた。
AF非対応のマウントアダプターも
もうひとつのマウントアダプターは、焦点工房の「SHOTEN SE-NZ」だ。ソニーα「Eマウント」の“MF”レンズをニコンZシリーズのミラーレスカメラで使用するために設計されたものである。
さきほど紹介した「TZE-01」は、特に電子接点付きのMFレンズとはあまり相性が良くない。誤動作を起こし実絞りでうまく使えない、という現象が起こる。
そこでEマウントの電子接点付きMFレンズをZシリーズで使いたい、というときに活躍するのがこのSHOTEN SE-NZだ。
外観や装着感は「TZE-01」とほとんど同じだ。電子接点がないので、Exif情報の書き込みや距離エンコーダーの利用はできない。
Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZA→Nikon Z 7
Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZAは、私が普段αに装着してよく使用しているEマウントレンズだ。小型軽量でありながら高画質、お値段もリーズナブルでかつ35mmという汎用性の高い焦点距離は大変使い勝手が良い。カメラをジンバルに乗せて動画を撮影する際もフロントヘビーにならないので重宝している。
コンパクトなレンズはZ 7に装着しても何ら違和感はなく、むしろバランスが良いとさえ思う。
モデルと一緒にボートに乗り、楽しそうな様子を撮影した。背景の様子もある程度写し込みたかったので、35mmを選択した。ただ、あまり背景がくっきり写りすぎると被写体が目立たないので、絞りは開放にした。
フォーカスモードは「AF-S(シングルAF)」。AFエリアモードは「オートエリアAF」。事前にカスタムメニューで[顔認識と瞳認識する]をONにしている。
ときどきAFの追従が途絶えることがあったが、おおむね合焦していたので、モデルが笑った良いタイミングでシャッターを切ることができた。
このケースのように、画面全体からみてモデルの顔の面積が小さい場合でも、きちんと顔と瞳を認識してくれるので想像よりも精度には信頼がおけた。
暗い場所で、メリーゴーランドを撮影した。フォーカスモードは「AF-S(シングルAF)」。暗いシーンだったので、「ローライトAF」機能を[する]にした。
EVFを覗きながらでラッコの形をした遊具にタッチして、フォーカスを合わせた。前面にライトが大きく写り込むような状況でも、AFが迷うことはなく、一発でラッコにピントが合った。
レンズ自体に手ブレ補正機構はついていないが、Zのボディ内手ブレ補正が効いている感覚があり、シャッタースピード1/30秒でも危なげなく使えた。
FE 100mm F2.8 STF GM OSS→Nikon Z 7
FE 100mm F2.8 STF GM OSSは、ポートレートを撮影する際によく使うレンズ。じんわりと滲むような柔らかで独特なぼけ描写が美しく、ピントのあった被写体を鮮明に際立たせ、写真全体に自然な立体感をもたらしてくれるのが特徴のレンズだ。
Zマウントレンズではこれに準じるものはまだラインナップされていないので、装着する価値はあると思った。
実際Z 7に装着してみると、ややフロントヘビーな印象だ。
モデルの正面から、直球ストレートに撮影をしてみた。
フォーカスモードは「AF-S(シングルAF)」。AFエリアモードは「オートエリアAF」。事前にカスタムメニューで[顔認識と瞳認識する]をONにしておく。
これでもかというくらいに顔と瞳を認識するので、絞り開放だったが一切の不安を感じずシャッターを切れた。ピント合焦部の描写は非常にシャープだ。背景のボケ方はなだらかで美しく、被写体がより浮き立って見える。
上の作品と同じ条件で、今度はモデルの全身を撮影した。
全体の中でこのくらいモデルの顔が小さく写る状況になっても、きっちりと顔と瞳を認識していた。安心して引いた撮影ができる、と思った。
ZEISS Batis 2/40 CF→Nikon Z 7
ソニー純正ではなく、Eマウントを採用するカールツァイス製のレンズ。
小型軽量だが、AFは高速。そして、最短撮影距離が24cmと、近接撮影が得意なレンズだ。40mmという焦点距離も、スナップからポートレートまで幅広く使える。画質はカールツァイスらしく、高コントラストで、色乗りが良い。
Z 7に装着すると、わりとバランス良くおさまる。カールツァイスレンズをZに付けて使うのは非常に新鮮だ。
最短撮影距離まで寄り、絞り開放で花を撮影した。フォーカスモードは「AF-S(シングルAF)」。ピンク色の花にタッチしてフォーカスを合わせた。最短撮影距離だが一瞬で花にピントが合い気持ちが良い。カールツァイスらしい、高コントラストで、色乗りが良い描写を存分に楽しめる。柔らかく優しい光も余すところなく捉えてくれる。
雨の日の夜、ガラス窓についた、流れ落ちる雨粒を撮影した。フォーカスモードは「AF-S(シングルAF)」。雨粒にタッチしてフォーカスを合わせた。
こういう場合は、ガラス窓の外の風景にピントが合ってしまうことも多々あるが、おおむね雨粒にピントを合わせることができていた。
窓の外を覗き込むモデルを横から撮影した。フォーカスモードは「AF-S(シングルAF)」。AFエリアモードは「オートエリアAF」。事前にカスタムメニューで[顔認識と瞳認識する]をONにしておく。
モデルが横を向いていても、しっかりと瞳を認識し、フォーカスを合わせることができた。
SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Aspherical III→Nikon Z 7
このレンズもソニー純正ではないが、Eマウントを採用する。15mmという超広角ながら歪曲が少なく、周辺までシャープな描写が得られる点が特徴だ。MFレンズだが、電子接点が搭載されている。
非常にコンパクトで、Zとの相性は良い。Zと、重厚な質感のフォクトレンダーのレンズを組み合わせると、普段とは一味違った写真が撮れそうな気がしてくる。
勢いよく流れる川を、上から覗き込んで撮影した。MFレンズだが、拡大ボタンを押し、拡大画像で詳細にピントを確認しながら撮ったのでスムーズだった。
Zの強力なボディ内手ブレ補正が効いている感覚があり、シャッタースピード1/50秒でも危なげなく使えた。
暗いトンネルの中で、Zの拡大ボタンを押し、拡大画像で詳細にピントを確認しながら撮影した。フォーカスは奥にいる人物たちに合わせた。
超広角レンズ特有の強烈なパースペクティブを活かした絵となった。Zマウントレンズでは超広角の単焦点はラインナップされていないので、新鮮だ。
まとめ:手持ちのレンズ資産を活用しよう
いま、ミラーレス機に買い換える人も多いだろう。そして、その際にいままでとは違ったマウントのカメラを選ぶこともあるだろう。しかし、それに伴いレンズもすべて買い直し、というのはあまりに酷だ。
そこにマウントアダプターの存在意義がある。特にフルサイズミラーレス機を持っている場合、マウントアダプターがあれば、レンズ本来の画角で撮影ができ、なによりも自身のレンズ資産を活かせる。
正直なところ、Zマウントのレンズはまだラインナップが少ない。ただ、このようにEマウントのレンズを使えば、Zのボディを生かすことができる。ツァイスやフォクトレンダーといった魅力的なレンズを装着できるのも面白い。
今回の記事で検証しているように、マウントアダプターを介しても、レンズのAFの精度と速度はほとんど落ちることはない。十分に実用に値する。
Zのボディをお持ちの方で、Eマウントレンズを何本か所持している方は、ぜひこのマウントアダプターを試してみてほしい。
制作協力:株式会社焦点工房
モデル:川端紗也加